youtubeの日本語字幕版で『南京!南京!』(監督:陸川(ルー・チューアン)、2:14:50、2009年)を観ました。はじめは意図がわからず、なかなか観通すのに難儀したのですが、それでもこの映画の映像の美しさは私にもわかるものでした。私は久しぶりに「硬質のリリシズム」という言葉を思い出しました。特に被「攻略」側(中国側)の情念を内向させた寡黙な男性を演じるリウ・イエの描き方に私はそれを感じました。そのことがはっきりとわかるようになった頃には作品の意図も見えてきて、私は一層この作品に魅かれていきました。ラストにすでに遺影となった登場人物の写真がクローズアップされて映し出されるのですが、時間にすればほんの数十秒のことでしょうが、私は長いことその遺影に見入っていたような気がします。
 
辺見庸はこの『南京!南京!』について次のように書いています。
 
『南京!南京!』。1937年12月から翌年1月までの出来事が、1971年生まれの中国人監督によって、このように映像化された。まずそのことに、言いしれないおどろきをおぼえる。歴史、経験、記憶、映像、忘却、視圏、写角……。見ることと、見られること。記憶すること、記憶されること。曝すことと、曝されること。死者の山のざわめき。(略)事実とは反事実をふくむ、糸のきれて散らばった数珠玉である。事実とはしたがって異同そのものである。陸川監督が資料と証言というおびただしい数珠玉を、かれの歴史観、人間観、想像力という糸でつないでみたら、こんな全景になったということだろう。(略)
 
『南京!南京!』は、中国製というより、陸川監督の手になる南京大虐殺にかんする映像テクストである。日本ではこれに比肩しうる映像テクストがない。みずからの非を飾ることのさもしさもさることながら、日本というクニには、かかわってきた戦争と戦争犯罪のテクストがほとんどないこと――それは「学ばない」という習性のあわれをこえた不可思議であり、それこそが恐怖のみなもとだ。南京攻略祝賀式典のシーン。うち鳴らされる大太鼓。ドンドコドンドコ。多数の兵士たちの、なにやらドジョウすくいのような、異様なダンスと行進。神輿のようなもの。はためく各師団の幟。必見である。思い切ってデフォルメされた、このありえそうもないシーンこそ、わたしにはもっともリアルで、卓抜な映像とかんじられた。シュールである。シュールであったのだ。リーベン(日本)の素振りと律動が、こうみられたのだ。(「日録27」)

上記で辺見が「必見である」と言い、「シュール」と言い、「卓抜な映像」と言う『南京!南京!』のラストシーン(南京「攻略」を祝う日本軍の祝賀パレードのシーン)について陸川監督はインタビューに答えて次のように言っています。
 
ここで表現したかったのは戦争がいかに人の魂をコントロールするかということ。戦争が起こる前には必ず文化によって戦争の執行者への洗脳が行われる。精神の絶対的なコントロールと占領こそが戦争の本質です。戦争の核心的結果は、異なる民族の文化を被侵略者の廃墟の上で踊らせることです。これは私が夢の中で思いついたことです。2007年8、9月に脚本と葛藤しているときにうたた寝をして、うとうとしながらこの場面を夢見ました。

以下は、映画『南京!南京!』と陸川監督に関するウィキペディア記事。
 
南京!南京!
 
『南京!南京!』(なんきん!なんきん!)(英題 City of Life and Death)は、陸川監督によって製作された中国映画。日中戦争の南京戦とその後に起こったとされる南京事件を題材にした作品。モノクロで制作されており、南京戦の一連の様子が一日本兵の視点から描かれている。
 
概要
4年以上の歳月をかけて脚本を練り、製作がおこなわれた。陸川監督は脚本を書くために膨大な数の日本兵の日記を読み、友人が日本で収集した2000冊以上のモノクロ写真集を参考にしたという。そうした史実資料から構想のヒントを得ているものの、陸川監督は「これは記録映画ではない。戦争での人々の感情を描いた」と述べている。慰安婦のシーンも大きな割合を占めており、監督はこれらのエピソードは大量の歴史的資料の裏づけがあって設定されたと述べている。
 
反響
2009年4月25日より中国にて、2010年4月28日より欧州にてロードショーが開始される。戦争の狂気と悲惨さを製作側は意図したため、中国国内では映画中に登場する日本兵の姿に激しい賛否両論を呼んだ。杭州で催された試写会では、日本人俳優に対し、「日本帝国主義打倒!」や「バカ!」といったののしり声が客席の一部から飛ばされる場面があったが、「彼らは尊敬すべき人たちだ!」という声がはるかに多くの観客から上がり、会場は拍手でいっぱいになり、日本人俳優もこれに深い感動をおぼえたという。さらに出演した日本人俳優に対して、「(帰国後の日本からの弾圧を避けるために)今後保護するために中国で暮らしてはどうか」との申し出もあった。人民網日本語版は「全ての中国人は、南京大虐殺から70数年が経った今こそ、民族史上に受けた苦難をしっかりと心に刻まなければならない」と評論した。
 
本作は日本では公開されていないが、陸川監督は日本国内での上映を強く希望しており、2009年9月21日、スペインで開催された第57回サンセバスチャン国際映画祭における公式会見の席上で、配給会社が決まり日本公開されることが監督によって明らかにされた。だが、劇中で使用している楽曲の著作権問題で配給会社との交渉は決裂し、2011年8月21日に、史実を守る映画祭により一日限りの上映が行われた。
 
受賞
第57回サンセバスチャン国際映画祭(2009年):コンペティション部門 ゴールデン・シェル賞(最優秀作品賞)・審査員賞(最優秀監督賞)・カトリック映画賞(シグニス賞)
第46回金馬奨(2009年): 最優秀撮影賞(曹郁)
 
陸川
 
陸川(ルー・チューアン、1971年2月8日 - )は、中華人民共和国新疆出身の映画監督・脚本家。いわゆる第6世代の監督の1人として知られる。
 
経歴
6歳のときに北京に移住。
出身校:
解放軍国際関係学院 英語科(1993年卒)
北京電影学院 導演科 修士課程終了(1998年卒)
 
主な作品
『ミッシング・ガン』(尋槍)(2002)
ココシリ』(可可西里)(2004)
『南京!南京!』[3](南京!南京!)(2009)史実を守る映画祭で上映
『項羽と劉邦 鴻門の会』(王的盛宴)(2012)
 
受賞歴
『ミッシング・ガン』で台湾優良シナリオ大賞を受賞。(2001)
『ココシリ』で第17回 東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞。(2004)
『ココシリ』で台湾金馬奨最優秀作品賞と撮影賞を受賞。(2004)
『ココシリ』で中国華表奨の劇映画賞を受賞。(2005)
『ココシリ』で中国金鶏奨最優秀劇映画賞を受賞。(2005)
『ココシリ』で香港電影金像奨最優秀アジア映画賞を受賞。(2006)
『南京!南京!』で第57回サンセバスチャン国際映画祭コンペティション部門で、ゴールデン・シェル賞(最優秀作品賞)、審査員賞(最優秀監督賞)、カトリック映画賞(シグニス賞)を受賞。(2009)
 
最後に陸川監督の言葉をもうひとこと引用しておきます。
 
まず偏見を捨てて、平常心になってください。これは単なる方法論であって私の世界観を代表するものでも、私の感情でもない。戦争を反省している日本人がいるのかと聞かれれば、「いる」と答えます。その資料をお見せしよう。この点を認めても中国人が損するわけではない。反対に世界からより尊重を受けることになる。これまでの私たちの映画はすべて自分たちの角度から語ったものだった。自己満足に浸っても永遠に外には出られない。
 
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