政府が今日の19日に国際結婚が破綻した後の親権争いの解決ルールを定めたハーグ条約に加盟する方針を決定したことはご承知のとおりです。

■ハーグ条約、加盟方針を決定へ=政府(時事通信 2011年5月19日)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011051900045
■ハーグ条約に加盟方針 菅政権 19日に関係閣僚会議(朝日新聞 2011年5月19日)
http://www.asahi.com/politics/update/0518/TKY201105180620.html
■ハーグ条約:法務省が来月にも国内法整備諮問(毎日新聞 2011年5月19日)
http://mainichi.jp/select/today/news/20110519k0000m030155000c.html
■政府、ハーグ条約加盟表明へ 実態と隔たり懸念も」(神戸新聞 2011年5月17日)
http://www.kobe-np.co.jp/news/kurashi/0004073648.shtml

この政府のハーグ条約加盟方針についてあるメーリングリストにある医師から「なんか『あの人』の思いだけで決まっていってしまいそうな気がします。TPPも、浜岡原発も」と慨嘆する投稿がありましたので、次のような応答文を認めました。以下・・・。


私は「『あの人』の思いだけ」というよりも「「『あの党』の思いだけ」とした方がもっと正確な言い方というべきだろう、などと思いますし、また、本来の話題とはずいぶん逸れてしまうレスにもなってしまうかも、などと思ってもいるのですが、そういうことは兎も角ということにさせていただいて「TPP」(環太平洋パートナーシップ協定)の話題が出たついでに、ということで・・・・

佐久総合病院(地域ケア科医長)の色平哲郎さんがTPPについて毎日新聞の「これが言いたい」欄に次のような寄稿をされています。ご参考のために紹介させていただこうと思います。

■これが言いたい:TPPの問題は農業への打撃だけではない(毎日新聞 2011年5月19日)
http://mainichi.jp/select/opinion/iitai/news/20110519ddm004070004000c.html

色平さんは今年に入って新聞や雑誌での発言ばかりでなく、メーリングリスト媒体などにおいてもTPP問題の問題性について精力的に発言をされ、また情報提供をされているのですが、わが国のハーグ条約加盟の問題についても上記の神戸新聞記事(2011年5月17日付)において同条約加盟は「慎重にすべき」という神奈川県弁護士会の声明が紹介されているほか日弁連も今年の2月18日付けでハーグ条約の締結に際しては日本政府として「とるべき措置」を明確にした上で加盟すべしという慎重論としての意見書を発表しています。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/110218.html

このハーグ条約加盟の問題についても色平さんに負けない精力的な発言が望まれますね。とりわけ子どもたちと母親のために。

以下、色平さんのTPP発言です。

■これが言いたい:TPPの問題は農業への打撃だけではない(毎日新聞 2011年5月19日)
http://mainichi.jp/select/opinion/iitai/news/20110519ddm004070004000c.html

◇参加は医療基盤崩壊への道--佐久総合病院・地域ケア科医長、色平哲郎

 東日本大震災の被災者救済を迫られ、原発事故収束の見通しも立たぬ中、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加を促す議論が経済界などから出ている。

 日本経団連は4月19日に発表した「わが国の通商戦略に関する提言」で早期参加を訴えた。だが、TPP参加は被災地の基幹産業である農漁業への打撃だけでなく、医療基盤の崩壊を通じても国民の苦境に追い打ちをかける恐れが十分にあると警告したい。

 大震災では、地域医療態勢の疲弊が浮き彫りになった。 

 福島県南相馬市では、多くの入院患者が近隣の市町村に移送された。しかし、収容能力には限界があり、遠く離れた会津地方や新潟県などに移った人も少なくない。患者と家族が離ればなれになったケースもある。病院が機能を弱める中、それを補完する在宅ケアの態勢構築も課題だ。

 国民の命を支える皆保険制度は元々、医療費膨張による財政悪化と医療への市場原理導入という二つの危機に直面していた。

 TPP参加は「最後の一撃」になりうる。米国が日本に医療市場開放を迫っているからだ。米国政府が日本に突きつけた08年の年次改革要望書には「医療制度改革で米国業界の意見を十分に考慮せよ」「米国製薬業界の代表を中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会の委員に選任せよ」など露骨な要求が多く盛り込まれている。

 最大の狙いは、医療側が勝手に値段をつける「自由診療」と公定価格(診療報酬)に基づく「保険診療」を組み合わせた「混合診療」の全面解禁だろう。混合診療は日本でも一部の先進医療に限って認められており、現行制度をうまく運用すれば患者の多様なニーズに対応できる。

 しかし、混合診療が全面解禁されれば、効果が不確かな保険適用外の薬や治療法を多用し利幅を広げる動機付けが医療側に生じる。裕福な患者を優遇する医療機関が現れ、製薬会社も利益拡大のため、あえて薬の保険収載(公的保険の対象とすること)を望まなくなる。

 もうけの薄い農山村地域や救急医療などの分野では医師不足に拍車がかかり、満足に医療を受けられない国民が増えるだろう。所得による医療格差が大きな問題になっている米国と同じような状況になりかねない。

     *

 私は、佐久総合病院(長野県佐久市)の院長で農村医学の先駆者として知られた故・若月俊一先生に師事し、同県南相木村の国保診療所長を98年から10年間務めた。人口約1000人の同村には鉄道も国道もないが、都市部にとっても貴重な水源を守っている。田畑は食料を生産するだけでなく、ダムと同じ保水機能で水害や土砂災害を防いでいる。人口は少なくても、農山村は国土の「背骨」の役割を果たしているのだ。

 TPPで利益を得るのは多国籍化した大企業であり、土地に根ざして生きる人々ではない。一般庶民にも恩恵をもたらすと考えるのは、あまりにも楽天的であろう。むしろ、TPP参加は国の背骨を壊す。その影響は都市住民にも間違いなく及ぶ。

 「トモダチ作戦」などで支援してくれた米国の要求は断りにくいという意見もある。しかし、支援への感謝と国の在り方をめぐる選択は別次元だ。最近は米国や中国でも、日本と同じ国民皆保険制度を導入する動きがある。世界最速で高齢化が進む日本こそ、50年間維持してきた同制度を守り育てるべきだ。

==============
 ■人物略歴

 ◇いろひら・てつろう
 東大中退、世界を放浪後に京大医学部卒。外国人HIV感染者の支援にも携わる。
==============

追記:
 
上記エントリ記事についてある人から「TPPについて、「あの人」「あの党」の思い、というのはちょっと違うように思います。もしそれが、菅首相や民主党のことであるのなら。TPP加入問題は自民党政権からの動きであり、自民党はこれにむけてちゃくちゃくと用意をしていたはずです。(していました。)菅首相や民主党は、無批判あるいは勉強不足のため、官僚のいいなりにそれを自動継続しているだけのように感じます。(以下、略)」という感想が寄せられました。

下記はその感想への返信です。追伸として。

○○さん

そもそも例外品目を認めない全面的な関税撤廃(すなわち関税自主権の実質放棄)をめざすTPP(環太平洋パートナーシップ協定)構想を推進してきたのはかつての自民党政権であり、また、農林漁業をはじめとするすべてのわが国の産業という産業に決定的なダメージを与えるTPPの前身ともいうべきFTA(自由貿易協定)を推進してきたのもかつての自民党政権であった、という点では○○さんのご指摘のとおりです。

しかし、現実にいまその農林漁業者や中小企業、勤労者いじめのTPP(環太平洋パートナーシップ協定)構想を自民党政権から引き継ぎ、さらに推進しようとしているのはほかならない現政権の民主党政権です。私たちがいま批判しなければならないのは現にこの愚かなTPP構想を推進、実現しようとしている現政権である民主党政権です。そういう意味での民主党政権批判なのです。そして、その批判は民主党政権批判である以上、「あの人」というよりも「あの党」というのがより本質的な批判というべきでしょう。そういう意味での「『『あの人』の思いだけ』というよりも『『あの党』の思いだけ』とした方がもっと正確な言い方というべきだろう」ということなのです。

それにTPP問題をいっそう困難な隘路に引きずりこんでいる原因の少なくともふたつはかつての自民党政権ではなく、民主党政権が進んでつくりだしている困難です。「菅首相や民主党は、無批判あるいは勉強不足のため、官僚のいいなりにそれを自動継続しているだけ」という評価ではすまされないことのように思います。
 
以下の五十嵐仁さんの記事をお読みください。

■日本はTPP交渉に参加すべきではない(五十嵐仁の転成仁語 2011年2月4日)
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2011-02-04

五十嵐さんは同記事で経済評論家の中野剛志さんの評言を引いて次のように言っています。

興味深いのは、中野さんが挙げている6つの根拠のうち、後の二つは菅内閣になってからのものだということです。/5番目の根拠として、中野さんは昨年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)での菅首相の「国を開きます」という演説を挙げています。「これは外交戦略上、きわめてまずい」。というのは、「日本の平均関税率は欧米よりも低く、国は十分開かれている」にもかかわらず、「日本は鎖国的だというイメージが国際的に流布されてしまった」からです。/6番目の根拠についても、前原誠司外相の「TPPは日米同盟強化の一環」という発言が批判されています。前述のように、日米同盟と結びつけたためにTPPを拒否できなくなってしまったからです。
 
そして、上記に五十嵐さんのいう中野さんの評言とは次のようなものです。

■経済への視点 TPP交渉への参加 日本有利が不可能なわけは(中野剛志 毎日新聞 2011年2月5日)

 我が国はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉に早く参加して、自国に有利なルール作りを進めるべきだという意見がある。一般論としては、確かに交渉に参加しなければ、ルール作りにも関与できない。だがTPPに関しては、日本に有利なルール作りは不可能だ。その判断の根拠は六つもある。

 第一に、TPPのルールは白地から策定されるのではなく、シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイによる経済連携協定かペースとしてある。この協定は物品貿易の全品目について、即時または段階的な関税撤廃を求めるもので、サービスや人の移動なども対象とする。この急進的な自由貿易協定が基礎となり、今後のルール作りを制約するのだ。それゆえTPPでは、コメなどの除外品目をあらかじめ提示しての交渉参加は認められないという。

 第二に、多数国間交渉でルール作りを先導するには、利害の一致する国々と連携する多数派工作が不可欠だ。しかし、TPP交渉参加国に日本と利害が一致する国がないのだ。日本は内需が大きく、工業製品輸出国で農業競争力は弱い。また高賃金労働の先進国であるが、デフレなので低賃金労働を受け入れるメリットがない。ところが、米国以外のTPP交渉参加国はすべて日本より外需依存度が高い小国ばかりだ。しかも米国ですら輸出倍増戦略をとっているので、全交渉参加図が輸出志向なのだ。また、特異な通商国家であるシンガポール以外、すべて農産品輸出国だ。さらに移民国家のシンガポール、米国、豪州以外は、低賃金労働輸出国ばかりだ。この中で、日本はどの国と組んで自国に有利なルール作りを進めるというのか。
 日本と同様に工業品輸出国の韓国がTPP交渉に参加しようとしないのは、この二つの理由のためだろう。だから韓国は、白地からルールを策定でき、かつ2国間で交渉できる米韓FTA(自由貿易協定)を選択している。それでもなお、米韓FTAが韓国に有利になったのかは、疑問の余地がある。なのに、日米FTAすらも結べない日本が、はるかにハードルの高いTPPで、自国に有利なルール作りをできるとは思えない。

 第三に、交渉参加国中、日本より国内市場が大きいのは米国だけであり、米国も豪州などとの間で、乳製品など自由化したくない品目をかかえてはいる。しかし、米国はドル安誘導や補助金など、関税以外の政策手段をもっている。ところが、日本は円高・ドル安を前になすすべがない。また、米国の大規模農業の競争力は、補助金だけで対抗するには、あまりに強大過ぎる。しかも、財政危機を訴えている政権に十分な予算を購ずることなどできはしない。日本は政策手段の選択肢が少なく、交渉の自由度が低すぎる。

 第四に、TPP交渉参加国に日本を加えた各国のGDP(国内総生産)の比率をみると、米国が約70%、日本が約20%、豪州が約5%、残り7ヶ国で約5%となる。つまり、TPP交渉参加国の実質的な輸出先は、米国と日本しかない。そして米国の輸出先はほぼ日本だけで、日本の輸出先もほぼ米国だけだ。しかし、その米国には輸入を増やす気が毛頭ない。
 このため、次のような状況が生まれやすくなる。米国以外の交渉参加国は、米国との交渉が難航した場合、代わりに日本への輸出の拡大を目指すだろう。米国のターゲットも日本市場だ。そこで、米国は他の交渉参加国にこうもちかける。『我々との交渉では譲歩してくれ。その代わりに、我々が日本市場をこじ開けるから、一緒にやらないか」。こうして米国主導の下、全交渉参加国が日本に不利なルール作りを支持するわけだ。

 第五に、菅直人首相は昨年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で「国を開きます」と演説した。これは外交戦略上、きわめてまずい。なぜなら日本の平均関税率は欧米よりも低く、国は十分開かれているからだ。にもかかわらず開国を宣言したため、日本は閉鎖的だというイメージが国際的に流布されでしまった。こうなると今後の交渉では、よほど踏み込んだ譲歩をしない限り、閉鎖的というイメージを消せない。
 過去にも例えば、日本は世界屈指の環境先進国なのに、NGO(非政府機関)にネガティブキャンペーンを張られたため、地球温暖化の国際交渉で譲歩を余儀なくされることがあった。ところが今回は、首相目らネガティブキャンペーンを張ったのだ。自国に有利なルールを作る気があるとは到底思えない。対照的に、オバマ大統領は「貿易黒字国が米国への輸出に依存するのは不健全だ」という趣旨の演説をした。日米両首脳の演説だけで、米国は開放的、日本は閉鎖的という構図ができてしまった。ルール作りに入る前に勝負が決まってしまったのだ。

 第六に、前原誠司外相が「TPPは日米同盟強化の一環」と発言している。北東アジア情勢が緊迫する中、日米同盟は軍事戦略上重要だ。だが、日本側からわざわざ、それとTPPを結びつけてしまった。今後、TPPがどれほど不利なルールになっでも、日本はもはや拒否できなくなったのだ。
  (なかの・たけし=評論家)
 
ご参照ください。
関連記事
Secret

TrackBackURL
→http://mizukith.blog91.fc2.com/tb.php/315-1ac11964