環境省が全国自治体に要請している「東日本大震災により生じた災害廃棄物」とその放射性がれきの受け入れに関して、先に私は、同省の各都道府県宛て内部通達(事務連絡)に記載されている「(同受け入れを表明した)個別の地方公共団体名は公表しないこと」にするという同省の姿勢は政府機関としての環境省が率先して「情報隠し」を公言することに等しく、政府がお題目的に懸念する「風評被害」をなくすという観点からもまったく逆効果の誤まった姿勢であること。また、この期に及んでもなお「情報」を隠蔽することによってことなきをえようとする政府、環境省の態度は、災害廃棄物と放射性がれきの処理の問題は国民的課題というべきものですが、その国民的課題の解決のためにもまったく逆立した倒錯した態度であることを指摘しておきました。

その放射性がれきの処理の問題に関して、ECRR(欧州放射線リスク委員)のクリストファー・バスビー氏(注1)のがれきに関する次のような発言を援用して「更なる放射能汚染、被曝の拡大」を阻止するために全国の各自治体は「東日本大震災により生じた災害廃棄物」の処理の受け入れを表明するべきではない。がれきの処理の受け入れをしないように自分たちが住む県、市へ声を伝えましょう、という檄(注2)がメールなどによって「拡散」されています。

クリストファー・バスビー氏の放射性がれきに関する発言は次のようなものです。

(政府、環境省が)がれきの処理を全国の行政に依頼しようとしているのは、福島の子どもたちが病気になったときに補償しないですむようにがれきを全国に拡散して、他地域で子どもたちの健康状態が福島と変わらないようにするためである。

しかし、このクリストファー・バスビー氏の立論は、同がれき処理の問題に関する小出裕章氏(京都大学原子炉実験所助教)などの発言とくらべてみても乱暴すぎて私には少し以上に疑問があります。そこでクリストファー・バスビー氏の経歴と業績と同氏の所属するECRR(欧州放射線リスク委員会)について少しばかり調べてみました。同氏の発言に対する私の疑問についてはその記述の後で述べることにします。

ウィキペディアの「欧州放射線リスク委員会」によれば、バスビー氏は、「ECRRの科学セクレタリーを務めるとともに反原発政策を掲げるイギリスの環境政党イングランド・ウェールズ緑の党の代弁者」の役割も負っていたようです。私としていささか強引と思える彼の発言はそういう政治的背景とも無縁ではないような気がします(以下、ウィキペディアの記述はすべて「欧州放射線リスク委員会」
より引用)。

ウィキペディアはバスビー氏について次のようにも記しています。

ECRRは英国の核実験退役軍人が国防省を訴えた裁判で原告側に協力している。ECRRのクリス・バズビーは、OurPlanetTVの取材に対してすべてのケースで原告が勝利し、すべての陪審員・裁判官がICRPよりもECRRの基準を支持したと主張しているが[8]、実際には核実験と健康被害の関連性を証明することができないとして10の代表事例のうち9までが聴聞を行う以前に棄却されており、ECRRの基準が支持されたと言うことはできない[9]。現在は原告側が棄却を不服として最高裁で争っている。

8.“内部被ばくに警鐘~クリス・バズビー博士インタビュー”. 2011年8月5日閲覧。
9.“
British atom bomb test veterans lose damages case”.2011年8月10日閲覧。

また、ウィキペディアは、バスビー氏の所属するECRRについても英国健康保護局の次のようなECRR批判も紹介しています。

「ECRRは、2つの調査結果を発表している」がそのうちの一つの「2003年のECRR勧告『放射線防護を目的とした低線量の電離放射線被曝のもたらす健康への影響』(略)は、発表されてまもなく、英国健康保護局(en:Health Protection Agency)による批判が加えられた。同局は、ECRRを『公的機関と関わりのない独自(self-styled)の組織』とした上で、『恣意的であり、十分な科学的根拠を持たず、ICRPについては多くの曲解が見られる』とした

さらにウィキペディアは今中哲二氏(京都大学原子炉実験所助教)の次のようなECRR批判も紹介しています。

ECRRの低線量被曝リスク評価について、反原発派の今中哲二(京都大学)は、ECRR勧告への個人的感想として「セラフィールド小児白血病などのデータを内部被曝によって説明しようという問題提起は、仮説としては面白い」「ECRRのリスク評価は「ミソもクソも一緒」になっていて付き合いきれない」「ECRRに安易に乗っかると、なんでもかんでも『よく分からない内部被曝が原因」となってしまう」と述べている。

実際に今中氏は自らのレジュメ(p11)でもECRRをつぎのように批判、評価しています。

ECRR勧告への個人的感想
セラフィールド小児白血病などのデータを内部被曝によって説明しようという問題提起は、仮説としては面白い。しかしながら、仮説を実証するデータはほとんど示されていないし、リスク評価手法全体に一貫性が認められない


放射能、放射線問題は専門的知見にわたることが多いので素人にはその判断の当否はわかりにくいところがあります。専門家らしい人(ここではバスビー氏のことを指していますが)の意見には信頼できる専門家の意見を対置して考えてみる、というのが素人にとってはベターな方法のように思います。そういう意味で今中氏のECRR勧告に対しての「感想」を援用してみました。

さて、そこでバスビー氏の発言に対する私の若干の疑問について述べてみます。

バスビー氏は上述したように放射性がれきの処理の問題について「(政府、環境省が)がれきの処理を全国の行政に依頼しようとしているのは、福島の子どもたちが病気になったときに補償しないですむようにがれきを全国に拡散して、他地域で子どもたちの健康状態が福島と変わらないようにするためである」と断定しています。

しかし、このバスビー氏の断定は、各自治体において、おそらくもっとも人気のない場所の一箇所(あるいは複数箇所)に閉じ込められるだろう放射性汚染物の放射能汚染が各自治体全域に及ぶかのように措定している点において誤りであること。また、東日本大震災により生じた災害廃棄物のすべてが放射性がれきであるかのように措定している点においても誤りであること(むろん、福島第1原発事故以後放射能汚染は全国に飛散しており、全国のどの地域も多かれ少なかれ放射能汚染の影響を受けています。その意味では放射能汚染度の比較的小さい東北各県の地域と東北各県以外の全国各自治体の放射能汚染度は比較してそう大差のないところもあります(「全国の放射能濃度一覧
参照)。それを均しなみに東北各県の災害廃棄物のすべてが放射性がれきのようにいうのは誤りだろうということです)。その誤まった前提をもって行政当局は「福島の子どもたちが病気になったときに補償しないですむようにがれきを全国に拡散」しようとしているなどと推論しても、その推論はそれこそ「風評加害」の論にはなりえても科学的推論とはとてもいえないこと。それがバスビー氏発言に対する私の基本的な疑問です。

小出裕章氏はこの問題について次のように言っています。

除染という言葉を私たち使いますけれども、決して放射性物質そのものがなくなるわけではありません。どこか別の所に移すということしか私たちはできないわけで、たとえば初めの頃に郡山市が学校の校庭の土を剥ぎ取って市の処分場に捨てに行ったところ、処分場周辺の方々が嫌だと言って断ったそうですね。で、それでしょうがなくてまた校庭に持ち帰って山積みしたということがありましたけれども、そんなことはほんとうはしてはいけないのです。剥ぎ取った土はほんとうはどこか人々が触れないようなところ持っていって集めてそこに埋める。あるいは錘をするということをしなければいけないはずだと思います。では、それをいったいどこにするのかということになってしまうとほんとうにどうしたらよいのかわからないという状態に私自身もあります。(「たね蒔きジャーナル」毎日放送ラジオ 2011年8月18日

見られるとおり小出氏は放射性がれきの処理の問題は福島県マターのあるいは東北各県マターの問題だとは言っていません。自分自身にとっても「それをいったいどこにするのかということになってしまうとほんとうにどうしたらよいのかわからないという状態」だと言っています。放射性がれきの処理の問題、東日本大震災により生じた災害廃棄物の処理の問題は「こんなことが起きないように原発を止めたかった。(しかし、それでも実際に原発事故が起きて放射能が全国、あるいは世界に飛散した以上)今までとは違った世界に生きることを覚悟しないといけなくなった」(「たね蒔きジャーナル」毎日放送ラジオ 2011年6月8日)、そうした全国民的課題というべきなのです。放射能情報の正確な情報開示の上、冷静で科学的な判断のもとに全国民的論議によって決めなければならない課題だといわなければならないでしょう。いたずらに「がれきの処理の受け入れをしないように自分たちが住む県、市へ声を伝えましょう」などと檄を飛ばす問題ではなかろう、と私は思います。

ちなみに私たち市民のこれからの放射能とのつき合い方について、10月17日付けの毎日新聞のコラム「風知草」に面白いことが書かれていました。

曰く。

(医療の専門家の)赤ひげ・木村はこう言っている。「むやみにビビる必要はないが、正しい防御は必要。正しく怖がるべきです」/この夏、京都五山の送り火から、セシウムのついた陸前高田の松材が締め出される騒ぎがあった。これなどビビり過ぎの典型だと木村は言う

注1:ECRR(欧州放射線リスク委員)のクリストファー・バスビー氏はこれまでも本メーリングリストなどにおいてもクリス・バズビーの表記でたびたび紹介されています。

注2:メールなどによって「拡散」されている「がれきの処理の受け入れをしないように自分たちが住む県、市へ声を伝えましょう」という檄(要約)は次のようなものです。

東日本大震災による瓦礫について、環境省は全国の自治体に処理を打診し、各地での受け入れを進めようとしています。瓦礫は放射能に汚染されており、それを、焼却、埋め立等によって処理する事は、更なる放射能汚染、被曝の拡大を引き起こします。

下記はドイツのバスピー博士の瓦礫に関する発言の映像の転送メールです。
バスピー博士の瓦礫への発言等  
http://t.co/cKtgjF7D

<要旨>
瓦礫の処理を全国の行政に依頼する理由として、福島の子ども達が病気になった時に補償しないですむように、瓦礫を全国に拡散して、他地域で子どもたちの健康状態が福島と変わらないようにするため。

子ども達を放射能から守るために、避難と健康維持企画等を公表。
子ども達の健康を第一に、人々が緩慢な死に追いやられるのを防ぎましょう。
瓦礫の処理の受け入れをしないように自分たちが住む県、市へ声を伝えましょう。
政府、各議員へ、瓦礫の拡散の中止の声を届けましょう。

あらゆる方法で、瓦礫の全国拡散を止めましょう!!
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