この2月13日、福島医大は、「新たに2人が甲状腺がんと確定」という原発事故時に18歳以下だった子どもを対象とした甲状腺検査の2次検査の結果を公表しました。
 
新たに2人甲状腺がん 県民健康管理調査(福島民報 2013/02/14)
福島、新たに2人が甲状腺がん 放射線による影響否定(共同通信 2013/02/13)
 
が、その公表された数値を自身の素人の臆見でしかない判断で読み誤った上に、その読み誤った臆見(したがって非科学的)の数値を前提にして「通常の75倍から250倍」の発生率などといたずらに福島原発事故の放射能被害の危険を煽り、かつ、現地の福島に居住する(あるいはせざるをえない)人々の健康不安を結果として煽る言説がまことしやかに流されています。いま「まことしやかに」と書きましたが、こうした言説を流している人たちの中心にいるのが弁護士であるというところにその「まことしやか」性はいっそう増幅され、臆見情報であるにもかかわらず信用されてしまうというそういう意味での危険性があります。
 
こうした情報を流している弁護士の名前とその情報そのものを下記に記しておきます。いずれも民主的弁護士といってよい方々です。

100万人に1人のはずの子どもの甲状腺がん 福島で4万人中3~10人=75倍から250倍 さらに今後爆発的に増加か徳岡宏一朗 Everyone says I love you ! 2013年2月17日)
 
疎開裁判の最新情報報&拡散のお願い:2.13福島県の重大発表 2.23新宿デモへの参加と賛同アピールのお願い柳原敏夫 ★阿修羅♪ 2013年2月17日)
 
上記の弁護士たちの情報のなにが誤っているのか? たとえば徳岡弁護士は自身のブログに次のように書いています。
 
「甲状腺がんは珍しい病気で、子どもに甲状腺がんができる可能性は、通常では「100万人に1人」だというのが通説です(検討委の鈴木真一・福島県立医大教授)。ですから、4万人の中で3人ないし最悪10人という今の福島の子どもたちの現状はごく単純にかんがえるなら、通常の75倍ないし250倍ということになります(年間検出率でみると最高130倍)。」
 
徳岡氏は上記の鈴木福島県立医大教授の「子どもに甲状腺がんができる可能性は、通常では『100万人に1人』」という発言をひとつの根拠として「通常の75倍から250倍」の甲状腺がん発生率という計算をはじき出しているようですが、今回の「新たに2人が甲状腺がん」という「県民健康管理調査」の報告では「発生率」ではなく「有病率」しか判明しません。「有病率はその時点での患者の割合です。罹患率(引用者注:発生率)は一定期間に対象の病気に新たにかかった患者の割合ですから追跡を行わなければ分かりません。つまり今回のような一時点調査では有病率を見ていることになり、罹患率とは比較でき」ないからです(下記の内科医師の所見「甲状腺癌⑦」参照)。したがって、徳岡氏は、比較できないものを比較して「通常の75倍ないし250倍」という誤った臆断を述べているということになります。

ふくしま集団疎開裁判弁護団長の柳原敏夫氏も「小児甲状腺ガンは通常なら百万人に1名なのに、二次検査した151人の子どもから10名の小児甲状腺ガン(確定とほぼ確定の合計)が見つかりました」と述べて徳岡弁護士と同様の誤りを犯しています。
 
わが国における甲状腺がんの有病率は人口1000 人当たり1. 3(男性 0. 6、女性1. 9)と推定されています(日本癌治療学会『がん診療ガイドライン』「コラム4 わが国における甲状腺癌の罹患率,有病率,死亡率について」)。今回の調査では約3万8000人を対象に1次検査を実施し(福島民報 2013年2月14日)、そのうち3人が甲状腺がん、7人が甲状腺がんの疑いがあったということですから、その有病率は約4万人分の10人。すなわち4000人に1人の割合。通常よりむしろ4分の1程度低い調査結果だったということになります。ただし、今回の調査は原発事故時に18歳以下だった子どもを対象とした甲状腺検査ですから有病率は大人のそれよりももっと低くなるでしょう。すなわち、有意差はみられません。
 
なお、医師の松崎道幸氏も下記のような見解を発表していますが、医師でありながら上記の弁護士たちとほぼ同様の見方の誤りを犯しているように思います(私は以前にも松崎医師の所見の誤りを指摘したことがありますが(もちろん私だけではありませんが)、「思いこみ」とは恐ろしいものです)。
 
福島の小児甲状腺がんの発生率はチェルノブイリと同じかそれ以上である可能性:福島県県民健康管理調査結果に対する見解(松崎道幸 Peace Philosophy Centre 2013/2/16)

詳しくは下記のDrMagicianEARL氏という呼吸器内科医師の所見をご覧ください。
DrMagicianEARL氏の自己紹介:
呼吸器内科/感染対策室(ICT)/マジシャン。集中治療(敗血症・DIC)・感染症等の文献要約をツイート。ブログ「EARLの医学ノート」管理人。呼吸器学会/感染症学会/集中治療医学会/内科学会/化学療法学会/静脈経腸栄養学会/呼吸療法学会.反原発派ですがアンチ放射“脳”です

甲状腺がん 有病率 発生率(罹患率) 等について

前提1:
有病率、罹患率、発生率の定義の違いについて

有病率(prevalence)について.
.
発生率(incidence 罹患率とも訳される)について.

前提2:
罹患率と累積罹患リスクの違い」について(Q27)。

コメント:今回のように福島県で行われた積極的スクリーニングで分かるのは「有病率」で、「通常は100万人当たり1~2人」云々、は「罹患率」(引用者注:発生率)です。比べちゃいけない数を比べたら、当然ナンセンスな結論になります。
http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics_qa.html#q26 あたりもご参照。

DrMagicianEARL氏(内科医師)の所見:
甲状腺癌①:福島で8万人にスクリーニングかけて甲状腺癌が1人見つかりました。さて、非医療者で怖がってる皆さん、怖がる前にまず手始めに有病率を調べましょう。ネットで簡単に検索できます。まず手始めに甲状腺癌の有病率を調べて自分の目で確認しましょう。1000人に1~3人です

甲状腺癌②:実際には日本では1000人に1-3人が甲状腺癌という数字はむしろ少ないくらいで、死後病理解剖ではその10倍以上発見されます。日本の甲状腺ラテント癌微小癌の頻度は10~28.4%と報告されています。甲状腺癌は放射能に関係なく非常に多い癌です

甲状腺癌③:ただし、甲状腺癌は20~50歳代に多く、今回は非成人が対象の調査ですから必ずしも1000人に1~3人という数字は当てはまらないかもしれません。では次に10代のデータを調べましょう。

甲状腺癌④:日本医大の論文や国立癌研究センターのデータがネットで検索できます。これを見るとだいたい10歳代の甲状腺癌は10万人に1人くらい。今回は積極スクリーニングなのでやや増えるため8万人に1人は妥当な数字でしょう

甲状腺癌⑤:子供は癌の成長が早いというのはあくまでも悪性腫瘍の一般論です。甲状腺癌は例外的にむしろ逆で若年発症ほど予後が良好です。未分化癌や扁平上皮癌というレアなタイプ(放射能被曝では生じない)を除けば甲状腺癌の5年生存率は良性腫瘍なみに高くなります

日本医科大の論文国立がん研究センターのデータを御参照下さい

甲状腺癌⑥:「1万人に1人?発症率はもっと少ないぞ」というツッコミがあったので追記です。ここで私が提示しているのは有病率であり発症率ではありません。ある一点の時期における甲状腺癌罹患者数結果を発症率と比較してはいけません。誤解のもとです

甲状腺癌⑦:再度補足。有病率≠罹患率(発症率)です。有病率はその時点での患者の割合です。罹患率は一定期間に対象の病気に新たにかかった患者の割合ですから追跡を行わなければ分かりません。つまり今回のような一時点調査では有病率を見ていることになり、罹患率とは比較できません(引用者注:放射線影響研究所「有病率」「発生率」の解説を参照)

:10万人に1人というのは罹患率になりますので御注意を。ここで重要なのは有病率です(今回の8万人調査も有病率調査です)。10歳代の甲状腺癌はまず死にませんから、10年間の累積になる、すなわち単純計算で10倍の1万人に1人というのが有病率になります

付(上記に対する質問):そのデータのリソースを教えてくださいませんか?添付の国がんのデータおよび鈴木先生のレビューでは罹患率で100万分の2なのだけれど。

付(上記への回答):その癌研の10歳代罹患率(0.9758)から10年累積を計算し(10倍)、予測有病率が分かります。罹患率が有病率を上回るのはすぐ亡くなるかすぐに回復する病気の場合です。甲状腺癌はすぐに消えませんが小児では特に予後の良好な疾患ですから有病率が上回ります

甲状腺癌⑧:数値訂正です。途中1万人という表記がありましたが10万人の間違いです。甲状腺癌④の数値が正しいです。

付(上記に対する質問):もう一つ。小児ということで、10歳以下を入れると罹患率はさらに減るのは示したグラフの通りです。10歳台で比較ではなく、小児で比較していただけると有難いのですが。

付(上記への回答)http://t.co/bNTfrAFJはどうですか?

甲状腺癌⑨:竹野内真理氏(@mariscontact)は「甲状腺にヨウ素と共に溜まるセシウムの多い福島に子供がもうこれ以上居てはならない」とツイートしており、同様のツイートをしているジャーナリスト等のアカウントも多く、ここには誤解があります。次に理由を説明します

甲状腺癌⑩:まず、甲状腺にセシウムが溜まるか否か。バンダジェフスキーの論文があります(Swiss Med Wkly 2003;133:488)こんな重要な調査結果をなぜNEJMやJAMAなどの五大医学誌クラスに投稿しなかったのか?問題は解析法です

甲状腺癌⑪:バンダジェフスキー論文は1997年にベラルーシのゴメルで死亡した子供の遺体から標本をとってセシウムを計測し、その結果をだしたものです。共同著者はおらず、単独著者の論文。掲載誌はマイナーな雑誌でインパクトファクターは約1。

甲状腺癌⑫:バンダジェフスキー論文は統計学的に極めて不可解な解析をしており、対照となるK40の値すらなく、その検査機能の正確性を証明することもできていません。論文としての質は低く、メジャー誌には査読でrejectされた可能性があります

甲状腺癌⑬:バンダジェフスキー論文のデータには蓄積するセシウムの絶対量が最大となる骨格筋が調べられていません。ただ心筋が調べられているのである程度内部被曝の指標にはなります。この心筋より有意にセシウムが蓄積するのは膵臓のみです。甲状腺には有意差はありません

甲状腺癌⑭:また、最も高い甲状腺の値1200Bq/kgは、この論文の表に一致しません。いったいどの集団のデータなのか?捏造の疑惑すらでるわけです。さらには子供の年齢の定義もなく、最終的に何例で測ったのかも記されていません。これではメジャー誌にrejectされて当然です

甲状腺癌⑮:以上からバンダジェフスキー論文は査読の時点でメジャー誌にrejectされて当然なレベルで、「とりわけ甲状腺にセシウムが有意に蓄積するとは言い難い」となります。竹野内真理氏をはじめとするジャーナリストには査読能力がないようですから鵜呑みにしちゃったわけです

甲状腺癌⑯:仮に甲状腺にセシウムが蓄積したとして甲状腺癌は起きるのか?これについてはバンダジェフスキー論文と同じベラルーシでの調査結果J Radiol Prot 2006;26:127を見るとセシウムでは甲状腺癌が引き起こされないことは明白です。

甲状腺癌⑰:この論文では小児甲状腺癌は事故4年後から増加し、事故後9年後にピークとなり、事故16年後には事故以前の状態に戻っています。セシウム半減期は30年ですから、セシウム蓄積ではこのような結果は起こりません。同様に低線量被曝も原因にはならないことが分かります

甲状腺癌⑱:甲状腺癌の原因になるのは原発事故直後にでた半減期わずか8日のヨウ素(I131)による被曝です。よって竹野内真理氏(@mariscontact)が主張する「甲状腺癌が危ないから子供は福島から離れて」は“甲状腺癌リスクの観点”では意味がありません。

甲状腺癌⑲:福島原発の事故直後の被曝によりI131で今後小児甲状腺癌が生じる可能性は否定できないが、セシウムや低線量被曝と甲状腺癌の関連性が否定されている以上、I131が消失したであろう現在の福島には放射能関連による新たな甲状腺癌のリスクはない、という結論になります。

*さらに詳しくはこちらをご参照ください。
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