辺見庸「不稽日録」(2013/11/07)より。

即興詩人 
慴然として肌膚の粟を生ずるを覚え
(『即興詩人』森鷗外)
 
「まだ雨がふっている。雨があがったらエベレストに行こう。けふは特別の日だ。肌膚(きふ)の粟を生ずるを覚えなければならない日だ。まさに慴然とすべき日である。(略)新聞とテレビと、可視空間のすみずみまではりめぐらされた大小あらゆる種類のメディアは、「特別の歴史」という観念を総がかりで消しつぶしにかかってくる。(略)
 
ハンナ・アーレントの母マルタが、幼いハンナにむかって叫んだという「よく注意しなさい、これは歴史的瞬間です!」という「悟性の声」は、いま耳を澄ましてもどこにもない。日本版NSC(国家安全保障会議)の設置法案の修正案が、6日の衆議院特別委員会で、与党と民主党などの賛成多数で可決され、けふ、衆議院を通過した。特定秘密保護法案もけふの衆院本会議で審議入りした。沖縄・宮古島に、陸上自衛隊の88式地対艦誘導弾がはじめて上陸した。陸海空自衛隊による戦争演習のいっかんで、射程百数十kmの88式地対艦誘導弾は沖縄本島にも展開する。今回の演習は、隊員3万4,000人、艦艇6隻、航空機およそ380機が参加して、離島防衛が主な目的なそうな。「月々スマホ990円特割!」の広告といっしょに「歴史的瞬間」が藻屑のように流されてゆく。(略)
 
20世紀の全体主義は20世紀大衆社会の病理を発生源としたのだとしたら、21世紀現在のこの大激変はなにを発生源とし、なにが未来に予定されているのだろうか。近代以降、みずからを堂々「侵略者」と名のり戦争を発動した国家などない。ニッポン軍国主義、ナチス・ドイツさえもが「祖国防衛」を口実に侵略戦争を展開し、まつろわぬ自国民(ニッポンは当時から大部分のひとびととメディアが権力にまつらふ一方であったが・・・)を徹底的に弾圧したのだった。J-NSCは今後、まちがいなく「戦争」と「監視」と「謀略」の司令塔として拡大、発展するだらう。メディアと人民がそれを支えるであらう。
 
J-NSC構想は第一次安倍政権時代の「チーム安倍ちゃん」による事実上のクーデター計画であった。問題は、これが第一次安倍政権が瓦解したあとも、ニセガネ民主党の菅・野田政権によりしっかり継承され、衆院選で政権交代するよりもまへに、J-NSCの設置がすでにして事実上きまっていたこと。そして、秘密保護法の法制化も陰に陽にすすめられてきた事実だ。自公の反動はおのずと明らかである。しかし、民主党とは、おい、よ、辻本よ、千葉景子よ、あなたがたはいったいなんだったのだ。死刑もやります。憲法も破壊します。戦時体制もつくります。自公に反対するふりもします、だったのか。「わたしたちはいまだかつてひとりの人間にもであったことがない。権力亡者の〈猿の影〉につまずいただけだ」ったか。新旧のファシズムはその内部にニセの〈反ファシズム〉を包含してきたし、今後もそうであろう。そして、きのふも、けふも、明日も、「歴史的瞬間」がうちつづき、サムライ・ニッポンはいとど勇ましくなっていく。わたしはJ-NSCに反対する。(辺見庸「不稽日録」2013/11/07


肌膚の粟を生ずる
恐ろしさや寒さのために皮膚に粟粒のようなぼつぼつができる。鳥肌が立つこと。
慴然(しょうぜん):
恐れおののくさま。 「 -として肌膚の粟を生ずるを覚え/即興詩人 鷗外」
 
「われは大統領の館の輪奐の美を討ねて、その華麗を極めたる空しき殿堂を經※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)り、おそろしき活地獄の圖ある鞠問所を觀き。われは彼四面皆塞りたる橋の、小舟通ふ溝渠の上に架せられたるを渡りぬ。是れ館より牢獄に往く道にして、名づけて歎息橋と曰ふとぞ。橋に接する處は即ち牢井なり。廊に點じたる燈火は僅かに狹き鐵格を穿ちて、最上層の獄を照し出せり。此層の如きは、これを下層に比するときは、猶晴やかなる房と稱すべきならん。濕ひて菌を生じたる床は、※(「二点しんにょう+向」、第3水準1-92-55)に溝渠の水面の下にあり。あはれ、此房の壁は幾何の人の歎息と叫喚とを聞きつる。われは慴然として肌膚の粟を生ずるを覺え、急に舟を呼んで薄赤いろなる古宮殿、獅子を刻める石柱の前を過ぎ、鹹澤の方に向ひぬ。舟の指すところは即ち所謂岸區なりき。(『即興詩人』ハンス・クリスチアン・アンデルセン 森鴎外訳
 
参考:
NSC法案、衆院通過 外交・安保の司令塔(共同通信 2013/11/07)
「外交・安全保障政策の司令塔となる日本版「国家安全保障会議(NSC)」創設関連法案は7日午後の衆院本会議で自民、公明両党のほか民主党などの賛成多数で可決された。参院審議を経て月内に成立する見通しだ。政府は年内のNSC発足を目指す。本会議では、機密を漏らした公務員らへの罰則強化を盛り込んだ特定秘密保護法案も審議入りした。NSC法案には他に日本維新の会、みんなの党が賛成し、共産党、生活の党、社民党は反対した。」
 
NSC法案 審議わずか21時間(東京新聞 2013年11月7日 朝刊)
「NSC法案は、本会議での審議入りで首相が答弁に立つ重要法案になったが、委員会審議は約二十一時間。重要法案の審議は、過去に百時間を超えた例もあり、野党からは「議論が不十分だ」と批判の声も上がった。」
 
NSC法案:衆院委で可決…政府、議事録作成に消極的(毎日新聞 2013年11月06日)
「NSC内部での議論に関する議事録作成は、法案の規定に盛り込まれず付帯決議で言及したのみ。政策決定の過程が将来にわたり検証できない懸念が残った。」
 
主張 日本版NSC 盗聴とウソで戦争させるのか(しんぶん赤旗 2013年11月7日)
「政府はNSCに情報を一元化するといっていますが、頼みにするのはアメリカです。安倍首相が第1次政権時代からNSCの設置に固執したのも、日本にもNSCがなければアメリカのNSCから情報がもらえないというのが理由です。NSC法と一体で秘密保護法の成立をめざすのも、秘密保護法がなければアメリカが「安心して」情報をくれないという自主性のひとかけらもない理由からです。」
 
「日本版NSC」とは?(Weblio 辞書 新語時事用語辞典)
 
日本における設置が検討されている「国家安全保障会議」(NSC)の通称。第一次および第二次の安倍内閣で設置検討が推進されている。
 
NSCは国家の安全保障を統括的に管理する専門機関であると言える。国防、安全保障などについて専任スタッフが分析し、為政者に適切に助言を与えると共に、各省庁間の連携を手助けする役割などを担う。
 
日本では1986年に設置された「安全保障会議」が、NSCに近い位置づけの機関であると言える。安全保障会議は国防に関する方針の決定や、安全保障に関する審議などを行う場として機能するが、議長や議員は非常勤となっており、緊急時に招集される審議会といった位置づけに近い。
 
日本版NSCは2006年、第一次安倍内閣において提唱され、検討が開始された。安倍晋三の首相退陣に伴い一旦は廃案となっている。2012年末に第二次安倍内閣が発足し、再度、日本版NSCの検討が開始された。2013年1月には、アルジェリアでイスラム武装勢力による人質殺害事件が発生し、日本人が複数名巻き込まれて殺害された。このとき日本が武力による邦人奪還を行うことができなかったという点も、日本版NSCの再検討の流れに拍車をかけることなった。
 
2013年5月9日に行われた日本版NSC創設に関する有識者会議で、関連法案の素案がまとめられ、安倍晋三政権が目指す組織編制の概要が明らかになった。日本版NSCでは、緊張状態が続く世界各地域ごとに、地域分析官を置く。加えてテロ対策など、特定地域に限られないものについて、分野別の分析官も配置する予定である。
 
また、首相、官房長官、外務大臣、防衛大臣の4閣僚による4大臣会議の定期開催や国家安全保障担当首相補佐官が常設されることなどが柱となっている。


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