この3日にノルウェーの民間研究機関、オスロ国際平和研究所(PRIO)が同研究所のウェブサイト上の予測リストを更新し、2014年のノーベル平和賞の受賞予測として「憲法9条を保持する日本国民」を最有力候補に挙げたことがさも日本の平和勢力(9条護憲派)の名誉でもあるかのような話柄になってインターネットやツイッター上で話題になっていますが、「ノーベル賞」が話題になるたびに私が思い出すのは「いかなる人間でも生きながら神格化されるには値しない」としてノーベル文学賞の授賞を辞退したサルトルの言葉です。このサルトルの言葉ほど「ノーベル賞」に限らず一般に「勲章」と呼ばれるものの本質を穿った言葉はないように私は思っています。
 
以下は、今回の報道に触れて、私がすぐに思い浮かべた「ノーベル賞」、あるいは「勲章」というものの性質と本質について語った幾人かの作家の言葉とノーベル賞の性質と本質を象徴する事象。
 
第1回ノーベル文学賞(1901年)におけるトルストイの落選
第1回の選考の際にはトルストイが存命で、有力候補とされていたがフランスのアカデミーが推薦した詩人シュリ・プリュドムが選ばれた。この選考結果に対してスウェーデン国内で一部の作家たちが抗議を行うなど世論の批判があったが、トルストイの主張する無政府主義や宗教批判が受け入れられず、翌年以降も選ばれることは無かった。スウェーデン・アカデミーの見解によれば、トルストイの絶対平和主義、暴力否定論にはアナーキズム的な傾向が強く、ノーベル賞の趣旨に合わないというものだった。ノーベル賞は文学賞においてすら第1回のはじめから政治的なものであったことを象徴する事象。(ウィキペディア「ノーベル文学賞」参照)
 
・サルトルのノーベル文学賞辞退の弁
1964年にはノーベル文学賞に選ばれたが、「いかなる人間でも生きながら神格化されるには値しない」と言って、これを辞退。(wikipedia「サルトル」)
 
大岡昇平の日本芸術院会員辞退の弁
1988年に脳梗塞のため79歳で死去した大岡昇平は、日本芸術院会員に推挙されることがあったとき、「さきの大戦で、私は捕虜になるという汚点をもっている。そういう人間が、国の名誉ある会員になるわけにはいかない」とその推挙を辞退した。この言葉の中にフィリピン戦線で捕虜となり、『俘虜記』『レイテ戦記』などの名作を残した大岡昇平の矜持でもあり、悲しみでもある言貌を見ることができる。(毎日新聞、1971年11月30日付参照)
 
「勲章」を「大人のワッペン」と喝破した佐高信の論
住友金属工業の日向方斉や三井銀行の小山五郎のように、名誉会長や相談役になっても代表権を手放さず、老醜をさらけだした経営者も多い。全くけじめがないのである。その点、退き際もきれいで、「老人のワッペン」である勲章を拒否し通した日経連および日清紡の師弟コンビ、宮嶋清次郎桜田武が光る。(略)宮嶋は、経団連・同友会・日経連の財界3団体が事務所を置いた丸の内の日本工業倶楽部(同友会と日経連のそれはいまもある)の理事長を戦後まもなくから長くやったが、財界のさまざまな会合がもたれたこの倶楽部には、当時、冷房はもちろん、洗面所に給湯設備もなかった。主事の山根銀一がこれに対する会員の苦情を取り次ぐと、宮嶋はこういったという「冷房がないと夏に会議ができないというような経営者は第一線を引いてもらえ。手なんか洗うのに湯がなくては冬が越せないというような老人は、とても企業の厳しさには堪えられまいから、遠慮なくやめてもらえ」 この厳しさ が、勲章などという「大人のオモチャ」を拒否させたのだろう。(略)40歳で日清紡の社長になった宮嶋は、60歳でその椅子を退いて会長になり、66歳でそれも退いて相談役になっている。当たり前といえば当たり前だが、これができない経営者があまりにも多いのである。(佐高信日本の権力人脈」講談社 pp.21-23)
 
最後に「9条にノーベル賞」運動に関して書いた私の2本の記事。
 
下記の2本目の記事でも指摘していますが、この「9条にノーベル賞」運動の国会議員賛同者には右翼国会議員(日本会議神道政治連盟所属)の長島忠美金子恭之も名前を連ねています。そうした「9条にノーベル賞」運動は偽の「護憲」運動というべきものです。その延長として今回の「憲法9条を保持する日本国民」がノーベル平和賞の最有力候補に挙がったことがさも日本の平和勢力(9条護憲派)の名誉でもあるかのような話柄の錯誤もあるだろう、というのが私の今回の「騒動」の見方でもあります。
 
ZED氏の「9条にノーベル賞」運動は「待ちぼうけ」の論(CML 031513 2014年5月24日)
ZED氏の「9条にノーベル賞」運動は「待ちぼうけ」の論(続)(CML 031587 2014年5月27日)
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