帯広畜産大学教授(哲学・セクシュアリティ論)の杉田聡さんが『逃げられない性犯罪被害者―無謀な最高裁判決』(青弓社)という新著を出版されました(2月16日発売)。私はこの新著をご紹介したいわけですが、その理由は下記の杉田さんご自身の自著の自薦の文をお読みいただければご了解いただけるものと思います。私はただ同著書の重要性を思って紹介するのみです。

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(杉田聡著 青弓社 2013年)

委細は下記のとおりです。

帯広畜産大学・杉田聡(哲学・セクシュアリティ論)と申します。

ご承知のように、一昨年7月25日、ある強かん事件に関する第一審・控訴審有罪判決を最高裁がくつがえし、無罪判決を出しました。その2年前にも、「痴漢」事件で同じく逆転判決が出されましたが、2度つづけて性犯罪事犯に対して最高裁が逆転判決を出した以上、これがその後の性犯罪裁判に対して及ぼしうる影響は甚大です。(実際その影響はすでにじわじわと出ていると判断されます。)

しかし、子細に検討してみれば、この最高裁判決はきわめて無謀なものです。そこでは、性犯罪についてほとんど何も知らない男性裁判官が、性犯罪被害者の各種証言や、性犯罪に関する研究者の地道な研究成果を、「経験則」の名の下に一蹴して、個人的な、きわめて限られた経験・性認識を絶対視しています。以下の書名にもありますが、何より、性被害にあっても女性は逃げられると前提してかかり、それを含むいくつもの「レイプ神話」を下に、この強かん事件での女性の供述には信用が置けないと、最高裁は判断しました。

この無謀な判決を批判的に検証する本を直ちに出したいと思いましたが、実際に出版できるまでに紆余曲折がありました。しかしようやく2月16日付けで出版されました。これは『逃げられない性犯罪被害者―無謀な最高裁判決』という本で、青弓社から出されました。価格は2000円(+税)です。

私が本文を執筆し、私ではとうてい不十分な専門的知識を補ってもらうために、4人の専門家(弁護士、犯罪心理学者、精神科医、産婦人科医)にコラムを執筆いただいております。

目次は以下の通りです。

すでに判決が出されてから1年半がたちますが、こうした無謀な判決を「判例」とさせないためにも、ぜひとも皆様にご関心をお持ちいただけるよう、お願いいたします。
2・14 杉田 聡

『逃げられない性犯罪被害者――無謀な最高裁判決』
                        (杉田聡著 青弓社 2013年)

目次

序章 近年の性暴力事情と逆転判決の衝撃
1 近年の性暴力とその根絶へ向けての取り組み
2 二つの事件―「09年判決」と「11年判決」
3 本書の内容

第1章 逃げられない被害者
1 被害者は逃げられないことが多い
2 逃げられないのは暴力のためではない―被害者が陥る無力感
・コラム なぜ被害者は逃げられないのか:1―ショックと無力感
桐生正幸
・コラム なぜ被害者は逃げられないのか:2―精神医学による統計研究
橋爪(伊藤)きょう子
3 被害者の陥る心理状態―離人症・現実感の喪失
・コラム 被害のさなかに起こる離人感と現実感の喪失
橋爪(伊藤)きょう子
・コラム 強かん犯の犯人像―犯罪者プロファイリングから
桐生正幸
4 周囲の通行人はどれだけ力になるか
5 男女間の関係にはよけい介入できない
・コラム なぜ目撃者は助けることをためらうのか―援助行動の要因
桐生正幸
6 口封じ―加害者がとる策略:1
7 加害の隠蔽―加害者が取る策略:2
・コラム 傷つけないように「配慮」する加害者
堀本江美

第2章 身体に痕跡は残るのか
1 被害者に残る痕跡―誤解を生む「強(forcible)かん」イメージ
2 無抵抗・いいなりに状態で膣に傷がつくのか
・コラム かならず膣などが傷つくのか
堀本江美
3 精液はかならず残るのか
・コラム かならず膣内に精液が残るのか―消化器官としての膣
堀本江美
4 加害者・被害者の身体位置の問題

第3章 通報と告訴――なぜためらうのか
1 千葉事件に見られる被害者の行動・周囲の行動
2 なぜ通報・告訴をためらうのか:1―「汚れた」「恥ずかしい」という思い
・コラム 被害者はなぜ自分を責めるのか
桐生正幸
・コラム 被害女性は誰に配慮するか、何を恐れるか―被害者との面接から
橋爪(伊藤)きょう子
3 なぜ通報・告訴をためらうのか:2―脅迫と被害者が陥る無力感
・コラム 被害者が陥る無力感―被害者の心理的ダメージと通報前行動
橋爪(伊藤)きょう子
4 なぜ通報・告訴をためらうのか:3―警察・病院などでの検査
・コラム 検診時に見る被害者の心とからだ
堀本江美
5 なぜ通報・告訴をためらうのか:4―加害者の存在への恐怖、加害者による報復の恐怖
6 なぜ通報・告訴をためらうのか:5―セカンドレイプの恐れ、家族に知られる恐れ

第4章 記憶と神話――被害者が陥る心理、被害者に対する予断
1 供述の変遷を問題視する最高裁判決―これが「疑わしき」とみなす要因になるのか
・コラム 被害者は被害事実をどれだけ正確に記憶できるか
桐生正幸
2 人はどれだけ記憶できるか―被害事実が奪う記憶力
・コラム なぜ供述内容が変化するのか―急性乖離症状と心因性の健忘
橋爪(伊藤)きょう子
3 まかり通るレイプ神話―判決は被害女性の職業に予断を持たなかったか
4 被害者の「落ち度」は問題にならない―全裸で歩いても被害者は悪くない
5 「落ち度」と貞操観念にこだわる裁判官
6 女性がセックスできるのは特定のもしくは特定のタイプの相手―京教大事件に関する京都地裁判決
7 捜査・公判過程での被害者の扱われ方―依然として残る被害者軽視
・コラム 被害者は警察・検察・裁判所でどう扱われるか
養父知美

第5章 11年判決の基本原理――「経験則」と「疑わしきは被告人の利益に」
1 「経験則」と自由心証主義
2 「疑わしきは被告人の利益に」と強かん事件
3 法律審としての最高裁と無謀な「自判」―判例とはしえない最高裁判決
・コラム 裁判官は何によって心証を得るのか―書類審査が欠落させる心証形成
養父知美

第6章 司法官の性意識を生むもの
1 裁判官は性犯罪について学んできたのか―司法研修制度の問題点
2 特殊性が理解されないまま一般犯のように扱われている―男の常識への固執
3 どれだけ強かんが独自の犯罪として扱われてきたか―法学書・判例に見る強かんの理解
・コラム 性犯罪裁判の特異性―「物証」や「目撃者」が乏しい理由
養父知美
4 裁判官はどこから性情報を得るのか
5 市民生活のない裁判官
6 最高裁判事とは誰なのか―最高裁判事の任官システム
・コラム 最高裁判事とはどのような人か
養父知美
7 裁判員裁判への影響は?―判決を誘導する裁判官
8 強かん事犯では裁判官は無罪へと誘導するおそれがある
9 専門的な検察官・裁判官をもつ韓国の事情
・コラム 韓国の性犯罪と近年の取り組み
養父知美
10 訴えに対する警察の対応―近年、制度的な取り組みは進んだというが
・コラム 警察ではどのような教育が行われているか
堀本江美

終章 改革そして展望―性犯罪のない社会を
1 司法改革
2 被害者救済制度の改革
・コラム 性暴力被害者支援センターの役割―「ゆいネット北海道」の事例から
堀本江美
・コラム 生涯にわたる苦しみ―支援センターに求められる要件
橋爪(伊藤)きょう子
3 加害者更正プログラム・被害防止方法
・コラム 認知行動療法プログラムの概要と動向
桐生正幸
4 全般的な法的・破壊的改革
・コラム 被害者の性的経歴と「強かん被害者保護法」(Rape Shield Law)
養父知美
・コラム 親告罪の問題点
養父知美

11年最高裁判決判決文
あとがき
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