韓国・仁川(インチョン)のアジア大会で、中国の水泳選手が「日本の国歌は耳障り」などと言った。アジア大会は愛国だの民族主義だのが横行する。韓国メディアは、男子体操個人別の跳馬で騒いだ。韓国の梁鶴善(ヤンハクソン)選手は世界チャンピオン。北朝鮮のリ・セグァン選手も練習で互角の演技を見せた。朝鮮半島の「南北対決」だ。重圧の中で迎えた本番。2人ともミスが出て、金メダルは香港の石偉雄選手だった。韓国2位、中国3位。香港旗が中国の五星紅旗の上に揚がった。こんどは香港メディアがわいた。「香港生まれ、香港育ちの石君が歴史的金!」
 
石選手の勝利者インタビューは力が抜けるものだった。「かあさん、やったよ。ロロ、我愛〓(ウォアイニー)(好きだよ)、1年間支えてくれてありがとう」ロロなる女性への愛の告白。個人的には重い言葉だが、「愛国」も「民族」もない。それでいいのか。いいのだ。そこが香港らしい。石選手は、中国政府の育成したスポーツエリートではない。自費で中国に体操留学した。跳馬で世界7位だが、ケガに苦しみ、ロンドン五輪では転倒した。それを周囲の人が支えた。

石選手が表彰台に上がった9月26日、香港では、民主選挙を求める学生デモと警官隊が衝突し、多数の負傷者がでた。
香港は2047年まで、「1国2制度」による「高度の自治」を保障されている。普通選挙も導入される。だが、実際には中国共産党が認める「愛国者」だけが立候補できる仕組みだ。ニセ民主だという声があがっている。習近平政権になって、中国は「高度の自治」と言わなくなり、香港に「愛国」を強制するようになった「愛国」は、中国を愛するだけではない。共産党を愛する「愛党」と同義語であると中国高官が解説している。愛国を押しつけられる香港の大学生、高校生が、将来に不安を感じ始めた。授業放棄、抗議デモが始まった。警察は強硬になり、催涙弾が使われた。中国の圧力だろう。
 
香港に帰った石選手を母親、高校の恩師、同級生が空港に出迎えた。ネットで写真を見た。かあさんのメガネの奥は涙でぐしょぐしょ。少し離れてもじもじしている女性がいる。昔の日活青春映画のポスターのような風情だ。石選手が「愛国」に触れなかったのは意識的な抗議ではない。香港の普通の若者なのだ。だが愛国の影が近づいている。変わるのだろうか、香港
毎日新聞 金子秀敏客員編集委員 2014年10月02日
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