キョウ あさひしんぶん3
朝日新聞「砂川判決の呪縛」から

昨日の5月24日付けの朝日新聞に「(憲法を考える)砂川判決の呪縛」と題された砂川判決に詳しい弁護士、ジャーナリスト、憲法学者の3人の論者のインタビュー記事の特集が組まれています。そのうち砂川事件再審請求弁護団代表の吉永満夫さんと、最近、日米安保に関する日米間の密約の公文書を発見し、それを公表したばかりの早稲田大学客員教授でジャーナリストの春名幹男さんのインタビュー発言は首肯できるのですが、九州大学の憲法学の教授の南野森さんのインタビュー発言はこれが憲法学者の発言かと思われる部分があり、首肯できません。

南野発言で私が問題と感じる部分は次の箇所です。

「砂川事件をめぐり、最高裁長官が紛争の事実上の当事者である駐日米大使と面会していたのは異常な出来事です。ただ、それをもって、憲法に保障された「公平な裁判」ではなかった、と立証できるかといえば難しいと思います。理由は二つあります。まず、当時の田中耕太郎長官が大使に伝えた内容は裁判の見通しにとどまり、結論を漏らしたとまでは言えないからです。また、長官といえども最高裁に属する15人の裁判官の1人にすぎず、絶対的な権限があるわけではありません。一審の無罪判決を破棄した最高裁判決の結論も15人全員が一致したものでした。このため、再審請求を退けた東京地裁決定は法律論としては理解できます。」

上記の吉永満夫さんは、この最高裁長官と駐日米大使の面会について、「裁判官が評議の秘密を漏らすことは裁判所法や裁判官倫理に反し、罷免に値する行為です」と明確に当時の田中耕太郎最高裁長官を批判しています。また、春名幹男さんも、「日本は三権分立の制度を採る独立国です。司法権への介入は傲慢で、非難されるべき行為」だと当時の米大使が最高裁長官に高裁を飛び越え最高裁に直接上告せよと圧力をかけた(米公文書1)こと及び上告審の見通しを問いただす行動(同左2)に出たことを明確に批判しています。

それに比して、「当時の田中耕太郎長官が大使に伝えた内容は裁判の見通しにとどまり、結論を漏らしたとまでは言えない」という南野発言はこれが憲法学者の発言かと聞く側を鼻白ませるに十分な無知の発言です。裁判所法の第3章の「裁判の評議」の第75条2項には「評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない」と明確に規定されています。同条2項にいう「特別の定」とは同法第二編「最高裁判所」の第11条の「(裁判官の意見の表示) 裁判書には、各裁判官の意 見を表示しなければならない」という規定を指していると思われますが、同条にいう「各裁判官の意見を表示」は最高裁の裁判書の表示について述べているのであって同法第75条2項にいう「評議の経過並びに各裁判官の意見(略)については、(略)秘密を守らなければならない」という規定をなんら拘束するものではありません。すなわち、吉永弁護士のいう「裁判官が評議の秘密を漏らすことは裁判所法や裁判官倫理に反し、罷免に値する行為」という解釈が正統であり、正しいのです。

南野さんは「当時の田中耕太郎長官が大使に伝えた内容は裁判の見通しにとどまり、結論を漏らしたとまでは言えない」とも述べていますが、「裁判の見通し」も評議の内に含まれることも言うまでもありません。南野さんは「安全保障関連法に反対する学者の会」の九州の重要メンバーのひとりでもあり、先の安保法制反対運動ではSEALDsと行動を共にした行動派の学者でもあります。彼の認識の浅はかさは「安全保障関連法に反対する学者の会」の認識の浅はかさを象徴しているもののようにも私には見えます。

なお、上記の砂川事件再審請求弁護団代表の吉永満夫さんの発言については森川文人弁護士が『暴力機関としての裁判所 砂川判決のドッチラケ』という記事の中で紹介されています。ご参照ください。
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