小倉利丸さん(富山大学教授。ピープルズ・プラン研究所共同代表)が現在のウクライナ情勢に関して、ヨーロッパの左翼的知識人たちの見方を独自に選択し、訳出されています。これまでマスメディアはもちろん、米欧政府とメディアの国際法の原則を自国に都合のよいように捻じ曲げてきた一方的な「ロシア(あるいはプーチン)・バッシング」の論を批判してきた論者たちも指摘してこなかった(それは、もちろん、論者の視野の狭さということもあるでしょうし、情報不足などさまざまな制約のためにしたくてもできなかった、ということでもあるでしょう。もちろん、私もそのひとりです)大変参考になる視点だと思います。

ご紹介したい小倉利丸さんの記事は4月9日付けと4月11日付けの2本ありますが、4月9日付け記事は全文、4月11日付け記事は小倉さんの前書き部分のみの紹介にとどめました(以下、強調は引用者)。
 
ウクライナをめぐる四つのテクスト(小倉利丸ブログ 2014-4-9)

【前書き】 
以下に訳出した四つのテクストは、現在のウクライナ情勢をどのように理解すべきかについて、私が重要と思ったもののなかから選んだ。イシュチェンコの二つのエッセイは、私たちが、EUかロシアかという二者択一の罠に陥いることなく状況を理解することの大切さを示唆している。とりわけ、西側の進歩的知識人たちが素朴にマイダンの運動を称揚していることへの率直な批判は、重要な論点を含んでいる。ジジェクのエッセイは、ある意味では、この知識人声明に署名したジジェクによる「応答」とも読めるものだ。統一と団結ではなく、分離の勇気を提起しているのは、それだけヨーロッパ左翼の危機が深刻だということでもあるだろう。世界規模で起きている極右の台頭と左翼の凋落がもたらしている深刻な事態がウクライナではとりわけ重要な課題となっているという指摘は、マスメディアがとりあげない観点として重要だ。(「ウクライナの政治的機能停止と左翼の危機」記事の下へと続く)

ウクライナの政治的機能停止と左翼の危機
(小倉利丸ブログ 2014-4-11)
 
【前書き】
以下に訳出したのは、ウクライナの左翼によるマイダン運動の分析である。ウクライナには左翼の社会的影響力と呼びうるものがほとんど存在しないと言われており、このことは文中でも言及されている。20世紀型の社会主義、とりわけスターリン主義の負の遺産を清算できていない旧ソ連圏がかかえている問題だ。スターリン主義下で弾圧されてきた左翼反対派(トロツキストやアナキストたち、あるいは自立的な左翼)も「左翼」として十把一絡げにされてある種の「敵意」の対象になっているようにみえる。このことが大衆運動が、西側の資本主義への過剰な理想化と狭歪で民族差別的なナショナリズムという、わたしたちにとってはどちらも選択しようのない選択肢の間を揺れ、ここにロシアと欧米の大国の利害が干渉する構図を形成してしまっているようにみえる。以下の文章は歯切れが悪く、結論は紋切り型であることは否めないが、しかし、試行錯誤のなかで現状を把握しようとする悪戦苦闘は貴重であり、ここでの分析は(ややオーソドクスなマルクス主義の道具立てが用いられているとはいえ)、この国のマスメディアによるウクライナ問題報道よりもよっぽど示唆的である(4月11日付け記事の本文は省略。上記URL(「ウクライナの政治的機能停止と左翼の危機」をクリック)をご参照ください)。

【4月9日付記事本文(訳出記事)】 
ウクライナは真の革命を経験しているのではなく、単なるエリートの交代を経験しているだけだ。――右翼と結びついたキエフの新たな支配者はウクライナの腐敗の根である貧困と不平等を断つことはできないだろう。
 
ウォロジミール・イシュチェンコ
 
ウクライナの出来事には二つのよく知られたレッテルが貼られてきた。民主的な、あるいは社会的な革命というレッテル、または、右翼の、あるいはネオナチのクーデタというレッテルだ。実際にはこの両方とも間違っている。私たちが目撃してきたのは、東部と南部の大多数の支持はなく西部と中部ウクライナの大多数が支持した政治エリートの交代をもたらす大衆的な叛乱である。少なくとも、新政府の下では、民主的でラデイィカルな変化の兆候はない
 
なぜ社会革命あるいは民主的な革命ではないのか?マイダンの運動の要求のいくつかは実行に移されてきた。例えば、抗議参加者の大半を殺害した悪名高いベルクート[機動隊のこと]が廃止され、ヤヌコビッチ前政権の最も醜悪な官僚たちが解雇されたことなどだ。
 
しかし、これは体制的な民主的変化を意味しないし、新政権は、いかなる方法においても、ウクライナに蔓延する腐敗の根拠である貧困と不平等に挑戦しているとはいえない。更に、経済的な危機の重荷をウクライナの貧困層に負わせ、裕福なウクライナの新興財閥には負わせないことで、事態をますます悪化させるだけだろう。
 
マイダン運動の社会経済的な要求は、新政権の新自由主義的なアジェンダに置き換えられてきた。木曜に承認された内閣は、主に新自由主義者のナショナリストから構成されている。議会に提出された公式の行動計画は、価格と関税についての「不人気な諸決定」が必要であり、国際通貨基金からの借入れの全条件を満たす用意があると宣言している。
 
IMFによる賃金凍結、ガス価格値上げの要求は、前政権がEU連合協定の交渉を中断した理由のひとつであった。多くの人々が新政権を「自殺の政府」と呼ぶのも無理はない。これらの反社会政策と通貨の崩壊、更にウクライナの一般人の貧困化によって、大衆的な失望が生じることは予測に難くない。
 
極右はまた、政府内で大きな躍進を達成した。何人かの評論家は、ウクライナの新政府にける彼らの代表の水準はヨーロッパでは前例のないものだと警告している。外国人嫌いのスヴォボダは、副首相、防衛大臣、エコロジー大臣、農業大臣、検事総長事務局のポストを支配している。ウクライナの社会国民党の創設者の一人でこの党の準軍事的な青年組織のリーダーだったアンドリイ・パルビイは、その後、穏健なBatkivshchyna党[全ウクライナ連合「祖国」]に参加し、マイダンの自警団を指揮し、現在は国家安全保障防衛評議会の議長である。
 
同時に、抗議運動は、十分よく練られた武力による権力の掌握というクーデタのレッテルによくあてはまる。マイダン運動、とくにその準軍事的な武装は、ほとんど準軍事的な政党によって統制されていなかった。事実、これらの政党は一般に、ほとんど成功しなかったのだが、ヤヌコビッチとの妥協を主張して運動を収拾しようとしていた。
 
最悪なことは、新政権は悪名高い右派セクターをコントロールできないということだ。このメンバーは今では人気のある英雄であり、勝利した「革命」の前衛である。彼らは、西部地域の警察署から奪った銃で武装し、ヤヌコビッチ政権の崩壊後には、革命は「腐敗した 民主主義」やリベラリズムとの闘いを継続する必要があると主張している。リベラル派は、自らの確信とマイダン運動における重要な役割を賞賛していたが、今や右翼の反動的な理念がどのようなものかがわかってきた。最近、右派セクターの報道官はインタビューで、「とるべき正しい道についてヨーロッパに言う必要がある」と述べ、人々が教会に行かないとかレズビアン、ゲイ、バイゼクシュアル、トランスジェンダーの権利に寛容であるといった「全面的なリベラリズム」の「悲惨な状況」からヨーロッパを救うと語った。
 
右派セクターが新政権に対して反対運動をするのには、その支持が得られていないので、時期尚早だろう。しかし、このグループは、急速に進行する経済危機のなかで、新な反乱を引き起こすかもしれない。強力な左翼勢力がウクライナには欠けているために、社会的な不平は、右翼ポピュリストによって煽られることになるだろう
 
同時に、潜在的に新たな「社会的なマイダン」において、ラディカルなウクライナのナショナリストが主導的な役割を担うということは、支配階級に反対する文化的に分断されたウクライナの東部と南部からの大衆的な参加をともなう全国的な運動を排除することになるだろう。更に、彼らは、クリミアで見たように、分離主義的な態度と親ロシアの挑発を増長させさえするだろう。全面的な内戦は、不可避とはいえないものの、今では現実的な脅威になっている。
 
こうした状況のなかで、西側の最上の政策は、新政権への極右の参加と街頭での制御不能な準軍事的な組織に反対する断固とした立場をとり、ウクライナの地域間の摩擦の平和的な決議を強調することにあるだろう。最後に大事なこととして、西側は、多くの進歩的な運動が世界中で提起しているよくある要求だが、ウクライナの対外債務を帳消しにすることによってウクライナを無条件で支援するような提案をすべきだろう。
 
出典 //
Volodymyr Ishchenko, "Ukraine has not experienced a genuine revolution, merely a change of elites
The new rulers in Kiev, with links to the right, will never tackle the root cause of corruption in Ukraine: poverty and inequality" The Guardian Friday 28 February 2014
 
http://www.theguardian.com/world/2014/feb/28/ukraine-genuine-revolution-tackle-corruption/print
 
極右と疑惑の政治家たちをを正当化することなくウクライナに支援を!
 
ウォロジミール・イシュチェンコ
 
2014年1月7日
 
最近、国際的に知名度のある学者や知識人たちが、「ウクライナ政府」に反対する「ウクラナイ社会」を支援してユーロマイダンの抗議への全面的な支持を表明する書翰に署名した。[訳注:以下に訳出してある]ジークムンド・バウマン、ウルリッヒ・ベック、クレイグ・カルホーン、クラウス・オッフェ、サスキア・サッセン、チャールズ・テイラー、マイケル・ヴィヴィオルカ、スラヴォイ・ジジェクなど多数の者が、「最上のヨーロッパの価値」を体現する「合法的」で「平和的」な抗議を賞賛し、ウクライナのための「マーシャルプランのような計画」を要求し、ウクライナがEUに加盟するのであれば、ウクライナは「新たなヨーロッパとより公正な世界」の建設に貢献するであろうと述べた。
 
残念ながら、この書翰は受け入れがたいレベルの理解しか示しておらず、極めて危険な傾向を内包する矛盾に満ちたウクライナの抗議を単純化し誤解している。このような危険性を、高い評価を得ている大学人が認識していないとすれば、こうした危険な傾向が更に正当化されるだけのことだろう
 
ヴィクトール・ヤヌコヴィッチの支配が腐敗していることは疑いのないところだ。この支配は、ウクライナの極めて不平等な社会のごくわずかな金持ちの利害の上に成り立っており、これに反対する抗議に対する残虐な弾圧に責任がある。抗議のためにデモに参加したウクライナの人々の大多数は、正義と公正と民主的な社会への希望を抱き、その希望を理想化された「ヨーロッパ」と素朴に結びつけた。
 
しかし、ユーロマイダンはウクライナの政府と社会全体の間の摩擦ではない。抗議が始まる直前に、ウクライナの社会は、EU加盟への合意をめぐって真っ二つに分裂していた。11月初めに、ウクライナ市民の間で、EU連合とロシア、ベラルーシ、カザフスタンとの関税同盟の賛成が各々40%、他方、多数の市民は両方の合意に同時に賛成しており、他の人々はそのどちらにも反対していた。ユーロマイダンの抗議者たちへの警察の残虐な事件の後ですら、様々な世論調査では、ユーロマイダンの抗議に40%から50%が反対していた。ユーロマイダンへの支持は主として西部と中部ウクライナに集中しており、重工業が集中している東部と南部のウクライナはこの抗議には圧倒的に不支持であった。かれらは、EUとの自由貿易ゾーンへの加盟による競争の激化が職と生活にもたらす影響を、正当にも危惧しており、旧ソ連諸国との連携を維持しようとしている。彼らは、民主主義を否定しているのではなく、IMFの信用供与に伴なう構造調整や耐乏政策を拒否しているのである。このことは、近年、EUの諸都市の街頭で起きているおびただしい抗議をもたらした状況とほとんど変らない。[知識人の書翰は]人口のほぼ半数の状態をウクライナ全体のそれとして示し、他の半数の声を無視し、誤解を招くものであり、高いアカデミックな立場によって脆弱な権力の非民主的な振舞いを正当化することになる
 
ウクライナの機動隊の行為が残虐なものであることは否定できないし、ウクライナ政府は、11月30日の抗議キャンプへの暴力的な排除の責任者達全員を処罰することが未だにできていないが、ユーロマイダンの抗議は完全に平和的なものであったとういことでもない。キエフの行政府の建物占拠は合法的ではないし、レーニンの記念碑の破壊も合法的ではない。暴力的な行動は、キエフの住民たちの大多数からは支持されていない。2013年12月1日の数時間、抗議者たちは、大統領府近くの非武装の警察の阻止線を暴力的に攻撃し、機動隊が最終的に彼らを攻撃するまで続いた。これはウクライナの独立以来、史上最悪の街頭での流血の衝突となり、300名以上が負傷した。暴力を何人かの「おとり」のせいにして非難するというよく知られた批判があるが、多くの観察では、攻撃者の圧倒的大多数は、「右派セクター」と呼ばれる極右とネオナチの武装した活動家であり、彼らはユーロマイダンに参加する様々なナショナリズトのグループとつながりがある。
 
主として政治的に進歩的で著名な大学知識人からのこの書翰は、驚くべきことに、ウクライナの抗議に、極右が大きく関与していることを無視している。ユーロマイダンの主要な勢力のひとつは、極右の外国人嫌いの政党「スヴォボダ」(「自由」)である。彼らは抗議キャンプでボランティアの自警団の中心をなしており、キエフ中心部の行政ビル街の占拠で最も過激な街頭行動の最前線にあった。2004年以前に「スヴォボダ」はウクライナ社会国民党と呼ばれ、ナチの「鉤Wolfsangel」のシンボルを用いていた。「党首のオレフ・チャフニボクは反ユダヤ主義の演説でも知られる人物である。党名変更後も、スヴォボダは、ドイツの国民民主党やイタリアの新しい力Forza nuovaなどネオナチやネオファシストのヨーロッパの諸政党との連携を確立している。その現場の活動家たちはしばしば移民や政治的な反対派に対する街頭での暴力はヘイトクライムに関与している。
 
ユーロマイダンでは、特に、極右が、社会経済的な平等やジェンダー平等を試みようとする左翼学生グループを攻撃した。その数日後に、極右のならず者たちが二人の労働運動の活動家を「コミュニスト」だとして暴行を加え重症を負わせた。以前は極右のサブカルチャーの中で使われていたスローガン、「ウクライナに栄光あれ! 英雄たちに栄光あれ!」「民族に栄光あれ! 敵に死を!」「世界に冠たるウクライナ!」(「Deutschland uber alles」の借用)が今では抗議者たちのあいだで主流のスローガンになった。1月1日、「スヴォボダ」は、ウクライナ民族主義組織the Organization of Ukrainian Nationalists[1929年に当時ポーランドに属していた西ウクライナで創設]の党首、ステファン・バンデーラ[1909-1959l]の誕生日を祝ってロウソクデモを組織した。この組織はある時期、ナチスと協力しており、ホロコーストにも関与し、西部ウクライナのポーランド人の虐殺にも責任のある組織だ。もちろん、ユーロマイダンのこうした部分が「新しいヨーロッパ」の建設に熱心に取り組むだろうが、成功の暁には、ナチのヨーロッパ新秩序以上に公正なものになることは極めて疑わしい。ユーロマイダンのこの暗部に沈黙し、「市民的成熟」のモデルとしてこれを表現し、「最上のヨーロッパの価値」と述べることは、外国人排斥とネオファシストを正当化し彼らがウクライナの市民社会でヘゲモニーを勝ち得ることに手を貸すだけである。
 
確かに、ユーロマイダンは、敵意剥き出しのロシアのメディアがしばしば言うようなファシストの叛乱に還元することはできない。抗議キャンプにおける市民的な自己組織のレベルは印象深いし大衆的なデモはどのような政党にも属さない何万人もの人々が参加し、市民的な諸組織すらヨーロッパの夢に向けた根本的な変化を勝ち取る希望を抱いた。しかし、抗議の唯一の政治的な代表は、ウクライナの三つの主要な反対政党であり、そのうちの一つは極右の「スヴォボダ」であり、他の二つは(アルセニイ・ヤチェニュクトとビタリ・クリチコが率いる)、「オレンジ革命」以後権力にありながらすでに人々の信用を失なっており、ウクライナの寡頭政治と密接に結びついている。彼らはいずれも寡頭政治による新自由主義的な資本主義のウクライナモデルに対して、社会経済的な改革を模索する能力も意図も持ちあわせていない。もし、ユーロマイダンが成功するとすれば、これらの政党が、権力を握ることになり、それ以外はありえないだろう。こうした事実を無視して、真に腐敗と残酷な体制に対するいかなるオルタナティブにも盲目的な賞賛を与えるのは政治的に無責任である。
 
ウクライナの進歩的な草の根の諸運動と市民的な諸組織は、差し迫った貧困化するウクライナ市民の社会経済的な諸権利防衛と文字通りの下からの政治的な代表を建設するために、国際的な支援を真に必要としている。しかし、「ヨーロッパ的な価値」とかウクライナにおける「マーシャルプランのような計画」といった素朴な砂上の楼閣の提案といった感傷的で皮相な言葉は、EUがギリシアや他の南ヨロッパの危機的な経済を救済しようとしながらその能力がないような時代に、いかなる意味においても助けにはならない。私たちは、世界の知識人の頂点にいるような知識人や大学人から、疑惑にまみれた政治家やウクライナの極右が闘争のなかで権力を握ることを正当化するようなことに加担する一方で、こうしたことに沈黙するのではなく、不愉快とはいえ、これらのあらゆる重要な課題を提起し検証するような批判的で特別に意味のある立場を期待したい。
 
出典 Volodymyr Ishchenko、”Support Ukrainians but do not legitimize the far-right and discredited politicians!”LEFTEAST, 7 January 2014
 
http://www.criticatac.ro/lefteast/support-ukrainians-but-not-far-right/
 
ウクライナから何を学ぶべきか
 
スラヴォイ・ジジェク
 
2014年、3月31日
 
最近のウクライナの出来事の背景にして来るヨーロッパの選挙を見るべきだろう。ヤヌコヴィッチと彼のギャングどもを打倒した抗議運動は、欧州連合への統合よりもロシアとの良好な関係に最優先を与えるという政府の決定によって引き金が引かれた。予想通り、多くの左翼は、この大規模なデモのニュースを、貧しいウクライナの人々を見下す人種差別主義的な態度で反応した。彼らは、どうして騙されたのか、未だにヨーロッパを理想化し、ヨーロッパが没落のなかにあることが見えておらず、欧州連合への加盟が早晩ウクライナを西欧の経済植民地にして、ギリシアと同じような境遇に追いやってしまうだろうに、と。こうした左翼が無視しているのは、ウクライナの人々は欧州連合の現実に盲目ではないということだ。彼らは完全にその問題と格差に気づいている。彼らのメッセージは彼ら自身の状況はもっと悪いという単純なものだ。ヨーロッパの問題は未だに金持ちの問題なのだ。ギリシアの悲惨な窮状にもかかわらず、アフリカの難民は未だに大挙して押し寄せ、右翼の愛国主義者たちの怒りを買っている。
 
しかし、より重要なことは、「ヨーロッパ」はウクライナの抗議者たちの言うことの何に賛成しているのか?である。これは単一の観点に還元できない。ここには、ナショナリストや物議をかもすファシストの要素からエチエンヌ・バリバールがegaliberte、つまり平等のなかの自由と呼んだことまで、広いスパンがある。たとえ今日、ヨーロッパの諸機関が裏切りを何度も繰り返しているとしても、である。加えて、この二つの極の間に、リベラルで民主的な資本主義への素朴な信頼がある。ヨーロッパがウクライナの抗議運動に見るべきなのは、その最良のものと最悪のものの双方である
 
ウクライナの右翼ナショナリストは、自らをヨーロッパの防衛とみなす新たな反移民ポピュリストの流行の一部をなす。この新右翼の危険性は1世紀前に、『正統とは何か』[1908年、安西徹雄訳、春秋社、1995]において、宗教の批評家の根本的な手詰まりを論じたG.K.チェスタトンが見抜いていたものだ。つまり「自由と人間性のために教会と闘いはじめた人間は、ただ教会とだけ闘えばいいのだが、結局は自由と人間性を棒に振る結果になる。」これは宗教そのものの擁護者にも言えることだろうか?いったいどれほどの狂信的な宗教の擁護者が現代の世俗的な文化を凶暴に攻撃し、その結果意味ある宗教的な経験を見捨てることになったか?そして、同じことはまた最近の移民の脅威に反対するヨーロッパ防衛の高まりにもまた言えないか?キリスト教の遺産を守ろうとする熱意のなかで、この新たな狂信者がこの遺産の真の核心を打ち捨てる用意をしている。
 
従って、こうした状況のなかで我われは何をなすべきなのか?主流のリベラルは、基本的な民主的価値が民族的宗教的な原理主義によって脅かされており、我われは、文化的な寛容のリベラルで民主的なアゲンダの下に団結すべきだと言う。守りうるものだけを守り、よりラデイカルな社会転換の夢は脇に除けておくべきだと言う。では、リベラルで民主的な資本主義的なヨーロッパの夢とは何なのか?EUで何がウクライナを待ちうけているのか誰も確かなことは言えない。我われはみな、ソ連の過去10年からよく知られた移住を求めたユダヤ人、ラヴィノヴィッチについてのジョークだ。移民局の役人がなぜなのかを彼に尋ねる。彼は「二つの理由があります。ひとつには、ソ連でコミュニストが権力を失なうだろうということを恐れています。そして、新たな権力がコミュニストの犯罪の責めを私たち、ユダヤ人に負わせることを恐れています。また再び反ユダヤのポグロムが起きるかもしれないと...」「しかし」と役人は彼の言葉を遮って、「これは全くナンセンスなことです。ソ連では何も変化は起きえませんし、コミュニストの権力は永遠でしょう!」「そうですね、それが私の二番目の移住の理由なんですが」とラビノヴィッチは答えた。
 
我われは容易に、批判的なクリミアの人々とヨーロッパの金融機関の役員間で同様のやりとりがあるだろうと想像することは難くない。ウクライナの人々は次のように不平を言う。「ここウクライナでパニックになっている二つの理由があります。一つは、EUがロシアの圧力によって私たちを見捨てて私たちの経済を破綻に追い込むことを恐れています。」EUの役員は彼を遮って「しかし、あなたたちは私たちを信頼してよいのです。私たちはあなたたちを見捨てることはありません。私たちはしっかりとあたなたちを支配し、あなたたちが何をなすべきかをアドバイスするでしょう!」「そうですね。それが私たちの二番目の理由なんです」とウクライナ人は穏かに答えた。
 
確かに。マイダンの抗議者たちは英雄であるが、真の闘いは今始まったばかりである。新しいウクライナが何と闘うことになるのか、そして、この闘いはプーチンの介入以上に厳しいものになるだろうということだ。問題は、ウクライナがヨーロッパに値いするかとか、EUに加盟することが十分よいことかではなく、ウクライナの人々の最も深い願望に今日のヨーロッパが値いするかどうかである。もしウクライナが、裏で糸を引くロシアの新興財閥とともに、民族的な原理主義とリベラルな資本主義の混合に終るのであれば、ウクライナはヨーロッパにありながら今日のロシア(あるいはハンガリー)のようになる。政治評論家は、ヨーロッパは、ウクライナのロシアとの紛争において十分ウクライナを支援してこなかったと批判する。ロシアのクリミア占領と併合へのヨーロッパの反応は中途半端だというわけだ。しかし、もっと無視されている別種の支援がある。ウクライナに、いかにしてその社会経済的な行き詰まりを打開するのかについての実現可能な戦略を提起するというものだ。このためにヨーロッパは、まず第一に、自らを転換し、その遺産の解放者としての中心部分にその誓約をとりもどすことだ。
 
偉大な保守主義者、T.S.エリオットは、彼の『文化の定義に関するノート』のなかで、唯一の選択がセクト主義と不信のどちらかにかないという場合があるとき、宗教を生かしつづける唯一の道はその遺骸本体から宗派的的な分裂を実行することだと述べている。これが今日我われに残された唯一のチャンスである。すなわち、古いヨーロッパの朽ち果てた遺骸から「セクト的な分裂」の手段をとることによってのみ我われは平等‐自由egaliberteのヨーロッパの遺産を生き存えさせることができるということである。こうした分裂は、我われの窮状を運命として交渉の余地のない事実として受け止めようとするその前提を問題にすべきだということである。この現象は、常にグローバルな新世界秩序や「近代化」を通じて、我われ自身をそこに順応させる必要として設計されたものだ。もし出現しつつあり新世界秩序が我われ皆にとって交渉の余地のない運命であるとすれば、そのときにはヨーロッパは失なわれ、ヨーロッパにとっての唯一の解決は、リスクを取り、この我われの運命の魔力を打破することである。こうした新なヨーロッパのなかでのみウクライナはその場所を見い出すことになろう。ヨーロッパから学ぶべきなのはウクライナの人々なのではなく、ヨーロッパの人々自身がマイダンの抗議運動を動機づけていた夢を具体化することを学ぶべきなのである。
 
その場合、ウクライナの人々はヨーロッパの選挙からどのようなメッセージを受けとることになるのだろうか?
 
出典 Slavoj ?i?ek, "What Europe should learn from Ukraine,"
 
http://blogdaboitempo.com.br/2014/03/31/zizek-what-europe-should-learn-from-ukraine/
 
ウクライナを支援しよう!かれらはより公正はヨーロパの建設のために私たちに手をさしのべている
 
今日、世界はウクライナに注目している。最近の展開のいくつかは、結局、政府による再三にわたる平和的なデモに対する暴力を用いる試みに深刻な危惧を惹起している。わたしたち、国際的な学術研究のコミュニティの代表として、とりわけ暴力とハラスメントが頻繁に、若者、やジャーナリスト、学生、大学の若手教員をターゲットにしていることを深く憂慮する。
 
ウクライナ政府によるこうした振舞いは、政府そのものと政府が代表しているこの国の将来の双方にとって破滅的なことである。
 
政府とは対照的に、ウクライナ社会は見事な市民的な成熟を示してきた。合法的な枠組を維持しながら、断固として暴力を拒否するなかで抗議をするという決定は、市民的権利の防衛の模範である。今日、ウクライナ・メイデンはヨーロッパを、つまり、過去と現在の多くの思想家が基本的なヨーロッパの諸価値と考えている事を、最良の姿で代表している。
 
私たちは、私たちの政府と国際機関に対して、腐敗した暴力的な体制とこの国の地政学的な脆弱性に終止符を打とうというウクライナの人々の努力を支援するように呼びかける。ウクライナは、その完全な 民主主義と市民的諸権利が保障された社会への転換を実現するヨーロッパ的なマーシャルプランに類似した計画European Marshall-like planを必要としている。ウクライナに対する入念な政策において、私たちは、ウクライナの政府とウクライナの社会のとん間に差異を設けることを提案する。政府に対しては最大限の制約を課し、社会に対しては最大限の支援を提供するべきである。
 
私たちが、ウクライナの人々が新たなウクライナを建設できるように支援すれば、彼らもまた必ずや、私たちが新たなヨーロッパとより公正な世界を建設することに手を差しのべるであろう。
 
出典 Support Ukrainians and they can help us build a fairer Europe、The Guardian, Friday 3 January 2014
 
http://www.theguardian.com/world/2014/jan/03/support-ukrainians-build-fairer-europe
関連記事
Secret

TrackBackURL
→http://mizukith.blog91.fc2.com/tb.php/839-25e0411a