アサガオ
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【6月6日の「今日の言葉」】
五月四日、衆議院の憲法審査会で、立憲主義をテーマにして、各政党が協議して招致した参考人からの意見聴取が行われた。自民・公明が早稲田大学教授長谷部恭男、民主が慶應大学名誉教授小林節、維新が早稲田大学教授笹田栄司の諸氏を推薦したというのが人選の経過である。ところが、その意見陳述のなかで、全員が集団的自衛権による戦争参加の法案について違憲であると述べた。これはようするに、これが憲法学会の一般的意見であるということである。

ところが、
今日の東京新聞によれば、自民党からは、私の受け止め方でいえば、ようするに「学者とは意見が違う。気にするべきことではない」という意見が一般的である。引用すると下記の通りである。「憲法解釈は政府の裁量の範囲内と考え、これをもって憲法違反にはならない」(中谷元防衛相)。「憲法学者はどうしても(戦力不保持をさだめた憲法九条二項の字面に拘泥する」(高村正彦自民党副総裁)。「憲法学者には自衛隊の存在は違憲という人が多い。我々とは基本的な立論が異なる」(谷垣禎一自民党幹事長)こういう発言にはやはり驚く。憲法解釈は現政府の裁量の範囲内であり、現政府構成員が行うもので、憲法学者の意見には拘泥しないという訳である。これは現政府は学者というものが嫌いなのであるというようにまとめることができると思う。現在、現政府は、大学から人文系の学部、教員を少なくするという政策をだしているが、それは予算だとか、大学と産業界の関係のあり方だとかの問題でなく、ようするに人文社会系の学問とはそりがあわないのであろう。いかし、それをここまではっきりいうことには驚く。

私は歴史学者なので、先日の「
「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明」と同じことだと思う。この声明は日本の歴史学者の普通の意見を代表している。この声明の筆頭に署名している日本歴史学協会(略)は、日本の歴史学を代表する学協会で、各地・各大学の学会から委員が選出され、学術会議の直下に位置する存在である。この声明は現政府の「「慰安婦」問題」についての認識と政策を批判したものであって、このような歴史学界の意見も、現政府によって、これまで「学者とは意見が違う。気にするべきことではない」という扱いをうけてきたものである。ようするに現政府は法学界・歴史学界とは根本的な問題でまったく意見が違うという政府なのである。これは議会制民主主義のシステムをもつ今日の世界の諸国家のなかできわめて珍奇なことであると思う。(略)おのおの、社会には、いろいろな意見があるだろう。国民が、「学者のいうことは信用ならない」と考えることは自由である。しかし、政府がそうであるというのは、それとは違うことだ。(略)「彼らがいうことは気にしない」というのは、いくらなんでも文明国家として困ったことだと思う。

「何故こういうことになったのか(略)法学界に対して若干のいいたいことがある。(略)1994年、いまから20年前、小選挙区制の導入の結果である。国民の25パーセントの支持で、国会の多数を握ることが、それにより可能となった。また、「政治改革」という名目が、それだけで意味があるかのような雰囲気も醸成された。その時、
日本の法学者のなかでは(略)、相当の人々が、それに賛成し、少なくとも黙認したのである。(保立道久の研究雑記 2015年6月5日

引用者注:
「小選挙区制の導入に日本の法学者のなかの相当の人々が、それに賛成し、少なくとも黙認した」として保立道久さんが上記にリンクしている論で特記してやり玉に挙げているのは元東大総長の佐々木毅氏と元北大教授(現法政大教授)の山口二郎氏の両名です。

保立さんの批判は次のようなものです。
 
もっともどうしようもなかったのが、元東大総長の佐々木毅氏である。最近、『中央公論』で安倍氏に対する苦言を述べているらしいが、小選挙区制を作った論功行賞で政府から受けがよく、受けがよい人を総長にしておけば、いいことがあるであろうという世俗計算の支持をうけて東大総長になった人物である。(略)もう一人は山口二郎氏であって、しばらく前の東京新聞コラムに、いまでも小選挙区制導入に賛成したことを反省していないというのを知って驚いた。「国民は小選挙区制の使い方を知らない」というのである。彼の考え方では、国民がかしこければこんなことにはならなかったというわけである。もちろん、山口氏のいうことで尊重されるべきことも多いが、しかし、こういうのは学者には許されない無責任であって、自分の言論に責任をとろうという姿勢ではない。お調子ものというほかない。(略)あのとき法学者の側で、小選挙区制導入と二大政党制という幻想にそって強い発言をしたのは、右の両氏である。」
 
私たちはこの両名の学者の果たした負の役割を決して忘れてはならないでしょう。山口二郎氏は本日のツイッターで「学者が学問を探求し、論理的な議論をすることを、政治家が指弾する時代となったのか。学者の発言に権力者がここまで動揺しているのだから、学問的良心は力を持つことを、学者は信じていくしかない」などと能天気なことを述べていますが、「学者が論理的な議論をすることを政治家が指弾する時代」をつくったのは山口さん、あなた自身ではありませんか。そのときどきの時流の尻馬に乗って調子のよいことばかりをのたまわってはいけない、と私は山口さんに強く言いたい。
 
なお、5日の論で保立さんが「『政治改革』という名目が、それだけで意味があるかのような雰囲気も醸成された」と言っているのは、直接的には1993年衆院選での日本新党ブームのことを指しているのでしょうが、2009年衆院選での民主党旋風も含意しているでしょう。そして、「政権交代」後の民主党のあまりの「藪医者」ぶりの政治に国民は愛想をつかし、再び自民党に政権を奪われいまの惨状を招いてしまったのはつい最近のことで私たちのよく知るところです。私も何度も繰り返し述べていることですが「今の戦後最悪の民主主義破壊政権を固定させた立役者は民主党」Afternoon Cafe 2015/02/28だということも私たちは決して忘れてはならないことのように思います。

【6月5日の「今日の言葉」余滴】

きのう秘密保護法違憲・差し止め訴訟の口頭弁論を傍聴した話を書いたが、その後の集会で、原告側弁護団の弁護士がこう言った。「政府の文書を開示請求すると、開示された文書のかなりのところが黒塗りになっていて憤ったものだが、秘密保護法が施行されたら、黒塗りどころか、文書自体が出てこなくなるのではと危惧していた。それが、今回現実になった」。林克明さんが、「イスラム国」に二人が殺害された邦人人質事件の経過についての文書一式と安倍首相が触れた中東への「人道援助」についての文書を内閣府に資料請求したところ、内閣府からは「文書不存在」との回答が来て、何も開示しなかった。黒塗りさえも出てこなかったのだ。こんな大事な案件の文書は存在するに間違いないのに、「不存在」とは・・・・秘密保護法ですべてをブロックしようとしているわけだ。2月4日の衆院予算委員会で、岸田外相は邦人人質事件について「特定秘密保護法の対象となる情報がありうる」 と述べ、安倍首相も「外国での邦人に対するテロ事件であり、(特定秘密に)該当し得る情報が含まれ得る」と発言していた。菅官房長官は、人質事件の検証作業について、「インテリジェンス(秘密情報)にかかわる部分を除いて公表したい」と断っている。特定秘密法に則ってやりますよ、と宣言している。はじめから、情報は出さないと決めていたのだ。その結果出てきた検証報告書が、いかにお粗末かと批判したのが拙稿「<政治責任を含め再検証が必要>イスラム国・邦人人質殺害事件の報告書を政府が発表」だった。事態はここまで来てしまった。しかし、メディアはほとんど取り上げていない。そのことが怖い。(高世仁の「諸悪莫作」日記 2015-06-04
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