水島朝穂さんが今日付けで「再び、憲法研究者の『一分』を語る――天皇機関説事件80周年に」(今週の「直言」)という記事を書いています。私は昨日の弊ブログエントリで指摘した「雑誌『世界』の退嬰について」につながる「直言」として読みました。
 
水島朝穂さんの記事(要約)は以下のようなものです。

いま、第三次安倍内閣のもと、大学や学問・研究、研究者のありようまでもが大きく変わろうとしている。今年は「天皇機関説事件80周年」(引用者注参照)である。再び、憲法研究者の「一分」が問われている。(略)現在、安倍政権のもとで、あるときは補助金やポスト、競争的資金の優先配分などの「アメ」を通じて、またあるときは、産経や「ネトウヨ」と連携して特定の研究者をたたいて萎縮あるいは辞任に追い込むという「ムチ」によって、研究者の地位や存在も不安定で危ういものとなっている。とりわけ安倍政権は、立憲主義をおおらかに蹂躙しているため、憲法研究者は、立場や思想信条を超えて批判の声を挙げざるを得ない状況にある。沈黙するか、これに対して自己の学問的な存在をかけて発言・発信するか。こういう時、憲法研究者を含め、知識人というのは特有の弱点をもっている。それは丸山真男が、警察予備隊が保安隊になる時期に書いた「『現実』主義の陥穽」(1952年)にリアルに描かれている。(略)「…私は特に知識人特有の弱点に言及しないわけには行きません。それは何かといえば、知識人はなまじ理論を持っているだけに、しばしば自己の意図に副わない『現実』の進展に対しても、いつの間にかこれを合理化し正当化する理窟をこしらえ上げて良心を満足させてしまうということです。既成事実への屈服が屈服として意識されている間はまだいいのです。その限りで自分の立場と既成事実との間の緊張関係は存続しています。ところが本来気の弱い知識人は、やがてこの緊張に堪えきれずに、そのギャップを、自分の側からの歩み寄りによって埋めて行こうとします。そこにお手のものの思想や学問が動員されてくるのです。しかも人間の果てしない自己欺瞞の力によって、この実質的な屈服はもはや決して屈服として受け取られず、自分の本来の立場の『発展』と考えられることで、スムーズに昨日の自己と接続されるわけです。…私達の眼前にある再軍備問題においても、善意からにせよ悪意からにせよ、右のような先手を打つ式の危険な考え方が早くも現れています。…」(水島朝穂「今週の直言」2015年5月18日

水島さんは「天皇機関説事件」の大概を次のようにまとめています。
 
80年前、特定の学説を採用することが教授としての地位を失うことに連動した時代があった。文部省が全国の憲法研究者に圧力をかけて、天皇機関説を一掃するため動いたことを忘れてはならない。教科書の改訂・絶版や講義担当から外すなどの方法で、全国の大学から一つの学説を消し去ったのである。(略)講義を受講する学生のノートをチェックして、天皇機関説を講義で語ったかどうか、どう扱ったかを調査するとともに、この学説を教科書などで引用しないように仕向けていく。(略)文部省はこの陰湿な調査によって、19人の憲法学者に対して「処置」を行っている。そのなかで最も重い「速急の処置が必要な者」として、宮澤俊義田畑忍中野登美雄ら8人を挙げている。インテリ、大学教授はこういうやり方に弱い。全国の憲法研究者は一人残らず、文部省に忠誠を誓っていく。なかには、将来ともに「機関」という言葉は使用しないという上申書を文部省に提出した者までいた。そうまでして、教授のポストを維持すべく、過剰な迎合が全国の憲法を講ずる教授たちの間で進行していったのである。大学事務局が文部省の意向を忖度して、教授会にはからず、憲法担当を政治史や行政法に変更した例もあった。かくして1935年10月から11月までの1カ月間で、憲法学の一つの学説が全国の大学から「粛清」されてしまった。
 
上記で水島さんは丸山眞男の「『現実』主義の陥穽」を引用していますが、その引用の言葉は、昨日のエントリ「雑誌『世界』の退嬰について」の指摘にまっすぐにつながる指摘のように私には見えます。とりわけ次の部分。
 
「知識人はなまじ理論を持っているだけに、しばしば自己の意図に副わない『現実』の進展に対しても、いつの間にかこれを合理化し正当化する理窟をこしらえ上げて良心を満足させてしまうということです。(略)人間の果てしない自己欺瞞の力によって、この実質的な屈服はもはや決して屈服として受け取られず、自分の本来の立場の『発展』と考えられることで、スムーズに昨日の自己と接続されるわけです。」
 
いまの岩波書店経営陣、『世界』編集部はまさにその「『現実』主義の陥穽」に陥っている、ということ。水島さんの今日の記事で私の読みとったこと。というよりも、考えさせられたことです。
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