「小泉純一郎元首相の『脱原発』発言が快調である」。高野孟氏の「小泉は『脱原発』で政界再編を仕掛けるのか」(「日刊ゲンダイ」チャンネル 2013年10月2日)という記事はこういう書き出しで始まります。そして、同記事は次のように続きます。

今週発売の『週刊朝日』は「最後の政争を仕掛ける小泉純一郎/脱原発肉声60分と題した大特集だ。先週末には、みんなの党の渡辺喜美代表と会食し、「首相が脱原発を決めさえすればすぐに進む。これをやるのが本物の政治家だ」などとブチ上げて大いに盛り上がったという。

脱原発の闘士で、各地の住民集団訴訟をボランティアで支えている河合弘之弁護士が言う。

「いやあ、小泉さんがいいねえ。フィンランドにある世界唯一の核廃棄物最終処分場オンカロを見に行って、『ここに10万年埋めておく。300年後には見直し』という話を聞いて、『こりゃあダメだ』と一瞬にして理解したらしい。そりゃあそうだ、地震のないフィンランドと違って、日本には10万年も動かない地盤なんてないんだから」

小泉純一郎 
 
読者はまず上記でこの小泉氏の「脱原発」発言の「快調」の理由を説明しているコメンテーターが「脱原発の闘士で、各地の住民集団訴訟をボランティアで支えている河合弘之弁護士」であるということにご留意いただきたい。そして、上記の記事で、やはり小泉氏の「快調」の理由を説明しているとされている『週刊朝日』の「最後の政争を仕掛ける小泉純一郎/脱原発肉声60分」(10月11日号)という記事に同氏の「快調」の理由を説明するコメンテーターとして登場してくる人物が飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)と古賀茂明氏(元経産省官僚)です。

この3人のコメンテーターに共通する特徴は、3人ともかつてはいまや右翼政党としての名をほしいままにしているあの維新の会共同代表の橋下大阪市長を支える大阪市特別顧問の要職にあって、同市長の「脱原発」政策(建前)から大飯原発再稼動容認(本音)への政策転換をそれぞれが理論的に支えたネゴシエーターの役割を担った人たちであったということです。
 
こういう人たちが小泉氏の『脱原発』発言を「小泉さんがいいねえ」と評価し、新たな「小泉人気」を下支えしようとしているという事実をまず私たちは押さえておく必要があるでしょう。
 
さて、8日付けのハフィントンポスト紙は、その小泉氏の『脱原発』発言はどこに帰着するのか。おおいにヒントとなる記事を掲載しています。
 
小泉進次郎氏、小泉純一郎元首相と足並みそろえ「脱原発」?【争点:エネルギー】(The Huffington Post 2013年10月08日)
 
小泉氏の『脱原発』発言の評価に関して、私として上記記事でポイントとして見るべきところは以下の部分だろうと思います。
 
第1。同記事下段の以下の部分。
 
進次郎氏の父・純一郎元首相は、約1週間前の10月1日、同じ名古屋市で開かれた講演で「核のゴミの処分場のあてもないのに原発を進める方がよほど無責任」などと発言。みんなの党の渡辺喜美代表との会談でも、安倍晋三首相に脱原発のリーダーシップを取るべきだと語るなど、「脱原発」発言を繰り返している。この発言に対し、「冷静に日本を考える人であれば、たいてい行き着く」と小沢一郎氏が評価するなど、各方面で波紋が広がっている。

上記記事中、小泉氏の「脱原発」発言を評価しているのがみんなの党の渡辺喜美代表と生活の党の小沢一郎代表であるというところは留意すべきこととして重要だと私は思います。
 
というのはこういうことです。
 
渡辺喜美氏を代表とするみんなの党は原発の再稼働を認めるかどうかについて「原子力規制委員会が定める世界標準の新基準に適合しない限り原発の再稼働を認めない」(『2012 アジェンダ』19頁)という「原発」政策を掲げていますが、この「原発」政策は「原子力規制委員会が定める世界標準の新基準に適合」するならば「原発の再稼働を認める」という同党の立ち位置を表明しているものにほかならず、みんなの党を「脱原発」政党とみなすことは不適当です。
 
また、小沢一郎氏を代表とする生活の党は、同党の前身の国民の生活が第一を結党する際にこれまでの原発推進政策を転換して10年後をめどに原発の全廃を目指すとした脱原発政策を同党の政策の柱として掲げましたが、同党の代表の小沢氏は2006年に民主党代表に就任した後、原子力発電を「過渡的エネルギー」と結党以来から位置づけていた同党のエネルギー政策を転換し、恒久的エネルギーとして同党の「原発」政策を「原発推進」政策に変更した張本人です(wikipedia『小沢一郎』「原発・エネルギー政策」)。また、1991年の青森県知事選で核燃サイクル推進派の現職知事を当選させるために剛腕を発揮したり、東電原発事故後も民主党代表選で海江田万里を推薦したりしながらいまだにその非を認めようとしてもいません(kojitakenの日記 2012-11-21)。さらに小沢氏が民主党在任時、当時の小沢派の議員が電力総連(東京電力労組)から多額の政治献金を受けている事実が判明しても(「AERA」 2011年4月25日号)同小沢派議員に対して派内からの除名はおろか、なんらの注意処分もしていません(弊ブログ 2012.07.02)。その小沢氏を代表に掲げる生活の党を正真正銘の脱原発政党とみなすことはできません。
 
上記の記事によれば、小泉氏は、そうしたみんなの党の渡辺氏や生活の党の小沢氏と「脱原発」政策について意気投合したというのです。自ずからその意気投合の内容はわかろうというものです。小泉氏の「脱原発」発言の本意に信を置くことは到底できないというべきでしょう。
 
第2。また、次の部分。
 
小泉純一郎元首相の「脱原発」発言が波紋を広げる中、息子の小泉進次郎内閣府・復興政務官は10月7日、原発問題に関して「国民の間で釈然としない気持ち、なし崩しに(原発依存に)行っていいのかという声が脈々とある気がする」と話し、純一郎元首相に理解を示した。名古屋市の講演で、(略)進次郎氏は「自民は原発推進政党ではない」と強調。再生可能エネルギー導入促進を掲げた自民党の参院選公約を紹介し、「自民党にとって議論するチャンスであり、党が変わるきっかけになる」と公約実現へ党内議論を呼びかけたという。(朝日新聞デジタル「進次郎氏、父の原発ゼロ発言に理解『自民変わらないと』」2013/10/7 18:43)
 
しかし、上記の小泉進次郎氏の認識は誤っています。進次郎氏の父、純一郎氏は、2005年10月に自民党の首相として『原子力政策大綱』を閣議決定し、2006年6月には『原子力立国計画』を政府として策定しています。この『原子力立国計画』を「原発推進」政策と言わずしてほかにどういう呼び方があるというのでしょう? 自民党が参院選公約に「再生可能エネルギー導入促進」を掲げたとしてもそのこと自体が「原発推進」政策の否定につながるわけではありません。現にいまなお自民党安倍政権は原発再稼働に意欲を示しています(「原発再稼働『できるだけ早く』 首相」 産経新聞2013.5.15)。

小泉進次郎氏の上記の発言が、父、純一郎氏の意と脈絡を通じているものだとすると、小泉純一郎氏の「脱原発」発言も所詮「原発再稼働」を容認する体の「脱原発」発言というほかありません。
 
こういうことは、人が小泉純一郎の「脱原発」発言を少しでも検証してみようとする意志さえ持ち合わせていればすぐにでもわかるたぐいのことだと私は思います。人はなぜ「脱原発」という言葉の前に正気(尋常な判断力)を失くすのでしょう?
 
冒頭にご紹介した『週刊朝日』の「最後の政争を仕掛ける小泉純一郎/脱原発肉声60分」という記事によれば、小泉が「大勢の聴衆を前に本格的な『脱原発』演説をぶったのは(略)ビジネス誌『プレジデント』の創刊50周年記念として企画されたイベントの一環」としての講演会でのことだったといいます。「参加料は2万8千円と高額だったが、開場前から200人以上が並ぶほどの熱気。会場の扉が開くと、あっという間に満席となった。エレキギターとドラムの音に乗って舞台袖から現われた小泉氏は、縦じまのシャツに白系のジャケット姿」だったといいます。「縦じまのシャツに白系のジャケット姿」という出で立ちはともかく、2万8千円という高額の会費を払う余裕のある聴衆を前にした「脱原発」発言とはいかなるものぞ。私にはその点からして違和感がつきまといます。

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