先のエントリで紹介した「(書評)『はじめての福島学』 開沼博〈著〉」で佐倉統さん(東京大学教授。科学史、科学技術社会論)は開沼博さんの研究者としての「変身」の理由を「事実をどのように評価するか」という問題との関連で次のように述べていました。
 
研究者が自分のスタイルを変えるというのは、相当な覚悟と努力が必要な一大事である。そんな「変身」を開沼にもたらしたのは、震災後4年間の経験だったようだ。全国各地での講演会やメディア出演の際の反応は、福島の姿がほとんど知られていないという現実を、彼に突きつけた。基本的に前向きのトーンを保ってはいるものの、行間からは、開沼の静かな怒りや、かすかな諦念が、ほの見える。福島を政治問題化するな。事実を認識せずに結論先にありきで語るな。福島に住んでいる多くの人たちに迷惑をかけるな。どうして、こんな初歩的で常識的なことが分かってもらえないのか。難しいことではないはずだ。この本を読み、虚心坦懐にデータを受け入れればよい
 
その「事実をどのように評価するか」の問題を25日付けの「『福島』をめぐる思想戦の問題」の補記として福島産のコメの安全性に関して具体的に見ておこうと思います(すでに述べていることとの重複も多いのですが)。はじめにジャーナリストの高世仁さんの福島産の米の安全性に関しての報告のご紹介をしておきます。高世さんは次のように述べています。
 
「福島の農作物を安全にできたのは、現地の住民を含むたくさんの人々の努力のたまものだったという。早野 「日本の人は、基準が決まりさえすれば、厳密に守るんです。これって、実はすごいことですよ。生産者の方々も非常にがんばって、工夫して、その規制値を超えないようにした。農学部の先生方もすごく努力をされて、どうやったらセシウムが入っていないお米が作れるか。研究を重ねられて、それが非常にうまくいったんです。ちなみに、福島県産のお米は現在ではすべての米袋についてセシウムを測定しているんですが、2012年度福島県産の玄米で100ベクレルを超えたのは、0.0007%。1000万袋以上測って71袋です。もちろん、このお米は流通していません。」(P85)
 
今年はどうか。11月10日現在、基準値超えがまだ1検体も出ていないというすごい結果になっている。872万2096検体中、ND(検出せず)が 872万0470検体。数値検出が1626検体あったが、すべて基準値よりはるかに低かったという。今年も最終的には1100万検体ほどになると思われ、すでに8割近くが終わった。この段階で基準値超えがないということは、基準超えゼロ!も射程に入ってきた。すばらしい。意外に知られていないのだが、福島県の検査は「サンプリング検査」ではなく、全ての米袋を測定する「全袋検査」。原発事故の翌年にはじまり、今年でもう3年目になる。これを可能にするために、島津製作所など5社が、30キロの玄米を10秒で検査できるスクリーニング検査機を新たに開発するなど、ものづくりの技術者、職人の努力もあった。(略)じゃあ、福島には問題はないのか?展望の見えない汚染水や廃炉の問題はじめ、もちろんたくさんある。それはそれ。正しく憂いつつ、人々と農産物の被ばくについては大丈夫だということを確認し、風評被害を封じ込めたい。」(高世仁の「諸悪莫作」日記 2014-11-12
 
上記で高世さんに紹介されている早野龍五さん(東大教授、原子物理学)はその福島産のコメの安全性についてエッセイストの糸井重里さんとの対談で次のように述べています。
 
糸井 とりわけ、早野さんがご自分で実際に計測や分析を重ねて、はっきりといえることはなんでしょう。
 
早野 いまの時点で明らかなのは、さまざまな調査や測定の結果、起きてしまった事故の規模にたいして、実際に人々がこうむった被ばく量はとても低かった、ということです。とくに、内部被ばく(おもに食べ物や水によって、体内に放射線源を取り込んでしまったことによって起こる被ばく)に関しては、実際に測ってみたら当初想定したよりも、かなり軽いことがわかった。「もう、食べ物については心配しなくていいよ」と言えるレベルです。
 
糸井 福島県産の野菜とか米なんかは、他の産地のものと比べても、全然大丈夫ってことですよね。
 
早野 そうです。流通している食品に関しては、もう大丈夫です。それは後で詳しくお話ししますけど、きちんと測った結果として証明できる。(「知ろうとすること。」立ち読みその1 
 
上記には具体的な数値はありませんが、専門家がデータに基づいて「『もう、食べ物については心配しなくていいよ』と言えるレベル」「きちんと測った結果として証明できる」と断言しているのですから、反証データでもない限り、専門家の発言を尊重するというのがふつうの常識人の対応というべきものでしょう。
 
なお、上記の早野発言を証明するものとして下記のような本人作成のグラフと農林水産省のデータがあります。


農林水産省-農産物に含まれる放射性セシウム濃度の平成26年度の検査結果の概要(平成27年3月30日現在)

米(26年産)

単位:点)

 

検査点数

放射性セシウム基準値(100Bq/kg)以下

放射性セシウム基準値(100 Bq/kg)

50 Bq/kg以下
(「検出せず」を含む)

50 Bq/kg
100 Bq/kg
以下

全袋検査分
(福島県)

1,098

1,098

14

0

抽出検査分
(福島県を除く

16都県)

1,352

1,352

0

0


上記の表は福島県を除く16都県においても1,352点の米について50 Bq/kg以下の放射性セシウムがある(「検出せず」を含む)ことを示しています。「放射線・放射能は、1本あるいは1粒たりとも毒」だというのであれば、全国47都道府県産の米もその他の全国の農産物、水産物もすべて食することはできない、すなわち日本人はすべからく飢え死にするほかないというきわめて非科学的、不合理な結論にならざるをえません。その論の「科学」に値しないこと、馬鹿げていることは火を見るより明らかでしょう。toriiyoshikiさんが「福島産米が『毒入り』なんぞという低劣なデマを通して『脱原発』を主張しているのを見ると、『脱原発』が排外主義の一変種に矮小化されたと頭にくる」とこみあげてくる「怒り」を抑えかねているのも当然というべきでしょう。
 
また、ホールボディカウンターで3万人以上を調べた「福島県内における大規模な内部被ばく調査の結果」も「子供のほぼ全員、成人の9割以上はセシウムが検出されなかった」というものです。《福島第一原発事故は、福島県内の土壌を放射性セシウムで汚染した。チェルノブイリ事故で得られた知見をそのままあてはめると、福島県県内の人口密集地で、年に数mSvを超える内部被ばくが頻出することが懸念された。しかし、ひらた中央病院で 2011年10月から2012年11月に行った32,811人のホールボディーカウンター検査結果は、住民の内部被ばくが、この予想よりも遙かに低いことを明らかにした。》
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