真偽の定かではない「伝聞」情報があたかも「真」であるかのように流通していき、流通していくうちにそれが「伝聞」情報でしかないことが健忘、もしくは不問に附されて「真」そのものになってしまう。「伝言ゲーム」ではよく見られるパターンですが、それが遊戯であるならばともかく、その情報の真実性が問われている場面での担保としての「伝」と「聞」の消去は、その行為をあえてするのであれば「うそ」、あるいは「デマ」。たとえその行為が無自覚的な行為であったとしても、その情報はもしかしたら「真」であるかもしれないという蓋然値を限りなくゼロに近づける行為、すなわち「デマ」と呼ばれてもしかたがない行為となるほかないでしょう。
 
上記に述べたことのひとつの例証として「藤原紀香の『秘密保護法』反対発言の背後関係を公安が調べていた」という一スポーツ紙のうわさ話を少し潤色した程度の情報でしかないゴシップがまことしやかにどのように伝達されていったか。その過程を検証してみます。これは昨日のエントリの「ふつうの目の大切さ」という問題提起の続きとしても書いています。

藤原紀香4 
紀香は白 公安に背後関係まで調べられた秘密保全法の怖さ 

はじめにこのうわさ話を記事にしたのは東スポ紙。以下のような記事でした。
 
「藤原紀香はシロ」公安に背後関係まで調べられた秘密保全法の怖さ
(東スポ 2013年10月12日)
 
「10月15日に始まる臨時国会に提出予定の秘密保全法案に関係者がピリピリしてる。(略)最近では女優の藤原紀香(42)がブログで「もし国に都合よく隠したい問題があって、それが適用されれば、私たちは知るすべもなく、しかも真実をネットなどに書いた人は罰せられてしまう。。。なんて恐ろしいことになる可能性も考えられるというので、とても不安です」と書き込んでいた。/紀香登場で反響は大きかった。政府関係者は「なんで?と思いましたよ」と驚くばかり。それだけではない。公安が紀香の背後関係を調査したというから驚きだ。/「この法案にはいろんな団体が反対しています。なかには公安の監視対象になっている団体もある。なので『念のためではありますが、藤原さんがそういった団体の影響で書いているのかどうかを調べました』と公安が言うんです。結論はシロ。純粋に心配だからそう書いたといいます」(永田町関係者)/紀香にとってはいい迷惑だろうが、それほど神経質になりすぎなようだ。」
 
上記のとおり東スポの「藤原紀香は公安に背後関係まで調べられた」という記事は「永田町関係者」が語ったという単なる伝聞情報。その「永田町関係者」の証言なるものがうそか真実かウラをとった様子はありません。この時点で新聞記事としては失格。すなわち「記事」とも「情報」ともいえない単なるうわさ話を記事にしたゴシップ記事にすぎないもの。「永田町関係者」、また、その「永田町関係者」の言う「公安」なるものがほんものかどうかも疑わしい。記事の値打ちゼロといわなければならないしろもの(記事)です。
 
この値打ちのない記事をはじめにとりあげたのが管見の限りでは以下のブログ記事。筆者は昨年まで現役だった元佐賀大学教授です。
 
藤原紀香氏の発言に対する公安の違憲行為疑惑
(ペガサス・ブログ版 2013-10-14)
 
ただ、上記のブログ記事では、この東スポの記事は「『永田町関係者』の話を東スポの記者が引用し,その『永田町関係者』が『公安』の話を引用」した「二重伝聞、つまり二重の間接話法」の記事でしかないことも指摘されています。
 
さらに、
 
「この報道には重大な問題がある.まず,事実そのものの問題だ.「永田町関係者」の話が正確であるとすれば,公安は,おそらくその名前が由来するところの「公共の安全」と何の関係もない調べものに無駄な時間を使ったということだ.勤務時間を自分の趣味に使った,遊びに使ったに等しい.パチンコ屋に行っていたのと大差ない.公務員の服務規律の問題が生じる.」
 
「また,この報道自体の問題もある.「永田町関係者」の話に含まれる予断と偏見,イデオロギー性に無批判なまま,その言葉を引用するという見識のなさである.「公安の監視対象」の影響が見られなかったので「シロ」という言い方には,公安の監視対象にされた者や団体は無条件にいかがわしく,あるいは危険である,という暗黙の含意がある.無関係だったということに「シロ」という言葉を使っていることからも明かだ.「公安の監視対象」とは関わりを持つなよ,という暗示ないし威嚇が含まれる.紀香氏の写真キャプションまで「シロだった紀香」としている.」
 
という指摘もあります。そういう意味では上記のブログ記事は「値打ちのない記事」の二重の問題性を指摘した問題提起の記事になっているといってよいでしょう。
 
ところが、同じ東スポ記事を引用しても、以下のブログ記事になるとそのとりあげかたはやや様相を異にしてきます。
 
公安警察が藤原紀香を監視!? 特定秘密保護法で「警察の監視が広がる」と元警察幹部が懸念(BLOGOS 水島宏明 2013年10月28日)

同記事も上記のペガサス・ブログ版記事と同様に東スポ記事の以下の部分を引用しています。
 
「紀香登場で反響は大きかった。政府関係者は「なんで?と思いましたよ」と驚くばかり。それだけではない。公安が紀香の背後関係を調査したというから驚きだ。「この法案にはいろんな団体が反対しています。なかには公安の監視対象になっている団体もある。なので『念のためではありますが、藤原さんがそういった団体の影響で書いているのかどうかを調べました』と公安が言うんです。結論はシロ。純粋に心配だからそう書いたといいます」(永田町関係者) 出典:東スポWeb」
 
しかし、同記事には、東スポ記事は「二重伝聞、つまり二重の間接話法」の記事でしかないという指摘はありません。ただ、「10月12日の東スポWeb は、法案に反対の声を上げた藤原紀香さんについて公安が背後を調べていた、という独自ニュースを伝えている」とのみ記されているだけです。このブログの筆者は「二重の間接話法」の伝聞ニュースでしかないニュースともいえないゴシップ記事を「独自ニュース」などと言う(すなわち評価する)だけでそのゴシップ記事にすぎないものをあたかも真実の報道であるかのようにみなし、その後の自論を展開していくのです。このような論に説得力などあろうはずもありません。ちなみにこの記事の筆者も法政大学教授の肩書きを持つ元日本テレビの「NNNドキュメント」を担当したディレクターです。
 
しかし、「独自ニュース」という表現に批判の痕跡がまったくないわけではありません。この筆者はもしかしたら「独自」という表現に若干の批判の意味をこめているつもりかもしれません。だから、私も「あたかも」という表現を用いてこの人の言うことは愚かしいことだと思いながらもまったくのうそであると断じているわけではありません。
 
次のブログ記事もやはり上記と同じ東スポ記事を引用しながら、同東スポ記事は「二重伝聞、つまり二重の間接話法」の記事でしかないという指摘はありません。
 
藤原紀香の当たり前の懸念を危険思想扱いする今の日本国の異常ぶり(国民から「国民主権」を奪う「秘密保全法」 (メモ)(89))
(村野瀬玲奈の秘書課広報室 2013-10-30)
 
この記事の筆者は自身の記事の冒頭でこの件について一応「噂」と表現はしているものの、次の段落で「兵頭正俊 @hyodo_masatoshi」氏の「『特定秘密保護法案』に批判的なコメントをした女優の藤原紀香に、公安が紀香の背後関係を調査したという。これは完全な脅しだ」というツイッター発言を無批判に引用しているところから見てもこの記事の筆者も同氏の判断を追認しているとみなさざるをえません。ちなみにまたこの記事の筆者も弁護士を中心に結成されたNPJ(News for the People in Japan)という民主的メディアで健筆をふるっている書き手のひとりです。
 
記事の引用に当たっては、最低限はじめにご紹介したペガサス・ブログ版記事の筆者くらいの慎重さは欲しいものです。そうでなければ、自ら(それも教養のあると思われる人たち)が意図せざるデマゴーグになりおおせてしまうことにもなりかねないのです。

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