最近、あるメーリングリスト経由で次のような衆議院の緊急院内セミナーの案内メールが発信されてきました。

緊急院内セミナー「どうする? 放射線による健康被害への対応-市民・専門家による提言」
日時:3月7日(木)12:30~15:30
会場:衆議院第一議員会館 多目的ホール(190名)
※12:00からロビーにて入館証を配布します。
資料代:500円

福島の子どもたちから新たに甲状腺がんが見つかりました。甲状腺がんと診断されたのは、これで2011年度中に受診した原発周辺13市町村の3万8114人中、3人となり、他に7人が甲状腺癌が疑いがあるとされています。福島県側はいち早く福島原発事故との因果関係を否定(強調は引用者)。しかし、これでよいのでしょうか。

脱原発運動、あるいは反放射能(線)運動関連メールとしてはとりわけ変哲のないメールといってよいのかもしれません。しかし、私は、その文面にある「福島県側はいち早く福島原発事故との因果関係を否定」というフレーズの部分に3・11以後の脱原発運動に関わっている人たち、その少なくない人たちが共通して陥っているある種の陥穽のようなものを感じずにはいられませんでした。その陥穽とは、この後すぐにでも述べる今回のあらたな甲状腺がん患者2人の発見に関して「被曝の影響は考えにくい」(朝日新聞 2013年2月13日)と述べた福島県立医大の鈴木真一教授の発言を「被曝との関係はない」という発言に歪曲して批判するたぐいの思考方法、あるいは思考回路(自らの立ち位置を「絶対正義」とでも思いなして立ち振る舞う一種の逆説的なボナパルティズム)のようなものを指してそう言っています。


原発現状 
福島第1原発(現在)

そのことをもう少し具体的にいえば下記のようになるでしょう。その案内メールの発信者に向けて問題提起の形で述べたものです。

福島第1原発事故及び同事故後の政府の対応は被災者の補償の問題(「避難の権利」とその保障の問題を含む)、被災地の除染の問題、避難区域の基準の問題、原発再稼働問題を含む今後の災害管理計画の問題、原子力規制委員会の非民主制の問題、国連人権理事会特別報告者アナンド・グローバー氏が先に福島に訪れて発表した被災地住民の「健康を享受する権利」の問題、福島県内の放射線調査、健康調査の不十分性の問題などなどどれひとつとっても不十分、不徹底きわまるものであり、そのひとつひとつの政府と行政の対応は逐一批判されてしかるべきものです。

しかし、その批判は、正確な根拠とそれゆえの道理にもとづいてなされるべきものでなければ多くの人々を説得することはできないし、また、多くの人々の共感をうるところにもなりえないでしょう。

青木さんは下記(こちら)の批判で「福島の子どもたちから新たに甲状腺がんが見つかりました。(略)福島県側はいち早く福島原発事故との因果関係を否定」と書いておられますが、この批判は正確な根拠にもとづく批判とはいえないように思います。

メディアはこの問題について次のように報道しています。

「『(事故後1年半から2年の)今の調査では、もともとあったがんを発見している』とし、福島第一原発事故による影響を否定した。ただ、『断定はできない。きっちり見ていく』とも述べた。/検討委の山下俊一座長は『人数だけ見ると心配するかもしれない。しかし、20~30代でいずれ見つかる可能性があった人が、前倒しで見つかった』との見方を示した。」(「新たに2人甲状腺がん 県民健康管理調査」 福島民報 2013/02/14)

「福島県立医大の鈴木真一教授は『甲状腺がんは最短で4~5年で発見というのがチェルノブイリの知見。今の調査はもともとあった甲状腺がんを把握している』と述べ、福島第1原発事故による放射線の影響を否定。一方で『断定はできない。これからきっちり検討していく』とした。」(「福島、新たに2人が甲状腺がん 放射線による影響否定」 共同通信 2013/02/13)

なお、山下俊一氏と鈴木真一氏の13日の記者会見の模様とその内容は下記のビデオでも確認することができます。

第10回福島県健康管理調査 記者会見(37分)

上記の福島民報、共同通信の記事とも「福島第1原発事故による影響を否定」の部分は記者の地の文です。実際の「福島県側」(この場合は鈴木教授)の発言は「断定はできない。きっちり見ていく」(福島民報)、「断定はできない。これからきっちり検討していく」(共同通信)というものです。すなわち、実際には「福島県側」は「福島原発事故との因果関係を否定」しているのではなく「断定はできない」と現段階での因果関係の判断を保留しているというのが実相です。私は鈴木氏のこの発言は現段階において科学者としてとりうる当然の態度の表明というべきであり、なんら批判に値するものではないと思います。

それを事実上「福島原発事故との因果関係を否定」したことに等しいなどとして批判するのは「正確な根拠」にもとづく批判とは言い難く、逆に相手の論法を捻じ曲げて批判するに等しい行為だと非難されなければならない非論理のように思います。

先に私は「『100万人に1人のはずの子どもの甲状腺がん 福島で4万人中3~10人』という福島県・県民健康管理調査に関するナンセンスな言説について(「脱原発」の思いは同じですが)」という記事を書いて、その中で引用している徳岡宏一朗弁護士の論理を批判しましたが、徳岡氏はその論理の一環として次のように書いていました。

「これに対して、鈴木教授は/「チェルノブイリでは事故から4~5年たってから甲状腺がんが発生しているので、総合的に判断すると被曝(ひばく)の影響は考えにくい」/と述べています。しかし、同じ記者会見で鈴木教授は/「断定はできない。これからきっちり検討していく」とも述べています。断定できないものを被曝との関係はないと言ってしまうのは極めて不誠実でしょう。」

上記の引用からも徳岡氏は鈴木氏の「被曝(ひばく)の影響は考えにくい」という発言を「被曝との関係はない」という発言に捻じ曲げて、その上で鈴木氏を批判していることがおわかりいただけるでしょう。このような批判では当の鈴木氏はもちろん、当事者ではなくとも公正な目を持つ者のほとんどは説得されないでしょう。

ただ、

現行の福島県県民健康管理調査は、目的が「不安解消」、放射線影響は「極めて少ない」ことが前提となっているのにくわえ、小児甲状腺がん以外の疾病がわかるような項目となっていないこと、対象範囲が狭いこと、本人への情報開示や説明、議論や結果の透明性や開示が十分でないこと

などのご指摘はそのとおりだろうと思います。

私の問題提起がおわかりいただけるでしょうか?

正確な根拠の提示と道理のない批判(少し前までは少し冷静になって考えればすぐにわかるたぐいの明らかなデマが多数ありました。そして、そのデマ情報が次から次へと拡散されてしまう状況が続いていました)がまかりとおっている現状を「脱原発」という待ったなしの課題の達成のためにも私は憂えています。

考えていただきたいことです。

なお、私は、鈴木氏や山下氏の立ち位置や問題視点を擁護しているわけではないことをお断りしておきます。

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