あるメーリングリストに「4月15日伊方原発の再稼働に反対する中国・四国・九州市民の合同緊急集会のご案内」という案内文が流れてきました(こちらの「Original Message」部分を参照)。この「ご案内」の実質の趣旨自体にはまったく問題は感じないのですが(というよりも、賛成なのですが)、「西日本各地を講演会で回ってこられた広瀬隆さんの問いかけに答えて」という部分に大きな違和を感じました。広瀬氏の「脱原発」主張に私は以前から「危険」性を感じているからです。その広瀬氏の「危険」性について語ったメールを再録(反論への再反論を含む)、エントリしておきます。

第一信:

伊方原発の再稼働に反対する運動自体には反対ではありません。というよりも当然なことだと思っています。伊方原発の再稼働に反対するために中国・四国・九州の市民が手を取りあって共同・協同しようとすることにももちろん反対ではありませんし、賛成です。これも当然なことだと思っています。

しかし、評論家の広瀬隆氏を「反原発の闘士」「脱原発の雄」のようにみなすかのような風潮は誤まっていると思います。このような風潮は一日も早く終わらせるべきです。広瀬氏を真の脱原発主義者とみなすには彼はあまりにも荒唐無稽な、かつ、大きな疑問符をつけなければならない言説を繰り返し続けているからです。広瀬氏を「反原発の闘士」「脱原発の雄」のようにみなすことからはいい加減に卒業した方がよいと私は思っています。危険です。

広瀬氏のそのあまりにも誤りの多い言説を実証的に検証しているサイトとして次のようなものがあります。

広瀬隆 (東日本大震災)(Skeptic's Wiki 超常現象等に関する懐疑的な情報まとめサイト)

以下、その検証のいくつか。

●広瀬氏の主張の根拠のミスリーディングの指摘(山本隆三富士常葉大学教授)

●広瀬氏が「広瀬隆が警告 原発破局を阻止せよ! 食物連鎖で濃縮 放射能の危険な罠」(週刊朝日 2011年4月8日)という記事で主張する「放射性物質が水鳥の卵で百万倍」のうそ

●広瀬氏が「破局は避けられるか――福島原発事故の真相」(週刊ダイヤモンド 2011年3月16日)という記事で主張する「600℃でメルトダウン」という数字はNHKの誤訳をそのまま引用したもの(広瀬氏の「科学」的精神とは無縁な非科学性)

●広瀬氏の「放射能には酵母菌の入った手作りの生味噌がよく効く」という説(実は娘の店の宣伝にすぎない根拠のない説)

また、ウィキペディアの『広瀬隆』の項目においても広瀬氏に対する次のような批判が紹介されています。

●広瀬隆「危険な話」の危険なウソ」(野口邦和日本大学専任講師/放射線化学・放射線防護学 『文化評論』1988年7月)

●『つくられた恐怖 「危険な話」の誤り』(日本原子力文化振興財団)

●安井至氏(東京大学名誉教授)の広瀬氏の著書『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書 2010年)批判(「地球の気候当面『寒冷化』」 日本経済新聞 2009年2月2日)。なお、同書で広瀬氏が言及しているクライメートゲート事件については、英国議会による調査報告書(2010年3月)によれば気候研究ユニット(CRU)には捏造などの不正はなかったとされ、調査結果を受け関係者は復職しています。

●朝日ニュースター「ニュースの深層」(2011年3月17日)での広瀬氏の発言に対する北村正晴氏(東北大学名誉教授)の批判( http://getnews.jp/archives/105404 )

私も広瀬氏批判を次のような形で書いています。

■広く共感をえられる論理の構築とはなにか? ――広瀬隆氏の「福島 あんなところ」発言に見られる他者を思いやる共感力が欠如した貧困なる思想としての論理について(弊ブログ 2011年11月6日

第二信(反論(はこちらを参照)への再反論):

前田さん wrote:
第1に、広瀬隆さんの主張が、時に誤り、不正確で、科学的でない場合があること自体はずっと以前からよく知られた事実ですから、広瀬さんを「反原発の闘士」 『脱原発の雄」とみている人はそう多くないと思います。でも、広瀬さんが4半世紀つくってきた運動の基本線が、みんなから受け入れられ、評価されているのだと思います。そして、広瀬さんの活躍のおかげで、原発の問題性を知った人々が自ら学んで、より科学的な判断で運動を継続してきたのではないでしょうか。

「広瀬さんを『反原発の闘士』『脱原発の雄』とみている人はそう多くないと思います」という前田さんのご認識は私の実感と大きく異なります。広瀬さんを「反原発の闘士」「脱原発の雄」と見ている人はかなり多いというのが私の実感です。

こちらの弊ブログ記事で昨年の11月3日に私の地元の大分市で開かれた広瀬氏の講演会の模様のことを書いていますが、この広瀬氏講演会には私の記憶ではこの種の講演会ではこれまで見ることのなかった1000人近くの聴衆が集まりました。そして、その講演会の終わりに45分ほどの質問の時間があったのですが、10人ほどの質問者のうち私を除くすべての人が広瀬氏賛辞の質問に終始していました。

私ひとりが広瀬氏の「福島 あんなところ」発言を問題にする質問をしたのですが、広瀬氏は私の質問に当然のごとく反論しました。が、私から見れば、広瀬氏の反論は話をはぐらかす体のものでまったく反論になっていなかったのですが、それでもその広瀬氏の「反論」には会場から割れんばかりの拍手がありました。おまけに講演会が終わった後、私を追いかけてくる人がいて「あなたの広瀬さん批判は間違っている。あの割れんばかりの拍手がなによりの証拠だ」と言い募られる始末でした。

そのとき、私は、平成17年にあった佐賀県主催の小出裕章VS大橋弘忠プルサーマル公開討論会のときの模様を思い出したものです。あのときあの「プルトニウムは飲んでも大丈夫 」発言の大橋弘忠東大教授の上から目線の発言には会場から万雷の拍手がありましたが(おそらく動員者の拍手でしょうが)、その大橋氏の「いまのところ(プルトニウムで肺がんになって死亡したという)有意だという結果は出ていないというふうに聞いていますけど」という小出氏に対する茶々に小出氏が「こういうものは大変難しいのです・・・」と反論しようとしたときにどっという感じで沸き立った会場からの嘲笑の渦(こちらのビデオの5:33頃)。私はその愚かしい風景に背筋の凍る思いがしたものです。

上記のエピソードは拍手が多いから正しいとは限らないということの格好の例証というべきものです。とまれ、広瀬氏を「反原発の闘士」「脱原発の雄」と見ている人はかなり多いというのが私の実感だということです。さらに私の実感では、「広瀬さんの活躍のおかげで、原発の問題性を知った人々が自ら学んで、より科学的な判断で運動を継続してきた」ということとは逆に、この広瀬氏現象は、私がこのところ批判し続けている脱原発を主張する人たちのある種の現代カルト化現象(軽々しい非合理的な情報の拡散)の遠因になっているような気がしています。だから私は「危険」だと言っているのです。

第2の前田さんの「科学的に正しいとは、何を意味するのか」などという抽象論のレベルの問題はここで問われている問題とは別の問題だろう、ということを申し上げておきます。少なくともここでの問題ではないということ。また、「科学とは、利潤追求のみをめざす総資本の代理人の走狗にすぎない」という「科学」評価も一面的なものでしかありえません。そういう論理で広瀬氏を擁護しようとするのはナンセンスでしょう。

第3のご指摘については、いろいろな立場の脱原発派はいても当然いい、と私も思いますが、そのことと「科学的に正しいとか正しくないとか、そんなことはどうでもいい」ということとは違います。科学的に正しくないことは言うべきではありません。脱原発派の信用を貶めるだけです。そうした指摘をすることを「インチキ科学者」などとそれこそ貶めるのはまさになにをかいわんやといわなければならないでしょう。

第4の点については、小林秀雄が若き日、酒を呑んでプラットホームから線路に転がり落ちたことがあったけれど、ちょうど窪みのところにはまって助かった、という話があります。このことを小林は「おっかさんが蛍になって助けてくれた」と書いています。この話を私は信じます。が、「放射能には酵母菌の入った手作りの生味噌がよく効く」という説は大いに疑問だということを改めて述べておきます(いわずもがなのことですが、第4は冗談の受け応えとして書いています)。
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