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古寺多見氏の孫崎氏批判は左記のようなものです。一部に情緒過多(通俗を批判する自らがその通俗の言葉の発する負のナルシスに十分に反省的ではない、ということです)のスラング風の言葉遣いがあって、その点に難点を感じるところがあるものの、有馬哲夫『原発と原爆「日・米・英」核武装の暗闘』と対比的に孫崎氏批判を述べる論の中身は正論だと私は思いますし、その論からも当然導き出されることになるわけですが、古寺多見氏の政治の現状に対する認識(★)にも私はおおいに共感します。

★孫崎氏の論の一番の問題点は、彼が日本の「対米追従」からの脱皮をその論の中核的課題として措きながら、その「対米追従」を推し進めてきた当の政党(主に自民党)の領袖(すべてではないにしても)を「対米自立派」として位置づけし(その根拠とするところも一面的、すなわち彼の主観を超えるものではありません)、評価していることです(たとえば「過剰に大きな星条旗―孫崎享『戦後史の正体』を読む」参照)。彼の政治の現状への関わり方を見ても、その「対米追従」の姿勢において多くの識者からしばしば「第2自民党」と酷評される民主党を評価し(たとえば「2012/07/24 政権公約を実現する会(鳩山グループ)勉強会 講師 孫崎享氏」の講演ビデオの冒頭部分参照)、なかんずく決して「対米自立派」とは言えない小沢一郎氏を「対米自立派」と位置づけ、評価していることからも彼の「対米追従」からの脱皮の主張(それがほんものの「対米追従」からの脱皮の主張だとして)と彼の実際の行動との間には大きな矛盾と破綻があることは明らかです(小沢氏が「対米自立派」の人では決してありえないということはたとえば「小沢氏の強制起訴と鈴木氏の逮捕・有罪・収監を「問題あり」とするある論への反駁(1)」参照)。同じ外務省出身者でやはり日本の「対米従属」の姿勢を問題視する浅井基文さんの「民主党評価」などとは180度の違いがあります(たとえば浅井基文さんの「日米安保体制から日米軍事同盟派の変質・強化――オバマ/民主党政権下の三つのSCC共同文書を読み解く――」<「第二自民党政権」である民主党政権>参照)。

★★なお、「対米従属」の日米関係に関して、民主党にその「従属」性を改善する意志も力量もないことは、すなわち決して「対米自立」の道を歩むことのできない民主党政治の限界性については武藤一羊さん(ピープルズ・プラン研究所運営委員)の以下のような指摘を参照。

「鳩山政権(引用者注:「民主党政権」と読み替えても大過ありません)のふるまいで特徴的なのは、この政権が自民党がこれまで積み上げてきた政治的悪行についてきわめて寛大であることである。新政権は、自民党レジームからどれほど膨大な負の政治的財産を引き継いだのかを明らかにし、それの清算という困難な仕事に挑戦する決意を示し、その仕事を支持するよう広く人びとに訴えるのが当然と思われるのに、政官癒着や天下りなど特定の分野を除いては(★★★)、それをしようとしないのである。世論を政権に引きつける上でも得策であろうと思われるのに、肝心の問題でそれをしないのである」。「それをしないのは、自民党政権時代につくられた日米関係を変更するつもりがないからである」(「鳩山政権とは何か、どこに立っているのか ――自民党レジームの崩壊と民主党の浮遊」 2010年2月16日)

★★★この点についてはさらに注が必要です。いまの民主党は当初マニフェストに掲げていた「政官癒着」の打破や「天下り」廃止の公約もかなぐり捨ててかつての自公政権顔負けの超「財界癒着」政党、「政官癒着」政党と化しています。再び浅井基文さんの説を引用させていただこうと思いますが、浅井さんはこの点について次のように言っています。

残念ながら、民主党政権の政治は、自公政治の時よりもさらに悪質になってしまっています。私は、自公政治は最悪で、これ以上悪い政治はあり得ないだろうと思っていたのですが、それは間違っていました。民主党政治は、自公政治がやりたくても世論をまだ気にして手をつけ得なかった領域においても、まったく傍若無人にブルドーザー式に破壊を進めています。消費税増税、政財官学・大マスコミ一体・グルで推し進める原発温存、日米軍事同盟の限りない侵略同盟への変質強化、非核三原則・武器輸出三原則の骨抜き化、宇宙の軍事利用への踏み込み、中韓露を領土問題で強硬姿勢に追いやる見境のない、狭隘なナショナリズムの鼓吹、等々。民主党政権には何の幻想ももっていなかった私ですが、谷底へ転げ落ちていくこの猛スピードまでは予想し得ませんでした。しかも、この加速するスピードにブレーキをかける手がかりも頭に浮かんでこないというのが今の私の焦燥感さらには絶望感を生んでいます。「自分は長生きしすぎた」というのが正直なホンネです。(「全国障害者問題研究会(全障研)全国大会・広島」 2012年8月14日)

さて、先に私は「孫崎享『戦後史の正体』をオーソドックスに読み解くひとつの書評――『過剰に大きな星条旗―孫崎享『戦後史の正体』を読む』」(弊ブログ 2012.08.23)をご紹介しましたが、その孫崎享『戦後史の正体』批判第2弾のご紹介ということになります。

なお、孫崎享氏の『戦後史の正体』の序章と第一章(100頁)はこちらで読むことができます。

私は孫崎享『戦後史の正体』は古寺多見さんと一緒で「駄本」だと思っていますので、買ってまで「読むつもりは全く」ありません(最下段の「補足」参照)。これも先にご紹介している下記の孫崎享氏の講演ビデオ(「2012/07/24 政権公約を実現する会(鳩山グループ)勉強会 講師 孫崎享氏」)を観れば十分です。

以下、古寺多見氏の孫崎享『戦後史の正体』批判の文。

「キッシンジャーの『寵児』」だった大の親米政治家・田中角栄は
なぜロッキード事件で失脚したか

kojitakenの日記 2012-09-25

昨今は、孫崎享のトンデモ本『戦後史の正体』によって、歴代の総理
大臣を「自主派」と「対米追随派」に分類し、前者に高い評価を与え
て後者をこき下ろすという粗雑なステレオタイプ的歴史観が蔓延して
いる。孫崎本の歴史観は噴飯ものの一語に尽きる。何度も書くけれ
ども、そんな孫崎のバカ本にかぶれる読者の見識を疑う。

そんな人たちに読んでもらいたいのがこの本。

原発と原爆 「日・米・英」核武装の暗闘(文春新書)

作者: 有馬哲夫
出版社/メーカー: 文藝春秋
発売日: 2012/08/20

著者の有馬哲夫は、孫崎享と同様「保守」の人だと思うが*1、孫崎
のステレオタイプ的な歴史観とは大違いで、資料に当たって歴史的
事実を浮き彫りにしていく研究者である。

たとえば、孫崎享が称揚する岸信介が、「日本が戦術核を保有(さ
らには使用)することは違憲でない」と述べたことは、岸信介の孫
にして明日自民党総裁に返り咲くであろう安倍晋三が2002年5月
13日に早稲田大学における講演会で述べたことによって最近でも
よく知られているが、岸は現実にアメリカとの外交において、この
「核カード」でアメリカと交渉した。この本のタイトルが示しているよう
に、原発を持つことは核兵器を作る能力を持つことを意味する。

著者は、「日本はアメリカの陰謀で原子力発電を導入し、そのアメ
リカ製の原子炉に欠陥があったために、爆発事故と放射能漏れが
起きた」という「陰謀論」を厳しく批判する。現実にはアメリカは日本
に核兵器製造能力を持たせまいとしたから、正力松太郎はそれに
対抗する意味でイギリスの原子炉を導入したのである。正力松太
郎と岸信介がともに夢見たのは日本の核武装だった。その意味で、
岸信介は確かにアメリカの言いなりになるのをよしとしない「自主
派」の保守(というより右翼)政治家だった。なにしろ、単なる軍備
増強にとどまらず、核武装まで視野に入れていたのだから。

さらに著者は「田中角栄は独自のエネルギー政策(ウラン供給源の
多様化)を進めようとしてとしてアメリカの虎の尾を踏み、CIAに失
脚させられた」という俗説にも厳しい批判を加える。事実は、田中の
エネルギー政策はアメリカの「言いなり」だった。著者は田中のエネ
ルギー政策は田中の創作ではなく、官僚が時間をかけて研究して
用意したものを実行したに過ぎないと指摘する*2。

そもそもニクソン政権の国務長官だったキッシンジャーは、孫崎享
が「自主派」に分類した、日本の立場を強く主張するタイプの福田
赳夫*3よりもアメリカの言うことをよく聞く田中角栄を好み、「ポスト
佐藤」の自民党総裁選(1972年)では田中の勝利を望んだとのこと
だ。

ロッキード事件にしても、1972年当時懸案だった日米貿易不均衡
是正において、日本がアメリカの航空機を買わされたことに端を
発しているが、この時の交渉で首相・田中角栄と通産相・中曽根
康弘がアメリカから購入する品目として最重視したのは濃縮ウラン
であり、次いで自衛隊の武器の購入だった。航空機の優先順位は
それらよりも下だった。

この日米貿易不均衡是正のための日米協議で、田中と中曽根は
アメリカに言われるまま、濃縮ウラン、エアバス、武器と輸入品目
と金額を次々と積み増していったというが*4、著者はそれを田中
内閣の懸案だった日中国交回復を成し遂げるための障害となら
ないよう、アメリカをなだめる必要があったためではないかと推測
しているようだ。

著者は、この日米協議でアメリカから購入させられた品目のうち、
田中がもっとも乗り気でなかった航空機の購入をめぐって田中が
収賄事件を起こしてしまったとする。よくある「田中角栄は『自主
派』だったためにアメリカの怒りを買ってロッキード事件で陥れら
れた」という「陰謀論」には根拠など全くなく、事実は田中がアメリ
カの言いなりになった航空機の購入で田中は汚職事件で自滅し
たのだった。著者は、必死にアメリカの機嫌をとろうとしていたも
のわかりのよい彼ら(田中角栄と中曽根康弘)をアメリカ側が失
脚させようと思うだろうか、と痛烈な皮肉を放っている*5。孫崎享
は田中角栄を「対米追随派」に分類し直すべきではなかろうか
(笑)

なお、1970年代の日本で「ロッキード事件はアメリカの陰謀」など
というトンデモ言説を開陳したのは、近年稲田朋美の応援団長を
買って出、今行われている自民党総裁選では安倍晋三を応援し
ている極右の渡部昇一くらいのものだった。そんなトンデモ陰謀
論を、今では少なからぬ「リベラル・左派」が信奉している。嘆か
わしい限りだ。

重ねて書くが、このような悪しき風潮を助長する、現在では「小沢
信者」に成り果てた老元外交官・孫崎享に「洗脳」されてしまった
人には、是非この本の一読をおすすめする。

最後に書いておくと、正力松太郎と並んで日本に原発を導入した
張本人である中曽根康弘を通産相に任命したのは田中角栄で
ある。あの「電源三法」は、田中曽根(第2次田中内閣)時代の19
74年に制定された世紀の悪法であることはいうまでもない。(後
略)

*1:この本を読めばわかるが、有馬哲夫は原発を決して否定し
ていないし、日本の核武装についても態度を保留している。

*2:同様のことは小沢一郎についてもいえ、『日本改造計画』で
小沢が打ち出した新自由主義的な諸政策は、小沢のブレーン
だった官僚が作ったものだといわれている。もちろんそんなこと
はこの本には書かれていないが。

*3:有馬哲夫も福田赳夫に対して同様の評価を下している。
「自主派」とは保守のタカ派政治家を表す言葉ともいえるだろう。

*4:1990年の日米構造協議における小沢一郎のアメリカへの
徹底的な譲歩を思い出させる。小沢は師の角栄に倣ったのだ
ろうか。

*5:本書176頁

【補足】『戦後史の正体』を買ってまで「読むつもりは全く」ない、という
私の言説に関して

上記の言説に関して起こりえる反論を予測して(実際に反論があったわけですが)以下をあらかじめ補足しておきます。

上記の私の言説に関して「本を読まないで本の批評をするのはケシカラン」というたぐいの批判があることは先刻承知ずみのことです。

しかし、こうした批判は誤っていると思います。

第1。あるものの価値評価、あるモノを買うか買わないかの選択はまったく「私」の自由権に属することがらです。その私の選択権について人さまからとやかく言われるスジ合いはまったくありません。明らかに不良品とわかっている品物を誰も買わないでしょう。そういうことです。

第2。本を読まないで批判(批評)するのはケシカランというのも俗論にすぎません。本を読まなくても本の中身がわかっている場合は十分に批評できます。

たとえば政府は先日(19日)原発ゼロ目標を盛り込んだ「革新的エネルギー・環境戦略」を参考文書に留めるという閣議決定をしましたが、この閣議決定については多くの人が批判しています。しかし、閣議決定そのもの(原文)は管見の限りどのマスメディアにも紹介されておらず、首相官邸のホームページにもいまだアップされていません。原文を読まなければ批判できないというのであれば、官僚やメディアの関係者などの一部の例外を除いて一般の人は誰もこの閣議決定の原文を読むことはできないということになるわけですが、しかし、上記のとおりこの閣議決定については多くのメディア及び人が批判しています。メディアは閣議決定そのものの原文は紹介していませんが、そのアウトラインは示しており、そのアウトラインを読めば原文を読むことはできなくとも批判は十分に可能だからです。

そして、孫崎享『戦後史の正体』の場合、著者その人である孫崎氏が同著の核心について自身で解説をしています。


上記を観るだけで『戦後史の正体』の中身は十分に理解することができます。したがって、上記を観ただけでも同書の批判、批評は十分に可能です。もう一度繰り返しておきます。本を読まないで批判(批評)するのはケシカランというのは、一般のこととして「読む」という行為の多様性について理解することができない人の俗論にすぎません。
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