キョウ いくみな2 
原画は山下清「観兵式」(1937年)
 
Blog「みずき」:徐京植さんの辺見庸の新刊『完全版1★9★3★7(イクミナ)』の解説のさらにレクチャーとしてのハンギョレ紙寄稿文を読んで第一に私が思ったのは徐さんの「在日」という立ち位置です。その立ち位置ゆえに書くことのできた辺見庸の新刊の渾身の解説(レクチャー)であるということです。このレクチャーには徐さんの「在日朝鮮人」という立ち位置の心性が強く反映しています。辺見の父がまだ子どもだった辺見に野蛮な怒気をふくんだ声で言い放った「朝鮮人はダメだ」という言葉、「あいつらは手でぶんなぐってもダメだ。スリッパで殴らないとダメなんだ……」という罵倒の言葉への徐さんの反応にその心性の強さは如実に現われています。徐さんは書きます。「『朝鮮人』である私には、平静な心でこのくだりを読むことが、できない。私自身が殴られたわけでもないのに、神経がこすり上げられたような痛みと嫌悪を感じる」、と。そこからのニッポンという国への問い。辺見庸の評価。その問いと評価が読む者の胸を打つのです。辺見庸の新刊の優れた解説、レクチャーになっていると思います。

【著者の問いかけに対し、それに匹敵しうる応答の声は聞こえてこない】
今回は書物を紹介してみたい。現代日本の小説家・
辺見庸の『1★9★3★7』である。すでに昨年、初版を読んでいたのだが、近々刊行される文庫版に「解説」を書くよう依頼されたため、あらためて精読したのである。辺見庸は一言でいって、日本社会の異端児であり、反抗者である。1944年、宮城県石巻市生まれ。1970年、共同通信社に入り北京特派員、ハノイ支局長などを歴任した。1991年に『自動起床装置』で芥川賞を受賞。1994年には『もの食う人びと』を刊行している。その彼が、1937年という時に焦点を当てて、歴史的時間を往還しながら、「日本と日本人」を徹底的に解剖したのが本書である。その解剖のメスは、小林秀雄、梯明秀、丸山眞男、小津安二郎ら戦後日本を代表する知識人たちから、自らの父や自分自身にまで容赦なく及ぶ。私は解放(日本敗戦)6年後の1951年、日本の京都市にうまれ、いわゆる「戦後民主主義教育」を受けて育った。日本で生まれて65年余りになるが、ここ数年、自分は「日本と日本人」がわかっていなかったという思いが強い。安保法制の強行採決、沖縄の辺野古基地移転や原発再稼働の強行等、暗然とするほかない出来事が続いた昨年(2015年)は、日韓両政府合作による「慰安婦問題最終解決合意」劇で幕を閉じた。もちろん、これが真の「最終解決」になどなりうるはずもない。「恨(ハン)」は今後も層々と堆積するばかりであろう。私たちがかつて書物で学んだ「政治的反動」は、かつて学んだとおりの姿で目の前にやってきた。反動に対する無策や無気力もまた忠実に反復されている。反知性主義が勝ち誇るそのような中、私が目にしたわずかな書物のなかで、他の人に推薦したい1冊がこの『1★9★3★7』である。

本書に次のくだりがある。<「この驚くべき事態」はじつは、なんとなくそうなってしまったのではない。(中略)それはこんにちこのようになってしまったのではなく、わたし(たち)がずるずるとこんにちを「つくった」というべきではないのか。>著者のこの問いかけに対し、それに匹敵しうる重みで応答する声は聞こえてこないか?それがついに聞かれないままであれば、日本社会は今日の「反動」に抗するすべもないままに、またしても破局へと押し流されるほかないであろう。だが本書初版刊行からおよそ1年、私はまだその「応答する声」を聞くことができないでいる。1937年は日本の中国侵略戦争が本格的に始まった年であり、日本の本土では人々は戦勝気分に浮かれていたが、その年12月には「南京大虐殺」が繰り広げられた。辺見庸はこの「記憶」が集団的に消去される日本の危機的現状に果敢な抵抗を試みている。その重要な手がかりとなったのは、いまはほとんど忘れられようとしている「戦後文学」の代表的作家、
堀田善衞の小説『時間』と、武田泰淳の『汝の母を!』である。1955年に発表された堀田の作品は、主人公を中国人知識人に設定し、いわば他者である被害者側の視線から日本の侵略と虐殺を描いたものだ。主人公の見た「惨憺たるもの」は、たとえば次のように描写されている。〈断首。断手。断肢。/野犬が裸の屍を食らうときには、必ず睾丸を先に食らい、それから腹部に及ぶ。人間もまた裸の屍をつつく場合には、まず性器を、ついで腹を切り裂く。/犬や猫は、食っての後に、行くべき道を知っている。けれども人間は、殺しての後に行くべき道を知らぬ。もしあるとすれば再び殺すみちを行くのみ。〉武田の作品は堀田の「時間」より1年遅れて公表された。中国戦線で日本軍兵士たちが、捕えた中国人の母と息子に性行為を強要して見物して嘲笑した挙句、最後には二人とも焼き殺すという話である。武田自身の戦場体験が投影された作品である。

【山中人間話目次】
・私は民進党の対応を評価しない――「TPP国会承認求める議案 採決めぐり駆け引き続く」という今朝のNHKのニュース
・TPP問題。豊島耕一さん(佐賀大学名誉教授)のメディア批判
・岩月浩二弁護士の「意図的誤訳を残したままの国会承認は無効だ 歴史に残る売国官僚の犯罪行為」だという渾身の大弁論
・金平茂紀さん(テレビ報道記者・キャスター)の「私たちは差別する側も、差別される側も、皆「土人」なのだ」という視点
・蟻塚 亮二さんの本土のリベラル・左派は「革新ナショナリズム」という視点
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