以下は、高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)の下記のCMLへの投稿「ロシアによるウクライナへの軍事介入に抗議し、クリミア併合を行わないよう要請します」(2014年3月22日)への私の反対の論です。
 
「宇都宮健児君、立候補はおやめなさい」問題が議論になっているとき、私は、いわゆる「民主勢力」側に「原子力ムラ」ならぬ「民主勢力ムラ」とでも呼ぶべき「ムラ」が存在することについてその問題点を指摘しました。
 
「澤藤統一郎弁護士の「宇都宮健児君、立候補はおやめなさい」のその10の記事を読んで、(略)「革新・リベラル」勢力の側にも「民主勢力ムラ」とでも呼ぶべきある意味での排他的利益集団が存在していることを知ることになりました。この「民主勢力ムラ」にも「岩波」や「週刊金曜日」などの一応名の通ったメディア集団、出版社などがあり、大学、病院、弁護士などのインテリジェンス組織、労働組合、政党、各種の民主団体組織などがあります。そこには、それらの団体が一種のコングロマリットを形成し、そのそれぞれが他の団体との緩やかなステークホルダー関係を結び、そのそれぞれの「小さな利権」の分配と再分配を差配しあっているという一種の「ムラ」の構図を見ることができます。」
 
今回のWORLD PEACE NOWの「ロシアによるウクライナへの軍事介入に抗議し、クリミア併合を行わないよう要請します」という声明は、西側メディアから流されてくる「ロシア叩き」の一方的な偏頗した報道、その報道に影響された日本メディアの報道、その報道にさらに影響された「民主勢力ムラ」の村落内での思考回路の産物であるように見えます。すなわち、村落(今回の場合の村落には、日本という大勢順応主義の国傘下の大本営発表大好きのメディアも含まれていますが)外では通用しない思考回路でしかないということです。
 
そうした日本的コンフォーミズム(大勢順応主義)の流れに巻き込まれない日本の数少ない知識人のひとりとして、先日、私は、浅井基文さん(元外交官、政治学者)のウクライナ、クリミア情勢の見方などをご紹介しましたが、そうした「民主勢力ムラ」村落外の客観的認識力を持つ知識人、言論人の思考や観察、視点の表明はまったく無視されているようです。
 
改めて浅井基文さんの「クリミア問題とロシア」という論の抜粋をご紹介させていただこうと思います。太字は引用者による強調、カッコ内は引用者の解説を意味します。

ところが最近の日本のメディアの論調を見ていると、事実関係を正確に踏まえず、一方的にロシアの行動を非難し、難詰するものが目立つのが非常に心配になってきました。その「偏向ぶり」は、中国問題や朝鮮問題におけるものと同質(要するに、中国、朝鮮がやることはすべて悪いように、『今のプーチン・ロシアがやっていることは悪いに決まっているとする』)だからです。
 
一つは3月8日付の朝日新聞社説「ウクライナ危機 領土併合は認められぬ」です。社説がロシアの行動を難詰する根拠は、「国境の向こう側にわれわれと同じ言葉を話す住民がいるからといって、「そこもわれわれの領土だ」と主張すれば、どうなるか。未曾有の混乱と争いが世界規模で広がるのは目に見えていている」ということと、「だからこそ、国際社会は「主権と領土の一体性」というルールを掲げて、平和的な共存を図ってきたのだ」ということの2点に尽きます。しかし、クリミア問題は「国境の向こう側にわれわれと同じ言葉を話す住民がいる」という類の簡単な話ではありません。クリミアは1954年まではれっきとしたロシアの領土だったのです(詳しくは下記に紹介する薛理泰文章参照)。
 
また、「国際社会は「主権と領土の一体性」というルールを掲げて、平和的な共存を図ってきたのだ」という主張も、朝日新聞社説とは思えない粗雑を極めるものです。「主権と領土の一体性」という原則は確かに国際法の大原則です。しかし、第一次大戦以後、ウィルソン大統領とレーニンの提起に基づいて「民族(人民)の自決」が同じく国際法上の大原則として公認されるに至ったのです(国際連盟規約)。ところが、この二つの大原則の関係は、多民族国家の場合特に、「こちらを立てれば、あちらが立たず」という悩ましい関係にあります。その悲劇は、旧ユーゴズラビアの解体過程で露呈したことは私たちの記憶に今なお新しいところです。一つの原則だけを掲げてことさらに他の原則の存在を無視し、それによって自分たちのいいたい方向に議論を持っていく朝日新聞の立論は不公正の極みです。
 
もう一つの記事は3月7日付の『しんぶん赤旗』が報道した共産党の志位委員長の発言です。志位委員長は「(日本政府は)率直に言って、ロシアに対して言うべきことをいっていない。『軍事介入をやめるべきだ。侵略になる』ときちんと正面から言うべきです」と述べたというのです。
 
私は連日の同紙のウクライナ(及びクリミア)関係の報道を注意して読んでいるつもりです。しかし、私の印象としては、ロシア側の主張よりもウクライナ「新政権」(その正統性には疑問符をつけざるを得ないことはプーチンが強調するところであり、私もプーチンの主張には無理がないと思います)及び米欧側の主張が詳しく紹介されているという印象がぬぐえませんでした。そこに上記の志位委員長の発言が出て、「ああ、やはりな」と思わざるを得なかったのです。
 
これは赤旗に限ったことではなく、日本のメディアの報道に共通することですが、ウクライナ問題とクリミア問題とが明確に区別して認識されていないことに大きな混乱の原因があると思います。確かにプーチン大統領がウクライナに対する出兵に関する発言を行った(3月4日)ことには問題があります(朝日新聞社説が指摘した主権と領土の一体性という原則に違反する)。しかし、プーチンの趣旨はあくまでもクリミアに住むロシア系住民の保護に重点がありウクライナに対して「軍事介入」(志位委員長)するということではありません
 
ソ連時代に日ソ両党間の激しい論争を行った日本共産党(当時の論争における日本共産党の議論の内容については、私は当時もそして今日もなお高く評価しています)としては、プーチンと旧ソ連党指導部とがダブって見えるのかもしれません。しかし、ロシアがウクライナに対して軍事干渉する意思がないことは、すでに紹介した3月4日のプーチンの記者会見における発言及び同月7日にロシア大統領府スポークスマンが行った発言からも明確に確認できます。
 
三つ目の記事はやはり『しんぶん赤旗』に載った3月6日付のソチ冬季パラリンピックに関する「鼓動 抗議の声上げるとき ロシアが五輪精神ないがしろ」と題する文章です。この記事は、「ロシアのウクライナにたいする軍事介入」を大前提にして、「五輪とパラリンピックを貫く「平和」の思想をないがしろにする行為は、開催国の責任放棄」と断罪しているのです。これほど事実関係に対するジャーナリズムとしてのこだわりに欠ける文章は、日ごろから公正さをうたい文句にしている赤旗が載せているだけに余計に重大です
 
以下は、「スタンフォード大学国際安全保障協力センター(CISAC)研究員である薛理泰が、3月6日付のシンガポール『聯合早報』に載せた「米ロ クリミアでの軍事対決はあり得ない」と題する文章です(同日付環球時報HP所掲)」。 
 
ロシアのプーチン大統領は3月4日の記者会見で、ウクライナにおいて「憲法違反の政変と武力による権力奪取」が起こったと述べた。ヤヌコビッチは引き続きウクライナの合法的大統領であり、キエフの現政権にはウクライナの将来を決定する権限はない。ロシアは「もっとも極端な状況のもと」でかつ「合法的な基礎の上」においてのみウクライナに対して軍隊を使用する。彼は、ウクライナ東部において違法な事態が現れれば、ロシアはあらゆる手段を動員して現地のロシア公民を保護すると述べた。当面は出兵の必要性はないが、その可能性はある。以上は、ウクライナ情勢がエスカレートしてからプーチンがはじめて公式に態度表明を行ったものである。
 
 ロシアがクリミアに軍隊を増派(引用者注:「増派」であって、新しく軍隊を侵攻させたということではありません)してから、ウクライナとの関係は緊張することとなった。ウクライナの大統領代行(元議長)のトゥルチノフはロシアが「露骨な軍事侵入」を行ったと非難した。ウクライナの公的メディアに拠れば、ロシアはすでにウクライナに対する軍事侵入を行った。アメリカのオバマ大統領は3日、アメリカは経済及び外交的に「全面的な」措置を取ってロシアを孤立化させることを考慮中であると述べた。
 
 ロシア議会上院がプーチンのウクライナに対する軍事干渉を支持する決議を行った後、ロシア軍はクリミアに進攻して展開し、戦略拠点を支配した。1日、クリミア政府はロシアと協力して、黒海艦隊と共同で政府庁舎を含む現地の主要な建物を保護することを宣言した。現地住民は元々親露的として知られており、ロシア軍の進駐を切望していたから、進駐を歓迎した
 
 クリミア駐在のウクライナ軍は武装抵抗を行っていない。むしろ寝返ってクリミア政府に忠誠を明らかにし、ロシア軍に協力する部隊が相次いでおり、迅速に行動してウクライナ軍のクリミア侵入を阻止している。ウクライナ空軍の1戦術航空旅団は3日に寝返りを明らかにし、800人以上の兵員と50機がウクライナ軍の支配を離脱し、ウクライナの地対空ミサイル3部隊も寝返りを宣言した。集団的反乱は海陸空3軍に及んでいる。
 
クリミアの歴史を振り返ると、以上の異常な現象について理解することができる。クリミアは元々ロシアに属し、ウクライナに属してはいなかった。1954年に当時のソ連が「ウクライナとロシアの同盟結成300周年」を慶祝した際、フルシチョフ主導のもとでソ連最高ソビエト主席団がクリミアをウクライナに帰属させる決議を採択した。当時のロシアとウクライナは、高度な中央集権のもとにあるソ連の加盟共和国だった。クレムリンにとって、クリミアがロシアからウクライナに帰属替えすることは左手から右手に移る類に過ぎず、単に「同じ釜の飯」ということだった
 
ソ連が解体し、ウクライナとロシアがともに主権独立国家となることによって状況が変化した。クリミアがロシアとウクライナとの間の重大な領土紛争となるに及んで、ロシアの政治家の中には「この問題は当時フルシチョフ同志が酔っ払ったために起こった」と言うものもいる。過去においては両国が特殊な友好関係を維持していたために領土紛争が突出することはなかった。しかし近年になってウクライナがNATO加盟の足取りを加速するに伴い、ロシア国内では、クリミアに対する主権行使回復を要求する声が絶えることはなくなった。 歴史的に見ても、ロシアがクリミアを争うということは必然である。1853年から1856年にかけて、ロシアと英仏トルコとの間でクリミアにおいて大きな戦争が起こった。1854年9月から翌年9月までの間、英仏連合軍は1年に及ぶ包囲作戦の後にようやくセバストポリ要塞を攻略した。これをクリミア戦争という。
 
第二次大戦中、セバストポリは再びソ連とドイツとの間の激戦の主戦場の一つとなった。ドイツの傑出した現地指揮官マンスタインは、ドイツ9師団とルーマニア軍を指揮して1941年10月から1942年7月までの9ヶ月に近い猛攻によってようやく要塞を占領した。ソ連軍がこの要塞を堅守し、ドイツの大軍を牽制したことは、ドイツ軍がスターリングラードで最終的に大敗した原因の一つに数えられている。
 
今回ウクライナ政権が一朝にして転覆したのは、モスクワの判断では、NATOが背後で操っていたからであり、しかも政権急変はカラー革命という性格に属する。その後遺症の一つとして、NATOの勢力がさらにモスクワに向かって大きな一歩を進めることになった。今後ウクライナ方面に関しては、ロシアとしてはNATOの強力な抑止力に直面することになる。
 
ロシアはシリアのタルトゥース港に海軍基地を保有しているが、ぼろぼろでかつ長期にわたって使用していなかったにもかかわらず、それでも放棄することを肯んじなかった。ましてや、ロシアはクリミアにはいくつかの軍事基地を擁しており、身近にあって利便この上なく、軍事的にも非常に重要な戦略的意味をもっている。ロシアに対して簡単に放棄することを求めるのはできない相談と言うほかない
 
ロシアとウクライナとの関係の前途は真っ暗で、形勢を挽回するのはほぼ難しい。関係が悪化するのは必然である以上、ロシアとしては前もって『クリミアのツケを清算するというのは必然であり、ウクライナの治安が大いに乱れている時期に乗じて軍事干渉に踏み切ったというわけだ』。(引用者注:中国側立場はロシアのウクライナへの軍事干渉を「クリミアのツケを清算するための軍事干渉」と限定的に解釈していることを読みとるのが重要です)
 
数百年にわたり、ロシアとウクライナの国交関係の変動は欧州列強と密接な関係があり、現在について言えば、両国の矛盾の処理はロシアと米欧との間の戦略的抗争にかかわっている。筆者の見るところ、米露両国はクリミアで軍事対決することはあり得ないし、米欧は経済上、外交上、ロシアに対して「全面的」な制裁措置を取ると公言しているが、長期的に持続することもほとんどあり得ないだろう。
 
畢竟するに、ウクライナとグルジアとでは別であり、モスクワは現時点でウクライナに対して全面的に軍事干渉することは考えていないだろう。いわゆる軍事干渉と言っても、目的はクリミアに限られているし、手段も限定的だろう
 
アメリカはアジアに対するリバランス戦略を定めたが、その前提は欧州において大規模な動乱、戦争が起きないということだ。アジアにおいてバランスが失われることは重大な災いだが、クリミアの主権帰属問題はかゆみ程度のことに過ぎない。仮にアメリカがクリミアのために世界戦略の重点を東欧に移すなどということをするのであれば、ハンドリングとしてあり得ない類のことになるだろう。欧州諸国にとっては、エネルギー供給において久しくロシアに依存しており、本気で行動に訴えようとしても、「それはないでしょう」ということだ。
 
アメリカはすでに本年内にアフガニスタンから撤兵する大方針を定めている。その時には大量の人員と装備をロシア及びロシアと関係の深い中央アジア諸国経由にする必要がある。ロシアと中央アジア諸国がアメリカ及びNATO諸国と緊密に協力すれば、アフガニスタンから順調かつ迅速に撤退することができる。しかしロシアが仮に何かしでかさないとしても、積極的に協力してくれないというだけでも、軍隊及び装備の撤退には制約と面倒が発生し、アメリカとNATO諸国にとっては長期にわたって頭が痛いことになるだろう。
 
ましてや、中東の混迷、イラン核問題、朝鮮核問題、グローバルな対テロ闘争、シリアの化学兵器撤去等々、アメリカにとっては頭が痛く、気持ちを休めることができない問題だらけだ。これらの問題についてはロシアの協力が不可欠だ。仮にアメリカと欧州諸国がクリミアの主権問題に引きずられてロシアとの間で根気比べをするならば、小事にこだわって大事を失うことになるのであって、それは間違いでなくして何であろうか。
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