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先のエントリでは共産党の「賃上げターゲット」論をご紹介しましたが、その論とも関連して今度はある農学生命科学研究者の「『ロスジェネ』の味方となる政党待望論」もしくは「『非正規雇用全面的禁止』規制論」をご紹介させていただこうと思います。この研究者の底冷えするような雇用不安と非正規雇用の拡大への怒りはほんものです。ほんものだからこその「非正規雇用全面的禁止」規制論です。
 
この研究者にあるのは経済学者の視点ではなく、マクロもミクロも関係のない生活者としての視点です。それで十分ではないでしょうか。生活者としての視点こそが真に経済学的な視点、といえなくもないのです。いや、そういうべきでしょう。日本の太平洋戦争後、すなわち敗戦後初(1946年)の東京の宮城前広場に50万人が集まったいわゆる食料メーデ(戦後第1回目)のスローガンも働けるだけ喰わせろ」「米よこせというものでした。考えてみれば(いや、考えるまでもなく)「日本の歴史上最大の民衆運動」といってよいあの1918年の米騒動も文字どおり米よこせという大衆の運動でした。

ゆふいん文化記録映画祭 
「米騒動」と「白虹事件」(1918年)とのかかわりについて熱を
込めて語る筑紫哲也さん(後ろ向き)。左隣は『水俣』の映画
監督の土本典昭さん。ゆふいん文化・記録映画祭(2006年)。
       (撮影/由布院・亀の井別荘 中谷健太郎さん)

「経済」というのは私たちの生活のことなのです。

以下、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授の川島博之さんの「『ロスジェネ』の味方となる政党は現れないのか 規制緩和では豊かになれない」という論攷のご紹介です(ところどころに私の注を入れています)。

「ロスジェネ」の味方となる政党は現れないのか
規制緩和では豊かになれない

(川島博之 JBpress 2013.02.12)

1月31日、厚生労働省は2012年の給料(残業代やボーナスを含む額)が月額にして31万4236円になり(引用者注:「へぇ、平均給料がこんなにもあるの」と思った人も多いでしょう。ここになんらの注もないのはこの記事の筆者が東京大学大学院准教授という恵まれた地位にあることと関係なくはないでしょう)、これは1990年以降の最低であると発表した。ここまで賃金が低下した理由として、賃金が安いパートの割合が増えたことを挙げている。パート労働者が全体に占める割合は28.75%にもなっている。

一方、2月1日、総務省は製造業就労者人口が1000万人を割り込んで998万人になったと発表した。製造業就労者が全労働者に占める割合は16%でしかない。この厚生労働者と総務省の発表は無関係のようにも思えるが、実は深く関係している。

日本の産業構造は大きく変化している。高度経済成長を支えた製造業はアジア諸国の追い上げに苦しんでいる。韓国、台湾、中国をライバルだと思っていたが、昨今はASEAN諸国の製造業も急速に発展している。もはや、よほどのハイテク製品でない限り、日本製が安価なアジア製に太刀打ちすることは難しい。そのことは、パナソニックやシャープの苦境がよく表している。

製造業はリストラに忙しい。その結果、職を求める人々はサービス業に流れている。バブル崩壊以降に就職した、いわゆる「ロストジェネレーション」(ロスジェネ)(引用者注:私の息子、娘たちも「ロスジェネ」世代です。長男はいわゆる某一流国立大学を一応卒業しましたが、職がなくいまはお菓子屋の店長をしています(もちろん、お菓子屋が悪いというわけではありませんし、このお菓子屋で出会いがあっていまは夫婦になっていますからそれはそれでいいのですが)。末の娘も大学を出て3年になりますがいまだに就職浪人の身の上です。長女だけは一応新聞社に受かっていまは新聞記者をしています。子どもたちの中では一番高給取りです)の多くはサービス業で働いている。

そのサービス業には非正規雇用が多い。チェーン店化した飲食業やコンビニはバイトによって成り立っている。そしてサービス業でパート労働が一般化したことによって、平均給与が下がり続けている。これが、厚生労働者や総務省の発表したデータの根底にある現象である。

規制緩和で非正規雇用が増え、給与が下がり続ける

そんな日本で、アベノミクスが進行している。アベノミクスでは第1の矢が大胆な金融緩和、第2の矢が大幅な財政支出、そして第3の矢が新しい産業の創出である。

ここで気になるのが第3の矢だ。安倍政権は大胆な規制緩和によって新たな産業を作り出そうとしているが、それはできるのであろうか。

規制緩和による産業の創出は小泉政権でも言われたことであるが、いまさら言うまでもないが、小泉改革によって新たな雇用が生み出されることはなかった。おそらく、規制緩和によってハイテクを用いた未来産業が作り出されることを夢見ていたのだろうが、そのようなことはなかったし、今後もないだろう。

それにもかかわらず、新自由主義が金科玉条に掲げる規制緩和を政策の中心に置いていると、多くの労働が正規から非正規に換わってしまう。そして非正規雇用が増えるために、給与が下がり続ける。

そのような状況を見るにつけて、非正規雇用を全面的に禁止する強い規制を導入する必要がある(強調は引用者)と思う。

もちろん、そんな規制を行えば、経営者は雇用を減らすから、失業率を一気に高めることになる。それは、経済学を知らない者の暴論だとの批判があることは十分承知している。だが、政治は経済学とは異なる。学問的には間違っていると言われても(引用者注:私は「学問的」にも間違っているとは思いませんが)、自己の利害を強く主張することが政治である。

ロスジェネが低賃金で働くのは老人のため?

既にロスジェネは4000万人にもなっている。そして、今後ますます増え続ける。彼らの多くはパートで働き、また、たとえ正規社員になっても、中高年に比べて安い給料で、こき使われている。

本来、そのようなロスジェネの意見を汲み上げて、過激と言われようが、パートの禁止や同一労働同一賃金を党の綱領に掲げる政党が出現してもおかしくない時期に来ている。しかし、ロスジェネが政治に関心が薄く投票に行かないことを背景にして、これまで、ロスジェネの利害を代弁する政党が生まれることはなかった。

自民党は経団連や農民を支持基盤の中核に据えている。一方、民主党は連合に代表される労組を支持基盤にしている。自民党は保守党であるから、経営者の立場に立って規制緩和を推し進めることは理解できる。しかし、本来、社会民主主義的な政党であるはずの民主党が公務員労組や大企業の労組の立場に立ってしまい、 ロスジェネの待遇改善に興味を示さなかったことは、まことに残念なことであった。

どちらの政党の支持者も老人が多いから、ロスジェネをパートとしてこき使うことによって、自分たちが利用するファミレスやコンビニの物価が安くなればよいと思っている。老人が年金を使い切ることなく、その多くを貯蓄に回すことができるのは、低賃金で働くロスジェネがいればこそである。

そして、老人の貯蓄が銀行預金を通じて国債を買い支えているのであるから、ロスジェネが低賃金でこき使われていることは、財政が破綻しない理由にもなっている。

新自由主義を掲げるみんなの党はパートの立場に立つ政党ではない。それはパートを使って事業を立ち上げることができる頭のよい強者のための政党である。日本維新のイデオロギーもみんなの党に近い。

規制緩和が日本社会に与える負の側面

規制緩和を進めて、新たなサービス業が起きると、英雄になれるほんの一握りの経営者と、多数の非正規雇用が生まれることになる。それによって、ますます低賃金でこき使われる若者の数が増えるから、消費が伸びることはない。出生率も改善されない。多くの人は、規制緩和が日本社会に与えている負の側面を軽視しすぎている。

そもそも政治運動とは非理性的なものである。資本主義に追い込まれて、どうしようもなくなった労働者が社会主義政党を作った。当初、社会主義政党は非合法とされて弾圧されたのだが、それは20世紀の歴史を大きく動かすことになった。

そろそろ、ロスジェネを支持基盤にした政党ができてもよい頃だと思う。その政党は、全ての労働者を正規雇用にしなければならないと主張する。すぐに正規雇用にできないのなら、パートにも失業保険を、健康保険を、大企業や公務員並みの退職金や年金を、同一労働同一賃金は先進国の常識だ、と強く主張する。

労働条件に関しては、徹底的に規制強化だ。そして、20世紀の革新政党が掲げていた護憲や反原発、反米にはこだわらない。

21世紀の日本には、そのような政党が絶対に必要である。ロスジェネを支持基盤にした政党がないために、昨今、政治に関する議論が空を切っているのだと思う。

注:「福祉のパラドックス」とは「本当に困っている人」だけを救済しようとする福祉は、「本当に困っている人」さえも救済できなくなるというパラドックスのことをいいます。

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