革新政党の不振と衰退は目を覆うばかりだ」という広原盛明さんの論に関して私は最近2本の記事を書きました。1本目は広原盛明さんの論自体の紹介。2本目はその記事につけた私のささやかな感想に対する応答へのこれもささやかな返信として。

その2本の記事に関して、進歩的なある音楽家かつ研究者から次のような問い(かけ)がありました。

右左という議論を超えて国益、がテーマになるべきではないですか。革新政党、の議論に抜けているのは、特に青年層を中心とした目先の尖閣・竹島(国防・外交問題)とか、失業、非正規雇用といった経済の逼迫した問題ではないでしょうか。最近、「右・左Watching」で、「便所の落書き」=2ちゃんねるの若い人達の書き込みを見ていますが、それはそれは苛烈です。苛烈であるということは、「自分たちの声を聞くものがいない」というフラストレーションがそれだけ高いという事です。緑の党にしても、日本未来の党にしても、そういう若い、しかも弱者である人達の声を聞き、心を掴むメッセージを発しているでしょうか。疑問です。それに比して、保守系のメッセージはシンプルかつ威勢がよく、簡単に支持を得られるように思います。(こちらに)現在ネットで普通の日本人青年層に支持を集めている、アメリカの動画を張ります。これは、よくできたプロパガンダビデオとして注目に価すると思います。こういうものが、脱原発の党にも必要だったのではないでしょうか。

上記の問いの中でいう「アメリカの動画」とは次のような動画です。

「日本の青年にウケている一人のアメリカ人」
●アメリカンドリームを追求する生粋のリバタリアン(を演じている)、テキサス親父に見る「アメリカ右派」の健全な建設的精神と、それに魅かれる日本人青年たち
テキサス親父 尖閣を語る

さらにその動画には以下のようなコメントが付されていました。

このおじさんの動画サイトは人気がありますね。ヤラセっぽい雰囲気満載ですが、やたらと日本びいきで、「自虐史観」とやらで自信を失った、と感じさせられている青年の皆さんにとてもウケているのです。/リバタリアンとかマルクス共産党宣言とかいう言葉の意味も知らない日本の若者が、欧米の右翼・左翼の概念を理解しないまま、どうしてトニーさんの動画に魅かれるのか、研究してみるのもひとつの手でしょう。/最初、CIAの対日戦略の一環かと思いましたが、日本側の保守系メディアとか、右派の関係者の一部が「互恵関係」で動いている、という感じに(表面上は)見えます。/今回の選挙で、私は若い人達が少なからず自民党に投票したのではないかと見ています。「便所の落書き」=2ちゃんねるの、安倍さん万歳板などをWatchingしていますと、かなり苛烈です。どうも、彼らの中には、「就職はなく、あったとしても非正規雇用。自分にはやる気も能力もあるのに機会が与えられないのは、仕分けばっかりするサヨクの民主党のせいだ」「尖閣・竹島が脅かされているのに九条なんてアホなもんのせいで攻撃もできない」という論理があるようです。こういう、青年層の気持ちを汲み取れない政治家は、参院選でも勝てないように感じます。

上記のある音楽家の問いとコメントにはいまの日本の、とりわけいまの日本の若者たちの(もちろん、ここに「ふつうの市民たち」をつけ加えてもいいのですが)「右傾化」傾向に対する深い懸念と、その若者たちの「右傾化」傾向を抑止することができずに逆に結果として「右傾化」の方向に追いやっているかのような日本の「左翼運動」的なものに対する根底的な批判――仮にいまの日本の若者たちの「右傾化」傾向を「やるせない右傾化」と名づけるならば、その若者たちの「やるせなさ」を自らの「やるせなさ」として悲しみ、悼もうとする共感的で心情のこもったまなざし(ある音楽家の表現によれば「寄り添う感じ」)の不足――の指摘があります。私はその音楽家の現状認識と視点と指摘に賛意を表します。

さはさりながら、その音楽家の指摘にもある欠落した認識、欠けている視点があるように私は思います。それは下記でも紹介する「改憲潮流と右翼イデオロギーの現在」という論攷の中で太田昌国さんが指摘している視点です。

太田さんはその論攷の中で次のように書いていました。

「右翼イデオロギーの現在」に行き着くためには、いくらか長い射程をとって考える必要がある。(略)日本における「右翼イデオロギーの現在」を見るうえで、一九八八年の天皇「下血」騒動に始まり、東西冷戦構造の消滅・ソ連東欧社会主義圏の崩壊に象徴される一九九〇年代初頭までの内外状況を視野に入れておくこと――進歩派と左翼がなすすべもなく立ち竦んでいた時期に、右翼は、国内と世界における状況を見極め、実に巧みにこれを利用したことを見ておくことが必要だろう。/右翼の台頭が、進歩派や左翼の「立往生」や「沈黙」と背中合わせであることを自覚しておくことは、こうして、決定的に重要なことなのだ。(「光景1」)

「右翼の台頭が、進歩派や左翼の『立往生』や『沈黙』と背中合わせであ」ったという事実・・・。このことはなにを意味しているのか。いたずらに「やるせない右傾化」の心情に「寄り添う」ことの危険性、危うさ、脆さを意味していないか?

私はこの音楽家の問いに対して次のような返信を書きました。

Mさん、コメントありがとうございます。

おっしゃっておられることはよく理解できます。

これまでも若者層、またふつうの市民の「右傾化」については多くの人が危惧を表明してきました。その「右傾化」の本質の分析についても多くの参考にするべき論も発表されています。

私も3年ほど前にこの問題について下記のような記事を書いたことがあります。

「在特会」「行動する保守」「草の根保守」について分析したいくつかの記事(弊ブログ 2010.03.17)

さらに以下はその記事の中で紹介している評論記事及び論攷ですが、その各記事及び論攷の指摘はいまでも古びていないように思います。ご参照ください。私たちがこの問題を考えていく上での手がかりを与えてくれそうな記事及び論攷だと私は思っています。

改憲潮流と右翼イデオロギーの現在(太田昌国 現代企画室「状況20~21」 2009年9月15日)
「アンチ左翼」意識で結ばれる“草の根保守”(藤生京子記者 朝日新聞文化欄 2002年6月19日)
ルポ 新「保守」(上) ●右翼超える「市民の会」(朝日新聞マイタウン愛知 2010年3月15日)
ルポ 新「保守」(中) ●ネット発 危うい動員(朝日新聞マイタウン愛知 2010年3月16日)
ルポ 新「保守」(下) ●不安の時代に根張る(朝日新聞マイタウン愛知 2010年3月17日)

なお、抽象的な言い方になって恐縮ですが、かつて私は庶民的なるもののバイタリティーとダイナミズムについてE.フロム(ドイツの精神分析学者)を援用して次のように書いたことがあります

瞋恚(しんい)や時代の狂気に彼女たち(彼ら)はなす術を知らない。庶民的なるものの負の側面、少なくともそのひとつがここにある。私は暗然とせざるをえなかった。/しかし、その庶民的なものは、私たちの内面の一部であり、父であり、母である。そのバイタリティー(生命力)は、しばしば歴史のダイナミズム(変革)の主体ともなりえた。そのとき、なにがどのように変容したのか。/変容の条件は、庶民性そのものの中にある。かつてユダヤ人精神分析学者のE.フロムは、その庶民性を「社会的性格」と名づけた。ドイツの労働者階級や下層中産階級の人びと、いわゆる庶民が、なぜナチズムのイデオロギーを支持し、自発的に服従したのかを問う中で、彼は「社会的性格」という概念に想到したのである。フロムによれば、社会的性格はひとつの集団の大部分の成員がもっている性格構造の本質的な中核であり、それが社会制度の期待と矛盾するとき、社会制度に対する反発と対立を引き起こし、社会変動の起爆剤となる(『自由からの逃走』)。庶民性はいつの場合も両刃の剣なのである。

私のある音楽家への返信は上記で終わっているのですが、実は上記引用の後に私の文は次のように続いています。

ひとつの例。ペリー浦賀来航の年嘉永6年(1853)、わが国の内側からも徳川封建支配の終焉を予兆させるできごとがあった。南部領農民3万人が「小○(困る)」の旗を立ててお上に昂然と(むろん、困窮の極みの果てに、ということでもある)逆らった百姓一揆がそれである。そのときの指導者が遠近の農民たちから「小本の祖父」と呼ばれていた64、5歳の老人小本村の弥五兵衛、栗橋村の三浦命助、安家村の俊作、同村の忠兵衛。「彼らは秩序ある統制をもってついに弘化4年の御用金の重課をはねのけ、一揆の目的を貫いた」(大佛次郎『天皇の世紀』)。/嘉永6年の事件は、「山が動く」にはまた、庶民そのもの、あるいは庶民の側に立って、痩せさらばえた心骨から発せられる聲によく堪えうる長(おさ)の存在も不可欠であったことを示している。その長のひとり弥五兵衛は「冬の長い国の寒冷な牢内で、命を果て」た。そして、配流地から逃亡して村に帰った俊作、忠兵衛らが遺志を継いだ(同前)。

若者たちの「やるせなさ」を自らの「やるせなさ」として悲しみ、悼もうとする共感的で心情のこもったまなざし、「やるせない右傾化」の心情に「寄り添」ってともに風を凌ごうとする意志はもとより大切なことですが、同時に「『山が動く』にはまた、庶民そのもの、あるいは庶民の側に立って、痩せさらばえた心骨から発せられる聲によく堪えうる長(おさ)の存在も不可欠であった」という歴史的事実も忘れ去られてはならない。

ある音楽家の指摘にも「欠けている視点がある」のではないか、という私の問い返しはそういうものでした。
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