巷間、「ベラルーシ:チェルノブイリ事故後1年で甲状腺がんが増加」という記事(「ざまあみやがれい!」ブログ)(A)と「郡山4歳児と7歳児に 「甲状腺がん」の疑い!」という記事(週刊文春)(B)の信憑性が話題になっていますが、ここでは(A)と(B)とは一応切り離して、それぞれの記事の問題性を指摘しておきたいと思います。

ベラルーシ:チェルノブイリ事故後1年で甲状腺がんが増加」という「ざまあみやがれい!」ブログ主宰者の左記標題どおりの問題提起についてはおそらく私もそのとおりだろう、と思っています。

ただし、次のような注をつけておきたいと思います。

「チェルノブイリからの放射能汚染によりスウェーデンでガンが増えている?」という問題をはじめに提起したトンデル博士の日本国内での講演の通訳をされた今中哲二さん(京大原子炉実験所助教)はそのトンデル博士の論文について次のような見解を述べています。

疫学調査とは、生身の人間集団をいくつかに分け、それぞれの集団の観察結果を比較して、ある要因(ここではセシウム137 汚染レベル)とその影響(ガン発生)との関係を明らかにしようとする試みのことである。しかしながら、ガンを発生させる要因には、放射能汚染だけでなく、喫煙、食習慣などいろいろあってそれらが複雑に絡みあっている。したがって、疫学調査結果に統計的に有意な「相関関係」があっても、それが「因果関係」であるとは限らない。トンデルらも、自分たちの調査結果が「見せかけ因子(交絡因子)」によるものかも知れないと検討している。(略)結局、チェルノブイリ事故による放射能汚染レベルとガン発生率の増加に有意な関係が認められ、その原因として第1に考えられるのが、汚染にともなう低レベル放射線被曝である、というのがトンデル論文の結論である。(略)トンデル本人も筆者も、チェルノブイリからの放射能汚染によってスウェーデンでガンが増えていることが「証明された」とは考えていない。それが、本稿の表題に?が付いている由縁である。まどろっこしい言い方になるが同時に、スウェーデンでのガン増加の原因はチェルノブイリ事故による放射能汚染である、と考えるのが最も合理的な説明であると思っている。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No104/CNIC0602.pdf

上記のトンデル氏の講演の後、今中哲二さん単独の講演会が開かれた際、その講演会に参加した市民社会フォーラムの岡林信一さんは、今中さんから個人的に昨年末に放映されたNHKの「追跡!真相ファイル 低線量被ばく 低線量被ばく 揺らぐ国際基準」という番組に関連して「くだんのNHKのドキュメンタリー番組は原発推進派から揚げ足をとられるところがある。トンデル博士の疫学調査の結果は、チェルノブイリ原発事故とがん罹患の増加についての『相関関係』があるかもしれないことを示しているにすぎず、まして疫学調査だけでは『因果関係』は立証できない、その点を示さずに、あたかも原発事故によるセシウム降下で放射線量が増加したことで、がん発生が増大したかのように」いうのは科学的な態度とはいえない(筆者の評価)、という趣旨の話を聴くことがあったそうです。今中さんのいわれるこうした視点を抜きにしていたずらに原発事故と甲状腺がんの増加を関連づける論は、いたずらに放射能危機をあおるという意味ばかりではなく、原発事故被災者の不安を倍乗させるだけという意味においても有害な論といわなければならないだろう、と私は思っています。このことは強く指摘しておきたいと思います。

次に「郡山4歳児と7歳児に 「甲状腺がん」の疑い!」という週刊文春記事について。この文春記事については次のような批判もあります。

(1)週刊文春に「言ってないこと書かれている」 「甲状腺がん疑い」記事に医師が反論(J-CASTニュース 2012/2/24)
(2)「バカ文春」が「放射脳」の虚報を垂れ流すのもすべて憲法9条が原因では(笑)(kojitakenの日記 2012/2/26)

特に(1)記事中の

エコー検査をした「さっぽろ厚別通内科」の杉澤憲医師と弁護士が12年2月23日夕方に会見し、記事の内容に反論した。杉澤医師によると、甲状腺の検査を受けた18歳以下の人は170人おり、そのうち「5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上の嚢胞」が確認され「B判定」だとされた人が4人いたが、精密検査の結果、いずれも良性だと判定された。「甲状腺の状態等から判断して直ちに二次検査を要する」とされる「C判定」の人はいなかった

杉澤医師が会見で配布した正誤表には、「明らかな事実誤認」6点が指摘されている。中でも、記事中の、「札幌で甲状腺エコー検査を実施した内科医が言う。『しこりのあった7歳女児と4歳男児の2人に加え、19歳以上の「おとな」9人の計11人に、甲状腺がんの疑いがありました。うち成人女性1人は既に甲状腺がんが確定、切除手術を行うことも決まっています。いくら「5歳以下で5ミリ以上の結節ができることはない」と言われても、今回検査をして、これが出たことは事実です』」/という記述について、/「そのような話はしておりません」/と全否定している。「甲状腺がんの疑い」だとされる、記事中の大きな根拠が否定された形だ。

という指摘は重要です。

文春記事には、「超音波の画像を診た医師は(略)、(女児の母親に対して、)『児童にはほとんどないことですが、がん細胞に近い。二次検査が必要です』」と発言したという記述や、「なおも坂本さんを不安にさせるのは、エコー診断後の二次検査の結果だ」、「(二次検査で)診てもらった北海道大学の先生も、今までに十四歳未満でがんになった子どもを二回しか診たことがなく」など「甲状腺がん」の疑い!」という記事の根拠となっている二次検査をしたことを前提とする記述が3か所見られますが、超音波の画像を診た杉澤医師は「『直ちに二次検査を要する』とされる『C判定』の人はいなかった」と二次検査の必要性自体を否定しています。

さらに「おしどりマコ氏・『週刊文春』編集部緊急記者会見」(注)での本間記者の質問で明らかになったことですが、「二次検査をしたはずの北大の(医師の)コメント」はなく、同記事中にあるのはまったく二次検査に関与していない「全国の甲状腺専門医」の一般論だけです。これでは二次検査で「甲状腺がん」の疑い!」が出た、という根拠にはまったくなりえません。二次検査をほんとうにしたのかどうかさえ疑わしいのです。

今回の週刊文春記事は<虚報>というほかないのです。「ざまあみやがれい!」ブログ主宰者の同記事執筆のスタンスも誤っているといわなければなりません。

注:この記者会見を聴いていてつくづく思ったのは、「郡山4歳児と7歳児に 「甲状腺がん」の疑い!」という記事を書いた自由報道協会理事の肩書を持つおしどりマコ氏の思い込みの強さです。「甲状腺がんの疑い!」という同記事の核心部分の根拠を担うがん細胞に関する二次検査の有無についてはただ情報提供者だという人の「告白」に依拠するのみ。また、おしどりマコ氏が読んだという医学雑誌のがん細胞に関する記述にこう書いてあるからこうだろうという推測のみ。取材でもっとも大切な肝心な裏取り、同二次検査をしたはずの北大側の確認は取っていないのです。その代替措置として「全国の甲状腺専門医」なる者のコメントを記事に挿入していますが、上記の繰り返しになりますがこのような一般論の提示だけでは「甲状腺がんの疑い!」という断定の根拠を示したことにはまったくならないのですが、おしどりマコ氏はそのことに気づいていないようでした。記者会見ではとうとうと医学雑誌のがん細胞に関する記述を読み上げて、それで論証足りえていると思っている節がありありなのです。おしどりマコ氏のジャーナリストとしての資質に重大なクエスチョンをつけなければならない場面でした。

しかし、同記者会見の場にいた上杉隆氏や田中龍作氏などの自由報道協会幹部はそうしたおしどりマコ氏の姿勢に重大なクエスチョンを感じるどころか逆にそうした姿勢に同調する始末です。自由報道協会なるものがおよそジャーナリズムとはいいがたい存在であることを
改めて確認させられる場面でもありました。それにしてもこうしたおしどりマコ氏や上杉隆氏田中龍作氏岩上安身氏などの自由報道協会幹部を重用しつづけるマガジン9NPJなどの自称・民主ジャーナリズム団体とは何なのか? このことについても改めて考えさせられる記者会見でもありました。古寺多見氏ではありませんが「彼らこそ『脱原発』派の信用を落とすための原発推進勢力の『工作員』(笑)ではないかと、陰謀論の一つもかましたく」なりもするのです。
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