明日は統一地方選(前半)の投票日です。私の地元の大分県、大分市でも大分県知事選と大分県議選の投票があります。私は13年前に大分の地方政治に風穴をあけたいとして当時「NEWS23」のキャスターをしていた郷土の先輩としての筑紫哲也さん宛てに筑紫さんの友人で湯布院・亀の井別荘の中谷健太郎さんと日田・小鹿田焼窯元で筑紫さんの小学校時代の同級生の坂本茂木さんと連名で県知事選立候補要請の手紙を書いたことがあります(手紙そのものは私が書きました)。
 
筑紫さん没後、「NEWS23」の番組スタッフをされていた某TBS記者から「筑紫さんとは番組終了後一杯やる機会が多かったが、筑紫さんは立候補要請の手紙を受け取ることはしばしばあったがもっとも心が動かされた手紙だとよく話していた」というメールが私宛てに届きました。私も私たち有志の心が届くように心をこめて書きました。結果として、筑紫さんからは立候補の要請は断わられましたが、その後、筑紫さんとの付き合いが始まることになりました。思い出の手紙です。その思い出の手紙で私は地方政治の刷新をどのように語ったか。そうです。主題はあくまでも「地方政治の刷新」でした。明日の投票日を前にして筑紫さん宛てのその手紙を再録させていただこうと思います。

シャクナゲ
 
2002年11月18日
 
筑紫哲也様
 
大分県知事選を考える市民フォーラム
われ=われ・ネットワーク世話人 東本高志
湯布院・亀の井別荘 中谷健太郎
日田・小鹿田焼窯元   坂本茂木 
 
筑紫さん
 
見ず知らずの者がはじめて差し上げようとする手紙として、あなたをこのように気安くお呼びしてよいとは思っていません。おそらく礼を失することになると思います。が、朝日新聞記者当時からのあなたの記事やテレビでの企画番組を読み、見てきた者としてほかに適当な呼び方を思いつきません。失礼をお許しください。
 
実は私は、どのようにこの手紙を書き続けていってよいものかどうかとまどっています。おそらくあなたが欲していないであろうこと、そしてかつおおいに疎まれるであろうことについて書いていかなければなりません。しかし、意を尽くしたい、と思っています。私にできることはそれだけです。どうか最後までお読みください。
 
筑紫さん
 
遠まわしで言っても同じことであるならば、たとえ、あなたが疎まれても、単刀直入に言うより法がありません。私たちは、あなたに来春の大分県知事選に出馬していただきたいと考えています(どうか嫌気を差さないで、読み続けてください)。あなたにはこれまで、いろいろな所から、さまざまな形で、出馬要請があったと聞いております。またあなたは、そのたびに断り続けていらっしゃるとも聞いております。長年あなたを見てきて(メディアを通してというかたちにならざるをえません)、「政治」という胡散臭いものにかかわりたくないというお気持ちを強くもっていらっしゃるだろうことは、私たちにもよく理解できるのです。しかし、私たちは、あえてあなたにお願いしたいと思っています。放擲なさらずに、どうか最後まで読み続けてください。
 
私たちとはもちろん標記の「われ=われ・ネットワーク」を指します。この10月に別紙の「設立主旨」にもとづいて設立された文字どおり「われ」と「われ」のばらばらな市民の集まりです。これまで大分県各地で地道にさまざまな活動を続けてきている市民グループ、議員、市民の声を発信し続けている個人に呼びかけて、直接には30名ほどの賛同者が集まって結成されたものですが、われ=われの主旨に賛同する広範な市民が背後にいると私たちは確信しています。
 
私たちは、これまで政党、あるいは企業や組合まかせであった知事選を、市民の目線で考え、市民主導型の県知事をつくりだしたいと考えています。その点、平松現大分県知事の事実上の後継者として自民党という政党主導によって担ぎだされた広瀬勝貞・前経済産業事務次官(筆者注:現大分県知事)は、政党や組織が候補者を上から押しつけるという住民不在のこれまでの候補者選考のパターンを踏襲しており、そうした意味で、私たちは、彼の人柄・政策のいかんにかかわらず彼の出馬にノーをいう以外ありません。広瀬氏が仮にどんなに優れた人物であり、どんなに優れた政策をもっていようと、その選考過程から見て、政党とのしがらみや自民党的政策(もちろん、自民党の政策がすべて悪いと思っているわけではありません)のしばりから抜け出すことは困難だろうと思われるからです。
 
筑紫さん
 
あなたが日田の小野のご出身で、広瀬さんもまた日田の豆田のご出身であることは、私も存じ上げています。またあなたは、広瀬さんの兄上(テレビ朝日社長)とも朝日新聞社で同期の間柄とも伺っています。そのあなたが郷里の日田市をあえて二分するようなことをなさろうとするはずがないであろうことは世事に疎い私にもおおよそ察することができます。しかし、私たちは、日田を二分しようとはもちろん思っていませんし、広瀬さんを悪玉扱いするつもりもありません。広瀬さんノーをいうのは上記の理由に尽きるのです。
 
このあたりで私の自己紹介を少しさせていただけますでしょうか。私は、筑豊の石炭積出港であった若松市(旧)の出身で、今年52歳になります。20余年前、日田の千倉という集落出身の妻と知り合い、結婚しました。が、はじめて彼女の家族に紹介されたのは彼女の姉が嫁いでいた小野の集落でした。その日、彼女の姉の夫の葬式があったのです。そういうことは実はどうでもよいことです。が、原風景(私にとっては第二の原風景ということになるのですが)のようなものがもしかしたら筑紫さんと共通しているのではないかと思えるのです(多少、こじつけ気味であることをお許しください)。ここではただ、私も筑紫さんとおそらく同じように日田市を二分するようなことを望んでいないことを申し上げたいのです。筑紫さんが県知事選に出馬したとしても、日田は二分されることはないと思います。日田人が理に明るいのは、筑紫さんもよくご存知のはずです。広瀬さんとけんかするわけでもなく、また敵愾心をもつわけでもなく、大分・日田を愛する者同士がただ民意の汲み上げ方について論争するのです。だれが怒るでしょうか。「日田モンロー」(筆者注:大分・日田人の気性をあらわした言葉。モンローはモンロー主義の略)は健全だと思います。
 
筑紫さん
 
私たちが筑紫さんに知事選の出馬を要請するのは、ひとえに地方自治を市民の手にとり戻したいからにほかなりません。これまでの平松県政は、平松さんのかつての施策をすべて否定するものではないのですが、平松さんお気に入りのブレーンによる一握りの人たちによる県政運営の結果、昨年の「週刊金曜日」の『知事の採点簿』でもワースト4と評価される事態に陥っています。私たちは、あなたの政治に対するスタンスのとりかたに共感しています(これも、メディアを通してのことではありますが)。政治の有意味性を肯定しながらも、政治にそれほどの期待感をもっているわけでもない。口幅ったい言い方になって恐縮ですが、その市民的センスがいまの地方自治には必要だと思われるのです。
 
湯布院の中谷健太郎さんが主宰する「ふくろうが翔ぶ」VOL.8にあなたへのインタビュー記事が掲載されています。その中であなたは「大事なことは、湯布院なら湯布院という町が守るに値するもので、町の雰囲気を、自然も含めて自分たちが守ってゆきたい、大事なものだと思う人が増えれば増えるほど、異物に対する抵抗力が強くなってゆくんですよ。とにかく自分たちの所を固めることが大事だっていう気がする」とおっしゃっています。あなたは地方自治を「守るに値するもの」と思っていらっしゃるはずです。私たちも大分を「守るに値するもの」と思っています。あなたとともに大分をもっと「守るに値するもの」として育てていくことはできないでしょうか。そういう意味で、筑紫さんのお力をお借りしたいと思っているのです。
 
筑紫さん
 
あなたは「私には力などない」といわれるに相違ありません。そして「私は怠け者だ。365日稼動の知事職などつとまらない」ともいわれるに違いありません。これは私が想像して言っているのではありません。先日、「自由の森大学」の事務局長の原田さんにお会いしたときに、彼から筑紫さんがそう言っていたとお聞きしたのです。その際、筑紫さんが母校の早稲田大学と長崎県立大学の教授職をお引き受けになられたという話も聞きました。
 
「NEWS 23」のキャスターをつとめながら、週刊誌への執筆、土・日を利用した講演活動など筑紫さんが怠け者であるはずもありませんが、いわれる意味はわかります。そして、いわれる意味において、私も怠け者は大好きなのです。いま、怠け者こそ知事になるべきだとも思います。先のインタビュー記事にあった「異物に対する抵抗力」は怠け者ほど強いのではないでしょうか。また筑紫さんが早稲田大学などの教授に就任されたことも、私たちの要請に対するデメリットになるとは私は思っていません。プロ野球と同列に論じることはもとよりできませんが、昨年の星野仙一氏の例もあることです。これもまた僭越な言い方になってしまうのですが、求められて、よりよくわれを活かそうとしている者を、だれが止めることができるでしょうか。関係者は、きっと快く了解してくださるに違いないと思うのです。
 
筑紫さん
 
私たちは、あなたを必要としています。民の力に思いいたすこともなく、ただひたすら官に従って、それをよしとしてきたこの大分の地に実り多い風穴をあけたいのです。市民の手によって政治を変えることができる。そのことを市民としてのわれ=われ一人ひとりの胸にたたきこみたいのです。私たちは決してあなたを一人ぼっちにはさせません。怠け者としての連帯感をもって、あなたとともに手を携えて、ともにぼちぼちと歩こうと思っています。私たちにはわからないさまざまなご事情がおありだと思います。そこをなんとか乗り越えていただきたいのです。
 
意を尽くすことはもちろんできませんでしたが、それなりに言うべきことは言った気がします。私たちは、当然のことながら、どういう結論であれ、筑紫さんが決められたことを尊重します。筑紫さん、一度お会いすることができれば幸いに存じます。
 
早々
 
注:読みやすさのために段落ごとに1行分の空白を設けましたが、その他は原文のままです。
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