小倉利丸さん(富山大学教授。ピープルズ・プラン研究所共同代表)は、ウクライナ問題に関して、今回は、その当事国であるウクライナの独立系左翼のマイダン運動に対する政策提言に着目し、同提言を訳出、紹介されています。
 
小倉さん曰く。
 
「ウクライナにおける独立系の左翼の影響力は小さく、この宣言が実際にどれほどの社会的な影響を持ったのかは不明である。しかし、ここで提言として列挙されている内容は、20世紀社会主義を経験した地域が、資本主義への転換を経た後に、再度社会主義を志向するという場合、何が核心的な課題になると考えられているのかを知る上で重要だと考える。」
 
宣言:ウクライナにおけるthe Left Oppositionの10のテーゼ
(小倉利丸ブログ 
2014-4-14)
 
以下に訳出したのは、今年1月に発表されたマイダンの運動に対する左翼からの対案ともいうべき政策提言である。ウクライナにおける独立系の左翼の影響力は小さく、この宣言が実際にどれほどの社会的な影響を持ったのかは不明である。しかし、ここで提言として列挙されている内容は、20世紀社会主義を経験した地域が、資本主義への転換を経た後に、再度社会主義を志向するという場合、何が核心的な課題になると考えられているのかを知る上で重要だと考える。この提言には、ウクライナが抱えている焦眉の課題、地域の格差あるいは産業構造の違い、や文化的な多様性と対立、対外的な政治的経済的な依存問題(対ロシアと対EU+米国)への言及がない。農業問題やエネルギー問題(チェルノブイリ原発に象徴される過度な原発依存とロシア依存)などへの言及もない。多分これら全ての問題は、この提言がターゲットとした新興財閥問題に収斂させうるのかもしれないが。
 
2014年1月14日
宣言:ウクライナにおけるthe Left Oppositionの10のテーゼ
 
『LeftEast』編集委員会による注:『LeftEast』の編集者の観点から、ここに掲載した宣言は、ウクライナの左翼の少数派を代表しているとともに、広範な読者に読まれるだけの価値のある非常に重要で検討に値いするドキュメントである。我々の見解を追加した上でこの宣言をウエッブに掲載する。『LeftEast』の編集者は、ブルガリアやロシアの左翼のあいだで起きている「抗議運動で何をなすべきか」を巡る論争を,我々とは立場を異にしつつも、十分承知している。イリヤ・バドレイツキのウクライナに関する12月13日のテクストは、この宣言に極めて近いものがあり、我々は、ウクライナの運動を報じる場合、これまでもマイダン運動に批判的なアプローチを取ってきたことを自覚している。しかしまた、我々の目標は、積極的で見識のある議論を提供しつづけることにあることも自覚している。

***
 
ユーロマイダンと左翼のプログラム
 
ユーロマイダンの人気は、自由貿易は極めて重要であり、文字通り眠れない夜を生き延びるには必要なことだとウクライナの人々を煽ってきた欧州連合との自由貿易に、ウクライナの人々が疑問を感じはじめたということと何ら関係がない。この国の社会経済的な問題は、隣接する東西の隣国以上に非常に深刻であり、この抗議運動の意義もこの点にあった。ウクライナの平均賃金はロシアやベラルーシよりも2倍から2.5倍低く、EUよりもさらに低い。世界規模の経済危機は、大西洋からウラルに至る他の欧州諸国以上にウクライナの経済に劇的な影響を与えた。危機後、経済成長は停滞し、産業は2013年には下落し続けた。更に、ウクライナの経済システムは多かれ少なかれ新興財閥の納税を免除している。何百億ドルもの鉱物資源、金属、アンモニア、小麦、ヒマワリが合法的に輸出されながら利益は計上されていない。全ての儲けが、海外のタックスヘブンに隠されている。タックスヘブンにはほとんど全てのウクライナで活動している企業が存在する。ウクライナ国内の企業が稼いだ利潤は、合法的に何らの努力もなしに、例えば、架空の借入れの形態に組み換えられるなどして、海外に移転される。
 
ウクライナ政府が財政を確保する上で制度的な問題を抱えていたとしても驚くにあたらない。昨年暮に、ウクライナはデフォルト寸前にまでなった。国家公務員への賃金支払いの停止がありふれた事態になり、社会プログラムに配分される予算は事実上停止された。この状況は、ガスプロムが東欧のなかでも記録的な値上げをウクライナ向けのガス価格に押しつけたロシアとの貿易戦争で悪化した。新興財閥はこの国を窮地に追いこんだ。延々続いた議論の末、彼らは、この国を制度的に疲弊させるような投資を回避しつつ、一致団結した開発プログラムを作ることができなかった。どのような開発戦略であれ、新興財閥の貪欲さを抑制しなければならず、少なくとも、部分的であれ海外への資金の移転を禁止し、最小限の納税を課すことが必須だった。しかし、新興財閥は、ゲームのルールを変えなければこの国が社会経済的に破綻に追い込まれるだろうということ、つまり彼ら自身が座っている枝を切り落すようなことになるということを自覚しながらも、彼らにとってこれは受け入れうるものではなかった。
 
右翼反対派は、経済問題を語る場合に、ほとんどもっぱら腐敗と非効率的なルールの問題にだけ関心を寄せた。新興財閥が国家を簒奪しているということに議論が及ぶと、地域党に近しい企業家にこうした問題を限定し、ヤヌコヴィッチの息子たちが関わる商売から更に掘り下げて調査するようなことはほとんどしていない。右翼の観点からすれば、他の新興財閥は、民族意識を持っているから、問題ではないのだ。この論理によって、ウクライナが「純粋な」ウクライナ人によって収奪される場合は、民族的な大義にてらして、それもまた利益になるということになる。
 
パラドックスに満ちた状況が拡がっている。意識ある経済学者はみな(たとえば、ヴィクトール・ピンゼニクのような新自由主義的な者も含めて)この国の税と規制のシステムは、完全に新興財閥の納税を免責しているという点では意見の一致をみている。誰もこのような制度が長続きするとは考えていない。しかし国会議員は現実的で明確な制度的な代替案を提起する勇気を持ちあわせていない。ほとんど誰も、ウクライナが直面している差し迫った問題は、EUや労働組合に関する問題ではなく、新興財閥に課税すば解決する問題だということを認める勇気がない。新興財閥の資産がウクライナの国内で機能しているのであれば、国家の制度は完全に彼らに納税を強制できるはずである。しかし、アンドレイ・フンコが最近指摘しているように、議会に議席のある政党は誰もこの問題に言及しないところにまで、ウクライナ政治の新興財閥化が進んでいる。
 
残念なことに、唯一、ラディカルな左翼だけがこうした最小限の明確な要求を声にしている。公的な野党指導者たちが静観している一方で、これらの要求は、The Left Oppositionのアジェンダとしでではな
く、すべての反新興財閥勢力――我々を執拗に排除しようとする全ウクライナ連合「スヴォボダ」のような極右ファシストの独裁はいかなる意味においても解決にはならないと相手にしない勢力――が一致団結しうる政策の形成へ向けた第一歩とみなすべきである。
 
ウクライナをその危機から救済するための整合性のある計画が全く存在しないということは、リベラル派や、例えば、ルヴォフの zaxid.netのほとんど右翼リベラルといっていい出版物です
ら我々の「10の論点」を議論しはじめるほど急を要する事態になっている。(ザハール・ポポヴィッチ、The Left Opposition)
 
社会変革プランのための10の論点
 
The Left Oppositionによる前書き
 
我々は、「社会変革のためのプラン」と題されたドキュメントへの注目を提案する。これは、市民の福祉をを向上させ、社会進歩を確実なものとするための方法について、そのアウトラインを述べたものだ。これは、一部は、ユーロマイダンでの大部分の社会経済の要求では無視されてきたために作成された。我々の希望は、このドキュメントが広範な社会的、左翼的、労働組合的な様々なイニシアチブを統一するプラットフォームの役割を果しうるのではないかということである。このドキュメントは、暫定的に左翼マイダンと呼ばれるコミュニティーに属する人々を束ねることを目的とする社会主義組織、Left Oppositionに属する活動家たちによって起草された。
 
言うまでもなく、政党はこの抗議運動を選挙政治へと方向づけようとしている。彼らは制度を根本的に変えるのではなく、新たな声を発見しようとしている。我々は、自由市場経済を宣伝する自由主義的な構造の考え方を支持しないし、差別的な政策を推進する過激な民族主義も支持しない。
 
我々の希望は、社会的不正義の行動に拍車を煽る抗議運動が、最終的にはこの不正義の根本的な原因を根絶するように変わることである。我々は、大部分の社会問題の原因は、抑制のきかない資本主義と腐敗の結果として形成された新興財閥にあると考えている。民族的な従属をもたらすロシアやIMFに頼ることなく、我が新興財閥の傲慢な利害に制限を課すことが重要である。我々は、我々の声をユーロ統合への要求の声に付け加えることは有害なことだと考えている。そのかわりに、我々は普通の市民、とりわけ賃金労働者の利害を支援するために必要な諸変化のための見取り図をはっきりと描くことが必要だと考えている。我々は、ヨーロッパのいくつかの国において同種の対策をとってきた進歩的な経験を、以下でも幾度か引用している。
 
我々の目標は、比較的穏健なものであるから、可能な限り広範な組織にアピールすることになるかもしれない。我々は、この計画が現在の左翼の政治力――権力者に影響を与え、現存する社会秩序へのオルタナティブを提起しうるような力――の形成に向けた第一歩と比べれば、この出来事への大きな反応とはいえないという事実を隠すつもりはない。Left Oppositionは、自治の諸原則によ
る社会主義建設のための最小限のプランを提起することを考えている。つまり、産業の社会化、利潤の社会的必要への分配、政府の役割について市民と約束ごとを形成すること、である。
 
我々は、あなたがたの意見を我々のfaceookやVKontakteのページ、あるいはメール
gaslo.info@gmail.comで寄せてくれることを歓迎する。一連の政治家や新興財閥を全体的な制度的な変革なしに、単に別のものに取り替えることは、我々の生活を改善させることになならないだろう。そうではなくて、我々、社会運動や労働運動のグループは、ウクライナの将来の成長を確実なものとし経済危機を克服するための基本的な条件を提起する。(The Left Opposition Collective)
 
1. 新興財閥ではなく民衆による政府
大統領制共和国から議会制共和国への転換がなされなければならない。大統領の権力は、国際的な舞台での機能に限定されるべきである。権力は国家官僚から選挙による地域の委員会(ソヴィエト)に移行されるべきである。この権力は、期待に沿わなかった代表を解任する権利を持つべきである。判事や警察署長は選挙で選ばれるべきで任命制にすべきではない。
 
2. 主要産業の国営化
冶金、鉱山、化学産業は、インフラ産業(エネルギー、運輸、コミュニケーション)とともに、社会的な福祉に貢献すべきである。
 
3. 労働者はあらゆる形態の所有権をコントロールすべきである。
ヨーロッパの成功事例にならって、我々は独立した労働者の組合の広範なネットワークを構築すべきである。これは、経営をコントロールし労働者の権利を保障するものとなろう。労働者は(賃金支払いがなされない場合には就労を拒否できる)ストライキの権利を持つべきである。労働者は、もし賃金の遅配があった場合には、(ポルトガルの事例にならって)雇用主の負担でローンを組む権利を持つべきである。50人以上を雇用している企業あるいは100万ドル以上の資本を運用している企業は、その生産、経理、経営など全てのデータをオンラインで公表すべきである。
 
4. 奢侈税の導入
100万グリヴナ以上のヨット、エリート向けの自動車その他の贅沢品には50%の課税を導入すべきである。累進的な所得税も導入されるべきである。デンマークの場合のように、100万グリヴナ以上の年収のある個人には50%以上課税すべきである。(こうした制度では、リナト・アフメトフ[ヤヌコヴィッチの側近でもある]一人で国に10億2000万グリヴナを納税することになったはずだ。現実には彼は2013年に17%の課税で4億グリヴナを納税した)
 
5. オフショアへの資本移転の禁止
資本のオフショアへの移転を阻止するために、ウクライナの企業のオフショア諸国での課税逃れを許す法規は廃止すべきである。ウクライナのオフショア企業の資産は凍結されるべきであり、投資の合法性が証明されるまで、暫定的な管理下に置かれるべきである。
 
6. 財界と政府の分離
100万グリヴナ以上の収入のある市民は中央及び地方政府に職を得ることを禁じるべきである。このルールに基づいた再度の総選挙を実施すべきである。
 
7. 官僚制への支出削減
政府の支出はコントロールされるべきであり透明性が確保されるべきである。管理職の人員削減のために行政改革が実施されるべきであり、全省庁はンピュータプログラムに置き換えられるべきである。しかし、過去8年間、政府官僚の数は約10%も増加し372000人以上になっている。(ウクライナでは人口1000人当り8人であるが、フランスでは5人にすぎない!)
 
8. 機動隊その他の特殊部隊の解散
2014年には当初から、内務省、警備部門、検事局、特殊警察部隊など国家の治安部門への支出を削減すべきである。内務省が2013年に1690万グリヴニ以上の予算を配分されているのは受け入れがたい。公的保健への支出総額は690万グリヴニにすぎないのに!
 
9. 無料の教育と医療へのアクセス
この政策に必要な資金は、産業の国有化と治安と官僚機構への支出削減によってまかなうべきである。教育と医療における腐敗をなくすために、医師と教員の給与を引き上げ、これらの分野における優位性を回復すべきである。
 
10. 抑圧的な国際金融金融の諸機関からの撤退
国際通貨基金その他の国際的な金融諸機関との更なる協力を打ち切ることを支持する。我々は、産業の発展のためというよりもむしろ個人の致富や「社会的な施し物」のための(政府の保証による)銀行や官僚によってなされる債務支払いを拒否したアイスランドの例に倣うべきである。
 
the Open Left Forum にロシア語で発表された: http://openleft.ru/?p=1157
ロシア語から英語への翻訳: Jordan Maze and Helen Tsykynovska
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