情報戦と現代史――日本国憲法へのもうひとつの道』(花伝社 2007年)や「戦後米国の情報戦と60年安保――ウィロビーから岸信介まで」(『年報 日本現代史』所収 現代史料出版 2010年)などの著書や著作もあり、インテリジェンス(諜報・情報分析)という新しい学の分野にも造詣の深い政治学者の加藤哲郎さん(一橋大学名誉教授、現早稲田大学客員教授)が先日の12月22日に明治大学リバティタワーであった現代史研究会の例会で最近よい意味でも悪い意味でも「評判」になっている元外務官僚(国際情報局長)で元防衛大学校教授の孫崎享氏の著書『戦後史の正体』(創元社 2012年)について論評しています。同著についてはこれまでジャーナリストや政治評論家、ブロガーなどなどによる好悪両価の評価が錯綜していましたが、学者による、その意味で専門的な同著評価は管見の限りおそらくはじめてのことです(「学者」らしき人の評価は目にしたことはありますが)。

加藤さんは上記の現代史研究会での講演についてご自身のホームページ「加藤哲郎のネチズンカレッジ」(2012年12月17日付)で前もって次のような予告をしていました。

 
・・・・アメリカ国内にも、「ジャパメリカからチャイメリカへ」の大きな流れのなかで、さまざまな日本観の分岐があります。この点は、孫崎享さん『戦後史の正体』(創元社)(引用者注1評価にも関係しますので、22日明治大学での現代史研究会でも触れるつもりです。/(略)孫崎さん『戦後史の正体』(引用者注2)の、日本におけるアメリカ研究への奨学金・留学機会提供への着目は慧眼です。それが「対米追随」の土壌になるとすれば、直接的な外交交渉での「自主」度ばかりでなく、こうした留学経験・勤務体験・認識枠組・思考パターンを通じてのソフトパワーが、日本政治に浸透する効果にも注目すべきでしょう。次回、新年更改で、じっくり考えてみます。

加藤さんの上記の孫崎氏評価には「慧眼」という言葉が出てきます。「慧眼」とはいかに、と私は加藤さんの孫崎氏評価に一瞬疑問を持ちましたが、加藤さんは「孫崎享さん『戦後史の正体』」(引用者注1)では孫崎氏自身のtogetter(Tweetまとめ)をリンクし、「孫崎さん『戦後史の正体』」(引用者注2)では「『改憲、はたまた護憲』カメレオンのような孫崎享」(「kojitakenの日記」2012-10-11)と「過剰に大きな星条旗―孫崎享『戦後史の正体』を読む」(「Valdegamas侯日常」2012-08-11)をリンクしています。つまり加藤さんは『戦後史の正体』評価に関する好悪両価の評価を公正に参照した上で自身の意見を構築したい旨言明しているのだな、と私は読みとりました。私は加藤さんの明治大学における22日の現代史研究会での講演を待つことにしました。

その加藤さんの22日の現代史研究会での講演の要旨がある聴講者によってこちらにアップされています。

そのある聴講者によると、22日の加藤さんの講演は以下のような内容だったようです。

1.政治史は外交史のみから語ることはできない。もっと広い視野からの問題を考える必要がある。経済史や社会内部の様々な動向、政権内部の勢力図、諸外国との関係などが考慮されなければならない。その意味では、孫崎さんの本は「外務省外交官中心史観」になっているのではないだろうか

2.それゆえに、議論が「自主か対米追随か」という単純な図式主義に陥ってしまっているように思う

3.しかしそういう図式では片付けられない問題点が多々残っている。ニクソンの中国直接訪問外交や71年のニクソン・ショック(ドルと金の交換の停止)などを、この図式にあてはめることは無理なのではないか。また、日本国内の「下からの圧力」(戦後革新や護憲派など)は全く考慮されていないのではないだろうか

4.佐藤内閣が「自主派」という側(対米追随ではないという意味で積極的な評価を与えられている)で位置づけられているが、果たしてそれでよいのだろうか。佐藤内閣の時代に、「非核三原則」の裏側で、秘かに日、独間で核兵器製造の策動があったという点、などはどう考えるべきなのか、…等々

おおよそ妥当な評価だと私は思います。同講演の詳細については加藤さん自身の手によって加藤さんがこれも予告しているとおり次回更新時(2013年元旦)の「加藤哲郎のネチズンカレッジ」紙上で論文として掲載されることになるでしょう。次回更新に注目したいと思います。

なお、同現代史研究会での講演では加藤さんと同じく日米外交とインテリジェンスを専門分野とする元共同通信社特別編集委員で現名古屋大学特任教授の春名幹男さんも孫崎享著『戦後史の正体』についての評価を述べているようです。先のある聴講者によると、春名さんの『戦後史の正体』評は次のようなものであったようです。

孫崎さんの本については、対米追随では整理できない点が多々あることや、吉田茂の評価についても違和感があること、といった印象が述べられた。

春名さんの本格的な『戦後史の正体』評も読みたいものです。

安倍「極右」暴走政権の誕生による「改憲」の嵐の前夜のような状況の中にあってはなおさらです。いたずらな『戦後史の正体』評価は改憲状況に結果としてさらに掉さすことにしかならないでしょう。それが私の評価です。

これまでの私の『戦後史の正体』批判(一部)については下記をご参照ください。

佐高信氏の孫崎享『戦後史の正体』評と福島瑞穂氏(社民党委員長)及び社民党の右傾化・右転落を端的に示す同著評(弊ブログ 2012.11.04)
朝日新聞「孫崎享『戦後史の正体』書評」(9月30日付)訂正事件雑感(弊ブログ 2012.10.26)
「孫崎享『戦後史の正体』にかぶれる読者の見識を疑う」 ――古寺多見氏の孫崎氏批判は正論だと私は思う(弊ブログ 2012.09.28)
「孫崎享『戦後史の正体』にかぶれる読者の見識を疑う」 ――古寺多見氏の孫崎氏批判は正論だと私は思う(2)(弊ブログ 2012.10.14)
孫崎享『戦後史の正体』をオーソドックスに読み解くひとつの書評――「過剰に大きな星条旗―孫崎享『戦後史の正体』を読む」(弊ブログ 2012.08.23)
孫崎享氏(元外務官僚・元防衛大学校教授)の新著『戦後史の正体』の小沢派評論家たちの「前評判」への違和感(弊ブログ 2012.07.08)
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