キョウ ツダ

昨日の8日に岡山大学の津田敏秀教授(疫学)が日本外国特派員協会で記者会見をして発表した「福島の子供の甲状腺がん発症率は20~50倍」(ハフィントンポスト)という論が重大ニュースを速報する勢いで「反原発」を掲げる各「民主」団体のメーリングリストを駆け巡り、拡散されています。その拡散の勢いはメールの数においても速さという点においても「怒濤のように」とでも言いたくなるほどのものでした。福島原発事故の影響は確実に人を致死に到らしめるがんを増加させていると言いたいのでしょうが、そのニュースが特急扱いで拡散されたわりには同じく昨夕からメディアで報じられている「乳児ら2707人検出なし 県内3病院内部被ばく検査」放射性セシウム県産物「安全性確認」。「通常のWBCに比べて5倍から6倍ほど精密に測定可能だが、受検した乳幼児らから検出限界値を超える放射性セシウムは検出されなかった」(福島民報ほか)というニュースは各「民主」団体の媒体ではまったく拡散された様子はありません。昨8日に報道されたこの2つのニュースは矛盾するもので福島県内3病院で実施された内部被ばく検査は津田教授の論の信憑性を疑わせるものになっています。
実のところ津田教授の論の整合性とその論の不十分性については医学者や科学者から以下のような指摘があります。


逆に「乳児ら2707人検出なし 県内3病院内部被ばく検査」放射性セシウム県産物「安全性確認」のニュースについてはその検査結果を報告する論文が日本学士院の英文査読誌に掲載されるなど科学的な検証も十分に行われていることがうかがえます(日本学士院の英文査読誌に掲載されることと医学雑誌に単に論文が発表されることととは掲載論文の客観的な評価という点で大きな差異があるでしょう)。


また、津田敏秀教授の福島甲状腺がん「アウトブレーク」説の非論理性については以下のような皮肉まじりの指摘もあります。津田「アウトブレーク」説批判の一例としてご紹介しておきます。
 
福島甲状腺がんと鼻血、その弁証法的帰結(抜粋)
(ちきゅう座 ブルマン!だよね 2014年9月4日)

福島甲状腺がんの見かけ上の多発については、これまでの拙稿の中で繰り返し福島第一原発起因の放射線被曝によるものではなく、数年程度過去にあった何らかの事象によるものだという見解を示し、岡山大津田先生の「アウトブレーク」説に対しては疑問を提起してきた。が、ここではいったん津田先生の説くところをそのまま受け入れ、その含意を一層延長した場合何が想定されるか、そこに焦点を当てて考察してみたい。ちょうど去る7月26日に開催された例の悪評芬々たる長瀧重信長崎大学名誉教授が座長を務める「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」 第8回の議事録が
下記
にて公開され、招集された専門家の一人として津田先生の発言も記載されているので、それも参照しながら論じてみる。 

この会議の中での津田先生の発言で極めて重大なのは、福島甲状腺がんの多発のこれまでの論理に加え、資料中では表現されていない論点として、これまで通説的に唱えられていた甲状腺がん発病の機序である半減期の極めて短いヨウ素131の甲状腺への蓄積に加え、今も続くセシウム系に代表される放射性同位元素からの被曝を関与しているとされている点である。津田先生はこれまでのがん統計と比較して、福島での甲状腺罹患率が数十倍であることを主張されてきているのは周知のとおりであるが、半減期の極めて短いヨウ素131だけが原因であるとすると、すでにそれは事故から3年余りが経過しており、今更「予防原則」に則って対策を考えるにも被曝は過去のもので、なす術がない、しかし今も残留する放射能からの被曝が甲状腺がん多発を加速しているから、汚染地域から避難を早急に進めよ、とご主張されていると読み取れる。

この多発の倍数については、先生は換算に用いる有病期間を発表の機会ごとに、いくつか違う数字を用いられているので、ここでは倍数を簡単に50倍として見る。津田先生は初期のヨウ素131による多発寄与度と残留放射能による寄与度を定量的には明らかにされていないが、先生の切羽詰まった語調から推測するに、恐らくや数倍を想定されているのだろう。ここでそれをまた簡単に5倍とすると、初期のヨウ素131の寄与度は10倍ということになろう。ここまでは単純な算数の世界の話なのだが、残留放射能による寄与度が仮に5倍であるとするならば、甲状腺がん以外のがん発生についても、同様の事態が生じていると推定すべきではないだろうか。もしこれが正しいならば、この国のがん統計に従えば現今の死因の30%ががんであるとされており、福島では今後ある時点からは事故死以外の病死はすべてがん起因となろう(30%X5=150%!)。しかもこの残留放射能による被曝によって、発がん時期も前倒しされていると見るべきであるから、甲状腺がん発症のペースに相似な形でそれが観察されてくるだろう。

【附記】
なお、上記に引用している早野龍五氏や菊池誠氏について自分たちと意見を異にするというだけで「御用学者」などと安易にレッテル張りをする風潮が一部にありますが、当然、安易にレッテル張りをするべきではないでしょう。問われるべきはその論の内容が事実であるか、また、その論に根拠があるかどうかです。安易にレッテル張りをして人を貶め、中傷するところには科学的な議論も有意な議論も成立しません。こうしたあまりにも当たり前のことすらもわからない自称「脱原発」主義者がこれまたあまりにも多すぎます。こうした人たちが「脱原発」運動自体を貶め、「脱原発」運動の足腰を弱め、「脱原発」運動の市民的レベルでの拡がりを妨げる重大な障害になっているのです。真の脱原発主義者はこのような人たちを決して許してはなりません。そのことを特に附記しておきます。
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