キョウ どいつのあき
ドイツの秋

Blog「みずき」:辺見庸の言葉を私流に意訳すれば次のようになるでしょうか。辺見はこのところの日本の「左翼」と呼ばれる政党と市民団体の波頭も高らかないわば軍艦マーチ風の「右傾化」模様にとことん愛想を尽かしている。「いつまでもいつまでもひとびとは代をついでアホになっている」、「『テロにも戦争にも反対!』と叫ぶのに脳みそは1ミリグラムもひつようではない」、「善も悪と見まがうほどそらぞらしく反動的であり」云々の言葉の流砂はそうした辺見の憤懣遣る方ない思いの表現であろう、というのが私の解釈です。憤懣遣る方ない思いは私も同じですからそう思うのです。しかし、こちらの謝意の言葉を見ても辺見は本来決して非礼の人ではないことは明らかです。

【私たちは「鉛の時代」をいまだ生きている】
どうしたわけか、The Dancer UpstairsのこととかBaader Meinhofのこととかを、タールの海でおぼれるようにして、しばらくぼんやりとかんがえていた。

前者はSendero Luminosoの話だから、できごとと時空間をいっしょくたにはできないと言えば、たしかにそうだ。ただ、まったくことなる両者は、げんざいの描かれ方、イメージのされかたにおいて、ほぼおなじい。滑稽なほどに。凶暴、凶悪、冷血、短絡、無知、浅薄、無個性、無思考、思索ゼロ、そろいもそろってヘビースモーカー。ステレオタイプな世界観・人間観・国家観の、それらのおなじくステレオタイプな表裏のどちらかに、われわれは意味のない染み(番号)として張りついているようにしいられている

この間もっともよく学習したのはだれだろうか?おそらく国家(の暴力装置)と資本だろう。いつまでもいつまでもひとびとは代をついでアホになっている。「テロにも戦争にも反対!」と叫ぶのに脳みそは1ミリグラムもひつようではない。「政治は、かかわるわるすべての人間をパーにする」と言ったのは
ガレル(『自由、夜』)だったか。悪がどこまでも凡庸なように、善も悪と見まがうほどそらぞらしく反動的であり、つまり両者にはまったく境界がなくなった。人間はどこまでもどこまでも、いつまでもいつまでも、敗北と隷属の過程を、笑いながら(ときに誇らかに!)あゆんでいる。

にしても、「
ドイツの秋」(Deutscher Herbst)にせよ、伊の「鉛の時代」にせよ、この時間のどこかにまだそれらの痕跡がのこっていないわけがない。 いまだってYears of Lead の最中ではないか。つづくのだ。さらにさらにひきつづくのだ。leadの雨が降るだろう。鉛が降る。横なぐりに。斜交いに。そんなことを大阪で話したわけではない。だが、感じているらしいひとはたしかにいた。アントナン・アルトー『後期集成』はおもしろい。飽きない。不意にすくわれる。(辺見庸「日録」2016/04/08

4.3大阪講演―――謝意】 
2016年4月3日の大阪講演を無事に終えることができました。各地から遠路おいでくださったみなさん、講演実行委員会のみなさん、「どこまでも9条の会」のみなさん、写真家・赤阪友昭さん、チェリスト中山由佳里さん、医師・谷川真理先生、ご協力いただいたすべてのみなさん、ありがとうございました!・講演にあわせ、フォトギャラリー・サイで8日間にわたりおこなわれた写真+テクスト展(「豊穣なる外界」)も、静けさのなかでとどこおりなく終えることができました。来場されたみなさま、講演実行委員会のみなさん、赤阪さんご夫妻に感謝申し上げます。ーーーー辺見庸

【注】
1 The Dancer Upstairs:原題 The Dancer Upstairs。邦訳は「テロリストのダンス」(シェイクスピア ニコラス著、新藤純子訳 新潮文庫 – 1999/5)

キョウ てろりすとのだんす キョウ てろりすとのだんす2

2 Baader Meinhof:ドイツ赤軍。第二次世界大戦後のドイツ(旧西ドイツ)における最も活動的な極左の民兵組織。 
3 Sendero Luminoso:センデロ・ルミノソはスペイン語で“輝ける道”の意。ペルーの極左武装組織。毛派共産党。正式名称「ペルー共産党」。 
4 フィリップ・ガレル:フランスの映画監督。1948年生。「ポスト・ヌーヴェルヴァーグ」の一人とされる。
5 自由、夜:原題はLiberté, la nuit。1983年にフランス国立視聴覚研究所(INA)が製作したフランスの映画。監督・原案・脚本はフィリップ・ガレル。 
6 ドイツの秋(Deutscher Herbst):1977年後半のドイツ(当時は西ドイツ)で起こった一連のテロ事件の通称。戦後最大のテロ事件として西ドイツ社会を震撼させた。 
7 鉛の時代(Years of Lead):1970年代後半から1980年代初頭にかけて政治的に非常に不安定な状態に陥ったイタリアの状況をいう。1980年8月には左派と右派の急進的政治集団によって一般市民をも巻き込んだボローニャ中央駅爆弾テロ事件が引き起こされた。 
8 アントナン・アルトー:フランスの俳優・詩人・小説家・演劇家。1896年生、1948年没。1936年に精神病院に収監された自らの体験を映画化した『ヴァン・ゴッホ』でサント・ブーブ賞受賞。その思想はドゥルーズデリダに影響を与えた。 
9 アルトー後期集成Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ:アントナン・アルトー著、宇野邦一監訳、鈴木創士監修、岡本健ら訳。河出書房新社。

キョウ あるとー 
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