独立系小メディアの記事ではありますが、日本の商業メディアでも下記の記事のタイトル「ウクライナ問題を引き起こした張本人は米国だった」に見るようなウクライナ情勢の見方に関して「西側」のメディア・フレームを脱した記事をやっと見かけるようになりました。一歩前進というところでしょうか。ただし、以下の記事、タイトルは「ウクライナ問題を引き起こした張本人は米国だった」と断定調ですが、根拠として示しているのは「米国はウクライナに民主主義を根づかせるため、1991年以降、50億ドル(約5100億円)の支援をしてきた」という事実だけで、その事実のみで「ウクライナ問題を引き起こした張本人は米国だった」と断定することはできません。根拠の薄弱なイエロー・ジャーナリズムの手法に近い記事と酷評しておく必要があるように思います。
 
ただし、毎日新聞も先日の4月26日付けで冒頭に「視点を変えて」という一文を掲げて「にゅーす360度:紙面審査委員会から ウクライナ、露の論理は」という署名入り記事を掲載していました。その記事の結論部分は「ウクライナ問題をロシア側から見るとどう映るのか。ロシアの今後の動きを占ううえからも、そうした視点からの報道がもっと必要ではないでしょうか」というものでした。少しずつマスメディア、商業メディアの内部からもこれまでの「西側」情報一辺倒の報道のあり方に自浄作用としての疑問が出てきているということかもしれません(以下、強調は引用者)。
 
 
 ウクライナで米露両国による新たな戦いが幕を開けた。
 
 ロシアが3月にクリミア共和国とセヴァストポリ特別市を領土に加えてから1カ月もしないうちに、今度はウクライナのハリコフ、ドネツク両州が独立を宣言したのだ。
 
ロシアから見たウクライナ問題
 
 日本を含めた欧米諸国では、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が強行的にクリミアを併合したと同時に、新たにウクライナの東部州の併合も画策していると見る。同大統領こそがウクライナ東部の動乱の首謀者であり、混乱の引き金を引いた張本人であると捉える。
 
 けれどもロシア国内での見方は真逆だ。親米派のウクライナ新政権は武装集団「右派セクター」のロシア系住民の殺害を容認し、プーチン大統領は彼らを守るためにクリミア併合に踏み切ったと見ている。
 
 ウクライナ新政権の裏には常に米国がいるというのがロシア側の解釈だ。
 
 さらに未確認情報として、ロシア系住民の殺害を命じたのは米中央情報局(CIA)との話もある。少なくとも、プーチン大統領が同胞を守ろうとした行為は国民に歓迎され、支持率は60%から82%にまで跳ね上がった。
 
 どちらに正当性があるのだろうか。 
 
 
 

 西側から見れば、ロシアによる本格的な領土拡張は1991年に旧ソ連が瓦解して以来初めてで、ヨーロッパでは「帝国主義的なかつてのロシア」の復活に脅威を感じる人が少なくない。これは体験的にヨーロッパ人の心中に擦り込まれた感情であり、陸続きであるからこその恐怖として無視できない事実である。
 
 米陸軍は今後の実戦に備えるため、空挺部隊600人をポーランドとバルト3国に配備することを決め、4月23日には第1陣150人が現地に到着した。
 
 さらに地中海にいた米誘導ミサイル駆逐艦トラクスタンを黒海に急派してもいる。米国はこれを予定の行動と発表したが、万が一に備えての動きであると見る方が自然だろう。
 
 一方のロシアは、ウクライナに新政権が誕生する前から米国の息がかかった国家が国境の向こうにあることで、威圧感を受けていた。ウクライナは経済的に米国から多額の支援を受けていたからだ。
 
 実はこの見方が本当であることが昨年12月にはっきりした。と言うのも、米国はウクライナに民主主義を根づかせるため、1991年以降、50億ドル(約5100億円)の支援をしてきたのだ。
 
 この50億ドルという金額は、推測としての数字ではなく、ビクトリア・ヌーランド国務次官補が昨年末にワシントンで行われたウクライナ情勢をめぐる会議で「ソ連崩壊時代から、ウクライナに対して50億ドルを民主主義支援で投資してきた」と述べたことで明らかになった。
 
反ロシアならネオナチにも資金を提供する米国
 
 米国にとってはロシアの領土拡張にクサビを打ち込むための資金だった。
 
 ウクライナ議会にはスボボダ(自由党)というネオナチ政党が36議席を持つ。米国はたとえネオナチであっても、思想的な支柱の1つが反ロシア(反共産主義)であるという理由であれば、彼らの後ろ盾にもなった可能性が高い。
 
 スボボダが強権的な政治活動を行っていても、反ロシアという流れであれば資金援助を惜しまなかったのだ。
 
 ロシアにしてみると、隣国に米ドルが流れ込むだけでなく、ロシア系住民への弾圧も強まれば同胞を助けないわけにはいかない。横暴な米国に屈するわけにはいかないとの論理でクリミア併合が行われた。
 
 同時に、ロシア黒海艦隊が拠点とするセバストポリ軍港は、ロシアが2024年まで使用する許可を得ていたが、欧米諸国は将来この港を北大西洋条約機構(NATO)や米軍の軍港とするつもりでいた。その前にプーチン大統領はロシア領にしておく必要があった。
 
 こうした流れから現在、米露両国は短期的に修復が難しい関係に陥っている。今は両国が相互に不信感をつのらせ、一歩も譲らない。両国が全面的な交戦に至る可能性は少ないが、両大国によるにらみ合いは当分続くだろう。
 
 バラク・オバマ大統領はすでにプーチン大統領への信頼を失っている。ニューヨーク・タイムズ紙のピーター・ベーカー記者は米政権高官の話として、「ウクライナ情勢が解決したとしても、オバマ大統領が今後プーチン大統領と建設的な関係を持つことはない」と断定的に書く。
 
 オバマ政権の残りの任期で、米国はロシアと距離を置きながら、いかにロシアの力を削ぎ落とすかに尽力しそうだ。ホワイトハウスの安全保障担当者は打開策というより、新しい形の「ロシア封じ込め」を模索し始めているとの情報もある。
 
 旧冷戦を象徴する「封じ込め(Containment)」という言葉は、1947年に歴史学者ジョージ・ケナン氏が発表した対ソ政策で、今後新バージョンが生まれ出る可能性もあり、頻繁に使われるかもしれない。
 
 米メディアの中にはすでに新冷戦という言葉がでている。中長期的にロシアを孤立化させるため、経済制裁を加えていくべきとの考え方だ。新冷戦の考え方が適用される限り、両国は戦火を交えないだろう。
 
ロシアに急接近する中国
 
 そうなった時の最悪の結果を両国トップが熟知するからだ。武力衝突しない代わりに、ウクライナという第3国で両国はにらみ合いを続ける。米露が戦火を交えないことが保障されれば、緊張状態であってもそれを平和と呼ぶことはできる。それが旧冷戦のあり方だった。
 
 一方、ロシアは単独で欧米諸国と対峙するには無理があるので、中国やインドなどBRIC’s諸国を引きつけて西側諸国と相対してくることも考えられる。
 
 ウクライナ政変を期に、中国はロシアと接近して軍事協力を深めてもいる。特にロシアの宇宙工学や原子力潜水艦の技術に強い興味を抱いており、技術交流が活発化するかもしれない。
 
 またロシアからヨーロッパに向けられている原油や天然ガスの輸出が滞った場合、中国に通じるパイプラインを作る計画も模索されるかもしれない。
 
 ただ新冷戦が続いたとしても、米露の決定的な断絶にはならないだろう。と言うのも、オバマ大統領はロシアを完全に国際社会から除外する「脱ロシア」政策をとれないからだ。
 
 世界貿易機関(WTO)から脱会させるといったオプションは考えていないし、2011年2月に発効した第4次戦略兵器削減条約(新START)も継続中だ。
 
 両国がウクライナ情勢で緊張関係にあっても、戦略核弾頭の削減プロセスを中止するにはいかない。両国の利害はすでに多分野で絡み合っている。
 
 そうは言ってもウクライナ情勢の混乱で、ロシア通貨ルーブルと株価が下落しており、今後外国人投資家によるロシア脱出が起きる可能性はある。ロシアと取引をしている西側諸国の政府や民間企業がロシアから引き上げることになれば、一番困るのはロシア国民である。
 
 そこで追い詰められたプーチン大統領が米国との対立を強め、新冷戦から実戦に向かわないことを祈りたい。
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