福島第1原発事故に関して原発事故の重大な恐ろしさを見誤っているとしか思えない、そしてそれゆえの政府の後手後手の対応には怒りを禁じえません。これまで私は大局的に見れば少数派には違いないのですが、この原発事故問題については発信する人も多く、また東日本大震災でいまもなお毎日のように膨れ上がる死者と行方不明者の数のあまりの多さに圧倒されるとともにいまは残された被災者救助に全国民の精力を注ぐべきだという思いもあって、政府の後手後手の対応に批判を募らせながら黙して自ら発信することは控えてきました。が、もう黙していることはできません。政府のこの後手後手の対応に批判の声を上げず、ただ黙してなりゆきを注視するだけという態度では、私たちの国はこの愚鈍な政府によって正真正銘に東北、関東を中心にして国民の生命が奪われかねないという危機的な情勢にある、と私として判断せざるをえないからです。今日を機にしてこの問題について私も氾濫する情報の重複は避けて私の思うところを発信していきたいと思います。
 
さて、朝日新聞記者として長年、原発事故を担当し、同紙退職後は東大教授、駐ザンビア特命全権大使、国連開発計画上級顧問などを歴任してこられた石弘之さんが、あまりにも違う国際社会とわが国の福島第1原発事故の受け止め方の落差について公憤をこめて論じています。その目配りはほとんど全世界に及んでいて大変参考になります。
 
石さんの日本政府及び東京電力批判はもとより、同時に「私たち(市民)は『ゆでガエル』のように慣らされて、危険な状況を危険と受け止められなくなっているのではないか」という指摘も重要だと思います。頭を垂れて聴くべきご指摘だと思うと同時に、私たちのかけがえのない生命を守るという単純明快な理由からも私たちは政府批判を強めなければならない時期に来ているようにも思います(そうでなければ私たちは政府によって「殺される」かもしれない)。
 
以下、石弘之さんの論攷です。
 
原発事故を巡る国内と海外のあまりに大きな温度差(日経BP ECO JAPAN 2011年3月29日)
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20110328/106232/ 

引用


  今回の原発事故ほど、日本と欧米との受け止め方に大きな「温度差」のある現象にこれまで出会ったことがない。自国民を日本から避難させ、甲状腺がん予防の安定ヨウ素剤を送りつける欧米と、実感とかけ離れた発表を繰り返している政府や東京電力との差はどこからくるのだろうか。

  日本政府や東京電力が「事故は収束しつつある」「放射能汚染の健康への被害は考えられない」と繰り返しているうちに、事態は深刻化する一方だ。2号炉のタービン建屋地下にたまった水は、原発稼働中の冷却水の10万倍という高い放射線量が測定された。
 
 露出した核燃料が溶け出して、高濃度の放射性物質で汚染された冷却水が原子炉圧力容器から格納容器へ、さらにタービン建屋にあふれ出し、本来放射性物質が漏れ出してはいけない外部のトレンチ(巨大なトンネル)にまで流れ込んでいたのだ。
 
 外部から大量の冷却水を注入しながら、圧力容器内の水位が上がらなかったのは、容器に穴が開いていたためだった。いわば、火にかけたヤカンに水を注ぎ込んだが、穴が開いていたためにあたりにお湯が飛び散っていたということだ。この高濃度の放射能汚染で、炉心の冷却作業はさらに困難をきわめることになるだろう。事故は一段と深刻の度合いを強めている。
 
 情報を小出しにされているうちに、私たちは「ゆでガエル」のように慣らされて、危険な状況を危険と受け止められなくなっているのではないか。
 
 原発近くの住民が被曝したのをはじめ、野菜、土壌、原乳、水道水、海水まで汚染は広がった。建屋内では作業員が高濃度被曝を受け、欧米の政府やメディアが心配した通りの事態に近づいている。日本の見通しはあまりに甘かった。
 
 あわてふためく在京大使館

  事故の深刻度は7段階評価で、最高のチェルノブイリ原発事故のレベル7に次ぐ、史上2番目のレベル6の事例になることがほぼ確実になってきた。
 
 外部への放出線量では、いまのところチェルノブイリ原発の方が圧倒的に多いが、4基の原発が同時に制御不能の事故に陥ったという意味では、最悪と評価されても仕方がない。事故の代償はあまりに大きい。
 
 福島第1原発は世界に大きな影響を与えはじめている。
 
 在日米軍関係では、米政府が発表した家族向け「自主避難」計画に約9000人が申し込み、政府チャーター機で帰国した。チェルノブイリ原発事故を経験したロシアは「最悪の事態を想定して」、大使館や総領事館の館員の家族の引き揚げを命じた。ロシアは極東の約400カ所に放射線量計を設置し、非常事態省が飛行機で上空観測を行うなど監視態勢を強化している。
 
 フランスは、在日フランス人の日本脱出のためにエールフランスの臨時便を出した。災害支援の援助隊や支援物資を運んだ航空機の帰り便で、子どもなど約280人を優先的に帰国させた。東京近郊にいるフランス人は5000人から2000人に減った。
 
 イギリス外務省は東京と東京以北に住む自国民に退避を勧告し、仙台から東京まで無料バスを走らせた。ドイツ大使館はウェブサイトを通して被災地と首都圏在住者に対して国外退避を呼びかけた。ケニアは大使館を一時閉鎖し、大使館員やその家族らを日本から脱出させた。外務省によると、27カ国が都内にある大使館を一時閉鎖した。
 
 海の向こうで福島第1原発事故はどう報道されているのだろうか。
 
 欧米メディアが報じる日本の危機

  欧米の主要紙やTVニュースをネットで検索すると、日本国内とはまったく異なるニュースが流れている。違いの大きさは、日本での報道管制を疑いたくなるほどである。世界の主要メディアの多くは、日本周辺国の特派員も大量に動員して克明な取材にあたっている。
 
 米CNNテレビは、福島原発が世界最大の原発だと前置きして、「メルトダウン(炉心溶融)のカウントダウンが進行」を繰り返し報じた。さらに「SFのようだ。海水を注入して冷却するという最後の手段に打ってでた」と解説する専門家の映像を流した。
 
 英BBCは「高水準の原子力技術を誇る日本がはじめて直面した核の緊急事態で数万人が避難している」と第一報を伝えた。加えて、「放射能がどのくらいどちらの方向に広がっているのかまるでわからない。日本政府は国民を納得させるには至っていない」と報じた。
 
 米ニューヨーク・タイムズ紙は連日大特集を組んだ。そのなかで「1960年代に開発され、当初からぜい弱性が問題になっていたこの旧型原子炉を、政府の原子力安全・保安院はさらに今後10年間の運転継続を認めていた」と指摘した。そして「この運転継続と機器検査のずさんさは、東電と関係当局の不健全な関係によるものだ」とまで決めつけた。
 
 米ワシントン・ポスト紙は「『唯一の被爆国』として世界に核廃絶を訴えてきた日本が、狭い国土に55もの原発を林立させた核大国になっていた」という異常さを指摘した。「自分たちが落とされた原爆の何千、何万発分にも相当する核物質を原子炉に保有しているのに危機管理ができていなかった」「原発の周囲に平気で住民を住まわせている」などと報じた。政府が情報を隠蔽しつづけてきた結果だとしている。
 
 海外で深刻な事態が報道されているときに、日本の関係者は欧米の反応があまりにヒステリックだと不快感を示していた。国内では、意図的に事態を過小評価しているとしか思えないような発言が相次ぎ、希望的観測ばかりが流れてきた。その陰で官邸、原子力安全・保安院、東電の間で混乱がつづいていた。事態がここに至り、日本政府の危機管理のお粗末さを内外に印象づけることになった。
 
 東電の清水正孝社長は13日夜、記者会見を開いて謝罪した。ところが事故原因については「想定を超えた津波で機器が機能を失ったのが最大の要因」と釈明する一方で、周辺住民の健康への懸念に関しては「ただちに人体に影響が出るレベルではない」とするなど、危機意識に乏しいものだった。
 
 東電は、タービン建屋に流出した炉内の水の放射能を通常の1000万倍と発表してから10万倍に訂正するなど、危機管理ではもっともやってはいけない事実発表の訂正を繰り返した。
 
 膨れあがる日本への不信

  CNNはこう報じた。「これまで日本は原発事故が起きるたびに隠蔽を繰り返し、55基にも及ぶ原子炉に対する安全管理への不信を増大させてきた」。水素爆発が連鎖的に起こったとき、CNNは「東電がまたウソをついた」と憤りを隠さなかった。  

 クリントン米国務長官は、CNNのインタビューに対して公然と「日本の情報は混乱していて信用できない」と異例のコメントをした。米CBSニュースの世論調査では、79%が「日本政府は原発事故に関して把握している情報をすべて開示していない」と回答している。
 
 ニューヨーク・タイムズは「日本の原発事業者は親しい政府当局者とともに、不安を募らせる一般市民の目から原発での出来事を隠してきた」と報じた。そして「終結にはほど遠い状況」という認識を示した。米国防総省が独自に事故現場にヘリコプターを飛ばして放射能測定をしたことも詳しく報じて、日本のデータが信用できないことをにおわせている。
 
 ワシントン・ポストは「日本の当局筋は原発周辺の放射線の増加は微量と強調していたが、汚染地域は拡大している」と指摘した。これまで抑制的な報道に努めてきた保守系米紙、ウォールストリート・ジャーナルも「原子炉格納容器は丈夫で大量の放射能漏れは防いでいると政府当局者は強調してきたが、今や復旧作業は大きく後退しているではないか」と批判した。  

 英インディペンデント紙は、「事故への不安が高まっている背景に東電の隠蔽体質がある」と指摘。英ガーディアン紙は、これまでのトラブル隠しや修理、検査記録の改ざんなどの不祥事も踏まえて、「東電は事実を伝えるという点に関して堕落の歴史を持つ」と報じた。

  ドイツでも、日本政府の事故対応について不信感を強調する報道が目立っている。
 
 被災地で救援活動に就いていた民間団体「フメディカ」の救援チーム5人は予定を切り上げて帰国した後、地元メディアに対し「日本政府は事実を隠蔽し過小評価している。チェルノブイリ原発事故を思い出させる」と早期帰国の理由を語った。
 
 メルケル首相は記者会見で「日本からの情報は矛盾している」と繰り返した。オーストラリアのラッド外相はテレビで、「オーストラリアをはじめ、国際社会は福島第1原発の正確な状態に関する緊急の説明を必要としている」と情報不足を非難した。日本は世界の信用を失いつつある。
 
 後退する世界の原発

  米CBSニュースの世論調査では、米国内で新規原発建設を支持する割合は08年に57%だったが、今回の事故で43%に後退した。米ギャラップ社の調査では、70%の米国民が自国でも原発事故が起こり得ると懸念を強めている。オバマ大統領が温暖化対策として最重点政策に掲げる「原発建設推進」への支持は44%にとどまり、不支持(47%)が上回った。
 
 英国の世論調査では4ヵ月前と比較して、原発新設への「賛成」は47%から35%に、「反対」は19%から28%に変わった。ドイツの緊急世論調査では「日本と同様の原発事故がドイツでも起こる可能性があると思うか」との問いに、70%が「イエス」と回答した。
 
 各国の原発政策にも大きな影響を与えている。
 
 ドイツでは社会民主党が政権をとった9年前に、2022年までに国内の原発をすべて停止する「脱原発法」を制定したが、昨年秋、メルケル首相は脱原発政策を見直して原発の稼働年数を平均で12年延長する方針を決めたばかりだった。だが、今回の事故を目の当たりにして、急遽、稼働延長を3カ月間凍結し、1980年以前に運転を開始した原発7基は条件付きで停止するとともに、残りの原発についても安全性を点検するよう要請した。
 
 温暖化対策推進の旗振り役を自認するメルケル首相が打ち出した「20-20-20計画」では、2020年までに域内の排出量20%削減、エネルギー効率20%改善、再生可能エネルギーの割合を20%に高めるとしていた。その計画実現を理由に21年までに全廃予定だった原子力発電所の稼働延長を表明していたが、緑の党などから猛反発を受けていた。
 
 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は事故後、加盟27カ国のエネルギー担当相や電力会社代表らを集めて緊急会議を招集。EU域内の14カ国で稼働中の原発143基すべてを対象に「安全性テスト」を任意で実施することで合意した。EU以外のトルコやスイス、ロシアなど近隣国にも安全性テストを呼びかけた。「世界で一番安全」とされてきた日本の原発事故は各国に大きな動揺を与えている。
 
 イタリアはチェルノブイリの事故を受けて、国内4カ所の原発は90年までに全廃した。最近は温暖化対策を眼目にした原発復活を計画していたが、今回の事故を受けて1年間、計画凍結を決めた。スイスでも原発の改修と新規建設計画を当面凍結する方針を打ち出した。
 
 反米で知られる南米ベネズエラのチャベス大統領も「初期段階にある原子力開発計画を凍結した」と表明。これは米国などが核兵器開発への転用を警戒していたものだ。地震国メキシコも、新たな原発建設計画を保留し、原因究明後にエネルギー政策を再検討する方針を発表した。
 
 リーマンショック後、停滞していた世界の地球温暖化対策は、原子力を対策の牽引車とすることで景気対策と整合する“解”を見出し、この方向性は国際的にも合意ができつつあった。しかし、福島の事故はこれをも津波のように押し流してしまった。
 
 ドイツでは緑の党が躍進

  スリーマイル島事故から約30年、原発の新設ができなかった米国でも、オバマ大統領が原発復活に政権の浮揚をかけていた。
 
 カリフォルニア州ではサンオノフレとディアブロキャニオンの州内2つ原発で、4基の原子炉が認可失効に備えて更新手続きに入っていた。しかし、日本同様、地震が多いカリフォルニア州のエネルギー委員会は、今回の事故を受けて更新の是非をめぐる再検討に入ると発表した。
 
 菅政権も日本企業の商機拡大から原発輸出を後押ししていた。しかし当分、海外から日本に注文が舞い込むことはないだろう。  各国の政治や政策にも大きな影響を与え始めている。
 
 メルケル首相が原発の稼働延長見直しを表明したドイツで、反原発勢力が急速に勢いを増している。
 
 3月20日に行われた東部ザクセン・アンハルト州議会選挙では、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が第1党を維持したものの(得票率は32.5%で前回から3.7ポイント減)、反原発を掲げる90年連合・緑の党が得票率で7.1%と前回選挙からほぼ倍増した。
 
 1週間後の27日に行われた南西部バーデン・ビュルテンベルク州議会選挙では、90年連合・緑の党(24.2%)と社会民主党(23.1%)が計47.3%を獲得し、44.3%の与党連合(CDU39%と自由民主党5.3)をとうとう退けてしまった。ドイツ政治史上ではじめて、緑の党から州首相が誕生することになりそうだ。
 
 福島原発の事故後、国内に対していち早く原発の安全性を強調し、原発増設計画の変更がないことを強調していた中国でも3月16日、温家宝首相が招集した国務院常務会議で新規の原発建設計画の承認を暫定的に停止することなどを決めた。  

 インド原子力発電公社は稼働中の20基の原発の再検査を進めている。インド政府計画委員会は、「日本の事故で原発建設はむずかしくなった。安全性のより高い設計や技術の検討が必要だ。原発整備計画は10年遅れるだろう」との見方を示した。
 
 1994年のロサンゼルス地震では多くの高速道路や橋が崩壊した。そのとき、現地調査にやってきた日本の土木関係者たちは口を揃えて「日本の道路は耐震性がしっかりしているので、大震災に襲われてもこんなひどいことにはならない」と豪語した。
 
 だが、1年後に襲った阪神淡路大震災では、阪神高速道路は無残に横倒しになり、新幹線の橋脚なども崩れ落ちた。米国の新聞は「崩れないはずの日本の高速道路が崩壊した」と皮肉たっぷりに書いた。日本の土木関係者は「考えられない災害だった」と「想定外」を繰り返した。そして誰も工事の責任を取らなかった。
 

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