自民党のホームページにいまを時めく(テレビ番組などで人気者の意)「尾木ママ」こと教育評論家の尾木直樹氏が同党教育再生実行本部主催の初会合で講演したことが報じられています。

その自民党のホームページの記事によれば同党教育再生実行本部主催の初会合での尾木氏の講演内容は次のようなものであったようです。
 
「尾木教授が講演。尾木氏はいじめ件数が減少しない理由について、「加害者の罪の意識がまひしており教師が指導しても効果がでない」と指摘し、「心のノート」を使用した道徳教育を充実させる必要性(強調は引用者。以下同じ)を語った。/また、わが党の教育改革については、『スピードが速くパンチ力がある』と評価。そのうえで、『いじめ防止対策基本法案は可能な限り早く成立させてほしい」と要望し、「(同法案の成立により)社会全体でいじめ問題に取り組む体制を構築すべきだ」と訴えた。」(自民党ニュース「政府・与党一体で教育改革 教育再生実行本部が初会合」 2013年1月17日
 
この尾木氏の講演内容について子どもと教科書全国ネット21俵義文さんが先日教育関係者の多いメーリングリスト上で次のような警告を発していました。
 
「安倍政権の『教育再生』政策の基をつくった、自民党教育再生実行本部は、本部長の下村博文氏が文科相になったので、基本政策分科会座長だった遠藤利明議員が本部長になり、1月17日に安倍政権後の初会合を開催しました。/その会合で、『尾木ママ』こと尾木直樹氏が講演しています。/下記の自民党のHPによると、尾木氏は次のように語ったということです。/(記事の内容は上記と同じなので省略)/これが事実だとすれば、尾木氏までが自民党・安倍政権の『教育再生』政策にすり寄ったということで、大変重大であり、憂慮すべきことです。/無視できない情報なのでお知らせします。」

ところで尾木氏はどこかでこの俵氏のメーリス発言を知ったのでしょう。自身のブログ上でこの件について次のように反論しています。
 
「びっくり!!

・尾木氏までが自民党・安部政権の教育再生政策にすり寄ったということで、大変重大であり、憂慮すべことで、無視できない情報なのでお知らせします。
子どもと教科書全国ネット21/

こんなメーリスが送信されているようです。/読んだ人はびっくりしています。/当の私はもっと驚いています/第一に、こんな内容話すわけがないし、講義内容の確認もしないで主催が/載せるとは無責任甚だしい。/第二に、いかに引用とは言え、私への確認もしないで、メーリスに流すとは/これまたいかがなものか。ネットにアップすれば、世界中に次々流れること/ご存知ないのでしょうか!? いかにも軽率ではないでしょうか!?/私は送信者の名前は伏せます。

尾木ママブログの皆さん/ネットの噂は恐ろしいですね…/なりすまし被害には会いましたが、これもそんなに私を信用していないのか。/どうして事実だとすればー情報を流すのか。私は悲しくなります。/私は今日初めて知りましたので、当然ですが自民党に対して、抗議、訂正を求めます。/おかしいな?あの人がいつもと反対のこというかな?/って思ったら/皆さん/その情報/本人確認もしないで流しますか?/当日はメディアも詰めかけておられました/映像も配信、TVカメラも回っていました。/こんなに我田引水の記事はどこも書いていませんよ。/だから、私にとっては青天の霹靂です。

まぁ~せっかくいじめ問題の前進目指して、あらゆる人々と考え合おうとしているのに…/背後からバッサリ切られた心情です。/悲しくさみしいですね。/でも大津の子どもたちも/入試直前苦しい中奮闘しています!/尾木ママも一緒に頑張りますよ」(尾木直樹オフィシャルブログ 「事実確認してから情報流すべき」 2013-02-10)
*現在の文面は上記とは若干異なります。少し改稿したのでしょう。

さらに以下は、その尾木氏の反論への昨日10日付けの俵義文氏の再反論的コメントです。
 
「俵義文です。昨日、私が流した尾木直樹氏が自民党教育再生実行本部で講演した、/という情報について、尾木氏がブログで講演内容が事実ではないと書いています。/それを以下に紹介します。/(省略)/なぜ、本人に確認しないで流したのかという問い合わせをいただきましたので、/それについて、私の考えを以下に述べておきます。/私は尾木氏とは直接の親交はないので連絡先も知りませんので、/本人には確認していません。/私も自民党の記事を見たときにはびっくりしました。/自民党のHPは1月17日の記事であり、すでに3週間以上たっています。/もし、事実でないのなら、すでに尾木氏が自民党に抗議して削除されているであろう、/3週間も載っているというのは、事実と考えざるを得ない、という判断です。/それでも、私は、コメントの最初に『これが事実だとすれば』と書いています。/尾木氏のブログでは、なぜか、この『これが事実だとすれば』は引用されていません。」

さて、尾木氏は上記の自身のブログで「こんな内容話すわけがない」と自民党のホームページに掲載されている同党教育再生実行本部での自身の講演の内容を否定した上で「当然ですが自民党に対して、抗議、訂正を求めます」とも記していますが、「抗議、訂正を求め」るまでもなく下記のニコニコ動画のサイトに当日の尾木氏の講演の模様がアップされており、私たちは尾木氏と俵氏のどちらの言い分が正しいのかを検証することができます(ニコニコ動画を視聴するためには登録(無料)が必要です)。

H25/1/17 自由民主党【教育再生実行本部 いじめ問題対策分科会】(ニコニコ動画 2013年01月17日投稿)
 
その動画を見るかぎり上記の自民党のホームページに掲載されている尾木氏の講演内容に関する記事に粉飾はありません。尾木氏は同講演でたしかに自民党の教育改革について「スピードが速くパンチ力がある」(19:02頃)と評価していますし、「いじめ防止対策基本法案は可能な限り早く成立させてほしい」(28:42頃)とも要望しています。また、「『心のノート』を使用した道徳教育を充実させる必要性」(34:55頃)についてもその旨語っています。この部分の尾木氏の発言は次のようなものです。
 
「個々の教育の日常化ということ。心の教育、『心のノート』を使ったりとかそういう特別な時間も大事です。ぼくはいま道徳教育を大学で講義している専門家ですけれども道徳教育を世界で最も重視しているのは日本だと思います。直接道徳やそれからすべて、総合主義ともいいますけれども、すべての生活の中でも重視している国はないですね。日本だけなんですよ。」(34:55頃~)

講演の全体を聞いてみて、尾木氏が誠実に語っていることを私は否定しませんが、「心のノートについての認識は尾木氏は浅いようです。尾木氏は「心の教育」の重要性ということと、「『心のノート』を使用した道徳教育」の違いについて果たして認識しているのだろうかという疑問を持ちました。その違いを尾木氏は明確に認識していないのではないか。尾木氏はおそらく自民党教育再生実行本部での講演について次のように思っているのでしょう。「自分はくだんの講演では『心の教育』の重要性を語ったのであって、『心のノート』使用発言はその教授方法のひとつの応用としての例示でしかない」、と。そうした尾木氏の「心のノート」問題の非認識が自身のブログでの「こんな内容話すわけがない」発言になっているのでしょう。

私たちは尾木氏の教育思想をもう少し注意深く注視する必要があるように思います(私にとっては尾木氏が自民党の教育再生実行本部の初会合に出席し、同党の教育改革を「「スピードが速くパンチ力がある」と評価している時点ですでにアウトですが)。「いじめ」問題について一応理のある発言をテレビや雑誌でしているからといって(この点についてはいわゆるリベラル・左派の側が付和雷同的な無節操さで尾木氏がテレビ、雑誌などでもてはやされる時流に乗って彼を同じくもてはやしてきたことにも大きな責任があります。たとえばしんぶん赤旗日曜版教育評論家 尾木直樹さんに聞く」2012年8月5日号)、また30年の教員歴があるからといって、なにゆえに教育基本法は「公権力からの独立」(「教育は不当な支配に服さないこと」)を謳っているのか(現行法16条)。また、謳ってきたのか(旧法10条)。その精神を十分に理解しているとは限らないのです。尾木氏は「こんな内容話すわけがない」と否定する前に自身の考える「心のノート」問題についてのその認識、あるいは非認識を率直に語るべきでしょう。それが「現場」の教育をよく知る者の態度というべきものではないでしょうか。

なお、「心のノート」についてはこれまでも次のような批判がありました。

「心のノートは修身教科書の復活・現代版だ」「画一的・宗教的『徳目』による『心の支配』」「国家に忠実な『日本人』を作るための修身教科書」「差別・選別教育徹底のための道具」「女の子キャラクターが男の子キャラクターと比べて可愛らしく優しく語りかけたり、リボンを付けている点について『ジェンダー・イメージを固定化させる機能をもひそかに果たす』」(三宅晶子『「心のノート」を考える』p66)などなど。(ウィキペディア「心のノート」、「戦前の国定『修身』教科書復活につながる=文科省『心のノート』
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