2013年3月27日付けのしんぶん赤旗に「参院選長野選挙区 「党候補で奮闘」と回答 共産党 共同候補の要請に」という記事が掲載されています。一見、長野県という一地方の政治的できごとの断面を切り取った変哲のない政治的ニュースのように見えなくはありませんが、広原盛明さん(元京都府立大学学長)が提起されている「護憲第3極=反ファッシズム統一戦線」形成の課題の観点からこの赤旗記事を見ると、今後の「統一戦線」形成運動の少なくない課題が浮かび上がってくるように思われます。

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          “国共合作”(統一戦線)の舞台となった重慶
          会談(1945年)における毛沢東(右)と蒋介
          石(中央)。(「ウィキペディア」より)

 長野県内で、夏の参院選に向け、原発廃止と平和憲法を守ることなどの課題で一致する共同候補の擁立をめざしていた市民団体「参院選で共同候補を擁立する長野県民の会」準備会はこのほど、共同候補擁立を断念しました。

 12日には、会の代表ら4人が日本共産党長野県委員会を訪れて協力を要請、何としても改憲と原発推進の暴走を止めなければという思いを語りました。応対した今井誠党県委員長と鮎沢聡党県書記長は、約1時間半にわたり耳を傾け、意見交換しました。

 今井氏はこのなかで「統一戦線」によって国政を変革する党の立場を丁寧に説明し、国民との共同を重視し柔軟に積極的に対応していることを強調しました。同時に、参議院選挙での選挙共闘は国政の基本問題での一致が不可欠であり、「現状では国政選挙で日本共産党と共同する条件と意思がある政党はなく、沖縄以外の全国でも県内でも共同候補の現実的な可能性は存在しない」と指摘。1980年の「社公合意」で日米安保条約容認と日本共産党排除を取り決めて以来の経過を説明して、会の疑問にも答えました。

 今井氏は、「現実的に可能性のない共同を追求して、あと3カ月に迫った参院選の取り組みを遅らせることは改憲・原発推進勢力を利することになる。私たちがすでに擁立している唐沢ちあき選挙区候補が最良、最適の候補であり、無党派のみなさんの思いにこたえることができる」とのべ、会の理解を求めました。

 同会は、社民党に対しても協力要請をおこないました。その結果をうけて17日に準備会を開き、各党の態度も報告され、「会の共同候補を立てることは脱原発、改憲阻止の力を分断させてしまう」「時間の制約」もあり、候補擁立断念を決めました。

 会に参加する有志は、この経過のなかで話し合い、「共産党の唐沢候補がもっともふさわしい候補だ」と、今参院選で市民有志として唐沢候補を推す動きが始まりました。唐沢候補を迎えた「つどい」も計画されました。

 今井党県委員長は「無党派のみなさんの現状を何とかしたいという思いに応えて、わが党は比例5議席絶対確保を軸に選挙区でも議席に挑戦したい。党と無党派のみなさんとの共同を広げ、“自民・民主の指定席”の時代は終わったことを示していきたい」と話しました。(しんぶん赤旗 2013年3月27日

今年の年初に長野県在住の弁護士の毛利正道さんは「半年後に迫った参院選挙区選挙で『多数国民の声をきちんと国会に届けるハート❤協定』を躍進させよう」という問題提起をされていましたが、上記記事にある「参院選で共同候補を擁立する長野県民の会」(準備会)とはおそらく毛利さんが今年の年初に問題提起をして有志で結成した同会のことを指しているでしょう。

上記記事によれば、「長野県民の会」は、この3月12日に共産党長野県委員会に原発廃止と平和憲法を守ることなどを政策に掲げる共同候補擁立の申し入れをしていますが、同17日にはその共同候補の擁立を断念しています。同県委員会が「現実的に可能性のない共同を追求して、あと3カ月に迫った参院選の取り組みを遅らせること」になるなどの理由で共同候補の擁立に消極的(もしくは反対)だったことが同会の共同候補擁立断念の直接の契機になったものと推察できます。

しかし、共産党長野県委員会の共同候補擁立反対(もしくは消極的)のロジックは正しいといえるでしょうか?

赤旗記事によれば、同県委員会の今井県委員長は共同候補擁立に賛成できない理由として以下の3点をあげています。

(1)参議院選挙での選挙共闘は国政の基本問題での一致が不可欠であり、現状では国政選挙で日本共産党と共同する条件と意思がある政党はなく、沖縄以外の全国でも県内でも共同候補の現実的な可能性は存在しない。

(2)現実的に可能性のない共同を追求して、あと3カ月に迫った参院選の取り組みを遅らせることは改憲・原発推進勢力を利することになる。

(3)私たちがすでに擁立している唐沢ちあき選挙区候補が最良、最適の候補であり、無党派のみなさんの思いにこたえることができる。

まず(1)について見れば、「現状では国政選挙で日本共産党と共同する条件と意思がある政党はな」いという今井氏の認識は「現状」という条件を前提にすればたしかにそのとおりでしょう。私もそう思います。しかし、「現状」という概念は将来を展望するためにある分析概念です。「現状」ということをいうのであれば同時に将来展望も示されなければ有用な現状分析とはなりえません。展望を示さないままの、あるいは示しえないままの現状分析は丸山眞男や加藤周一によって日本型社会の負の特徴として位置づけられてきた「大勢順応主義」となんら変わるところはありません(丸山眞男「日本人の政治意識」、加藤周一「日本社会・文化の基本的特徴」参照)。このことを政治的用語でいえば「待機主義」、あるいは「(右翼)日和見主義」(広原盛明「革新政党の不振と衰退は目を覆うばかりだ(11)」)といってもよいでしょう。このような認識では「現状」はいつまでたっても「現状」のままであるほかありません。
 
今井氏は(3)で将来展望を示しえている、と反駁するかもしれません。しかし、「現状では国政選挙で日本共産党と共同する条件と意思がある政党はな」いと言うのと同様に「すでに擁立している唐沢ちあき選挙区候補」をもって選挙戦を戦っても「無党派のみなさんの思いにこたえることができ」ない、すなわち当選できないのは、それこそ「現状」に則して見るならば火を見るよりも明らかといわなければなりません。下記は前回及び前々回の参院長野選挙区の開票結果です。

2010参院選選挙区開票結果・長野(改選数2)
当 若林 健太 293,539 26.43% 自民 新 公認会計士
当 北沢 俊美 290,027 26.11% 民主 現 防衛相
  高島 陽子 217,655 19.60% 民主 新 〈元〉県議
  井出 庸生 183,949 16.56% みんな 新 〈元〉NHK記者
  中野 早苗 116,496 10.49% 共産 新 党県常任委員
  臼田 寛明    8,959   0.81% 幸福 新 幸福の科学職員
 
2007参院選選挙区開票結果・長野(改選数2)
当 羽田 雄一郎 538,690 民主 前 党常任幹事
当 吉田 博美    301,635 自民 前 〈元〉県議長
  中野 早苗    194,407 共産 新 党県常任委員
  中川 博司      89,579 社民 新 党県幹事長

長野県は共産党が比較的強いところですが、見られるとおりそれでも共産党独自の単独票では前回も前々回も当選は覚束ない獲得票にすぎませんでした。よほどの状況の変化がない限り3か月後に迫った参院選でもほぼ同じ傾向を示すでしょう。左記はごくごくふつうの票の読み方です。今井氏は(2)で「現実的に可能性のない共同を追求して、あと3カ月に迫った参院選の取り組みを遅らせることは改憲・原発推進勢力を利することになる」と共同候補擁立否定の論理を述べますが、その「改憲・原発推進勢力を利する」という意味が次期参院選における長野選挙区での「落選」を意味しているのであれば、唐沢ちあき選挙区候補を擁立して共産党単独で選挙戦を戦ってもやはり「無党派のみなさんの思いにこたえることができ」ない。すなわち「落選」の憂き目を見ることは目に見えています。今井氏が(2)のように言う共同候補擁立否定の論理は成立しないのです。今井氏の(2)の論理は「長野県民の会」が提案した共同候補の擁立を否定するための根拠のないタメにする論理というほかありません。

逆に上記の開票結果から長野選挙区での当選ラインを30万票前後と仮定して、同県の2007年度の参院選選挙区開票結果を参照すれば、共同候補が実現すればその共同候補が勝利する可能性は十分にあります。今井氏は「現実的に可能性のない共同を追求して、あと3カ月に迫った参院選の取り組みを遅らせることは」云々と述べますが、先の東京都知事選では広義の意味での共同候補といってよい弁護士の宇都宮健児さんが正式に都知事選への出馬表明をしたのは同知事選投票日(2012年12月16日)の約1か月前の11月9日のことでした。今井氏は「現実的に可能性のない共同を追求」することは「あと3カ月に迫った参院選の取り組みを遅らせること」になるとその共同候補擁立否定の論を述べますが、先の東京都知事選の例を見ても1か月もあれば共同候補の擁立は可能なのです。

また、仮に次期参院選には共同候補の擁立が間に合わなかったとしても、その共同候補擁立の模索は、次々回参院選(あるいは衆院選)でその運動の実を結ばせることは可能です。「現状」に則して見るならば、共産党単独で独自候補を擁立しても今回も、次回も、次々回も「現状」のままでは当選の可能性はきわめて低いのですから、現状を変えるという意味で、いま、共同候補の擁立を追求する試みを続けることの方がどれほど有意であることか。この点について「護憲第3極=反ファッシズム統一戦線」の提起者の広原盛明さんは次のように述べています。

「目前に迫った参院選でたとえ革新政党が選挙協力体制を組めなくても、選挙後は直ちに“護憲第3極”形成に向かっての話し合いをスタートさせるべきだ。ただしその場合、政党間の話し合いだけではなく広範な護憲勢力の結集が必要だろう。選挙後の政治情勢は、日本国憲法第96条第1項の規定によって憲法改正の是非を問う“国民投票”に政治決戦の舞台が移るのだから(議会闘争ではない)、国民自身が改憲阻止の運動に立ち上がる体制をつくらなければ“国民投票”に勝利することはできないからだ。」(広原盛明「革新政党の不振と衰退は目を覆うばかりだ(11)」リベラル21 2013.03.11)

革新政党の関係者にはそのことの道理を目と耳と頭を凝らして考えていただきたいものです。そうしなければ現在の改憲状況の危機を乗り越えることはできないのです。「社民党・共産党など既成革新政党がそれぞれの独自路線にもとづく闘争を展開してもその効果は限定的であり、広範な護憲勢力が結集する“護憲第3極=反ファッシズム統一戦線”の形成以外に危機打開の道はない」(同上)のですから。

現在の改憲状況の危機的状況についてのここ最近のあらたなニュースを前回に引き続きさらにひとつ、ふたつピックアップしておきます。

橋下氏 参院選では憲法改正を大争点に(NHK 3月30日 16時4分)
維新とみんな 参院選候補者調整で合意(NHK 3月30日 6時42分)

また再度、広原盛明さんが提起する“護憲第3極=反ファッシズム統一戦線”の運動の形を紹介しておきます。

「統一戦線」で取り組もうとしている運動のイメージは「広範な護憲勢力の再結集によって改憲阻止」に取り組む運動。

その政治勢力の構造は、

(1)護憲を党是とする社民党や共産党などの「革新政党」

(2)これら革新政党を支持する「革新勢力」

(3)革新政党を支持しないが、憲法9条を否定することには反対する「護憲勢力」。

取り組もうとする運動の具体的な形は、「革新政党は革新勢力はもとより広範な護憲勢力に働きかけて“護憲戦略”を再構築する。そのためのまず第一歩として考えられるのは、今回の選挙総括と次期参院選挙方針を党内だけでなく国民に対して“開かれた形”で行うこと

具体的には、
 
(1)公開討論会形式にして革新政党の選挙総括や参院選挙方針の問題点を有権者の間で広く議論する

(2)「外部第三者委員会」といった形で党外に選挙総括を依頼し、党独自の総括と対置させながら公開討論で問題点を探り出す

(3)社民党・共産党やその他の政治団体が合同討論会を組織し護憲戦略のデザインについて討議するなど。

だがその場合の議論の原点は、あくまでも「国民投票において改憲を阻止する」ことに置かれなければならない。
「革新政党の再生のために何をするか」ではなく、「改憲阻止のために革新政党は何をしなければならないか」ということを議論の中心に据えなければならない
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