内藤正典Twitter(2014年10月19日)から。

ムスリムのスカーフ
 
ヨーロッパのムスリム移民社会を見てきた。90年代前半までは、第一世代の親が、娘に教育は要らないというようなことを言っていた。娘たちはそれに従うケースもあったが、徐々に、自分からイスラームを学んで、きっちりスカーフやヴェイルも被って、親に正しいイスラームを教えるようになった。そうすると、フランスのように、フランスで生まれ育ったのに、なんでこいつらフランス共和国の価値を理解しないんだ、と彼女たちを非難する声が高まった。ドイツやオランダでも状況は似ていた。女性たちだけでなく、男性の若者たちも、自分からイスラームを学んで、それを生きる主軸にする人が増えた。そのため、後になるほど、ムスリムとして再覚醒して生きる若者が増えた。男性も基本的には同じことで、パターナリズムにどっぷりつかっている親たちの世代への反発は、ヨーロッパ社会に同化することではなく、イスラームに接近する方向に導かれていた。だが、ヨーロッパ社会はそれを認めたくなかった。ヨーロッパ社会は「啓蒙の価値」を受容しないムスリムの若者にひどく苛立ったのである。3月8日は世界女性の日だが、その時期になると、イスラーム社会の女性抑圧があちこちのフォーラムで取り上げられる。ムスリム女性のなかにも、告発側にまわる人は多かったが、彼女たちはパターナリズムによる抑圧を、総じてイスラームのせいにしていた。だが、親たちの世代は、金を稼ぐのに忙しく、イスラームの知識はほとんどなかった。そのうち、ムスリムとして再覚醒した若い女性たちが出てくると、彼女たちはヨーロッパ社会のダブルスタンダードを厳しく批判し始めた
 
オランダのケースだが、アムステルダムには今でも売春街があり公認されている。スカーフ問題でイスラームを批判する人びとに対して、ムスリムの女性たちは「女性の性を商品化することを厭わないあなたたちに言われる筋合いはない」と強く反発した。このあたりから急速に移民の若者たちは変わり始めた。それをヨーロッパ諸国の側は「過激化」したと言い、ムスリム移民側はようやく生きる指針を得たと考えているのである。これはドイツのケース。アフガニスタン出身のフェレシュタ・ルディンさんという教員が、1998年にスカーフ着用を理由に教員採用を拒否された。彼女は行政訴訟を起こすが敗訴。その後、連邦憲法裁判所に提訴したところ、2003年に勝訴。長い話だから端折るけど、問題はその後。憲法裁判所は彼女個人に対してはスカーフ着用によって教員任用を拒否されたのは裁量権の乱用と認めたが、教員がスカーフ(わざわざイスラームの宗教的シンボルという誤った解釈をしているが)着用できるかどうかは、各州の議会が立法できるという補足をつけた。その結果、多くの州が、スカーフ着用の教員任用を禁止する法令を定めた。ドイツの場合、こういう法律は各州で立法できる。結果として、ムスリムの若者の女性たちのなかでもっとも希望の多かった教員への採用が難しくなってしまった。ここから派生するように、接客業でも禁止するなどの動きが出てきた。ムスリム移民を疎外するとは、こういうことの積み重ねである
 
附記:「内藤正典Twitter」リツイートから。
「ヨーロッパのムスリム移民社会を見てきた。」(略。上記参照)のツイートから、「ムスリム移民を疎外するとは、こういうことの積み重ねである。」(同左)までのツイートを読んで、あらためて次のように思う。

内藤先生がイスラーム社会(中東・欧州)の、一般人にはよく知りえない事実をベースに、そこから価値判断へと進んでいるように見えるのに対し、先生の価値判断を否定する類の人の多数は、自己の既にもつ価値を起点にして、そこから一般人もよく知る程度の事実を意味づけているような違いが感じられる。

追記:トルコがイスラーム国に強く敵対しない理由 ――(「内藤正典Twitter」2014年10月20日)から。
 
トルコ、安保理理事国落選。イスラーム国に強く敵対しないので、アラブの産油国やエジプトに嫌われた。「なんだ、トルコはテロ組織の側につくのか!」と言う前に。

1.トルコはすでに100万を越すシリア難民を受け入れ、保護している。KYMIHHなどイスラーム系のトルコNGOの活動は目覚ましい。前者は東日本大震災で最も長期に活動した外国NGO。だがもう限界。9月末には数日で13万が殺到。

2.世論調査によると、トルコはアメリカ主導の有志連合に参加してイスラーム国を攻撃すべき、はクルド政党支持者で80%だが、他の政党支持者では低い。攻撃に参加すると、トルコ民族主義者は怒り、参加しないとクルド民族主義者が怒る。板挟みだがトルコ系が人口の多数だから、米軍に同調しない。

3.トルコ国内でもイスラーム国にシンパシーを感じない人は97%程度。だが1%ほどシンパシーを感じる人がいる。かなりいる。

4.にもかかわらずイスラーム国は脅威か?に対してはYESが5割程度と低い。

5.政府はシリア国内に緩衝地帯を設置して難民を保護し国連等が共同で守ることを主張。しかしシリア政府はこれを侵略とみなすと警告。ロシアは安保理で拒否する。アメリカも難民保護よりイスラーム国掃討を優先しこの提案を棚ざらし。

6.アメリカもEUもトルコに火中の栗を拾わせようとしているが、いまだに汚れ仕事はトルコに押し付けようとする姿勢にトルコ政府は反発。

その結果、トルコはアメリカとの集団的自衛権行使を認めない。散々誤爆などで民間人を犠牲にしてきたアメリカ主導の戦争に集団的自衛権を行使して参加するのは、まるで十字軍に参加するような感覚。これはふつうのムスリム市民に共通している。
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