「マスコミに載らない海外記事」ブログが6月18日付でアメリカのロサンゼルス在住のRobert Hunziker(作家)の「福島で本当は一体何が起きているのか?」という記事を掲載しています。
 
同記事の冒頭の文章は「福島原発は、ドクター・フーの、深宇宙で遭遇する、恐ろしい、手に負えない怪物の様に、依然、自己永続的に、計り知れないほど、際限なく、放射能を放出し続けている」。3行目は「何万人もの福島県民が、2011年3月の恐ろしい災害の後、4年以上も仮設住宅で暮らしている」というものです。1行目の文章も3行目の文章もうそが書かれているわけではありません。福島ではいまなお放射能汚染水の問題は解決されていませんし、いつ解決するともその見通しもたっていません。何万人もの福島県民が4年以上も仮設住宅で暮らしているのも事実です。しかし、5行目の「100万人以上の(1,000,000)人々が、チェルノブイリの放射性降下物のせいで亡くなっている」という事実は確認できません。
 
この「100万人以上」という数値の根拠としているのはおそらく2009年にニューヨーク科学アカデミーから出版された『チェ ルノブイリ大惨事、人と環境に与える影響』(引用者注:日本語版は岩波書店から『調査報告  チェルノブイリ被害の全貌』というタイトルで出版されています。この岩波書店からの出版の際にも少なくない批判がありました)という論文集の中の「チェルノブイリで原発事故により985,000の人が亡くなった」という記述だと思われますが(この記事がカルディコット氏の説に依拠して書かれていることから推察できます)、「この本(論文集)「チェルノブイリ大惨事、人と環境に与える影響」を出版したニューヨーク科学アカデミー自身が、この本に幾つもの根本的な疑問・疑念が寄せられていることを同ウェブサイトで明確に表明している。同雑誌によれば、この本はロシア語で書かれた論文集の翻訳で当時、チェルノブイリの文献を翻訳して紹介するプロジェクトの一環として出版されたが、同誌の査読を経ていないものだという。そして、(この本の査読の代理としてだろうが)、同論文集の具体的な問題点を詳説した論文(引用者注:この批判論文の方は査読された論文です)さえ紹介している。しかも、この本は絶版であり、今後ニューヨーク科学アカデミーは再版しないことまで明言している」(小野昌弘(イギリス在住の免疫学者・医師)「放射能恐怖という民主政治の毒(5)「真実を語る人」 とチェルノブイリの亡霊(後編)」)というしろものです。したがって、到底科学的根拠に基づく数値とは言いがたいものがあります。
 
そうした科学的根拠に基づかない下記で批判するカルディコット氏が流布する数値を前提にしてこの記事が書かれているという知識のもとに改めて1行目と3行目の文章を読み直すと1行目の「福島原発は、ドクター・フーの、深宇宙で遭遇する、恐ろしい、手に負えない怪物の様に、依然、自己永続的に、計り知れないほど、際限なく、放射能を放出し続けている」という描写は、もはや回復不可能な福島のイメージを植えつけるための意図的な冒頭の描写であると判断せざるをえません。すなわち、「事実」の描写とは言いがたいものがあります。
 
さて、この記事の筆者、すなわち、Robert Hunzikerが拠り所にしているカルディコットという人はどういう人か? 上記で引用した小野昌弘さんの論を再び引用します。
 
「カルディコット氏は、福島原発事故直後の2011年4月に、英紙ザ・ガーディアン上で、英国の執筆家・環境活動家のジョージ・モンビオ氏と論戦を交わした。ここでも、カルディコット氏は福島事故に関連した放射性物質による汚染の危険性のほぼ唯一の証拠として、ニューヨーク科学アカデミーの「チェルノブイリ大惨事、人と環境に与える影響」をあげている。モンビオ氏はこの論文集の問題点を具体的に批判したが、カルディコット氏はそれに対して回答をしていない。そのモンビオ氏との論争から3年以上が経つというのに、カルディコット氏は相も変わらず、すべての日本人医師が『ニューヨーク科学アカデミーから出版された「チェルノブイリ大惨事、人と環境に与える影響」』を読むように命じている。同氏の科学的正確さに対する無関心と真摯さの欠如には気が遠くなってしまう。少なくともこれは、まっとうに教育をうけた医師や科学者のすることではない。カルディコット氏は「ほぼ全ての政治家、財界人、エンジニア、そして核物理学者においてすら、放射線生物学や先天性奇形、何代にもおよぶ遺伝性疾患について全く理解していない」と言って、自分が政治家たちに直接提言を行うことを正当化する。しかし、もし本当に真摯な気持ちから日本に貢献したいと同氏が思うならば、氏は日本の医師・小児科医・放射線科医・遺伝学者らと話せば良いではないか。私は、日本には同氏よりも優れた科学者・医師がいくらでもいるということを断言する。それをすっとばして国会議員たちに取り入ろうとしているとしたら、これはバスビー氏(引用者注:小野昌弘さんのバスビー批判はこちら)がまともな科学雑誌での出版もできずにウェールズのメディアにとりいったのと同じ構造に見える。」
 
上記の指摘について小野さんは科学者の責任の問題として次のように述べています。
 
「ここで私は放射線被曝の影響を全般に否定するものではない。しかし、私の科学者としての知性を駆使して現実をみたとき、放射線被曝についてのデマが横行して、それが民主政治を麻痺させている暗闇を目にする。その暗闇を目にして、科学者としてこれを告発しないことは、もはや許されない段階に来ていると思うからこそ、私はこの文章を書いている。」(放射能恐怖という民主政治の毒(6)科学者の一分(前編)」)
 
「マスコミに載らない海外記事」は私も愛読するブログですが、いわゆる放射線問題については誤まった情報に影響されているところが強いように思われます。上記の小野昌弘さんの指摘は熟読、味読に値するものだと私は思います。是非、そうされることをお勧めしたいと思います。
 
この問題についての小野昌弘さんの関連論攷は下記をご参照ください。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/onomasahiro/
 
また、カルディコット氏批判に関連して、堀茂樹さん(慶大教授、仏文学)のツイッター上の発言を私がまとめたもの(URL)を以下にご紹介しておきます。
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-1323.html
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