fc2ブログ
下記は標題について東京の弁護士の河内謙策さんがいくつかのメーリングリストに発信されたメールに対する私のコメントです。中国問題に関するわが国の平和勢力の課題を考えてみる、という意味で本ブログにもエントリしておきたいと思います。

尖閣沖漁船衝突事件について(CML Ken Kawauchi 2010年9月27日)

河内謙策さんの標題メールにいくつかコメントしてみます。

第1に尖閣諸島は日本の領土か、という問題についてですが、この問題について河内さんが紹介されておられる「尖閣諸島問題」のホームページはたいへん参考になります。同ホームページの「中国の文献」の項と中国サイトの主張とを比較考証してみるとその実証の正しさはより明瞭になるように思います。ただ、左記の「尖閣諸島問題」のホームページは事実関係を摘示しているにとどまっていますので、その事実関係を論として展開している「日本の領有は正当 尖閣諸島問題解決の方向を考える」という赤旗の論評をあわせて参考にされるとさらにことの本質が明瞭になるように思います。これは赤旗が好きだとか嫌いだとかという問題ではなく、論の正当性の評価の問題だと思います。

第2になぜ中国が大騒ぎをしたのか、という問題についてですが(そしてこれが解明すべき一番大きな問題であろう、と私は考えるのですが)、河内さんはこの問題を(1)中国の帝国主義外交の問題、または中国の北東アジアへの覇権確立の問題、(2)米中の経済面・軍事面での対立の激化の問題、(3)中国共産党内の指導権争いの問題にその原因を求め、わが国の平和勢力の課題として「中国の横暴を抑える国際的な連携・包囲網の形成、中国の自由と民主主義を求める勢力に対する支援こそが究極の中国問題の解決である」と訴えられるわけですが、私は河内さんのこの原因の求め方にもわが国の平和勢力への課題提起のどちらの認識にも賛成できません。

今回、中国がなぜ大騒ぎをしたのか、という問題については、私は浅井基文さんの下記の考究に大きな説得力を感じます。

日中関係への視点?中国漁船船長の釈放?(浅井基文 2010年9月25日付)

浅井さんは「21世紀に入ってからの日中関係は、小泉首相(当時)の歴史認識も対アジア観もまったく欠落した傍若無人な振る舞いによって大きく損なわれた状況から立ち直るきっかけがつかめないまま今日に至っている」という基本認識に立って、現在の民主党政権の対中国外交についての中国側の懸念と対応を次のように分析します。

民主党政権になってからこの1年間の「中国にとってもっとも大きな関心事は、自民党政権下において台湾有事を明確に視野に入れることを公言するに至った日米軍事同盟の再編強化に対して民主党政権がどういう対応を行うか、という点にあった。中国の目は2005年から6年にかけての日米安全保障協議委員会(「2+2」)の三つの合意全体に注がれてきたことに違いない。そして、鳩山政権がこの日米合意遵守を決定し、菅政権がこの決定をそのまま引き継ぐことを決定したとき、中国側は、民主党政権が自民党政権と本質的に変わらない体質であると判断したのだと思う。つまり中国からすれば、『日米を基軸にする大前提のもとで対中関係のあり方を考える』という旧態依然とした場当たり的、その場しのぎ的な外交しか日本には期待できないという判断があった」(要約)。

「今回の事件は、場当たり的、その場しのぎ的な対応しかできない民主党政権が、中国をどう位置づけるのかを判断する上での重要な材料と見なした可能性は十分ある。民主党政権が曖昧な対応で糊塗することができないようにするため、中国政府はありとあらゆる外交手段を駆使して圧力をかけ、民主党政権に『日中関係の重要性』『日本にとっての中国というファクターの死活的重要性』について本気で考えるしかない状況に追い込む(退路をふさぐ)というアプローチを採用したのだと思う」(同上)。

そして浅井さんは今回の「大騒ぎ」で中国が日本に求めている真のねらいを次のように分析します。

「私は、中国が日本に求めている最大のものは、改革開放政策30年の成果を踏まえて急台頭する、いまや国際関係にとって欠くべからざる存在となった、そして21世紀の国際関係においてますます重要性を増すことが衆目の一致するところである中国を正確に認識し、日本が『日米を基軸にする大前提のもとで対中関係のあり方を考える』という20世紀の遺物そのものである発想を根本的に改めることにあると思う。21世紀国際関係における中国の位置を正当に認識する場合、『日米を基軸にする』という20世紀的日本外交の大前提そのものを見直さなければならないはず。今回の中国の『強硬姿勢』は、正に日本外交に対する根本的見直しを迫るものであった」(同上)。

こうした浅井さんの分析から導き出されるわが国の平和勢力の課題は、河内さんの提起される平和勢力の課題とは異なり、「日本外交において、中国を独立した要素として(つまり『日米基軸』の枠組みの中におくのではなく)位置づけること」、すなわち「日米基軸」の最たるものである日米安保条約体制を打破しようとする世論を高めること。また、「私たちが『偏狭なナショナリズム』に身を委ねて、中国の『強硬姿勢』に感情的に過剰反応」しない世論を高めること。さらに「今回の事件を招くべくして招いてしまった民主党政権の無定見な外交政策のお粗末さにこそ、主権者としての批判の眼を向け」る世論を高めること。さらに「自民党はダメだから民主党」と安易な選択しかできない主権者である私たちの政治的未熟性が(今回の「大騒ぎ」の)問題の根本にあることを学び取ること」などになるのだと思います。

私は浅井さんの提起される課題こそがわが国の平和勢力の課題というべきではないか。わが国の平和勢力の課題とするべきことではないか。そう思うものです。
関連記事
Secret

TrackBackURL
→http://mizukith.blog91.fc2.com/tb.php/97-4e58d129