28日付けのエントリで私は「なぜ今、『イスラム国』なのか 若者の閉塞感とIT革命」(日本経済新聞、2014/10/27)という記事と「アラブの若者、『聖戦』へ続々 『イスラム国』巧みに接近・宣伝」(朝日新聞、同26日付)という記事、さらに高岡豊さん(中東調査会上席研究員)の「世界80カ国から集まる戦闘員 『イスラム国』は空爆国が育てた」(WEDGE REPORT 同28日付)という記事の3例を挙げて、そのうちの朝日記事に対する中田考さん(イスラーム研究者)の「何も分かっていないバカ記事」(「中田考Twitter」26日付)というコメントと同じく中田さんの高岡豊さんの記事に対する「タイトルから一瞬でも高岡氏がまともなことを書いてるのかと期待したのが馬鹿だった。事実は、空爆国がイスラームに敵対する不正な強権国家なのが原因」というコメント(同28日付)を紹介しておきました。

が、中田考さんいうところの「バカ記事」は依然として続いていて、本日30日付けの毎日新聞は「イスラム国渡航計画:北大生に別組織も提示…元大学教授」という記事を掲載し、その中で「北海道大学の男子学生(26)が、イスラム過激派組織『イスラム国』の戦闘員になるためシリアへの渡航を計画した事件」などという公安情報を鵜呑みにした記事をなんら反省のないままに流しています。
 
「戦闘員」とはふつう「軍隊組織の中で直接戦闘を主な任務とする者」(「大辞林」第三版)を意味し、この毎日新聞の記事を読んだふつうの読者は「『元大学教授』はとんでもない非常識なことをする人だ」と思うに違いありません。「元大学教授」は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」を「永久に放棄」(憲法第9条)した国から現在戦争している国(イスラーム国)に学生(北大生)の「直接戦闘を主な任務とする」「戦闘員」を紹介する労をとったというのですから、報道のいうところが事実であれば当然の反応であり、認識というべきです。
 
しかし、「戦闘員」という用語の意味については中田考さんによれば「イスラム教の考えではイスラムの国に行く者は、女性や子どもを除いてすべて戦闘員として行くことになっている。そういう意味だ」ということです(「イスラム国へのリクルートはしていない 渦中の大学教授中田氏が再出演」ビデオニュース・ドットコム 2014年10月11日)。「戦闘員」という用語はイスラム教独自の用語であって、ふつうの意味の「戦闘員」の意味ではないことはイスラーム研究者の中田考さんの左記の説明からも明らかです。だから、中田さんが北大の学生の渡航の斡旋をしたのは営業とボランティアという違いのほかはたとえば旅行会社が営業としてするふつうの海外渡航の斡旋となんら変わるところはありません。
 
イスラム教の専門家に「戦闘員」の意味を確認することもなく(中田考さんに限らず、です)、ただ公安情報のままに漫然と「戦闘員」というまがまがしい言葉だけを流布させる。どう考えても良識のあるメディアのするべきこととはいえません。
 
「イスラム国」の問題に関してメディアがよく使う「リクルート」という言葉に関しても同様のことが言えます。公安情報を鵜呑みにでもしない限り、「イスラム教の考えではリクルートという発想はないし、『イスラム国』は実際にリクルートもしていない」(同上)という現地の実情にも詳しく、イスラーム研究者の中田考さんの証言を疑う理由はまったくありません。
 
上記の毎日新聞の記事に関しても以下のような批判があります。
 
「常岡浩介Twitter」(2014年10月30日)から。
 
常岡浩介:06年のL&K事件SIMロック解除事件の時も、一番すごいデマを書いたのが毎日だったなあ。L&Kが窃盗団の元締めであるかのようなことを警察リークで垂れ流した。警察が持つ在日中国人へのヘイトをそのまま記事化。今回の「広がる勧誘網」もそうだよなあ。
 
・紫電P:<イスラム国渡航計画>北大生に別組織も提示…元大学教授(毎日新)もう学生より送り出そうとした側にターゲット移ってるっぽいのね、公安も
 
・CrowGoki @CrowGoki:なにやら捜査員が必死に『物語』を創造しようとしている気配が…。→【イスラム国渡航計画:北大生に別組織も提示…元大学教授
 
なお、今回のいわゆる「イスラーム国」北大生渡航未遂問題で公安が刑法の「私戦予備・陰謀罪」(93条)を適用することの無理筋について「公安」問題のエキスパートの清水勉弁護士に以下のような記事がありますのでご紹介しておきます。
 
秘密保護法の予行練習?
(「清水勉の小市民的心意気!」2014-10-21)
 
10月10日、ビデオニュースの神保哲生さんのインタビューを受けた。内容は、「イスラム国」に戦闘員として加わろうとしたとして北海道大学の男子学生が、私戦予備・陰謀罪違反の疑いで警視庁公安部から家宅捜索や事情聴取を受けた事件についてだ。
 
わたしは私戦予備・陰謀罪(刑法93条)に詳しいわけではない。というか、明治時代につくった刑法に規定されたこの条文は、裁判例が見当たらないことからすると、実際に適用されたことがない。だから、明治時代から今まで、学者でも弁護士でもだれも専門家はいない。警察官も裁判官も同じ。
 
専門家ではないが、条文をみればどう解釈するかくらいはわかる。私戦予備・陰謀罪は「第四章 国交に関する罪」に規定されている。この点だけからしても、就職に失敗した一大学生ごときが「イスラム国で戦争がしたい」と思って、渡航しようとしたくらいのことが、国交を害することなどあるはずがない。
 
引用者注:上記について清水弁護士は「ビデオニュース・ドットコム」の神保哲生さんのインタビューで次のようにも述べています。「個々人の行動が私戦に結びつくわけではないし、法律の規定の位置からしても国の信頼なり安全を害することからしても、個人の行動としてではなくて一定程度の組織性を持ったものとして行動することが想定されている規定と考えるべき。また、前後の条文からしても、やはり一定の組織性を持った、計画性を持って組織的に行動することが想定されているものと考えるべきです」。
 
で、条文をみると、「外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、3月以上5年以下の禁錮に処する。」とあるだけ。
 
北大生のしようとしたことが私戦予備・陰謀なら、紛争地域に行って戦闘に加わる傭兵はだれもが私戦予備・陰謀罪で処罰されることになる。日本にも海外で傭兵をしていたことを公にしている人はいる。でも、だれも処罰されていない。おそらく強制捜査もされていない。だったら、北大生も同じ。
 
では、なぜ、警察が動いたのか?
 
動いたのは刑事警察ではなく、公安警察だった。ここが1つのポイントだ。刑事警察の場合は、逮捕⇒起訴⇒有罪判決を見通して捜査を始める。ところが、公安警察は犯罪でないことを扱っているので、逮捕も起訴も有罪判決も考えていないし、見通してもいない。自分たちが欲しい情報を入手できればいい。
 
今回の強制捜査(家宅捜索)を実行したのは公安警察だ。目的は北大生の逮捕、起訴、有罪判決ではない。北大生の部屋の家宅捜索でもない。北大生と関わりを持った人たち、イスラム学者の中田考同志社大学教授と、イスラム圏の取材経験が豊富で最新の情報を持っているジャーナリストの常岡浩介氏、特に常岡氏が持っている情報こそ公安警察が欲しかったものだったに違いない。常岡氏の自宅の家宅捜索をしたことで、一定の成果を挙げたに違いない。
 
12月に秘密保護法が施行されれば、公安警察は「テロ関連で秘密保護法違反の疑いがある」と何らかの口実さえ作れば、その秘密が何かを明かすことなく、根こそぎ関連証拠を持って行くことが可能になる。今回は、秘密保護法違反捜査の予行演習だったのではないか。
 
とは言っても、公安警察は独断で強制捜査をすることはできない。裁判官の捜索差押許可状(刑事訴訟法218条)という協力が必要不可欠だ。今回は、東京簡易裁判所の裁判官が捜索差押許可状を出したようだ。地方裁判所の裁判官だと強制捜査の許可を出してくれそうもないときでも、簡易裁判官だと出してくれる。簡易裁判官は、地方裁判所の裁判官とちがって、司法試験に合格していない裁判所書記官などがなっている(裁判所法44条1項4号)。
 
私戦予備・陰謀罪など捜索差押許可状を出したことのある裁判官はこれまでいなかった。地方裁判所の裁判官だったら、慎重に考えて捜索差押許可状を出さなかったのではないか。
 
だが、問題の本質は、地方裁判所の裁判官か簡易裁判所の裁判官かではない。裁判官が強制捜査を安易に許す傾向があることが素地として問題なのだ。そして公安警察が動く事件「捜査」では、警察は起訴、有罪判決を目指していないのだから、裁判官がそんな「捜査」に協力することはもっともっと問題だ。
 
マスコミは、少なくとも公安警察の強制捜査や問題のありそうな強制捜査では、捜査令状を出した裁判官名を報道すべきだ。裁判官の仕事は、人の人生を一変させるだけのものなのだから、実名で世間の批判に晒されて当然だ。そうされることで、裁判官は(公安)警察の暴走を止める役割を果たすべきことを制度上期待されていることを自覚すべきだ。(以下、省略。なお、改行は引用者)
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