イスラーム国」(ISIS)の評価に関する以下の坂井定雄さん(龍谷大学名誉教授)と内藤正典さん(同志社大学大学院教授)のどちらの論にあなたは説得されるでしょう。おそらく直面している状況については坂井さんも内藤さんも認識はほぼ同じです。にもかかわらず以下のようにISISに対する評価、というよりも対応が分かれます。おそらく欧米の中東戦略(対応)をどう評価するかという評価の違いが「イスラーム国」評価の違いとなって見解が分かれるということになっているのでしょう。坂井さんの人道的観点からのISIS批判もよくわかるのですが、私は内藤正典さんの説の側に立ちたいと思います。内藤さんが強調するように「アメリカ人ジャーナリストの斬首には憤り、ガザのこどもたちの死は黙殺するのなら、イスラーム国のジハーディストを抑止することなどできない」と私も強く思うからです。

以下、おふたりのそれぞれの論です。はじめに坂井定雄さんの論から。
 
ISに2か月間抵抗した町を解放―国連は残虐行為を最大限に非難
(リベラル21 坂井定雄 2014.09.05)
 
坂井定雄:1936年生。龍谷大学名誉教授(中東政治論)。元共同通信ベイルート特派員。
 
イラクとシリアで支配地域を拡げた、凶暴なイスラム過激派「イスラム国(IS)」は2人目の米国人ジャーナリストを殺害した。ISは2日、その残虐な処刑のビデオ映像をインターネットで世界に流した。捕虜にした政府軍兵士や異教徒、外国人人質の処刑光景をネットで流すのは、IS特有の恐怖戦術だ。
 
国連人権理事会は1日、「ISとその協力グループは、6月10日以来、イラク各地で、宗教的、人種的集団に対してテロ行為を繰り返し、戦争犯罪、人道に対する犯罪を重ねた。特に非難すべきは女性と子供に対する暴力である」として「人権と国際人道法の組織的な侵犯を、最大限の言葉で非難する」と決議、イラクへの調査団派遣を決めた。そしてイラク政府に対し「すべての犯罪者たちを法の場に引き出すことを求め、憲法が定めた時間内に各勢力が参加する新政権を発足させることを支持する」と表明した。
 
現地イラクでは8月31日、2か月間にわたってISに包囲されながら抵抗をつづけた北部の町アメルリを、空軍の支援を受けたイラク軍、クルド人民兵部隊ペシュメルガが解放し、町周辺からISを追い払った。
 
歓喜した住民たちが町に入った政府軍兵士とペシュメルガを大歓迎したことはいうまでもない。アメルリには少数民族トルクメン人(シーア派)が約1万5千人住み、ISに対して頑強に抵抗してきた。ISはこれまで、捕虜にした戦闘相手の政府軍や民兵部隊でだけでなく、支配下に入った異民族、異宗教・宗派の住民を残虐に扱ってきた。このため偏狭なスンニ派のISがアメルリを占領した場合には集団虐殺が懸念されていた。
 
ISの異常な残虐性の一つは、支配した町や集落で、異宗教・宗派の住民に改宗か死を迫り実行することだ。イスラム教では、コーランで改宗を強制してはならないと明記している。古い征服の時代には、新たな征服地の異教徒に対して改宗を求めたが、拒否する住民にはほどほどの金を支払わせて済ませてきた。しかし、占領したイラク第2の都市モスルの例を見ても、ISは改宗を拒否するキリスト教徒などには、払いきれないほどの高額な免除金を要求、前回紹介したシンジャルのヤジディ教徒の場合は改宗か死を選ばせた。
 
国連と国際アムネスティによると、シンジャルでは、大多数の人々が脱出するまでに、ISは少なくとも千人のヤジディ教徒を殺し、約2,750人を連れ去り、うち女性と子供たちはIS戦闘員に競売されたという。このことは、アメルリのトルクメン人住民の間でも知られていた。このため、アメルリの住民たちは、文字通り決死の覚悟で町を防衛した。中東の衛星TV局アルジャジーラは、アメルリの解放直前、首都バグダッドから住民に電話取材して「イラクの少数派住民は、ISに占領されるなら死を誓っている」(電子版)と次のように報道したー
 
バグダッド発:戦闘さなかのイラクの町アメルリのシーア派トルクメン人住民たちは、家族の墓を用意し、もしISに同町が占領されたら、妻と子供たちを殺す覚悟で、2か月間も抵抗を続けている。同町職員の一人メヘディさんは、アルジャジーラからの電話に「私たちは3軒か4軒に一つ墓を掘りました。もしISが私たちの町に突入してきたら、どの家でも妻と子供たちを殺し、埋葬します」と語った。メヒディさんによると、妻たちはISに捕まるぐらいなら死ぬことに同意したという。そして「彼女たちは『私たちは、シンジャルの一部の女性たちのように、ISの奴隷になって終わりたくはありません。ISがその手を私たちの上に置くのを許すことはできません』といっています」と語った。
 
アメルリからバグダッドに空輸で脱出できた女性たちは、親戚の女性たちの間での唯一の問題は、誰かに撃たれるか、自分で撃つかだったと言っている。アメルリで美容院をやっていたファーテマ・カッシムさんは「ISが来たら、すべての女性たちは自殺します。自分で撃つか、石油をかぶって火をつけるかして」と語った。ファーテマさんによると、彼女の兄は、彼の妻と6人の子供を残して、町の防衛のために戦っているという。「彼は自分の銃に8発を残しています。ISが町に入ってきたら、子供たち、自分と妻を撃つためですと」語った。
 
イラク空軍は断続的な空輸でアメルリから市民たちを脱出させたが、なお1万5千人ないし2万人が同町に残っている。約2千人の農民や市職員たちが塹壕を掘り、ISの攻撃を3回撃退した。トルハン・アルムフティ通信相は「アメルリ周辺の40の村落がISの手に落ちた。もしアメルリが占領されれば、文字通り皆殺しとなるだろう」と語った。

続いて内藤正典さんの論。
 
内藤正典Twitter (2014年9月3日~4日)から
 
内藤正典:1956年生。同志社大学大学院教授(中東・国際関係)。
 
当然といえば当然、馬鹿げているといえばあまりに馬鹿げている。ジャーナリスト斬殺での米政府の怒り心頭。では問おう。あなたがたは、2001年から現在まで、どれだけ自国民以外の罪もないムスリムを惨殺したのだ?
 
マララさんを称揚するのも、パキスタン・タリバン運動を極悪非道の集団と非難するのもそのとおりである。だが、それならアメリカと同盟国の空爆で木っ端微塵に吹き飛ばされたアフガニスタン子どもたちの死も同様に悼むべきである。ガザの浜辺で遊んでいた子どもたちの死も同様に悼むべきである。
 
イスラーム国なる集団が登場した背景には、すべて、欧米諸国が過去何十年にもわたって、いや欧州列強の時代を含めれば何世紀にもわたって、イスラーム世界を蹂躙し、抑圧し、搾取してきたことがある。それを忘れるべきではない。
 
イスラーム国を「がん細胞」呼ばわりするなら、がんを発生させる生活習慣を見直したらどうなのだ?無辜の民に対する殺戮を繰り返し、その結果、傷んだ細胞ががん化したのである。ジャーナリストを斬首する行為も少数宗派を殺戮する行為も一切正当化できない。
 
だが、彼らがなぜ残虐化したかを省みず荒療治の外科手術に頼ろうとしても、人間そのものが死んでしまう。つまり、世界そのものに死をもたらすだけである。なぜそのことに気付かず、目先の残虐性ばかりを言い立てる?
 
がん細胞なら外科手術でやっつければいい、放射線治療でやっつければいい、という発想を押し通すことによって、母体の人間そのものが死んでしまうのと同じことだ。シリア、イラク、イエメン、スーダン、アフガニスタン、ソマリア、ナイジェリア、リビア、ガザを見よ。何が起きている?
 
だがその一方で、(トルコの話だが)、かたちだけスカーフで頭部を覆い、髭面で闊歩し、イスラーム政党の支持者であることで肩で風を切って歩く馬鹿どもをみているとうんざりする。権力に追随し、利権を占めようとする金の亡者の偽イスラーム主義者が急激に増加している。
 
一方で欧米諸国の暴虐、イスラーム政党を称揚し、見せびらかして歩くムスリムをみて、両者を倒すことがジハードだと信じる若者が生まれるのである。それは狂信者による洗脳とは無縁の、ひとつの合理的選択にすぎない。
 
イスラーム国に参加しようとする若者たちは、西欧諸国による暴力と、ムスリムの国々での不誠実な政治に対して、彼らなりの方法で抵抗しているにすぎない。何度も言うように、夥しい数のこどもたちの遺体を眼にするたびに、ジハードの戦士たちの意気は高揚するのである。
 
こどもの命に対して、ムスリムはことのほか敏感である。こどもを殺戮してきた欧米諸国やイスラエル、そしてエジプトのクーデタ政権やシリアのアサド政権に対して、断じて許すまじと戦いを挑むことが、狂信の果てと言えるだろうか。どれだけこども達が理不尽に殺されても沈黙しろなどと誰が言えるのか?
 
私が、マララ・ユスフザイを持ち上げる欧米諸国や国連をひどく嫌っているのは、夥しいこどもの命を奪ってきた当事者であり、その事実に何の有効な手段も取れない国際機関だからである。
 
アメリカ人ジャーナリストの斬首には憤り、ガザのこどもたちの死は黙殺するのなら、イスラーム国のジハーディストを抑止することなどできない。
 
日本が過去に侵略した国々の人びとからいまだに敵意を受けるように、アメリカやイギリスやフランスやロシアや中国は、いまもつづくムスリムへの弾圧と殺戮によって、彼らの敵意を受けるのである。
 
しかし、ジハードの戦士となる若者は、欧米に敵意を抱く人々の数万分の1にすぎない。
 
結局、理不尽に殺されることなく、こどもたちの生命の安全が担保されない限り、イスラーム国の残虐な戦士たちが増えることを止めることなど、できないのである。軍事力をもって、倒そうなど、愚行の連鎖としか言いようがない。
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