キョウ きんこう2
錦江 

【地中からにじみ出す/言葉少ない眼の色】
申東曄『錦江』の中の、第3章を、翻訳作業の途中ではあるが(略)お目にかけたい。申東曄は1930年に、百済の古都・扶余で生まれた。建国大学大学院で国文学を専攻、高校の国語教師をしながら詩作し、1963年、詩集『阿斯女』で世に出て、参与派の詩人として、大きな足跡を残した。『錦江』は朴正熙軍事独裁政権下の1967年に書かれたが、1969年に詩人が病死して六年後の全集が、「緊急措置9号」違反として発売禁止となったため、やっと1985年になって日の目を見た。1894年の甲午農民戦争という民衆蜂起を描きながら、強権を振るう国家権力への民衆の生と闘いの歴史を、民衆のエネルギーに全幅の信頼を置いて書き切っている。とはいえ、前に見たように独裁政権下に表現は自由ではなく、「イソップの言葉」が至る所に散りばめられている。

ついでながら書いておかなければならないのは、朝鮮において民衆のための社会を開く闘いであった、甲午農民戦争を、つまりは、民主的社会の芽を、無慈悲に踏みつぶしてしまったのは、
日清戦争に勝って驕りに火照った、日本の暴力装置だったということである。

ある日/夏の錦江の川辺を散歩していて/私は空を見た。

輝かしい瞳。

君の瞳は/夜深い顔に向って/輝いていた。

その輝かしい眼を/私はまだ/忘れたことがない。

黒い風は/先だった人々の/寂しい魂を/ずたずたに破り/花をふいごのように打って

波は、/きみの顔/君の肩の上に、そうして君の胸の上に/ひたすら激しく寄せた。

君は言葉もなく、/耳もなく、見ることもなしに/ただ億千万の降りかかる一揆をくぐり抜けて/たった一人で/目を見開いて/歩いていた。

その輝かしい眼を/私はまだ/忘れたことがない。

その暗い夜/君の眼は/世紀の待合室の中に立って/輝いていた。

ビルごとに豪雨が/吹き付け煽られ/君を憶えている人は/当世に一人もいなかった。

その美しく、/輝かしい眼を/私はまだ忘れたことがない。

静かな、/なにも言うことのない、/ただ愛しいと/思う、その眼は/その夜の街角を/歩いていた。

君の輝かしい/その眼が子の刻の、夜明けだ、/日の出だ。

きのうの/あがきは/数千百万の悲鳴をのせ/川の水が/悲しくも流してしまう。

世の中に抵抗することもなく、/むしろ世の中が/君の威厳の前に抵抗しようとするように/輝かしい瞳。/君は世の中を踏みしめて歩く/ぶどうの実を噛むように世の中を噛みながら/こつこつとひたすら/歩いていた。

その美しい瞳。/君のその眼を見るのは/世に出た私の、ただ一つ/至上のやりがいだった。

その眼は/私の生と一緒に/私の魂の中に生き残った。

そんな光を得るために/人類はさまよっていたのだ。

精神が/輝いていた。/体は痩せているが/ただ精神は/輝いていた。

涙ぐましい歴史に呑み込まれるのに耐え/いつかまたしても/波に沈むのも忘れ/みすみす、自覚している人の。

世俗になった顔つきを/さっぱりとこき落とす、/昇華された高い意思のうちに/輝いている人の、/精神の/眼/深く。高く。/地中からにじみ出す/言葉少ない眼の色。この世を容れ/そうしてこの世をすっかり破ってしまった/おお、人間精神美の/至高の光。


備仲臣道 2016年5月25日
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