キョウ 流砂

Blog「みずき」:小倉利丸さん(富山大学名誉教授。ピープルズ・プラン研究所共同代表)の「武藤一羊著『戦後レジームと憲法平和主義』」の書評の中から90年代に当時の社会党の村山政権が「日米安保と自衛隊合憲」論を打ち出したことが今日の政治の右傾化のターニング・ポイントとなったと指摘する箇所を「今日の言葉」としました。もちろん、この問題は、今日の社会と政治の右傾化に密接につながる問題としていま現にある根底的問題というべきだからです。

【その後、理念なき政局運動がはびこるようになった】
本書は、武藤がこの間提起してきた彼の戦後日本国家論を再度整理して、とりわけ安倍政権が目指す方向への根底的な否定の根拠を論じるものだといえる。武藤は、戦後日本国家の構成原理はアメリカの覇権原理戦後憲法の平和・民主主義原理、そして帝国継承原理の三つからなるという基本認識を提起するが、これら三原則は「相互に矛盾する構成原理で成り立つ歴史的個性を備えた国家」であるというのが武藤の重要な方法論であると同時に、ここから安倍政権が目論む帝国継承原理一元論とでもいうべき改憲を通じた戦後レジームからの脱却戦略へのオルタナティブも導き出される。(略)武藤の言う三つの原理の均衡が崩れた大きな要因をつくりだしたのは、自民党ではなく90年代の村山政権だったことを強調したい。村山政権が、日米安保と自衛隊合憲を打ち出し、原発をも容認したことは、「革新」側による憲法9条の再定義であって、その後の平和運動の基本理念を大きく損なう裏切り行為だったとはいえないだろうか。この結果として、その後の野党や反戦平和運動の流れのなかに、原則や理念を棚上げにして、目先の軍事・安全保障政策に対する反対として運動を展開するという理念なき政局運動がはびこるようになった。体制選択はおろか、原則的な外交・安全保障の基本政策を根底から否定する運動の思想的なラディカリズムは影をひそめ、その結果として、日米同盟解消や自衛隊廃止、非武装中立という方向性が平和運動の当然の共通認識とはならなくなってしまった(あるいは公然とは口に出されなくなった)ように思う。こうして、自衛のための武力行使を暗黙のうちに容認する価値観が徐々に平和運動のなかにも浸透してきたように思う。

言い換えれば、自国軍隊を持つことを当然の前提とする諸外国の平和運動と同じ次元で反戦平和運動が再定義され、その結果として9条を重要な運動の柱としながらも、この9条が「革新」側によって自衛隊合憲、日米安保容認という再定義を前提とした立法府での議論の枠組が構築されていることの深刻な問題を棚上げにする一方で、「戦争放棄」や「9条守れ」というスローガンには漠然とした戦争放棄の理念がありうるハズだという期待を多くの反戦平和運動の担い手たちは抱きつつも、政治の現実の舞台があまりにもこの理念とかけはなれた土俵の上で展開されている欺瞞に疲れ果てる姿が日常化してきたとはいえないか。自衛隊解体、国家に軍隊はいらないを非武装平和主義の意味として共通の合意とする確認もなしに、具体性のないヌエ的なスローガンでお茶を濁す空気すら生み出されてきたのではないだろうか。この反戦平和運動のなかでの90年代の9条再定義は安倍政権につらなる現実政治への理想主義の敗北であったのではないだろうか。だから、左派の再構築は、こうした90年代以降の再定義を自己批判的に総括することを避けることはできないはずだ。その上で、武藤が言うように平和主義をその内実を伴なう意味のレベルで再定義し共有することが必須の課題だ。「革新」による9条解釈の変質は、現行の自衛隊については違憲とは明言せず、集団的自衛権だけが違憲であるかのような奇妙なレトリックが支配的になってきた現在の流れの源流にあるものとはいえないだろうか。こうなってしまうと、安倍政権が打ち出した「積極的平和主義」や自衛隊合憲を前提とする議論の土俵に片足を乗せながら、集団的自衛権行使や海外派兵の条件だけを争点とするような論じ方になってしまう。こうした危惧を武藤は戦争法反対の論調のなかに見出して危惧を表明している。こうしてみると先に述べたように、村山政権が打ち出した日米安保容認、自衛隊合憲論がその後の運動にもたらした影響は非常に大きかったのではないかと思う。(
小倉利丸ブログ 2016年11月21日

【山中人間話目次】
・「権力監視がメディアの使命  沖縄から問う報道と自由の表現」というシンポジウムの問題点
・田中宇さん(評論家)の「アジア政策に関してトランプは、クリントンと大して変わらない「軍産複合体」系の大統領だということになる」という論
・それでも安倍の支持率が高いという驚くべき事実は、日本国民の民度が異常に低下しているとしか理解できない
・「地球はもう温暖化していない」という論に対する岩月浩二さん(弁護士)の共感
・外国人技能実習生を完全に奴隷扱いする外国人技能実習生受入機関の絶句ものの酷さ
・田中真知さんの文化人類学者の阿部年晴さんを追悼する言葉
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