私はこれまで数回にわたって浅井基文さん(元外交官、政治学者)のウクライナ、クリミア情勢の見方をご紹介してきましたが、その浅井さんのウクライナ、クリミア情勢の見方は米欧諸国の国際政治でのダブル・スタンダード(二重基準)を批判するところから発しているものでした。米欧諸国はコソボ紛争のときはコソボの独立を支持し、コソボ側に立って軍事介入しながら、今回のクリミアの事態においてはその独立を支持するロシアを「侵略者」として批判する。そうした米欧諸国のダブル・スタンダード(二重基準)は公正な国際政治への対処のあり方として公平感覚にもとるのではないか、というのが浅井さんの基本的な視点であり、批判でした。浅井さんのそうした視点は朝鮮半島情勢を視るときにも当然適用されます。そうした浅井さんの朝鮮半島情勢の見方を反映した記事が以下の最近の一連の記事です。
 
朝鮮のイエロー・カード発出:朝鮮外務省声明(浅井基文 2014.04.03)
暗転する朝鮮半島情勢(浅井基文 2014.04.06)
朝鮮外務省声明を受けた中国の対朝鮮政策(浅井基文 2014.04.08)
 
上記の記事はある意味で、というよりも、論理的な意味合いでウクライナ、クリミア情勢の見方の続きといえるものです。だから、標題も「ウクライナ、クリミア情勢の見方(14)」としました。しかし、浅井さんの朝鮮半島情勢の見方を理解するのはいわゆる「北朝鮮」批判の根強いニッポンではそうたやすいことではありません。浅井さんの論は、国際関係及び国際法上の原則というものをよく理解していないと俗に言って朝鮮びいきの論のようにしか見えないからです。
 
浅井さんの朝鮮半島情勢の見方をよく理解するためには下記の論から取りかかるのが適切なように思えます。下記の記事に見るようにこの3月23日には韓国において非公開で弾道ミサイルの発射実験が行われていますが、そのことについてニッポンも米国も国連安保理もなんらの批判もしていません。北朝鮮の非公開の弾道ミサイルの発射実験については常に執拗な批判が繰り返されるのが常態であることから考えると、この事態は逆に異常というべきでしょう。だから、ニッポンでは韓国で弾道ミサイル発射実験があったという事実すら知らない人の方が圧倒的多数です。明らかな国際政治におけるダブル・スタンダード(二重基準)といわなければならないでしょう。米韓による「北朝鮮への脅威」が逆に北朝鮮の「韓国への脅威」を生み出している現実があるということ。私たちはそのことすら知らないのです。だから、いたずらな北朝鮮批判も後を絶たない。という悪しき循環に陥っている、というのがいまの日朝外交の現実というべきではないでしょうか。このことはウクライナ、クリミア情勢をどう見るかという点においても重要な参考視点になりうるように思います。
 
以下、「NPO法人三千里鐵道」ブログから「朝鮮半島の軍事情勢(1)-韓国の弾道ミサイル発射」記事の引用です。浅井さんの上記の3本の記事はこの記事を読み終えてから読まれた方がよく理解できるものと思います。

朝鮮半島の軍事情勢(1)-韓国の弾道ミサイル発射(NPO法人三千里鐵道 2014年04月08日)

韓国の弾道ミサイル発射 
韓国の弾道ミサイル発射(写真は2012年4月の実験)
 
朝鮮半島が‘きな臭い’。聞こえてくるのは軍事関連のニュースばかりだ。最大規模の軍事演習、ミサイル発射、無人飛行機、新たな核実験予告...。
 
北朝鮮の国防科学院は4月7日、報道官声明を発表して、米韓両国にこれ以上の軍事挑発行為を中断せよと警告した。声明は特に、米韓合同軍事演習の最中に敢行された韓国政府のミサイル発射実験を厳しく糾弾している。
 
南北が高位級の実務協議で、△離散家族の再会事業実施、△相互誹謗の中止、△高位級会談の随時開催など、関係改善に向けた合意を交わしたのは2月14日の事だった。なぜ、2ヶ月も経たないうちに状況がこれほどまでに悪化したのだろうか。昨今の朝鮮半島に関連したニュースから、韓国の弾道ミサイル発射を中心に筆者の見解を提示してみたい。(JHK)
 
まず、南北関係悪化の原因を探るためにも、その間の主要な動きを整理してみよう。
 
△2.24~    米韓合同軍事演習(2014)開始。4月末まで実施の予定。
△2.27      北朝鮮、短距離弾道ミサイル(射程距離220㎞)4発を発
                   射。
△3.3      北朝鮮、短距離弾道ミサイル(射程距離500㎞)2発を発
                  射。
          韓国国防部、「予告 なしに発射されたミサイルは重大な
                  挑発行為。安保理への制裁提議を考慮中」と非難。
△3.24      朴槿恵大統領、核安保サミットで演説。北朝鮮に「核放棄
                  の先行」を要求。
△3.26      北朝鮮、弾道ミサイル(射程距離650㎞)2発を発射。国連
                   安保理が非公開協議で非難。
△3.27~4.7 米韓豪による連合軍事演習「双竜2014」。同演習は北朝鮮
                  への上陸と平壌占拠を想定した攻撃訓練。チーム・スピリ
                  ット米韓演習以降では最大規模。1万2500人の兵力とオス
                  プレイ22機など、最新兵器を投入。
△4.4     韓国国防部、弾道ミサイル(射程距離500㎞)の発射実験
                  に成功したと発表。発射は3.23に行われた。
△4.6     韓国内で3機目の小型無人機(墜落機体)が発見された。3.
                  24と3.31にも韓国北部で発見されている。韓国政府は「北
                  朝鮮」から離陸したものと発表。北朝鮮は「ばかげた策動」
                  と関与を否定。
 
朝鮮半島の軍事緊張が絶えないのは、朝鮮戦争が終戦していない(停戦協定)という構造的要因によるものだ。加えて、北朝鮮を標的とする大規模な米韓軍事演習の恒例化は、北朝鮮指導部が核兵器・弾道ミサイルを開発する口実となっている。
 
東西冷戦の終息を迎えた90年代以降には、南北と朝米の間でいくつかの合意も交わされたが、根深い相互不信を解消するには至らなかった。その結果、合意内容を履行する過程で挫折をくり返しているのが現状だ。
 
今回も同様の展開を見せている。2月の南北対話で一定の前進があったものの、米韓合同軍事演習が開始されると、すべての合意は意味を失ってしまった。国際社会は、核兵器と弾道ミサイルを開発する「北朝鮮の脅威」を強調する。国連をはじめとする国際政治でのダブル・スタンダード(二重基準)は強固であり、米韓による「北朝鮮への脅威」が注目されることはない
 
しかし、北朝鮮にのみ戦争危機の責任を転嫁したところで、朝鮮半島の軍事緊張が緩和されることはないだろう。平和共存に向けた相互信頼を構築するには、相手の要求を満たしながら真摯に対話と交渉を重ねるしかないからだ。そうした「易地思之」の観点からすれば、今回、韓国政府が敢行した弾道ミサイル発射は、その動機とタイミングにおいて少なからぬ懸念を抱かせるものだった。
 
国防科学研究所(ADD)が開発した弾道ミサイル(射程距離500余㎞)の発射実験は、3月23日に行われた。北朝鮮がノドン・ミサイルと推定される弾道ミサイルを発射したのは、その3日後である。ミサイル発射の相互応酬ともいえるが、韓国国防部は3月3日、北朝鮮の弾道ミサイル発射に対し「事前の航行警報なしで奇襲的におこなった異常な軍事行動であり、国際航行の秩序を破綻させ民間人の安全にも甚大な威嚇となる挑発行為」だと厳しく非難している。
 
ここで、韓国軍当局が新型弾道ミサイル発射に先立ち、航行警報などの事前予告をしたのかという疑問が発生する。実際は韓国軍も非公開で弾道ミサイルを発射し、数日後にようやく発射実験の成功を公開したのだ。米日など周辺国はもちろん、国連安保理も韓国の弾道ミサイル発射を糾弾しない。北朝鮮にとっては承服し難いルールであろう
 
個人であれ国家であれ、不当で不公正な差別を容認することは屈辱でしかない。北朝鮮は国家の尊厳を守り国際政治の不道理に立ち向かうには「国力」を誇示するしかないと判断している。彼らの掲げる「国力」の核心は軍事力であり、その要は核兵器と弾道ミサイルの精度化であろう。
 
朝鮮半島の非核平和を願うものの一人として、核抑止力の保持と強化を“万能の宝剣”とする政策には、決して賛同することができない。だが、韓米日中露の東北アジア諸大国がはたして、北朝鮮に政策の変更を決断させる十分な努力をしたのだろうか。金正恩政権は核能力強化と「経済発展・人民生活向上」を同時に推進する路線だが、毎年の大規模な米韓軍事演習はその実行を極めて困難にしている
 
米韓軍事演習のメッセージは平和共存ではなく、北朝鮮への武力制圧であるからだ。韓国政府は今回の新型弾道ミサイルを来年には実戦配置する計画だという。さらに、2017年には射程距離800kmの弾道ミサイルを配備するそうだ。軍当局は「これで韓国も、北朝鮮全域を打撃できる弾道ミサイルを保有することになった」と豪語している。
 
こうした刺激的な発言は事態を悪化させるだけだ。北朝鮮は先に紹介した4.7「国防科学院」声明で、「我々は米国の北侵核戦争策動への対処から多様なミサイルを開発しているが、一度たりとも、同族を標的にしたり南朝鮮全域を打撃すると公言したことはない」と反発した。
 
南北は「敵対的相互依存」の関係から、速やかに脱却すべきである。相手の脅威を口実にして自らの軍備拡張を正当化する状況は、朝鮮民族にとって百害無益であり、貴重な民族力量を消耗させる結果しかもたらさない。
 
現時点で重要なのは、いかにして危機状況を管理するかだ。これまでのパターンは、北の長距離弾道ミサイル(人工衛星)発射実験⇒国連安保理の制裁決議採択⇒それに抗議する北の核実験、という展開だ。今後、北朝鮮が「国連宇宙条約に基づく主権国家の正当な権利」として、追加的な衛星ロケットを発射するのかが、最大の争点となるだろう。
 
上記のパターンを再現して、第4回目の核実験が実施されることがあってはならない。その意味でも、軍事的な圧迫を優先させている韓国政府の対北政策は再考されるべきであろう。現政策では、北朝鮮の過剰行動を誘発する結果を招きかねないからだ
 
大規模な軍事力を動員した武力示威ではなく、南北対話と6者会談の再開に向けた外交努力を勧告したい。金大中・盧武鉉政権と違い、保守層の圧倒的な支持基盤に立っている朴槿恵政権には、そうした和解政策を率先して実行するだけの十分な条件が備わっているはずだ。
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