日本ジャーナリスト会議(JCJ)の機関紙的ブログといってよいDaily JCJの「今週の風考計」は優秀なジャーナリストの簡潔な政治レクチャーとして日頃参考にすることは多く、かつ、したがってということにもなるのですが、弊ブログの「今日の言葉」として引用させていただくこともしばしばあります。が、今回の「今週の風考計」記事(2015年3月1日付)は私には少なくない違和感がありました。その私の違和感のゆえんを以下述べようと思っているのですが、その前に私の違和感と批判の前提として同記事そのものを摘示しておきます。短文ですので全文を引用します。
 
Daily JCJ【今週の風考計】(2015年03月01日)
 
雁屋哲『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』(遊幻舎)を読んで、あらためて内部被曝と低線量被曝の恐ろしさを再認識した。/昨年4月末、漫画誌に掲載の「美味しんぼ 福島の真実編」で描いた鼻血の描写が、マスコミや自治体のみならず、はては安倍首相まで乗り出して、「風評被害」とバッシングされた。/著者は2年に及ぶ取材を経て、「今の福島の環境なら、鼻血が出る人はいる。これは“風評”ではない。“事実”である」と結論づける。とりわけ年間20ミリシーベルト以下の低線量被曝が人体に及ぼす影響について、十分な研究がされず、安全宣言ばかりが優先している事態を鋭く告発する。本当に福島は安全なのか。/現に、東京電力は26日、福島原発のK排水溝から、高濃度汚染水が漏れ続けていた事態を10カ月も隠し、対策を講じてこなかった事実を公表した。だが菅官房長官は「汚染水はコントロールされている」と強弁する。/一昨年9月、安倍首相は東京五輪招致のため、IOC総会で「汚染水の影響は完全にブロックし、コントロールできている」とウソをついた。東日本大震災・原発事故の<3・11フクシマ>から4年を迎える。いまもなお「ウソも方便」とばかりに事態を隠蔽する。この安倍政権の傲岸不遜さは、度し難い。
 
「今週の風考計」の筆者はまず冒頭の第一文で「雁屋哲『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』を読んで、あらためて内部被曝と低線量被曝の恐ろしさを再認識した」と述べます。私の違和感もこの第一文からはじまります。雁屋哲の『美味しんぼ』「鼻血問題」は筆者のいうように「マスコミや自治体」、政府、「安倍首相」だけでなく、国際機関・学術機関、大学・研究者、医師、識者・評論家、市民をも巻き込んでおおきな論争になりました。その見取り図をを示せば以下のとおりです。
 
「放射能事故の影響による「鼻血」はあるのか、ないのか。行政、国際機関・学術機関、大学・研究者・医師、識者・評論家、市民の意見まとめ ――「美味しんぼ」鼻血描写問題(4) 附:ビッグコミックスピリッツ編集部の見解(全文)」(弊ブログ 2014.05.18)
 
一瞥しただけでもすぐにわかることですが、「放射能と鼻血の因果関係はある」とする立場の研究者、医師らと「放射能と鼻血の因果関係はない」とする立場の研究者、医師らはそれぞれに相当数の人数群がいます。それを、「放射能と鼻血の因果関係はある」とする片方の主張だけをとりあげて「内部被曝と低線量被曝の恐ろしさを再認識した」とし、もう一方の主張は単に「バッシング」とするのみで斬り捨ててしまうのはジャーナリストのあるべき姿勢としてはこの上なく客観性を欠く姿勢のように思います。したがって、科学的な主張ともいえないでしょう。
 
「今週の風考計」の筆者は、かたやの主張については「バッシング」として恣意的(論証がない断言は恣意というほかありません)に斬り捨てるのに対して、「放射能と鼻血の因果関係はある」とする主張については次の段落で「著者は2年に及ぶ取材を経て」と肯定的に言い、この「2年に及ぶ取材」については疑義をはさむことはしません。しかし、ふつう「2年に及ぶ」といえば「2年の大部分を取材に費やした」という意味になるはずですが、以前読んだ雁屋哲氏の記事によれば「2年間に数回数泊」福島に足を運んだという程度にすぎないようです。それを「著者は2年に及ぶ取材を経て」と「著者は2年の大部分を取材に費やした」かのように書く。ここにもジャーナリストとしての公正で客観的な姿勢、あるいは視点は見られません。
 
次の文。「年間20ミリシーベルト以下の低線量被曝が人体に及ぼす影響について、十分な研究がされず、安全宣言ばかりが優先している」というのは、安倍政権批判、行政批判としては有効ですが、「放射能と鼻血の因果関係はない」論者に対する批判としては有効ではありません。「因果関係はない」論者の多くも低線量被曝の研究については「因果関係はある」論者と同様の懸念を表明し、また政府、行政批判についても「因果関係はある」論者と同様の批判をしているからです。それをこの筆者は「因果関係はない」論者全般が「安全宣言ばかりを優先」しているかのように言います。ここにもジャーナリストとしての公正な視点は欠如しています。
 
以上が、「今週の風考計」(2015年3月1日付)を一読しての簡単な私の違和感であり、また、批判です。
 
最後に今回は簡単に書きましたので、次の機会の批判のための参考としていわゆる「鼻血問題」について書いた私の論を下記に列記しておこうと思います。
 
・2014.06.06 美味しんぼ「鼻血問題」 福島出身の弁護士はどう見たか? ――石森雄一郎弁護士の問題提起は美味しんぼ「鼻血問題」議論の結論になりうるものではないか
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-894.html
・2014.06.02 「住民の鼻血増えていない」という相馬郡医師会の発表と一部の自称「脱原発」運動家のそのあまりの科学的視力(放射線リテラシー)のなさについて
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-891.html
・2014.05.31 小出裕章氏の『美味しんぼ』論を批判する ――あなたは「科学的とは、全ゆる可能性を検証する態度」と言うが、あなたの論はその意味で「検証」的なのか?
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-889.html
・2014.05.26 西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)の「鼻血というものは、ストレスでは出ない」というデマと言ってよい愚論を批判する
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-885.html
・2014.05.24 kojitaken氏の「『美味しんぼ』作者、ブログに『休載は決まっていた』」問題に関してのコメント&ZED氏の「9条にノーベル賞」運動は「待ちぼうけ」の論
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-883.html
・2014.05.22 「頭から根拠のない噂」を流し、「ヒステリック」な対応と「排除の姿勢」をとっているのはいったい誰の方なのか!
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-882.html
・2014.05.18 放射能事故の影響による「鼻血」はあるのか、ないのか。行政、国際機関・学術機関、大学・研究者・医師、識者・評論家、市民の意見まとめ ――「美味しんぼ」鼻血描写問題(4) 附:ビッグコミックスピリッツ編集部の見解(全文)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-880.html
・2014.05.15 マンガ「美味(おい)しんぼ」鼻血描写問題に関連して(3) ――行政と放射線専門家の意見に反対する説得的な別の科学者の意見(追記)
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-878.html
・2014.05.14 マンガ「美味(おい)しんぼ」鼻血描写問題に関連して(3)――行政と放射線専門家の意見に反対する説得的な別の科学者の意見
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-877.html
・2014.05.11 脱原発運動はいかにして無残なさまになっているか ――マンガ「美味(おい)しんぼ」鼻血描写問題に関連して(2) 附:石井孝明さん「放射能デマ拡散者への責任追及を--美 味しんぼ「鼻血」騒動から考える」
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-875.html
・2014.05.09 脱原発運動はいかにして無残なさまになっているか ――マンガ「美味(おい)しんぼ」鼻血描写問題に関連して
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-entry-873.html
関連記事
Secret

TrackBackURL
→http://mizukith.blog91.fc2.com/tb.php/1197-e6afa538