(承前)

しかし、「日本記者クラブ賞」受賞者の:山田孝男記者(特別編集委員)は私のような批判があることは先刻承知しているようで、自社の毎日新聞に受賞の弁を次のように述べています。
 
エッセーよりもオピニオンをめざしてきた。不偏不党という新聞のオキテにしばしば背いてきた。/人騒がせで世渡りをするつもりはないが、八方円満のバランスにとらわれ過ぎれば、コラムにならないと信じてきた。/そうである以上、賛同より批判のご意見をいただくことが多いのもやむを得ないと観念している。最近、たくさん頂戴した批判は次の二つだ。/「右寄りの歴史認識や安保政策に甘過ぎる」/「秘密保護法に理解を示すのはおかしい」
 
この場を借りて一言、弁明させていただく。/いかな私でも、日本が平和を希求する志を捨て去っていいとは思わない。/ただ、他国に守られながら、何でも反対、阻止、粉砕と叫ぶだけでは平和は築けないと思うのである。
 
かねがね、今の資本主義社会は長続きしないのではないかと疑ってきた。原発事故を経て、ますますその思いを強くした。/有限な地球で各国が経済成長を競えば、世界は不安定化する。国際紛争も起きるし、格差拡大に伴う内乱も増える。過酷な自然災害の頻度、規模も悪化の一途をたどっている。/大震災で思い知らされた通り、電力・電脳依存社会はパニックに弱い。/だから、二つの備えが必要だ。第一。経済社会を簡素に変える。第二。不意の混乱に対応する自覚をもち体制を整える――。そこが肝心だと私は思う。
 
時に社説と食い違う拙稿について、同業他社の悪友たちから「オレのところじゃ無理」という、羨望(せんぼう)ともあざけりともつかぬ感想を聞くことは少なくない。/コラム「風知草」はいかにも、毎日新聞社の自由な風土があればこそ成り立っている。私の勝手放題に忍耐強く付き合ってくれている同僚と、何よりも、ご愛読くださる読者の皆様に感謝を申し上げたい。(「日本記者クラブ賞:山田孝男・毎日新聞特別編集委員に 「風知草」で時代斬る」毎日新聞 2014年04月29日 東京朝刊)
 
以上は山田編集委員の受賞の弁の全文ですが、「最近、たくさん頂戴した批判は次の二つだ。/『右寄りの歴史認識や安保政策に甘過ぎる』/『秘密保護法に理解を示すのはおかしい』」という批判されている内容の認識は決して的を外していません。が、「この場を借りて一言、弁明させていただく」として弁明していることは、「他国に守られながら、何でも反対、阻止、粉砕と叫ぶだけでは平和は築けない」というおそらく彼の長年の思弁(持論)のエクスキューズひとつです。そのほかにも「原発事故を経て」云々といろいろ述べていますが、授賞理由の「小泉純一郎元首相の原発ゼロ発言を特報した」点に関わっての理由を述べているだけのことにすぎません。「たくさん頂戴した批判」のエクスキ
ューズは「他国に守られながら、何でも反対、阻止、粉砕と叫ぶだけでは平和は築けない」という一点のみです。が、「他国に守られながら」云々のエクスキューズはもう何十年も前から(戦後一貫して)保守派(ことに右翼層)がいわゆる「革新」を批判するために好んで用いてきた使い古されたイディオム(常套句)のひとつにすぎません。したがって反批判は簡単です。いわゆる「革新」派は「何でも反対」「阻止」「粉砕」と言ってきたわけではない。そうしたイディオムは歴史的事実にも現在の事実にも反する誹謗・中傷のたぐいにすぎない、と。山田記者のエクスキューズはおよそジャーナリストからぬ、ジャーナリスト足りえぬエクスキューズといわなければならないでしょう。

その上、山田記者は次のようにも述べています。
 
「時に社説と食い違う拙稿について、同業他社の悪友たちから「オレのところじゃ無理」という、羨望(せんぼう)ともあざけりともつかぬ感想を聞くことは少なくない。/コラム「風知草」はいかにも、毎日新聞社の自由な風土があればこそ成り立っている。私の勝手放題に忍耐強く付き合ってくれている同僚と、何よりも、ご愛読くださる読者の皆様に感謝を申し上げたい。」
 
毎日新聞は「自由な風土」の新聞社? また、「私の勝手放題に忍耐強く付き合ってくれ」る新聞社? 新聞社という会社組織は他の会社組織と比較して相対的に「自由な風土」と呼んでもよい側面は多少はあるかもしれません(記者の本棚にウイスキー瓶が置かれていたり。ただし、ひと昔前のこと)。しかし、会社組織であることには変わりはありません。以下の2例は朝日新聞社の事例にすぎませんが、他の新聞社も含めて新聞社はこれまでも「社の方針」に背く者は容赦なく切り捨ててきました。
 
烏賀陽弘道元朝日新聞記者の場合
吉竹幸則元朝日新聞記者の場合
 
山田記者が「私の勝手放題に忍耐強く付き合ってくれ」たというのは、その「勝手放題」は社の許容範囲だったということにすぎないでしょう。私は4月12日付けの記事で「集団的自衛権の解釈改憲」問題に関して東京新聞、朝日新聞と当の毎日新聞の社説を比較して毎日新聞社の社説の当代内閣(安倍内閣)に対する及び腰の姿勢を批判しましたが、山田記者の「勝手放題」が通用しているのは毎日新聞という「社の方針」と山田記者の認識が許容の範囲内のズレでしかないことを示しているだけのことのように思います。
 
以上見たように山田記者のエクスキューズは「これがジャーナリストのエクスキューズか」と思わせるような実に陳腐きわまりないものでしかありませんでした。その意味からも山田記者には「日本記者クラブ賞」受賞はふさわしくない、と私の山田記者評価を改めて述べておきます。
 
最後に本年度の日本記者クラブ賞の受賞理由になった「小泉純一郎元首相の脱原発発言独占報道」の問題性それ自体についても若干触れておきます。
 
私はこれまで小泉元首相の「脱原発」発言に対する過度な期待と評価は、「保守」というものに対する評価と今後の「革新」の共闘のあり方に関する戦略の展望を誤まらせることにつながる怖れが大きいことについて再三、再四に渡って述べてきました。以下の7本の記事をご参照ください。
 
2013.10.04 小泉純一郎の「脱原発」発言と藤原紀香の例の「秘密保全法」反対発言を検証できない段階だけれども検証してみる ――「著名な人」と「一般市民」の「影響力」の違いの問題について
2013.10.09 小泉純一郎の「脱原発」発言をいまの段階で検証してみる
2013.10.10 権赫泰さん(韓国・聖公会大学日本学科教授)の見た日本の反原発運動 ――現代日本の 「右傾化」と「平和主義」 について(「京都大学新聞」より)
2013.10.13 吉井英勝さん(前共産党衆院議員)と山口泉さん(作家)の小泉純一郎「脱原発」発言批判
2013.10.15 「マスコミに載らない海外記事」のブログ主宰者の「日本の主権は侵害されるべきではない」(Author:Eve Human)記事附記としてのコメント記事
2013.10.16 共産党の小泉元首相の「原発ゼロ」発言評価について
2013.10.17 小泉元首相「脱原発」発言評価はどういう地点に行き着くか。また、毎日新聞「風知草」の小泉元首相「脱原発」発言評価の自画自賛について
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