いまYahoo! JAPANのGyaO!サイトで『チェルノブイリ・ハート』が無料再公開されています(5/25まで)。それはそれでいいのですが、いまだに同映画を必見の「科学ドキュメンタリー映画」として無条件に推奨する人たちが少なくありません。しかし、同映画を「科学ドキュメンタリー」とみなすことはできません。

『チェルノブイリ・ハート』を「科学ドキュメンタリー」とみなすことができない理由を下記の講演動画で京都大学原子炉実験所助教で福島第1原発事故以来、低線量被曝問題について信頼できる情報を提供し続けている今中哲二さんは次のように述べています(同動画1:20:05秒頃~)。


低線量被ばくの健康被害 "科学 "ではっきり言えることと、言えないこと
(いわき市生涯学習プラザ 2012/07/14)

「みなさん、『チェルノブイリ・ハート』というのを観られた方がいると思いますけれども、心臓病がいっぱい増えているというようなイメージをつくる映画ですけども、実はこれ私去年の夏の前だったと思います。ある週刊誌が連絡してきて『今中さん。ちょっと公開前にこの『チェルノブイリ・ハート』のDVDを観て感想をください』と言ったから、それで送ってこられたから、私、しかたがないから2回観て、それでなんとコメントしたかというと『つまらん』、と。観られた方はあるかと思いますけども、とにかくこれでもか、これでもかという形で障害を持った子どもたちが出てくるんですよね。それで後一方でベラルーシで放射能汚染がありますよ、と。」

「じゃあ、その放射能汚染と子どもたちがどこから来て、どういう被ばくをしてとかそういう話はさっぱりない。とにかくイメージとしてチェルノブイリ、それからベラルーシではみんな子どもは病気で生まれてくるよ、と。それで健康で生まれる子どもは2割もいないんですよ、と。そんなアホな、と言って、私は『つまらん』と言ったんですけども、その裏に私はある程度データ知っていました。それで私が知っているデータはベラルーシという国は結構いろいろな部面でチェルノブイリ前から医療制度はある程度整っていて、それで先天性の障害は人口流産胎児を調べて・・・・(以下、省略。上記の講演動画でご確認ください)」

*なお、上記の講演動画にはたくさんの表やグラフが出てきますが、こちらの「講演まとめ」でその多くの表・グラフを確認することができます。

『チェルノブイリ・ハート』はたしかに第76回アカデミー賞ドキュメンタリー短編賞を受賞した話題作には違いありませんが、この映画を「ベラルーシのホット・ゾーンに住み続ける住民たちの姿をとらえ、16年たっても続く被爆被害の『事実』を追う」科学的映画などとする見方は決定的に誤りだということを今中さんは上記の講演で論証しています。まして、この映画の決してドキュメントとはいえない「事実」なるものをもって「2016年に日本の子供たちも悲惨な状況になる」などと扇情的に煽るのは「犯罪的」とも言ってよい行為だろうと私は思います。

むしろ「 必見!」であるべきは 「チェルノブイリ・ハート」という映画ではなく(あるいは同映画を観た後の)、今中哲二さんの福島県いわき市での講演動画というべきだろう、とも私は思います。いまだに 「チェルノブイリ・ハート」を無条件に「事実」として過信している人たちが少なくないのは残念でなりませんし、日本の脱原発運動の前進のためにもよいことだとは思えません。

参考
(1)広河隆一さん(月刊写真誌「デイズ・ジャパン」発行・編集長)の『チェルノブイリ・ハート』評:「原発は、あらゆる形の差別を引き起こす要因にもなる。それに取り込まれてはならない」(デイズ・ジャパン 2011年11月16日【編集後記(2011年12月号)】)

「次に現地を訪れた時、子どもたちの写真が掲載された施設を訪ねた。そこにはさまざまな障害を負った多くの子どもたちがいた。私は所長に『この子どもたちはチェルノブイリのせいで病気になったのですか』と尋ねた。所長は首を振った。『何人かはそうかもしれないが、ほとんどは関係ないでしょう。なぜならここには事故前から多くの子どもがいたからです。事故の後に1割ほど増えたかもしれないけれど』と言う。/雑誌や映画を見た人は、写っているすべての子がチェルノブイリ事故のせいで障害者となったと思ったはずだ。放射能はあらゆる病気の原因になる。遺伝子を傷つけるから出産異常も身体障害も引き起こす。だが、放射能の恐ろしさを訴えるためにこのような強調をしていいのだろうか。(強調は引用者。以下同じ)

(2)鎌田實さん(諏訪中央病院名誉院長)の『チェルノブイリ・ハート』評:「チェルノブイリ・ハート」(八ヶ岳山麓日記 2011年8月16日)

「この映像をみていくと、心臓に重大な疾患をもつ子どもは全部、チェルノブイリ原発事故が原因というストーリーになってしまう。/だが、心臓の奇形は、本当にチェルノブイリ原発事故によるものか科学的には実証できていない。/この映画でも、根拠は語られていない。/原発推進の人たちは卑怯なかたちで安全神話をつくった。/それと同じように、チェルノブイリや福島の悲劇が、神話になってはならない。/神話よりも、事実を見ていくことが大事なのだ。」

(3)振津かつみさん(医師。「核のない未来賞」受賞)の『チェルノブイリ・ハート』評:講演会「福島の被曝とどう向き合うか」(新潟市 2012年5月31日)

「『チェルノブイリハート』ベラルーシで25%の赤ちゃんに精神障害などの異常というのはウソ。現地の医師が「15~20%が健常児」と答えているが、ベラルーシの健常児の基準は5段階に分かれていて、その一番上のレベルが20%。父母も健康で酒タバコをのまないというのが条件。」

*「父母も健康酒タバコをのまない」というのが「ベラルーシの健常児の基準」であり、かつ、一番上のレベル」の基準であるというところに留意が必要でしょう。日本においてもこの基準を適用すれば日本の一般の健常児の割合もベラルーシ並みということになるかもしれません(引用者)。
関連記事
Secret

TrackBackURL
→http://mizukith.blog91.fc2.com/tb.php/570-83762904