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浅井基文さん(元外交官、政治学者)が日本の政府とまたあるときは(というよりも、しばしば)メディアが演出、創出する「中国脅威論」の実態についてリアルな解析を試みています。私たちはいかに中国という国を「実態の中国」としてではなく「虚構の中国」としてしか見ていないか。「虚構の中国」を見て、それを中国と思いなして判断し、批判しているか。そのことの認識上の、あるいは政治上の、あるいは人道上の非を思い知らされます。
 
以下、浅井基文さんの「中国脅威論」検証の(1)「中国軍機異常接近」問題と(2)「南シナ海における中越衝突」という論攷。
 
「中国脅威論」検証 -(1)「中国軍機異常接近」問題-
(浅井基文 2014.06.22)
 
中国経済の急台頭、日本を押し退けて世界No.2にのし上がったことを背景に、日本国内では「中国脅威論」が喧しく取り上げられるようになりました。アメリカ・オバマ政権が「アジア回帰」(第1期)及び「リバランス」(第2期)戦略のもとで中国を軍事的に牽制する政策を強め、中国がこれに対抗して軍事力強化に邁進していることも、多くの日本人にとっては「中国脅威論」を裏づけるものとして受けとめられていることを、私は様々な集会で会場から受ける質問を通じて実感しています。
 
「中国脅威論」の広がりにおける特徴の一つは、日米軍事同盟の強化、憲法第9条の解釈改憲による集団的自衛権行使を目指す安倍政権の動きに反対する人たちの間でも真剣みをもって受けとめられているということです。そうした人たちの中には、「中国は大国になって変わってしまった」という失望感が働いているようです。こういう心情は、「中国脅威論」を大上段に振りかざして集団的自衛権行使(及びそのための第9条解釈改憲)に突っ走ろうとする安倍政権に対してどうしても受け身にならざるを得なくします。
 
私は基本的に、「中国は大国になって変わってしまった」とする私たちの心情自体が基本的に大きな問題を抱えていると思います。
 
一つは、この心情の根底にあるのは、「大国」と「大国主義」とを一緒くたに捉えてしまう私たちの国際感覚における初歩的誤りです。国際関係においては、大国には中小国にはない大きな責任が伴います。分かりやすい譬えでいうならば、小さなアリが赤信号を無視しても車にひき殺されるのがオチですが、巨象が赤信号を無視して繁華街を横断しようとしたら大変な混乱が起こります。中国は、自らが押すに押されぬ大国になったことを認識して、国際関係において大国らしい振る舞いかたをしようとしているのです。それが「目障りだ」とするのは、あたかも成長した子どもに対して、「小さいときは親のことをよく聞く良い子だった」と慨嘆する身勝手な親と同じです。
 
もう一つは、この心情が根底にあると、安倍政権やメディアが意識的につくり出す「中国脅威論」の「証拠材料」を無批判に受け入れてしまうことになるということです。最近小野寺防衛相・防衛省が音頭をとった「中国軍機異常接近」、メディアが中国の「大国主義」「拡張主義」を喧伝する材料にしている「南シナ海における中越衝突」は、正に「中国脅威論」の正しさを示す「証拠材料」となっています。
 
(1)「中国軍機異常接近」問題
 
そこで、この二つの事件が本当に「中国は脅威である」ことを証明するものであるのかを検証してみようと思います。今回はまず「中国軍機異常接近」問題を取り上げます。
 
1.事実関係に関する日中それぞれの主張
 
<5月24日のケース>
5月22日から24日にかけて東シナ海において中露両国海軍による合同軍事演習が行われました。5月24日付の中国・新京報はこの演習の模様を報道する記事において、米日韓3国が偵察機、軍艦などを派遣して情報収集に当たっていることを報道していました。
 
5月24日に防衛省は、「5月24日午前11時頃及び12時頃、東シナ海において海上自衛隊機(OP-3C)、そして航空自衛隊機(YS-11EB)に対して、中国の戦闘機(Su-27)による異常な近接航空があった」と発表し、「外交ルートを通じて抗議をした上で公表」しました。翌日(25日)、臨時記者会見した小野寺防衛相は、自衛隊機の活動は「通常の警戒監視任務での飛行」「従前から行っている情報収集」であり、中国に対して「このような危険な行為は避けるべきだ」と注文をつけました。小野寺防衛相は、記者から「中露合同軍事演習の場所から考えると、その情報収集という認識でよいか」という質問に対しては、「そのような特定の目的ということではない」、「中露が演習を行うと設定した海域・空域とは全く違う場所」と答えました。
 
さらに記者が、「今回起きた空域は日本が防空識別圏と言っているエリアで、一方で中国が一方的に主張している防空識別区と重なるところだ。それについて中国軍機が自衛隊機にスクランブルしてきたとの認識なのか」と質問したのに対して小野寺防衛相は、「通常スクランブルというのは、一定の距離をもって領海の方に入ってくる場合の対応が通常であって、今回のようにごく普通に公海上を飛んでいることに関して近接するなんてことはあり得ないので、これは常識を完全に逸した近接行動だ」と答えました。ただし、発生した場所については「日本の防空識別圏と中国の防空識別区の重なる東シナ海上空」であることを認めました。
 
これに対して中国国防部HPは25日、次のように事実関係を報道しました。
 
「日本のメディアが報じた中国軍機が東海上で自衛隊機に「異常接近」した件に関し、国防部新聞事務局は25日、次のように表明した。5月24日午前に自衛隊機OP3C及びYS11EB各1機が中国の防空識別区に侵入し、中露海上合同演習に対して偵察、妨害を行った。中国軍機は緊急発進し、必要な識別、防犯措置をとり、演習参加の艦船及び航空機の安全を守り、演習の順調な進行を確保した。 国防部新聞事務局はさらに次のように表明した。中露海軍が東海の予定された海空域で行う海上合同演習は、双方が共同で組織した定例演習であり、国際慣例に従って演習前に様々なルートを通じて関連海空域における航行航空禁止を発表した。中国軍機は、空中の安全を守り中国倒海防空識別区関連空域に進入する外国の航空機に対して必要な識別及び防犯措置をとる権限を有する。日本軍機が勝手に演習空域に押し入り、危険な行動をとった行為は国際法及び国際通行準則に対する深刻な違反であり、誤読誤判ひいては空中における意外な事件を容易に引き起こしかねない。中国はすでに日本に対し、日本が中露海軍の合法的権利を尊重し、関係する人員に対する取り締まりを行い、すべての偵察及び妨害活動を停止するべきであり、しからざれば、これによって起こるすべての結果については日本側の責任となることを緊急に申し入れた。」
 
日中双方の主張における最大の食い違いは、小野寺防衛相は、①自衛隊機の活動は「通常の警戒監視任務での飛行」「従前から行っている情報収集」であり、②事件が起こった空域については「ごく普通に公海上を飛んでいることに関して近接するなんてことはあり得ないので、これは常識を完全に逸した近接行動だ」としているのに対して、中国国防部は、①自衛隊機は「中露海上合同演習に対して偵察、妨害を行った」、②事件が起こった空域は「中国の防空識別区」であると同時に、中露合同軍事演習として「国際慣例に従って演習前に様々なルートを通じて関連海空域における航行航空禁止を発表した」空域でもあった、としている2点です。
 
<6月11日のケース>
小野寺防衛相は6月11日の臨時記者会見で、「本日11時頃から12時頃にかけて、東シナ海の公海上において、通常の警戒監視活動を行っていた海上自衛隊及び航空自衛隊の航空機に対して、中国の戦闘機Su-27による異常な接近事案が発生した。これは先月24日に引き続きの事案となる。前回の事案を含む中国軍機の一方的な行動は偶発的な事故に繋がりかねない大変危険な飛行であり、決してあってはならない。政府として、改めて外交ルートを通じて、中国側に厳重な抗議を行い、公表した」と述べました。
 
発生地点及び状況として同相は、「今回も東シナ海の公海上であり、通常警戒監視を行っている場所だ。前回と同じように航空自衛隊及び海上自衛隊の警戒監視の任務にあたっている航空機に対して、中国の戦闘機が30メートル、45メートルといった大変近接する危険な飛行があった。また飛行の仕方についても、日本側のパイロットが危険を感じるような、そういう大変荒い、危険な飛行の状況だった」と説明しました。
 
これに対して中国国防部網は翌12日、耿雁生報道官の次の内容の談話を発表しました(外交部の華春瑩報道官及び空軍の申進科報道官も同趣旨の発言を同日の定例記者会見で行いました)。また同日、耿雁生報道官はビデオも公表してその裏付けとしました。
 
「6月11日、日本は中国の戦闘機が自衛隊偵察機に「異常接近」したとでっちあげ、中国の軍事的脅威を宣伝した。これは、5月24日に中国軍機が日本の自衛隊機に「異常接近」したとでたらめをいった後再び行った根拠ゼロの非難であり、その狙いは国際社会をさらに欺し、中国軍のイメージを真っ黒に描き出し、地域の緊張した雰囲気をつくり出そうとすることにある。日本側のこのような悪らつなやり方は事実を顧みず、黒白をひっくり返し、悪人が告げ口をする類だ。
 
  事実の真相は極めてハッキリしている。6月11日、中国空軍航空兵部隊が東海防空識別区でルーティンの巡邏を行っていた10時17分から28分にかけて、中国のTu-154機が中国近海関係空域で正常飛行をしていたときに、日本のF-15戦闘機2機の接近追跡に遭遇し、至近距離約30メートルで、中国機の飛行の安全を深刻に脅かした。同日午前には、自衛隊のYS-11EB及びOP-3偵察機各1機が東海防空識別区内で偵察飛行を行った。関係規定に基づき、中国空軍は殲-11戦闘機2機を出動させて日本機に対して識別確認を行ったが、日本機との距離は150メートル以上を保った。…
 
日本側は長期にわたって中国艦船・航空機に対して近距離追跡と妨害を行い、その安全を脅かしており、これが中日海空安全問題の根源である。しかる日本側は自らの誤りを深刻に反省しないだけではなく、しばしば無責任な欺瞞的及び煽動的言論を弄し、悪意に満ちた攻撃を行っているのは明らかにためにするものであり、対中関係における虚偽性と二面性とを完全に暴露している。日本側はこのことについて中国及び国際社会に対して問題の所在を明らかにするべきだ。中国はさらなる措置をとる権利を留保する。」
 
中国側が発表した自衛隊のF-15戦闘機2機の接近は日本側が11日に公表した事実関係に含まれていなかったことであり、また中国側がビデオまで公表したこともあり、6月12日に行われた小野寺防衛相の臨時記者会見では、その点に質問が集中しました。これに対して小野寺防衛相は、「そのような事実はない」、「今回の日本の自衛隊機に対しての接近事案に何らか後ろめたいことがあるので、自分たちで映像をわざわざ公開したのかな」、「いつどこで撮ったかは分からない」等と述べるにとどまりました(12日付の産経新聞等は、日本政府の某高官の発言として、「(このビデオ映像は)今回とまったく関係のない事件のビデオだ」という見解を紹介しました)。
 
今回のケースにおける日中の主張が食い違う最大のポイントは、事件が起こった空域が「今回も東シナ海の公海上であり、通常警戒監視を行っている場所だ」(小野寺防衛相)とする日本側と、中国が設定した「東海防空識別区」内であったとする中国側との違いにあります。また、日本側が明らかにしていなかった自衛隊戦闘機による中国軍機に対する「異常接近」が起こっていたということを中国側がビデオ映像とともに発表したことも問題となりました。
 
2.中国に客観的に軍配を上げたアメリカの反応
 
5月24日のケースにしても、6月11日のケースにしても、日中双方の主張は大きく隔たっています。しかも厄介なことに、事件が起きた空域における事実関係に関しては、私たち第三者としては確認のしようがありません。そうなると、先手をとった日本側の主張が耳目に受け入れられやすくなり、後手に回った中国側の主張はどうしても疑いの眼を向けられることになります。私自身としても、いずれの主張に軍配を上げるべきかについての判断材料の持ち合わせがあろうはずはありません。
 
しかし、この事件については実は事実関係を明確に判断できる当事者がいるのです。それはアメリカです。と言いますのは、アメリカの偵察機も関係空域で偵察飛行しているわけですから、日中双方の言い分のいずれが正しいかを判断する材料の持ち合わせがあるはずだからです。ですから私は、アメリカ国務省のサキ報道官が定例記者会見で行った発言に注目しました。その発言は以下のとおりでした。
 
<5月24日のケース>
 
地域の国々の間の強いかつ建設的な関係は平和と安定を促進する。平和と安定を促進することは両国及びアメリカの利益である。我々は、いかなる意見の違いについても対話と外交を奨励する。対話と外交が適切な前へ向けたステップだと思う。
 
<6月11日のケース>
 
(11日の会見)
中日の航空機が接近したという報告は読んだ。我々は、すべての国々が飛行中の航空機の安全を尊重することを確保するように主張する。すべての当事国は、意見の違いを平和的に処理し、海空域での計算違いまたはさらなる事件を避けることができるように危機管理の手続きを編み出すようにする必要がある。国際空域における飛行に干渉するいかなる試みも地域の緊張を生み出し、計算違い、対決さらには思わぬ事件の危険性を増大させる。
 
(12日の会見)
(中国国防省が公表したビデオに関するコメントを求められて)私はそのビデオを見ていない。私としては、すべての国々が飛行中の航空機の安全を尊重することを主張していることを繰り返したい。これらの報告によっても、中国及び隣接する国々が計算違いあるいは海空域でのさらなる事件を避けるための危機管理手続きを編み出す必要があるという認識を強める。また、国際空域における飛行の自由に干渉しようとするいかなる試みも、地域の緊張を高め、計算違い、対決及び思わぬ事件の危険性を増す。
 
(どちらかの側に責任があるという立場かという質問に)中国が防空識別圏を設定したことに対してこれまでに関心を表明したことは周知のことだ。今回のことがそれに関するかどうかについて私は知らないが、すべての当事国が飛行中の航空機の安全を尊重するように主張しているところであり、今回の事件についてはそれ以上の詳細を持ち合わせていない。
 
直ちに分かることは、日中いずれの側の主張に対しても判断を示していないということです。しかし、このこと自体が実は特別な意味をもっています。つまり、アメリカのこれまでの対応パターンは、①中国の主張に非があるとする材料があるときは中国を非難する、しかし、②中国の主張に歩がある場合には中立の立場を装う、とハッキリと色分けできるのです。特に6月12日の記者会見では「それ(中国の防空識別区)に関するかどうかについて私は知らない」とわざわざ言及していることは正に「語るに落ちた」ということです。アメリカ側の以上の対応から、「中国脅威論」を喧伝するために、小野寺防衛相及び防衛省が「中国軍機異常接近」を作り上げたことはほぼ間違いないでしょう。
 
ちなみに、5月24日のケースについては、5月28日付の環球網がロシア極東研究所のボフリヤジェンコ(中国語の表記直訳)の次の発言を紹介していることをつけ加えておきます。
 
ロシアと中国の演習は事前に発表した海空域で行われた。ということは、演習水域及び空域に対する進入を禁止することを事前に通報することは国際法に合致している。今回の事件に関して言えば、日本の好奇心が引き起こしたものだと思う。日本は最大限度まで演習区域に近づこうとし、事前に発表された空域を侵犯したのだ。中国がスクランブルをかけたのには根拠がある。日米が合同軍事演習を行うときにも、同じような安全措置をとる。ロシアも今回の日本と同じように日米の合同軍事演習には非常に関心があるが、近年ロシアに対してこのような抗議の口上書が行われたケースは記憶がない。今回の事件については日本はやり過ぎであり、中国が日本の軍機を露中合同軍事演習区域から追い出したのはまったく正当だ。
 
3.アメリカの反応に対する中国専門家の分析
 
6月15日付の中国網は、「中日軍機の「異常接近」 アメリカの見解表明はなぜ変わったのか」と題する馮創志署名文章で大要次のような見解を紹介しました。馮創志が「アメリカも中日軍機の「異常接近」については一目瞭然である」と指摘しているのは、アメリカの偵察機も当該空域にいたことを裏づける発言であることは明らかでしょう。
 
しかし、6月のケースでは「一方的に中国を批判した」と指摘し、その背景事情として「オバマは5月28日のウェストポイント演説で、「南海における侵略に反対する」という発言を行い、アメリカの政軍関係者が一斉に中国に圧力をかける出発点となった。したがって、アメリカは当然日本に肩入れすることになったのだ」という判断を示しているのは、それなりに興味深いことです。
 
私自身は、6月11日及び12日のサキ報道官の上記発言は「一方的に中国を批判した」とは言えず、馮創志のこの判断は「深読み」過ぎると思います。しかし、オバマのウェストポイント演説を契機として、アメリカの対中批判姿勢が顕著になってきていることは、6月15日のコラム「ウクライナ情勢を受けたオバマ政権の軍事戦略再表明」で指摘したところではありますので、馮創志がこのような見方を示すこと自体が荒唐無稽と片づけることもためらわれます。
 
注目されるのは、中日軍機の「異常接近」事件に関するアメリカの態度だ。5月のケースについては、サキ報道官は27日の記者会見では、「いかなる意見の違いについても対話と外交を奨励する」と述べただけだった。ところが6月のケースでは、「国際空域における飛行に干渉する行動は適切ではない。そのようなやり方は地域の情勢を緊張させ、思わぬ衝突の発生をもたらすだけだ」として、一方的に中国を批判した。
 
この2回の「異常接近」事件に対するアメリカの反応は何故かくも違っているのか。 自衛隊の2機の偵察機が5月24日に中国の戦闘機と接近したのには原因があった。中露は軍事演習を行っていたのだ。中国は事前に各国に対して通告を行っていた。しかも、中露の軍事演習は中国の防空識別区で行われていた。防空識別区に進入する飛行体は中国に通告しなければならない決まりだ。明らかに日本は中国の識別区を無視し、かつ中露軍事演習にも挑戦しようとしたのだ。中露の演習期間中、日米の偵察機はほぼ毎日偵察しており、24日の自衛隊機は偵察妨害を行った。だから、中国軍機はスクランブルをかけ、所要の識別及び防犯措置を行ったのだ。
 
日本が5月24日の「異常接近」に関して中国軍機を非難した際、ことさらに中露軍事演習についてなかったかのように扱ったのは、ロシアの反発を買わないようにという計算からだったことは明らかだ。アメリカも中日軍機の「異常接近」については一目瞭然であるのに、一方的に日本に肩入れするとロシアの不満を招きかねないので、当たらず障らずの対応をしたという可能性がある。
 
しかし、6月の「異常接近」についてのアメリカの見解表明に関しては、アメリカの戦略的意図を読みとることは難しいことではない。オバマは5月28日のウェストポイント演説で、「南海における侵略に反対する」という発言を行い、アメリカの政軍関係者が一斉に中国に圧力をかける出発点となった。したがって、アメリカは当然日本に肩入れすることになったのだ。

「中国脅威論」検証 -(2)南シナ海における中越衝突-
(浅井基文 2014.06.22)

今回は「南シナ海における中越衝突」問題を取り上げます。

1.日本・日本人が踏まえるべき出発点
 
   
私たちが西沙諸島及び南沙諸島にかかわる問題に向きあう上で踏まえるべき出発点は以下の事実関係です。
 
カイロ宣言(1943年11月27日):「(米英中の)目的は…第一次世界戦争の開始以後において日本国が奪取しまたは占領した太平洋における一切の島嶼を剥奪すること並びに満州、台湾及び澎湖島の如き日本国が清国人より盗取した一切の地域を中華民国に返還することにあり。日本国はまた暴力及び貪欲により略取した他の一切の地域より駆逐せらるべし」
 
◯ポツダム宣言(1945年7月26日)第8項:「カイロ宣言の条項は履行せらるべく、また日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国並びに我ら(米英中ソ)の決定する諸小島に局限せらるべし」
 
◯終戦詔書(1945年8月14日):「朕は帝国政府をして米英中ソ4国に対しその共同宣言を受諾する旨通告せしめたり」
 
◯降伏文書(1945年9月2日):「(下名(重光葵及び梅津美治郎は(米中英が発し、後にソ連が参加した)宣言の条項を、日本国天皇、日本国政府及び日本帝国大本営の命によりかつこれに代わり受諾す。」
 
「下名は、ここにポツダム宣言の条項を誠実に履行すること…を天皇、日本国政府及びその後継者のために約す。」
 
◯対日平和条約(1951年9月8日)第2条(f):「日本国は、新南群島及び西沙群島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。」
 
◯日華平和条約(1952年4月28日)第2条:「日本国は、千九百五十一年九月八日にアメリカ合衆国のサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約(以下「サン・フランシスコ条約」という。)第二条に基き、台湾及び澎湖諸島並びに新南群島及び西沙群島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄したことが承認される。」
 
つまり、カイロ宣言及びこれを受けたポツダム宣言を受諾し(終戦詔書及び降伏文書)、誠実に履行することを約束した(降伏文書)ことにより、日本は西沙諸島及び南沙諸島(対日平和王役及び日華平和条約にいう「新南群島」)を含む日本が中国から「盗取」した一切の地域を中国に返還すべきことを約束したのです。そして中国は1951年以前に西沙及び南沙諸島に対する実効支配を回復しました。
 
対日平和条約には中国(中華人民共和国政府及び中華民国政府)は招請されず、参加していませんが、前者を代表して周恩来総理兼外相はサン・フランシスコ会議について声明を発表し、その中で、「西沙及び南沙諸島などが中国の領土であると指揮しました。また、日本は中華民国政府と日華平和条約を締結したのですが、その中でわざわざ西沙及び南沙諸島に対する放棄を確認しているのです。つまり、日本(及びアメリカ)は西沙及び南沙諸島が中国に属することについて何の異論もなかったということです。
 
2.ヴェトナム側主張に対する中国側立場
 
私はヴェトナム語はまったく分かりませんし、ヴェトナム側の主張に関する文献に直接当たる機会もありません。そういう中、5月27日以後に中国が西沙諸島海域で石油採掘作業を開始してから、中越間の衝突が大きく報道されました。
 
中国外交部は6月14日にこの問題に関する内外記者に対するプレス・ブリーフィングを行い、「中国は西沙群島は中国領であり、いかなる紛争もないと言うが、ヴェトナムは自国領であり、少なくとも紛争があるという立場で、自らの主張の根拠としてサン・フランシスコ会議、ジュネーヴ協定、中越指導者会談を挙げている」という指摘・質問に対して、次のように中国側の立場を明らかにしました。
 
以下の中国側主張・指摘に関して、このコラムを読まれた方から指摘がいただければとてもありがたいです。
 
第一に、西沙群島の発見、命名、開発経営がもっとも早かったのは中国であり、早くも西暦10世紀には中国の管轄下に置いており、ヴェトナムが主張する17世紀より700年早い。
 
第二に、ヴェトナム側は、フランスの植民地統治時代に、フランスが西沙に対する主権を主張したことがあり、ヴェトナムの主張は植民地政府の権利を継承するものだとも言う。しかし、これはまったく根拠がない。1921年8月22日、ブリアン首相兼外相は、中国政府が1909年には西沙諸島に対する主権を確立しており、フランスが要求を提起することは不可能であることを承認した。その後フランス政府は様々な行動をとったが、中国政府は断固反対して申し入れ及び闘争を行った。その点については大量の歴史的史実がある。
 
第三に、カイロ宣言等一連の国際文書は、西沙及び南沙諸島を含む、日本が侵略占領した中国の領土はすべて中国に返還すべきことを規定している。ヴェトナムは1951年のサン・フランシスコ平和条約を提起しているが、中国は1951年以前に西沙及び南沙諸島に対する回収作業を終えていた。西沙諸島最大の島嶼を永興島と言うが、その由来は、1946年から48年にかけて西沙及び南沙諸島に対する回収に当たった4隻の軍艦の一つである永興の名にちなんでつけたものだ。南沙の中業島、太平島なども、これら島嶼を回収した軍艦または軍人に由来する。
 
1954年のジュネーヴ会議について言うならば、この会議の目的は朝鮮問題及びインドシナ問題の平和的解決にあり、西沙及び南沙と一切関係なく、協定には西沙及び南沙にも言及がない。
 
第四に、1970年代以前におけるヴェトナム側の公的文書、教科書、地図などは西沙及び南沙諸島が中国領土であることを明確に承認している。1958年、ファン・バンドン総理は周恩来総理に対する口上書で、中国が1958年9月4日に発表した了解に関する声明に関し、西沙及び南沙が中国の領土であることを明確に承認した。
 
この点についてヴェトナム側は、当時承認したのは中国の領海が12カイリであり、これを承認し、尊重するとしただけで、領土主権に対する確認は含まれていないとしている。しかし、この主張も通用しない。なぜならば、この声明中には明確に西沙諸島、南沙諸島、中沙諸島、東沙諸島その他一切の中国の島嶼が12カイリの領海の権限を持つことを述べているからだ。
 
第五に、ヴェトナム側は最近になって突然、中国が武力で西沙諸島を占領したと言いだしたが、これは事実ではない。1974年1月、中国の西沙守備隊が西沙諸島の珊瑚島及び甘泉島を侵略しようとした南ヴェトナム軍を撃退した。「守備隊」ということは、中国軍が元々居たということであり、南ヴェトナム軍が侵略しようとしたのは30以上ある西沙諸島の中の2つだったということである。
 
第六に、ヴェトナム側は、1975年9月の中越首脳の会見における言葉を引用して、中国側が西沙について話し合うことができると言ったと主張しているが、これはまったく間違っている。ヴェトナムが根拠にしているのは1988年5月13日付の人民日報に載ったメモランダムだ。しかしこのメモランダムには、西沙及び南沙諸島が古来中国の領土であることを証明する十分な材料があり、これが前提であると中国指導者が述べたことを明確に記載している。ヴェトナム側はつぎはぎして事実を歪曲し、中国指導者の発言を曲解しているが、まったく通らない。
 
以上の諸事実から、西沙諸島についてはいかなる紛争もなく、中国が西沙について交渉することはあり得ない。中越間の紛争の重点は南沙諸島であり、特にヴェトナムが中国の29島嶼を侵略占拠していることである。中国の主権擁護の決意は変わらないが、直接かつバイの交渉で紛争を解決する用意がある。 

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