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東京新聞の半田滋さんといえばいまや平和関係のさまざまな講演会でひっぱりだこの超売れっ子の防衛省取材担当の編集委員です。この4月7日、その半田さんの「迷走する普天間問題 日米安保を問う」と題された東京での講演をスカイプで聴く機会がありました。防衛庁(省)取材暦18年の経歴を持つ半田さんのことですから、当然、普天間問題に関する情報とその考察は専門家はだしのものです。いや、専門家としてのそれといってもよいでしょう。しかし、私は、一応の講演が終わった後のフロアを交えたディスカッションの中で語った半田さんの次のような認識には少なくなく首を傾げざるをえませんでした。いや、首肯できないものを感じました。

私の聞き間違えでなければ、半田さんは、その講演後のディスカッションの中で普天間問題に関して次のような認識を語りました。「(この問題についての交渉相手の)米国はタフネゴシェーターの面々が揃っているわけですから、ただ普天間を返せ、返せといっても返すはずがない」、と。

私がこの半田さんの認識に首を傾げざるをえない理由は以下のようなものです。

第1。半田さんの上記の認識は、普天間飛行場の返還は、「沖縄に現在既に存在している米軍基地の中に新たにヘリポートを建設する」「嘉手納飛行場に追加的な施設を整備し、現在の普天間飛行場の一部の機能を移し替え、統合する」などの代替措置と引き換えに実現される、という日米政府間のSACO合意(中間報告)で提起されたパッケージ論(「橋本内閣総理大臣及びモンデール駐日米国大使共同記者会見」(1996年4月12日))の一変種というべきものでしかないこと。すなわち、それが「県内移設」であれ「県外移設」であれ、日本のどこかへの米軍基地移設を当然の前提としている認識、日米軍事同盟の存在を当然の前提にした認識、日米軍事同盟のくびきから離れるという視点をまったく欠落させた認識でしかない、といわなければならないこと。

第2。上記のことと重なることですが、半田さんの上記の認識は、日米安保条約第10条に「この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する」という規定があることを無視した認識であるということ。日本の主体的な外交努力しだいでは同安保条約をその規定に即して平和裏に廃棄できるのです。半田さんのこの認識の欠落は、日米軍事同盟の存在を当然の前提としているところからくる認識の欠落というほかないものでしょう。

第3。上記の認識とも関連して、半田さんの認識には「移設」はあくまでもアメリカの国内問題、という視点が見られないこと。かつてピープルズ・プラン研究所の武藤一羊さんはこの問題について次のように指摘していました。「この『移設』という言葉遣い=問題設定には根本的におかしいところがないか。移設についてのこれらの発言は日本政府を主語とするものである。だが問題の基地は米軍基地である。つまり米軍の施設、アメリカ合衆国の所有、管理する施設である。それの機能をA地点からB地点に移設するという行為の主語は、米国政府でしかありえないのではないか」(「鳩山政権と沖縄米軍基地 ――『移設』というワナ」(ピープルズ・プラン研究所 2009年10月31日)。したがって、半田さんの上記の認識からは沖縄県民の「普天間基地の即時返還」という切実な願い(「県民大会幹事会『普天間基地即時返還』など確認」(琉球朝日放送 2009年11月3日)は排除されてしまいかねないこと(「ただ普天間を返せ、返せといっても返すはずがない」というのが半田さんの認識であるわけですから)。

第4。「ただ普天間を返せ、返せといっても米国は基地を返すはずがない」という半田さんの認識は事実としても誤っているように思います。この点について前回も紹介した元沖縄県知事の大田昌秀さんは次のような証言をしています。

「日本のマスコミがほとんど触れていないんですけどね、普天間問題については米国の軍事専門家や大学教授たちが書いた論文がたくさんありましてね。統計をとってみたら量的には日本側の3倍以上あるんですよ。その圧倒的多数はいまごろ普天間に代わる基地を作る必要がない。普天間は即時返還するべきであって、日本政府が正式に要請さえすればアメリカはそれに柔軟に対応して、別に代わりの基地を作る必要はない、ということを書いているわけですよ」(「普天間問題のボタンのかけ違いはここから始まった 大田昌秀氏(元沖縄県知事)」ビデオニュース・ドットコム 2010年3月11日放送 10:30秒頃

「アメリカ側は、太平洋司令部などに行って副司令官が会ってくれたんですが海軍の提督でスミスさんという方でしたが、この方は日本政府がほんとうに要求すればわれわれは沖縄から全部引き上げていいですよとはっきり言っていました。それからアメリカのケイトーというシンクタンクの上級研究員を沖縄に招いたことがあるんですが、彼は米国に帰ってからすぐに『沖縄はアメリカの軍事的植民地』だという論文を発表し、また、ケイトー研究所というシンクタンクそのものがアメリカ議会に提言書を出して、その中には在日米軍を6年以内に撤退させて、有事のときに日本の飛行場や港を使わせるようなそういう契約をすればよい、という提言をしている。(略)そういうことを日本のマスコミは完全に無視しちゃっている」(同上、37:30秒頃

「それからいまの一番の問題は辺野古問題ですが、2007年の5月に再編実施に関する日米ロードマップができました。そのときに沖縄に8000人いる海兵隊と9000人の家族をグアムに移すということは決定したわけです。その2か月後に今度はグアムの統合軍事開発計画というのを太平洋軍が計画して海軍省がそれを負担していまも予算も組んで実施しているわけです。昨年の11月にはその環境調査の膨大な量の報告書が出た。(略)それを見ても普天間の海兵隊が(普天間基地返還の如何に関わりなく)グアムに移る可能性が非常に高い。(略)グアムの統合開発計画についてはいっぱい資料がでているのにまたもや本土(のメディア)は一切無視している」(同上

上記の大田元沖縄県知事の証言に対する宮台真司さん(首都大学東京教授)のコメントも下記に掲げておきます。

「沖縄返還のときにアメリカは日本が『核抜き』などといったら絶対に返してくれない、ということで凝り固まっていたときにアメリカはすでに対中、外交戦略上〈核を抜く〉ということを事実上決めていたということを(大田元知事は)明らかにされて、それはもうみんなわかっていることだと思うんですね。で、今回の普天間基地問題についても、アメリカは大枠としては沖縄から、あるいは日本から基地を引いても構わないと言っているにも関わらず、代替施設なしにはたとえば普天間の返還、あるいは縮小はありえない、というふうに思い込んでいる。そうであるはずだと思い込んでいたり、もしかすると〈はずだ〉という思い込みを利用して何かをしようとしている人たちがいるのかもしれませんけど、アメリカは引いていいと思っているのに、いやアメリカにどうしてもいてもらわないと困る。あるいはアメリカは基地を返してもいいと思っているのに、日本があるいはヤマトがアメリカさん基地は返してもらっては困る、と言っているふうに見える。もっと言ってしまえば、昨日伊波市長がおっしゃっておられたことなんですけれども、そこまでしていてくれというんだったら辺野古にしてくれよ、という要求をアメリカはしてくる。どうも問題は日本にありそう。なんでアメリカは大枠としては返してもいいと言っているのに、いや返してもらっては困るっていうふうに言っているのでしょうかね。どうも(日本の官僚は)幼稚な分離不安の幼児のように見えてたまらない」(同上、50:56秒頃

半田滋さん(東京新聞編集委員)がいま平和関係の講演会でひっぱりだこの超売れっ子の人気講師である理由は、彼の防衛庁(省)取材暦18年の経歴や2007年に東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞した経歴などが評価されてのことなのでしょうが、当然のことながら長い経歴を持つということとある問題について深い認識を持っているということとは、必ずしもイコールの関係を結ぶものではありません。私は以前に(たとえばCML 003194)「保守、革新を問わず、私たちの国のひとびとの有名人好き、あるいは有名人病には呆れ果てるものがあ」る、と書いたことがありますが、半田さんがそのような単なる空っぽの「有名人」のひとりにすぎないとは私はまったく思いはしませんが、猫も杓子も半田さんを講演会の講師にしたがる、といういまの「革新」の風潮はほんとうに半田さんの認識や講演内容、あるいは記事の内容を評価した上でのことか、疑問に思っています。もしかしたら失礼な言い様にはなりますが、半田滋さんという優秀な記者も「日米同盟は日本の安全保障の生命線だ」(「全国紙と現政権の間合い-元旦の「社説」を読む」(週刊金曜日 編集長ブログ 2010年1月15日)などとして、総じて日米の軍事同盟を変更のできない与件のように固定化した社説を書くマス・メディアに勤める記者であるというその限界性から抜け出すことができていないのかもしれない。そういう気がしないでもありません。いずれにしてもいつのときも「自分の眼」というものは大切なはずだろう、と私は思っています。


(写真:市街地の中心に位置する米軍普天間基地)
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