ウクライナ(バラクラヴァの街並み) 
ウクライナ(バラクラヴァの街並み)

先日、私は、弊ブログの「今日の言葉」欄に3月5日にアメリカ国務省が発表した「プーチン大統領のウソ 事実と異なる10個の主張」と題する論を掲載しました。
 
しかし、上記は、いうまでもなくアメリカ側(アメリカ国務省)の主張でしかありません。しかしまた、このアメリカ国務省の主張は、日本を含む西側諸国のおおかたの見方でもあり、わが国のマスメディアもおおむねこうした西側諸国の主張に即した報道を連日続けています。
 
しかし、こうした日本を含む西側諸国の主張に首を傾げる人たちがいます。メディアサイドの言葉でいえば「識者」と呼ばれている人たちです。以下にその異議を唱える人たちのうち3名の人たちの見解をご紹介したいと思います。わが国の報道の偏頗性といずこも変わらない政党の視野の偏頗性、思想(それも政治思想)の未熟さについて改めて思いを致さざるをえません。
 
おひとり目。浅井基文さん(元外交官、政治学者)。浅井さんの見るところによれば、メディアであれ、政党であれ、「ウクライナ問題」と「クリミア問題」とが明確に区別して認識されていないところに日本のメディアと政党の最大の認識の弊があるようです。浅井さんは中国のメディアの視点の多様さをみならえと言います。そして、ひとつのみならうべきたしかな視点としてスタンフォード大学国際安全保障協力センター(CISAC)研究員の薛理泰氏の論をあげます。

クリミア問題とロシア(浅井基文のページ 2014.03.09)
 
私はロシア問題にはまったくの門外漢ですが、ウクライナ情勢の推移には重大な関心を持って見守っています。しかし門外漢がこの問題について見当外れな発言をするべきではないとも思っています。
 
ところが最近の日本のメディアの論調を見ていると、事実関係を正確に踏まえず、一方的にロシアの行動を非難し、難詰するものが目立つのが非常に心配になってきました。その「偏向ぶり」は、中国問題や朝鮮問題におけるものと同質(要するに、中国、朝鮮がやることはすべて悪いように、今のプーチン・ロシアがやっていることは悪いに決まっているとする)だからです。
 
特に直近の三つの記事を読んで、あまりにも度が過ぎていると感じ、もはやこのまま黙っているのは許されないと思うまでになりました。一つは3月8日付の朝日新聞社説「ウクライナ危機 領土併合は認められぬです。社説がロシアの行動を難詰する根拠は、「国境の向こう側にわれわれと同じ言葉を話す住民がいるからといって、「そこもわれわれの領土だ」と主張すれば、どうなるか。未曾有の混乱と争いが世界規模で広がるのは目に見えていている」ということと、「だからこそ、国際社会は「主権と領土の一体性」というルールを掲げて、平和的な共存を図ってきたのだ」ということの2点に尽きます。しかし、クリミア問題は「国境の向こう側にわれわれと同じ言葉を話す住民がいる」という類の簡単な話ではありません。クリミアは1954年まではれっきとしたロシアの領土だったのです(詳しくは下記に紹介する薛理泰文章参照)。
 
また、「国際社会は「主権と領土の一体性」というルールを掲げて、平和的な共存を図ってきたのだ」という主張も、朝日新聞社説とは思えない粗雑を極めるものです。「主権と領土の一体性」という原則は確かに国際法の大原則です。しかし、第一次大戦以後、ウィルソン大統領とレーニンの提起に基づいて「民族(人民)の自決」が同じく国際法上の大原則として公認されるに至ったのです(国際連盟規約)。ところが、この二つの大原則の関係は、多民族国家の場合特に、「こちらを立てれば、あちらが立たず」という悩ましい関係にあります。その悲劇は、旧ユーゴズラビアの解体過程で露呈したことは私たちの記憶に今なお新しいところです。一つの原則だけを掲げてことさらに他の原則の存在を無視し、それによって自分たちのいいたい方向に議論を持っていく朝日新聞の立論は不公正の極みです。
 
もう一つの記事は3月7日付の『しんぶん赤旗』が報道した共産党の志位委員長の発言です。志位委員長は「(日本政府は)率直に言って、ロシアに対して言うべきことをいっていない。『軍事介入をやめるべきだ。侵略になる』ときちんと正面から言うべきです」と述べたというのです。
 
私は連日の同紙のウクライナ(及びクリミア)関係の報道を注意して読んでいるつもりです。しかし、私の印象としては、ロシア側の主張よりもウクライナ「新政権」(その正統性には疑問符をつけざるを得ないことはプーチンが強調するところであり、私もプーチンの主張には無理がないと思います)及び米欧側の主張が詳しく紹介されているという印象がぬぐえませんでした。そこに上記の志位委員長の発言が出て、「ああ、やはりな」と思わざるを得なかったのです。
 
これは赤旗に限ったことではなく、日本のメディアの報道に共通することですが、ウクライナ問題とクリミア問題とが明確に区別して認識されていないことに大きな混乱の原因があると思います。確かにプーチン大統領がウクライナに対する出兵に関する発言を行った(3月4日)ことには問題があります(朝日新聞社説が指摘した主権と領土の一体性という原則に違反する)。しかし、プーチンの趣旨はあくまでもクリミアに住むロシア系住民の保護に重点があり、ウクライナに対して「軍事介入」(志位委員長)するということではありません。 ソ連時代に日ソ両党間の激しい論争を行った日本共産党(当時の論争における日本共産党の議論の内容については、私は当時もそして今日もなお高く評価しています)としては、プーチンと旧ソ連党指導部とがダブって見えるのかもしれません。しかし、ロシアがウクライナに対して軍事干渉する意思がないことは、すでに紹介した3月4日のプーチンの記者会見における発言及び同月7日にロシア大統領府スポークスマンが行った発言からも明確に確認できます。
 
三つ目の記事はやはり『しんぶん赤旗』に載った3月6日付のソチ冬季パラリンピックに関する「鼓動 抗議の声上げるとき ロシアが五輪精神ないがしろ」と題する文章です。この記事は、「ロシアのウクライナにたいする軍事介入」を大前提にして、「五輪とパラリンピックを貫く「平和」の思想をないがしろにする行為は、開催国の責任放棄」と断罪しているのです。これほど事実関係に対するジャーナリズムとしてのこだわりに欠ける文章は、日ごろから公正さをうたい文句にしている赤旗が載せているだけに余計に重大です。
 
中国のメディアにはウクライナ問題に関して実に多様な文章が掲載されています。中国国内のこの問題に対する関心は非常に高いものがあるようです。それらの中で私が満足して読めた文章を一つ紹介しておきます。スタンフォード大学国際安全保障協力センター(CISAC)研究員である薛理泰が、3月6日付のシンガポール『聯合早報』に載せた「米ロ クリミアでの軍事対決はあり得ない」と題する文章です(同日付環球時報HP所掲)。日本でもこれぐらいの文章が私たちに紹介されるぐらいにならないと、私たちの国際問題に対する見方はなかなか鍛えられないと思うのですがどうでしょうか。
 
ロシアのプーチン大統領は3月4日の記者会見で、ウクライナにおいて「憲法違反の政変と武力による権力奪取」が起こったと述べた。ヤヌコビッチは引き続きウクライナの合法的大統領であり、キエフの現政権にはウクライナの将来を決定する権限はない。ロシアは「もっとも極端な状況のもと」でかつ「合法的な基礎の上」においてのみウクライナに対して軍隊を使用する。彼は、ウクライナ東部において違法な事態が現れれば、ロシアはあらゆる手段を動員して現地のロシア公民を保護すると述べた。当面は出兵の必要性はないが、その可能性はある。以上は、ウクライナ情勢がエスカレートしてからプーチンがはじめて公式に態度表明を行ったものである。
 
ロシアがクリミアに軍隊を増派してから、ウクライナとの関係は緊張することとなった。ウクライナの大統領代行(元議長)のトゥルチノフはロシアが「露骨な軍事侵入」を行ったと非難した。ウクライナの公的メディアに拠れば、ロシアはすでにウクライナに対する軍事侵入を行った。アメリカのオバマ大統領は3日、アメリカは経済及び外交的に「全面的な」措置を取ってロシアを孤立化させることを考慮中であると述べた。
 
ロシア議会上院がプーチンのウクライナに対する軍事干渉を支持する決議を行った後、ロシア軍はクリミアに進攻して展開し、戦略拠点を支配した。1日、クリミア政府はロシアと協力して、黒海艦隊と共同で政府庁舎を含む現地の主要な建物を保護することを宣言した。現地住民は元々親露的として知られており、ロシア軍の進駐を切望していたから、進駐を歓迎した。
 
クリミア駐在のウクライナ軍は武装抵抗を行っていない。むしろ寝返ってクリミア政府に忠誠を明らかにし、ロシア軍に協力する部隊が相次いでおり、迅速に行動してウクライナ軍のクリミア侵入を阻止している。ウクライナ空軍の1戦術航空旅団は3日に寝返りを明らかにし、800人以上の兵員と50機がウクライナ軍の支配を離脱し、ウクライナの地対空ミサイル3部隊も寝返りを宣言した。集団的反乱は海陸空3軍に及んでいる。
 
クリミアの歴史を振り返ると、以上の異常な現象について理解することができる。クリミアは元々ロシアに属し、ウクライナに属してはいなかった。1954年に当時のソ連が「ウクライナとロシアの同盟結成300周年」を慶祝した際、フルシチョフ主導のもとでソ連最高ソビエト主席団がクリミアをウクライナに帰属させる決議を採択した。当時のロシアとウクライナは、高度な中央集権のもとにあるソ連の加盟共和国だった。クレムリンにとって、クリミアがロシアからウクライナに帰属替えすることは左手から右手に移る類に過ぎず、単に「同じ釜の飯」ということだった。
 
 ソ連が解体し、ウクライナとロシアがともに主権独立国家となることによって状況が変化した。クリミアがロシアとウクライナとの間の重大な領土紛争となるに及んで、ロシアの政治家の中には「この問題は当時フルシチョフ同志が酔っ払ったために起こった」と言うものもいる。過去においては両国が特殊な友好関係を維持していたために領土紛争が突出することはなかった。しかし近年になってウクライナがNATO加盟の足取りを加速するに伴い、ロシア国内では、クリミアに対する主権行使回復を要求する声が絶えることはなくなった。 歴史的に見ても、ロシアがクリミアを争うということは必然である。1853年から1856年にかけて、ロシアと英仏トルコとの間でクリミアにおいて大きな戦争が起こった。1854年9月から翌年9月までの間、英仏連合軍は1年に及ぶ包囲作戦の後にようやくセバストポリ要塞を攻略した。これをクリミア戦争という。
 
第二次大戦中、セバストポリは再びソ連とドイツとの間の激戦の主戦場の一つとなった。ドイツの傑出した現地指揮官マンスタインは、ドイツ9師団とルーマニア軍を指揮して1941年10月から1942年7月までの9ヶ月に近い猛攻によってようやく要塞を占領した。ソ連軍がこの要塞を堅守し、ドイツの大軍を牽制したことは、ドイツ軍がスターリングラードで最終的に大敗した原因の一つに数えられている。
 
今回ウクライナ政権が一朝にして転覆したのは、モスクワの判断では、NATOが背後で操っていたからであり、しかも政権急変はカラー革命という性格に属する。その後遺症の一つとして、NATOの勢力がさらにモスクワに向かって大きな一歩を進めることになった。今後ウクライナ方面に関しては、ロシアとしてはNATOの強力な抑止力に直面することになる。
 
ロシアはシリアのタルトゥース港に海軍基地を保有しているが、ぼろぼろでかつ長期にわたって使用していなかったにもかかわらず、それでも放棄することを肯んじなかった。ましてや、ロシアはクリミアにはいくつかの軍事基地を擁しており、身近にあって利便この上なく、軍事的にも非常に重要な戦略的意味をもっている。ロシアに対して簡単に放棄することを求めるのはできない相談と言うほかない。
 
ロシアとウクライナとの関係の前途は真っ暗で、形勢を挽回するのはほぼ難しい。関係が悪化するのは必然である以上、ロシアとしては前もってクリミアのツケを清算するというのは必然であり、ウクライナの治安が大いに乱れている時期に乗じて軍事干渉に踏み切ったというわけだ。
 
数百年にわたり、ロシアとウクライナの国交関係の変動は欧州列強と密接な関係があり、現在について言えば、両国の矛盾の処理はロシアと米欧との間の戦略的抗争にかかわっている。筆者の見るところ、米露両国はクリミアで軍事対決することはあり得ないし、米欧は経済上、外交上、ロシアに対して「全面的」な制裁措置を取ると公言しているが、長期的に持続することもほとんどあり得ないだろう。
 
畢竟するに、ウクライナとグルジアとでは別であり、モスクワは現時点でウクライナに対して全面的に軍事干渉することは考えていないだろう。いわゆる軍事干渉と言っても、目的はクリミアに限られているし、手段も限定的だろう。
 
アメリカはアジアに対するリバランス戦略を定めたが、その前提は欧州において大規模な動乱、戦争が起きないということだ。アジアにおいてバランスが失われることは重大な災いだが、クリミアの主権帰属問題はかゆみ程度のことに過ぎない。仮にアメリカがクリミアのために世界戦略の重点を東欧に移すなどということをするのであれば、ハンドリングとしてあり得ない類のことになるだろう。欧州諸国にとっては、エネルギー供給において久しくロシアに依存しており、本気で行動に訴えようとしても、「それはないでしょう」ということだ。
 
アメリカはすでに本年内にアフガニスタンから撤兵する大方針を定めている。その時には大量の人員と装備をロシア及びロシアと関係の深い中央アジア諸国経由にする必要がある。ロシアと中央アジア諸国がアメリカ及びNATO諸国と緊密に協力すれば、アフガニスタンから順調かつ迅速に撤退することができる。しかしロシアが仮に何かしでかさないとしても、積極的に協力してくれないというだけでも、軍隊及び装備の撤退には制約と面倒が発生し、アメリカとNATO諸国にとっては長期にわたって頭が痛いことになるだろう。
 
ましてや、中東の混迷、イラン核問題、朝鮮核問題、グローバルな対テロ闘争、シリアの化学兵器撤去等々、アメリカにとっては頭が痛く、気持ちを休めることができない問題だらけだ。これらの問題についてはロシアの協力が不可欠だ。仮にアメリカと欧州諸国がクリミアの主権問題に引きずられてロシアとの間で根気比べをするならば、小事にこだわって大事を失うことになるのであって、それは間違いでなくして何であろうか。
 
おふたり目。岩月浩二さん(弁護士)。岩月さんは弁護士さんらしく、クリミアの独立を問う住民投票について法的根拠はなく違法であるとする報道がある一方、ヤヌコビッチ大統領解任の合法性を検証する報道はほとんどないとして、ヤヌコビッチ大統領解任の合法性を検討するところからウクライナ問題の本質に迫っています。
 
グローバリズムという名のむき出しの暴力
(街の弁護士日記 2014年3月9日)
 
クリミアの独立を問う住民投票について、法的根拠はなく違法であると伝える報道がある。
 
一方で、ヤヌコビッチ大統領解任の合法性を検証する報道はほとんどない。
幸いにもウクライナ憲法を翻訳していただいているサイトがあった。
 
ウクライナ憲法
 
議会の大統領解任権限については、同国憲法第85条10号が「憲法第111条に定める特別な手段(弾劾)によるウクライナ大統領の解任」を規定している。第111条の規定は次の通りだ。
 
第111条 ウクライナ大統領が国家反逆罪又はその他罪を犯した場合、ウクライナ大統領は弾劾により解任される。ウクライナ大統領の弾劾による 解任は、ウクライナ最高議会の憲法に
定める定数の過半数の議員の発案により審議される。調査を実行するためにウクライナ最高議会は特別弁護士及び特別調査 官を含む特別臨時調査委員会を設立する。特別臨時調査
委員会の結論及び提案はウクライナ最高議会で審議される。ウクライナ最高議会の憲法に定める定数の3分の2以上の賛成によりウクライナ大統領に対する告訴を決議できる。ウクライナ
大統領の弾劾による解任は、ウクライナ憲法裁判所の判決及び弾 劾に関する調査・考察を行った憲法弁護士の意見、ウクライナ大統領が告訴されている国家反逆罪又はその他犯罪に
関するウクライナ最高裁判所の意見を考慮し た上で、ウクライナ最高議会が憲法に定めた定数の4分の3以上の賛成で採択できる。
 
これによれば、
①大統領が国家反逆罪又はその他罪を犯した場合、
②最高議会の定数の過半数の議院の発案により、
③最高議会に特別臨時調査委員会を設立し、
④特別調査委員会の結論及び提案を最高議会で審議し、
⑤最高議会の定数の3分の2以上の賛成によって告訴し、
⑥憲法裁判所の判決・意見などを考慮した上で
⑦最高議会の定数の4分の3以上の賛成で
解任できるとされている。
 
今回の場合、国家反逆罪との報道はなく、職務不履行を理由に解任を議決したとの報道がある。
職務不履行がウクライナ法で犯罪とされていれば、①は「その他の罪を犯した」場合として、かろうじて満たされるが、②から⑥の手続要件が満たされた形跡はない。
 
ウクライナ議会が大統領を解任、野党勢力が首都掌握
ロイター2014年 02月 23日 11:42 JST
 
[キエフ 23日 ロイター] -ウクライナの最高会議(議会)は22日、職務不履行を理由にヤヌコビッチ大統領の解任を決議した。大統領は北東部ハリコフに移動したとみられ、首都キエフは野党勢力が掌握した。一方、職権乱用罪で服役していたティモシェンコ元首相は釈放され、反政権派を前に演説を行った。
 
議会は大統領の解任を賛成多数で決議。また、来年3月に予定されていた大統領選を前倒しし、5月25日に実施することも決議した。
 
ヤヌコビッチ大統領はテレビ局のインタビューで、辞任を否定し、ウクライナを離れることはないと述べた。議会の決議は「違法だ」とし、「現在目にしていることはクーデターだ」と非難した。インタファクス通信は、大統領が出国を試みたが国境警備当局に拒否されたと報じた。
 
ヤヌコビッチ大統領の政敵とされるティモシェンコ氏は、車椅子で独立広場のステージに上がり、反政権派を「英雄」だと称えた。また、ウクライナは近い将来、欧州連合(EU)に加盟するとの見方を示した。
 
ティモシェンコ氏は2011年に禁錮7年の実刑判決を受け服役していた。米政府は同氏の釈放を歓迎すると表明。同氏が釈放され親ロシア路線のヤヌコビッチ大統領の解任が決議された
ことで、ウクライナは今後、欧州寄りになる可能性が高まった。
 
ウクライナでは、大統領が昨年11月、ロシアからの支援を受け入れ、EUとの協定締結を見送ったことが引き金となり、反政府デモが続いていた。反政権派と治安部隊の衝突により過去数日間で82人が死亡した。
 
⑦については、最高議会定数450名に対して328票の賛成で解任を可決したとされている。4分の3の特別多数は、計算に間違いがなければ338票になりそうである。10票ほど足りない。
 
そうなると、⑦の実体的な要件も満たしていないことになる。
そうなると、ウクライナ最高議会は、憲法に定める手続を完全に無視して大統領を解任したと称しているということになる。
 
ウクライナ大統領が首都脱出 議会は解任決議
日本経済新聞   2014/2/23 1:13
 
【モスクワ=石川陽平】反政権デモを続ける野党勢力と警官隊の衝突で多数の死者が出た旧ソ連・ウクライナで、ヤヌコビッチ大統領が首都キエフを離れ自らの支持基盤である東部に脱出した。キエフ中心部は野党勢力が掌握し、最高会議(国会)は22日、大統領を解任し、5月25日に大統領選を実施する決議を採択した。ウクライナはキエフなど親欧の中・西部と親ロシアの東・南部に分裂する様相が強まっている。
 
ウクライナの国会(定数450)は22日夕、大統領の解任と、大統領選を前倒しする決議を328人の議員による賛成多数で採択した。大統領の首都脱出により、国会は野党勢力が掌握しており、同日午前から大統領の即時退陣を要求する決議を審議していた。
 
地元メディアによると、ヤヌコビッチ大統領は21日夜、東部の主要都市ハリコフに脱出した。身の安全を確保し、支持者と対応を協議する狙いとみられる。
 
国会の解任決議に先立ち、ヤヌコビッチ大統領は22日、地元テレビ局に対し、野党勢力の動きを「クーデターだ」と指摘、辞任しない考えを表明した。国会が決めた法案には署名しないとも述べており、解任決議は違法だと主張するとみられる。
 
ウクライナでは2013年11月、政府が欧州連合(EU)と包括的に関係を強める連合協定の調印手続きを突然凍結。親欧路線の転換に反発した野党勢力や市民が大規模な反政権デモを起こした。2月18日に再び激しくなった警官隊との衝突で少なくとも77人が死亡。欧州諸国やロシアが仲介し、21日に大統領と野党勢力が事態収拾への合意文書に署名していた。
 
報道では、ウクライナには新政権が成立したことになっているが、憲法上の手続によるものではなく、法律的には、非合法政権である。
 
究極の事態となれば、法の支配などあったものではなく、勝てば革命だということなのだろう。
 
それにしても上記日経の記事にもあるとおり、21日に大統領と野党勢力が事態収拾への合意文書に署名した翌日の解任劇である。
 
ウクライナ、危機収束へ大統領と野党が合意 大統領選前倒し
ロイター2014年 02月 22日 08:00 JST
 
[キエフ/ベルリン/モスクワ/ロンドン 21日 ロイター] - 反政権派と治安部隊の衝突で揺れるウクライナのヤヌコビッチ大統領は21日、事態収束に向け、欧州連合(EU)の仲介の下で野党3党の代表と合意書に署名した。
 
ヤヌコビッチ大統領は、大統領選挙の前倒しや挙国一致政府の発足、大統領権限を制限する憲法改正など一連の譲歩に応じた。
 
署名を受け、議会は大統領の権限を制限する2004年憲法を復活させる案を可決するとともに、刑法の改正案を承認。これにより、職権乱用罪で服役中のティモシェンコ前首相が釈放される可能性も出てきた。
 
ただ、これらの譲歩を受け、ヤヌコビッチ大統領の即時退陣を求めるデモ隊がキエフの独立広場の占拠をやめるかどうかは不透明だ。
 
ヤヌコビッチ大統領は、多数の犠牲者が出ているウクライナの危機解決に向け、夜を徹して野党勢力と協議。ドイツのシュタインマイヤー外相のほか、ファビウス仏外相、シコルスキ・ポーランド外相らが仲介役を果たした。
 
EUや米ホワイトハウスは合意をたたえたが、ロシアは支持を表明することは控えた。
 
EU代表は立会人として合意書に署名し、「あらゆる暴力や対立の即時停止」を求める共同声明を発表した。
 
一方、ロシアのプーチン大統領の人権担当特使ウラジーミル・ルーキン氏は合意書に署名しなかった。インタファクス通信によると、同氏は「ロシアが交渉に加わる時期が遅かったのは適切でない。最初から交渉の形式について合意があるべきだった」と語った。
 
EUのアシュトン外交安全保障上級代表は、合意内容の履行には大きな困難が伴うとの見方を示し、当事者がいかなる暴力の脅しもちらつかせないことが重要だと述べた。
 
ロシアのラブロフ外相と協議し、暴力を止める必要があるとの認識で一致したことも明らかにした。
 
また、この日の合意を受け、EUが前日にまとめた制裁の行方をめぐりどのような決定を下すかは、現地に滞在する加盟国の外相が報告する情報次第との考えを示した。
 
米ホワイトハウスの報道官は、合意内容が実施されない場合、引き続き追加制裁を発動する用意があると述べた。
 
ウクライナ経済の見通しはなお不透明だ。ウクライナが昨年11月にEUとの協定締結を拒否した後、ロシアは同国に対し150億ドルの援助を約束したが、実施する意向を変えていないかは明確にしていない。
 
<p>金融市場では、合意への期待感から通貨フリブナが上昇した。
 
EUと米ワシントンは合意をたたえたとある。
翌日に野党が約束を破って、大統領を解任したのは、本来、非難に値することになりそうだ。
まして、反政府勢力には超国家主義者ネオナチが入り込んでいるという。自由世界の建前では、由々しき事態であるはずだ。
が、そうはならず、EUも米国も、ヤヌコビッチ大統領の解任は正当だとした上で、クリミアの独立投票は違法だという。
 
むき出しの暴力の世界に、国内法は無力だ。
所詮は、憲法など紙切れに過ぎない。
紙切れなど守るつもりもない勢力が一定数に達すれば、無効化してしまう。
解釈改憲を呼号する安倍総理しかり、権限もないまま11ヶ国を巻き込んでTPP交渉を進めるオバマ政府しかりだ。
 
近代国家の大前提は、言葉の支配だ。
平素は、言葉が暴力を支配できるとみなすことで、国家は運営されている。
しかし、言葉が通用しない支配者が現れれば、これを追放しない限り、無効化していく。
 
ウクライナにおいて、EUも米国も、つい昨日のことであっても、言葉などはどうでもよい。そこがマネーの支配する市場にできるかどうかが最大の関心事だからだ。
 
そして、この、むき出しの暴力の本質は、軍事に本質があるのではなく、EUへ併合しようという市場とマネーの思惑だ。
 
国際経済法は、自由貿易と自由な市場こそが平和を約束するという、一つ覚えのテーゼを繰り返す。
ウソであることはウクライナを見れば、明らかだ。
絶え間ないグローバリズムの要求こそが、世界を不安定に導いている。
 
三人目。田中宇さん(ジャーナリスト)。田中さんのウクライナ政変論は下記のとおり短いのですが(有料記事のため)、急所を突いているように思います。本文の全体を読みたいところです。
 
危うい米国のウクライナ地政学火遊び
(田中宇の国際ニュース解説 2014年3月5日)
 
米国がロシアの覇権拡大を阻止するために引き起こした今回の政権転覆は、ウクライナを国家分裂の危機に陥れた。親米の新政権は、極右ネオナチが治安維持や軍事を握っており、彼らはロシア系国民を排除してウクライナ人だけの国にする民族浄化を目標に、政権樹立直後にロシア語を公用語から外した。ロシア系住民が、極右の政権奪取を見て、ロシアに助けを求めたのは当然だった。(注:有料記事のため冒頭のみ)
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