以下、阿部治平さん(元高校・中国外国語学校教師)の日本の左翼への悲嘆の言葉です。下記論攷の主題はいうまでもなく「いまから県立大学を作る愚かしさ」についてですが、その論攷の正鵠にももちろん共感するものですが、私は阿部さんの文章の最終段落の言葉にとりわけ強く共感します。私の左翼観察と、結果としての私の「思い」に強く重なる指摘だからです。阿部さんの最終段落の言葉を引くためにこのエントリを起こしているといってよいかもしれません。
 
現知事の野党、共産党長野県委員会にも問い合わせたら、ここも「賛成だ、住民の要望が強いから」という返事だった。たしか県立短大の同窓会が4年制への昇格を要望したという話はあった。しかし住民の声は天の声かもしれないが、天の声にも変な声がある。それに共産党の人は私学松本大学を公立だと思い込んで党の政策を説明していた。これには驚いた。左翼はここまで衰弱したのか
 
いまから県立大学を作る愚かしさ(阿部治平「リベラル21」2014.10.18)
 
2018年に県立大学(4年制)を開学
 わが長野県が新設する4年制大学は2018年4月に開校する。従来から県立短大(国文・英文・小学校教育)の4年制への昇格要求があり、これにこたえたのである。
 
短大の4年制移行は、30年前なら何とかなったかもしれない。20年前ではすでに遅かった。いまからでは愚行である。ではどうすればよいのか。県立短大の募集を停止し廃校を決断すべきである。こうすれば長野県当局は後世その英断を称賛されるだろう。
 
だが、もう理事長や学長も決まり、施設設備の設計者も選ばれた。最近カリキュラムなどの具体化を進める有識者の設立委員会が発足した。学生の要求の多様化、社会のニーズの高度化、専門化に対応するとして原案が変更され、学部構成が2学部になった。
 
募集枠は全体で240人。総合マネジメント学部160人、ここにはグローバルビジネスコースと公共経営コースがある。前者は何を期待しているのかわからないが、後者は地方官僚を養成するつもりらしい。健康発達学部はこども学科40人、健康文化学科40人である。前者は幼児教育・小学校教師の養成課程か。後者は管理栄養士の養成課程だから、これとカリキュラムが競合する私立松本大学からクレームがついたが押しきるようだ。
 
阿部守一知事によれば、「グローバルな視野を持ってイノベーションを創出し、地域のリーダーとなる人材を育成する」という。(カタカナ語の多用には辟易するが)こんな手品もどきのことが新設大学でできるだろうか――できない。
 
長野県の高校生の県外進学は日本一である。大学進学者の8割が東京圏と愛知・京都そのほかの隣県に進学する。県内の大学にとどまるのは1500人程度で、東京の大学への進学は2400人という状況である。
 
県立大学の新設が県内進学者の割合を増やすのを目的の一つとしているならば(県当局の文書からはそう読みとれるが)、240人の定員枠では少なすぎるし、その目的自体あまり意味のないことである。
 
定員確保の困難
全国18歳人口は120万人程度で推移してきたが、県立大学開校予定の2018 年度から6年間で105万人程度まで一気に減少する。いわゆる2018年問題である。入学者数750名の大学が100校消え去る計算である。県内の年少人口(14歳以下)は282万、年々5000人が減少してきたことを考えると、大学進学者は減少する一方である。
 
長野県には国公立としては信州大学・看護大学のほか短大がある。私学は4年制が6校、短大が8校である。国公立はともかく私学は定員を充足していない。上田市にある私立長野大学は公立移管を望んで「長野大学の公立大学法人化に関する要望書」を上田市に提出したという。
 
全国を見渡して、比較的短い歴史しかない大学の多くは有名な学者や知識人を学長にして広告塔としたり、担当者が地元の高校を回ったり、特別の奨学金制度を設けたり、学生募集に外国にまで足を延ばすなどの、地を這うような努力をつづけている。この経費は各校おそらく億単位であろう。
 
有名私立大学も定員確保の努力は軒並みやっている。彼らはその有利さを生かして、付属校やグループ校を増やして中学・高校段階から囲い込んでいる。
 
そこで新設大学はよほど授業料が安いとか、教授陣がとびぬけて優秀だとか、なにか高校生にとって魅力的なものがなければならない。
 
県当局が公開した文書からは、入学者募集の厳しい現実を踏まえた真剣な対策は読みとれない。予定されている理事長も学長もあまり知られた名前ではない。
 
低学力対策が不可欠であること
全国的に学生を集められる大学と、そうでない大学の学力格差は広がる一方である。私の知るかぎり、地方大学ではすでに1980年代末に卒論をろくに書けない学生があらわれた。20数年前から学生の質と学習意欲の低下が目立ってきた。これをいまさら嘆いても仕方がない。大学教育はそのような大衆化段階に入って久しいのだから。
 
新設大学でなくても、今後は希望者全入の事態も生まれるだろう。こうなると、かりに定員を充足できたとしても、管理栄養士の試験にどうやっても合格できないような学生が在学することになる。近年法科大学院をかなりの大学が新設したが、いまや司法試験の合格率の低迷によって再検討が迫られている。それと同じことである。
 
いま高校卒業生の知識・思考力と大学の講義内容を結ぶ学力をどう養うかは大問題である。とくに実業系では、入学者の高校での教科・科目の履修と内容の理解・修得が不確実だ。これを踏まえて大部分の大学が推薦入学の学生には「入学前教育」を施している。ときにその学力は甚だしく低く、文章に句読点をうつこともできず、分数の四則がわからない者もいる。
 
ところが教員側には「入学前」の教育に関与する義務はないし、それ以上にその用意がない。だからといってやらないわけにはいかない。そこでほとんどの大学で事務職員が中心になって運営している。県当局にはこの覚悟と体制があるのかしらん。
 
しろうとには難しい大学運営
さらに現在の大学運営には、学生募集、教育研究体制の調節、進路指導、財政運営などを含めて、専門性が強く求められるようになっている。県立大学の事務職員は県庁から送り込むことになるだろうが、しろうとが出たり入ったりしてまかなえるような代物ではない。企画運営には必ず専門的知識と手腕のある集団が当らなければならない。これを確保するのもまた難問である。
 
さらに財政上の問題がある。今年2月になってからようやく県当局は県立大学の設備施設にかかるカネが97億円、年間運営費は15億から18億円だと明らかにした。長野県の財政は苦しい。昨年末時点で県債の累積(借金)は1兆7430億円である。将来にわたって240人を養成するために毎年15億から18億円のカネをかけ続けることができるか。これは県民に賛否を問うべき問題だがそのような機会はいまだ設けられていない。
 
おわりに
先の知事選では現職阿部守一氏は新人で信州大学名誉教授野口しゅんぽう氏に圧勝した。そのおり私は県立大学問題が争点になっていないのを不思議に思ったが、聞けば野口先生も県立短大の4年制大学移行に賛成だという。
 
これを長野県高等学校教職員組合に訊ねた。立場上、賛成反対はいいにくい、ただ高校生が県内の大学に進学して親の経済的負担が減るとすれば、それはそれでいいことだという返事だった。問題はそこにはないように思うが、言葉からすればこれを深く検討したとは思えなかった。たとえば学生の生活費だ。長野市に新設されるなら、1年生は全寮制で、それ以後長野県中部・南部の学生は下宿か寮生活になる。東京で生活するよりは安いとしてもそう大きな節約にはならない。
 
現知事の野党、共産党長野県委員会にも問い合わせたら、ここも「賛成だ、住民の要望が強いから」という返事だった。たしか県立短大の同窓会が4年制への昇格を要望したという話はあった。しかし住民の声は天の声かもしれないが、天の声にも変な声がある。それに共産党の人は私学松本大学を公立だと思い込んで党の政策を説明していた。これには驚いた。左翼はここまで衰弱したのか。
今後のこともあるからあえて希望するが、教育関係機関と各政治団体は、長野県の教育をもっとまじめに考え、各分野の問題点を十分に検討してほしい。このまま県立大学が設立されるなら、次世代にとってとんでもなく重い荷物になることは目に見えている。
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