私は先のエントリ(2011年12月24日付)において「除染」問題に関する私の基本的な考え方を述べておきました。「避難の権利」を主張することはもとより大切なことだが、いまもなお高濃度の放射能汚染が続く原発被災地の福島での徹底した「除染」も同様に重要な、そして喫緊の課題である、と。

が、「完全な除染などありえない」「除染は住民の『避難の権利』(行政にとっては義務)をサボタージュするための行政の便法にすぎない」などとする除染否定論も一方で少なくありません。脱原発論者の中にこうした主張をする人たちが多いようです。

昨年の12月のはじめにニューヨークタイムズ紙は「除染に割れる日本」という記事を掲載して、「除染」か「避難」かとある意味思想的に割れる日本」のいまの状況の断面図を描出していましたが、いままさに私たちの国は「日本の将来を巡」って崖っぷちの議論(思想対決といってよいかもしれません)が続いています。

除染否定論の良質な議論としては次のようなものがあります。CML(市民のML)から引用してみます。

先日(12/15)神戸でありました集会「フクシマの子どもたちを放射能から守るために何ができるか?」の論議のための基礎資料を作りました。

その末尾を、以下のように結びました。

二重被害のフクシマ

12月11日、「国会議員に聞いてみよう! どうする原子力発電? 神戸ミーティング」席上でも近い発言があり、後ほど福島から避難されてる人のやりきれないような心情吐露とも抗議とも思われる発
言もありました。難しい問題なのですが、それだけにできるだけ科学的に、次いで道義的に判断するしかないんだと思います。

この資料作成者(前迫)は、「品川宣言」起草作業の中でも5mSv/年の環境では逃げ出すしかないと判断して、そう書きました。当然に1mSv/年を越える予測の地域も、自主避難の権利はあるとしています。

でも、実際の避難にはお金が要ります。足代、落ち着き先の住居、そして生活と生業(なりわい)再開のための当座の資金、農家なら耕すべき土地、漁師さんなら船と港と漁具に加えて漁業権、そして漁場の情報など、転居再開には途方もないほどの困難がつきまといます。それを全てケアしながら支援しなければならない。それが「東電」の責任であり、政府の責任なのです。そのどれも一切なされていません。そのために地域脱出の選択肢を奪われてしまった状況のようです。

放射能に拠る科学的被害(将来にわたって)の上にさらに、自由に話せない、不安も言い出せない重苦しさの中で怯えながら生活して行く。登下校に行き交う女子中学生達が、「どうせ私ら、将来子供なんか産めない身体なん だし…」と言った会話を交わしているという。福島の人たちは、実際の被害と不安、恐怖に加えて、地域に閉じ込められる二重の被害を受けているかのようです。

呪縛の中の人々を救い出すためには、周りの、外の私たちからもアクションを起こす事も必要かも知れない。老齢者の現在のアイデンティティは、育ち、慣れ親しんだ風土と地域コミュニティに依存する割合はきわめて高いのだろうとも思われます。生木を裂くように故郷との関わりを割いてなお、私たちは避難を呼びかけたいと思います。「外の人間が、地域の事も何も判らんで、勝手な事をほざくんでねぇ!」と言われようとも、私たちは言い続けます。

とにかく、福島の人たちが「こんな環境で暮らせない!」と意志表示してくれなければ、私たちもまた、呼びかける以外には、何もできないのですから…。

下記は上記の除染否定論に対する私の反対論です。「私たちは『除染』問題とどのように向きあうべきなのか」という視点から書きました。

「二重被害のフクシマ」――福島のいまの状況はまさにそう呼ぶよりほかないものだと私も思います。

「フクシマ」の人々は「地域脱出の選択肢」も「奪われてしまった」――これは酷く鋭い指摘です。酷い、というのは、もちろん「フクシマ」の人々にとって「酷い」ということです。「閉じ込められる」という感覚はもともと辛いものですが、その感覚にさらに「奪われてしまった」という深い痛恨の悲しみがともなうのです。「酷い」と表現するほかありません。

だからなおさら「生木を裂くように故郷との関わりを割いてなお、私たちは避難を呼びかけたいと思います」という××さんたちの決意のようなお気持ちはよく理解できるのです。

××さんたちが避難を呼びかけることに私は反対しようとは思いません。当然なことだと思っています。

しかし、避難を呼びかけながらも、福島での除染は確実、着実に、そして根底的に進めなければならないきわめて重要な課題である、とも私は思っています。

何度も同じことを言うようですが、現に原発事故被災地の福島には200万人になんなんとする人たちがいまこのときにも同地での営みを営々と続けているのです。そして、避難の呼びかけに理解を示した人たちを含めてその少なくない人たちは(強制的な避難命令でもない限り)おそらく今後もその営みを同地で続けていく、続けようとするでしょう。

その彼ら、彼女たちの住まう、また、今後も住もうとしている福島の地を人が暮らしを営むことができる程度(年間1ミリシーベルト/以下)に回復させようと除染の試みをすることはその可能性がある以上(たとえ百年単位の年月がかかるとしても)国と国民の責務として当然のことといえるのではないでしょうか?(チェルノブイリでは当時のソビエト政府は「除染」を放棄し、限られた地域にだけ避難勧告を出しましたが(まったく限られた地域にだけで、多くの人々は「棄民」され、その措置は道徳的に避難されてしかるべきものでした)、ソビエトと日本では土地の広さがまったく異なります。また、科学技術の進歩という点で大きく時代も異なります。)
 

避難を呼びかけるだけで、「避難の権利」を阻害するという理由で除染にも反対というのでは、意図に反して結果として福島の人たちをいつまでも劣悪な放射能汚染の環境下に置く、福島の人たちを棄民するに等しい、ということにならざるをえないのではないでしょうか?

私はそう思います。

注:ちなみに「除染」消極論者として彼らの論が最近よく引用される京大原子炉実験所助教の小出裕章氏や神戸大教授の山内知也氏は両氏とも「避難がベストである」という見解を持っているとしても、必ずしも「除染」否定論者というわけではありません。家族が離れ離れになってしまう(かもしれない)という問題、現に就職している仕事や営農の問題などトータルに考えると福島での徹底的な除染は不可欠である、というのが彼らの認識のようです。両氏が除染を否定しているのは現在の民主党政権の除染政策についてです。この点については東大教授・東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦氏とも見解は一致しているように私には見えます。彼らは民主党政権の除染政策では真の除染(人が住むことができる除染)は不可能だと言っているのです。彼らの論の熟読が必要なように思います。

たとえば福島県内の除染について小出氏裕章氏は次のように述べています(本質的に「除染は無理だ」とする同氏の論の一部にすぎませんが)。

「本当にだから子どもたちが集中的に遊ぶ場所とかは必ず私は除染しなければいけないと思います」(「私が『東大アイソ児玉氏』を信じない理由②」の小出氏の論の文字起こし部分参照)

上記の小出氏の論は福島県内に現に人が住んでいることを前提にした上での論です。同氏は福島県内の除染を必ずしも否定していません。小出氏の上記の論は先に福島市であった講演会での次のような考え方の延長線上にあるものでしょう。二度繰り返しますが、同氏は必ずしも「除染」を否定しているわけではありません。

「わたしは何とか、福島の子どもを逃がしたいと思います。でも親も一緒に逃げなければ、家庭が崩壊してしまいます。残れば健康被害が起きます。逃げればこころが崩壊してしまいます。どっちを選ぶかです。この事故が起きてから、わたしは度々、たくさんの人から聞かれました。「どうしたらいいですか」。でも、わたしにはわからない。「すみませんが、わかりません」と、わたしは言います。わたし自身がそういう選択を迫られている。わたしもどうしていいかわからず、悩んでいます。みなさんも1人1人、そういうなかで今日まで来られたのではないかと思います。残念ながら、いまだにわかりません。でも、どちらかを選ぶしかありません」

山内知也氏も必ずしも「除染」を否定しているわけではありません。下記の山内氏の発言を見ても、山内氏が批判しているのは民主党政権の除染政策であり、必ずしも除染そのものを否定しているわけではないことはこれも明らかなように思います。

「司会者:今からわざわざ国が法律まで作って4月以降やろうとしている除染というのは全然効果がないことを・・・・

山内:(国(政府)の除染政策では全然効果が)ないことは、たとえば私の地区の方は私よりもご存知でした。私がそれに気がついたのは9月に計測にいった頃の話なんですけど・・・

山内:『わたり土湯ぽかぽかプロジェクト』っていうのが始まりました。(略)幸いなことにそこの線量が0.1から0.2位なんですね。(略)渡利の子ども達、あるいは渡利の子ども達とお父さんお母さん一緒になるだけ長い時間そこで過ごしてもらおうと。で、線量は多分この2年位非常に高いです。高いですけど、除染が上手くいかなくても2年ぐらい経つとセシウム134の勢いが減りますから、半分程度になります。で、そういった中で徐々にもっと良い除染の方法とかが見えてくるかもしれませんよね」(「みんな楽しくHappy?がいい♪」の山内知也氏の論の文字起こし部分参照)
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