ヘイトスピーチ規制を口実にした政権批判のデモ規制を許してはならない」(澤藤統一郎の憲法日記 2014年8月29日)から。

命題Ⅰ 「言論の自由は民主主義に不可欠な基本権として最大限に尊重されねばならない。公権力はこれを規制してはならない。」
命題Ⅱ 「ヘイトスピーチは人間の尊厳を否定する唾棄すべき言論として排斥されねばならない。公権力はこれを規制しなければならない。」
 
おそらく、多くの国民が上記2命題の両者をともに肯定するだろう。「在日韓国・朝鮮人をののしるヘイトスピーチ(憎悪表現)に対し、67%が『不快だ』と答え、『不快ではない』は7%だった(毎日・8月25日)」という世論調査結果はうなずけるところ。
 
しかし、「言論の自由は尊重せよ」「ヘイトスピーチは取り締まれ」は、いずれも決して政権の真意ではない。できることなら政権批判の言論の自由は規制したい。本音をいうならヘイトスピーチに目くじら立てたくはない。ヘイトスピーチを許容する排外主義の空気が安倍政権を生み、安倍政権の誕生がヘイトスピーチの蔓延を勢いづかせ助長しているのだ。
 
しかも、「尊重すべき言論」と「取り締まるべきヘイトスピーチ」との境界は、必ずしも明確とは言い難い。あるいはことさらに曖昧にされる危険も避けられない。
 
そのため、ヘイトスピーチの規制が、言論一般の規制となる可能性を否定し得ない。両刃の剣となりうることを憂慮せざるを得ない。
 
なにしろ、立法段階でも、法の適用の段階でも、ヘゲモニーを握っているのはこれまでの保守とは明らかに異なる安倍政権の側である。信頼できようはずがない。
 
まず、どのような法律が作られるか。今の国会の勢力分布では、羊頭狗肉よろしく、「ヘイトスピーチ規制法」の看板で、「言論弾圧立法」が成立する虞なしとしない。
 
さらに、法の適用が公平に憲法の理念に忠実になされる保証もない。突出した歴史修正主義者を首相に戴いている内閣である。従軍慰安婦問題ではNHKに圧力をかけ、河野談話を見直し、靖国参拝を強行し、過去の戦争を侵略戦争とは認めようとはしない立場を鮮明にし、さらに「自らの魂を賭して祖国の礎となられました昭和殉難者の御霊に謹んで哀悼の誠をささげます」とまで言っている人物が権力を行使するのだ。
 
国連規約人権委員会はこの7月に、日本政府に対し「ヘイトスピーチ禁止措置」を求める改善勧告を出している。国際的に見て、日本の「ヘイトスピーチ」は看過できない重大問題となっているのだ。何とかしなければならない。
 
それでもなお、規制立法には不安が残ると逡巡しているところに、案の定というべき「自民党ヘイトスピーチPT」の動きである。まずは、産経のネットニュースが次のように報じた。
 
「国会周辺の大音量デモ、規制検討 自民ヘイトスピーチPTで」という見出し。
「ヘイトスピーチ規制」ではなく、「国会周辺の大音量デモ規制」が主役にすり替えられているではないか。
 
「自民党は28日、『ヘイトスピーチ』と呼ばれる人種差別的な街宣活動への対策を検討するプロジェクトチーム(座長・平沢勝栄政調会長代理)の初会合を党本部で開き、憲法が保障する『表現の自由』を考慮しながら対策を検討することを確認した。国会周辺での大音量のデモに対する規制も併せて議論する。」
 
「一方、拡声器を使った国会周辺での街宣活動は現在も静穏保持法で禁じられている。ただ、同法による摘発事例は少なく、高市早苗政調会長は『国民から負託を受けているわれわれの仕事環境も確保しなければならない』と述べ、同法改正も含め検討する考えを示した。国会周辺では毎週金曜日に反原発のデモが行われている。」(2014.8.28 13:15から抜粋
 
さすが産経。自民党の意図をよく読んでいる。本来、「ヘイトスピーチ」と「国会周辺でのデモの規制」とは何の関わりもない。曰くありげに二つを結びつけ、「国会周辺では毎週金曜日に反原発のデモが行われている」とその標的とするところを的確に読者に伝えている。
 
ヘイトスピーチ規制をダシに、反原発・反格差のデモを規制しようというのだ。国連からの勧告や世論を逆手に、「ヘイトスピーチ規制」という羊頭を掲げて、「言論の自由規制」という狗肉を売ろうというのだ。
 
東京新聞が的確に解説している。
 
「自民党は二十八日、人種差別的な街宣活動『ヘイトスピーチ』(憎悪表現)を規制するとともに、国会周辺の大音量のデモ活動の規制強化を検討し始めた。デモは有権者が政治に対して意思表示をするための重要な手段。その規制の検討は、原発や憲法などの問題をめぐる安倍政権批判を封じる狙いがあるとみられる。」
 
安倍政権を批判するところに、言論の自由尊重の意味がある。ヘイトスピーチ規制を政権批判の言論規制にすり替えられてはたまらない。ヘイトスピーチは社会のマイノリティーの人格を貶める言論。国会デモは、権力に対する市民の批判の言論である。両者の理念には、天と地ほどの差異がある。
 
冒頭の「命題Ⅰ」を絶対に譲ってはならないのだ。ましてや、「命題Ⅱ」を逆手にとっての言論規制をさせてはならない。メディアの扱いの小さいことに、一抹の不安を覚える。言論の自由に関わる問題に、鈍感に過ぎないか。
 
附:「今日の言葉」から。
 
自民党は8月28日、「ヘイトスピーチ」の対策を検討するプロジェクトチーム(ヘイトスピーチPT)の初会合を開き、国会議事堂などの周辺や外国大使館付近での大音量の街宣やデモに対する規制も、ヘイトスピーチと併せて議論する方針を確認した。警察庁の担当者からヒアリングなどを行ったという。MSN産経ニュースなどが報じた。
 
高市早苗政調会長は「仕事にならない状況がある。仕事ができる環境を確保しなければいけない。批判を恐れず、議論を進める」と述べた。警察庁の担当者は、国会周辺での拡声機の使用を規制する静穏保持法に基づく摘発が年間1件程度との現状を説明した。
 
ヘイトスピーチに関しては、7月に韓国で朴槿恵大統領と会談した東京都の舛添要一知事が、8月7日に安倍首相と会談し法規制を求めていた。このとき安倍首相は「日本の誇りを傷つける」と非常に憤慨し、「党として検討させる」と述べたという。なお、ヘイトスピーチPT座長代理の柴山昌彦衆院議員は自身のブログで、高市政調会長が8月21日に「ヘイトスピーチに関してはそれを特別の規制対象とすることはないと明言」したとしており、ヘイトスピーチにとどまらず範囲を広げて議論する考えであることを示していた。(The Huffington Post 2014年08月28日
 
引用者注:安倍首相が「『日本の誇りを傷つける』と非常に憤慨」したのは言論・表現の自由としてのデモ=ヘイトスピーチと認識していたからなんですね。「ヘイトスピーチを規制せよ」という正当な世論の高まりをワイマール憲法のヒトラー化と同じ運命をたどらせるようなことがあっては絶対にならないでしょう。
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