いま直面している「『イスラム国』掃討」を錦旗にした米国のシリア空爆開始の愚行について、内藤正典さん(同志社大学大学院教授/現在、トルコ在住)と浅井基文さん(元外交官、政治学者)のこの問題を分析したTwitter発言と論攷から「米国のシリア空爆開始」という今回の事態の本質を学びたいと思います。
 
その前に「米国のシリア空爆開始」を伝える2本の報道記事(ロイター、時事通信)を押さえておきたいと思います。
 
米国が「イスラム国」掃討へシリア空爆開始、湾岸5カ国参加(ロイター 2014年09月24日)
 
【ワシントン/ベイルート 24日 ロイター】米国は、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」掃討に向け、湾岸諸国とともにシリアの「イスラム国」拠点に対し空爆を実施した。米中央軍(CENTCOM)によると、ヨルダン、バーレーン、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)が空爆に参加した。国防総省のカービー報道官は記者団に対して「昨夜の空爆は始まりに過ぎない」と述べたうえで、空爆は成功裏に終わったとした。ただ、空爆の詳細や死傷者などについては明らかにしなかった。
 
オバマ米大統領は空爆後にホワイトハウスで声明を読み上げ、攻撃を継続するとともに、掃討への取り組みに国際社会の支持を広げていく考えを表明した。「米国に危害を加えようとする者に対し、テロリストに安全な場所などなく、われわれは決して容赦しないことをあらためて明確にする必要がある」と強調。「共通の安全保障のため、これらの有志国と協力して戦っていることを米国は誇りに思う。これら有志国の強さは、米国だけの戦いではないことを世界に明示している」とした。
 
一方、ロシアはシリアへの空爆について、アサド政権の承認もしくは国連安全保障理事会決議がなければ全て非合法だ、との見解を示した。トルコのエルドアン大統領は23日、イスラム国に対する米国主導の空爆について、軍事支援もしくは後方支援を提供することが可能との見解を示した。
 
シリア空爆は自衛権行使=米大使(時事通信 2014年09月24日)
 
【ニューヨーク時事】パワー米国連大使は23日、潘基文国連事務総長に書簡を送り、イスラム過激組織「イスラム国」への空爆をシリア領内に拡大したのは、シリアのアサド政権がイスラム国の「安全地帯」を除去する能力を欠き、その意思もないためだと主張。米国と有志国が、国連憲章第51条で保証された武力攻撃に対する自衛権を行使したと説明した。パワー大使は書簡で、イラクや米国、同盟国に対する脅威を取り除くために「シリアで必要かつバランスの取れた軍事行動を開始した」と述べた。
 
以下、内藤正典さんと浅井基文さんのTwitter発言と論攷。
 
「内藤正典Twitter」(2014年9月23日 JST)から抜粋。
 
シリア空爆は自衛権行使=米大使(時事通信)←だが、イスラーム国は最初は欧米諸国を攻撃する意図などなかった。自分たちの信仰に基づく国をつくろうとした。その空間がイラク、シリアの権力の空白域だっただけのこと。
 
国際社会は、米国が、アフガニスタン侵攻にあたって、アルカイダを匿っているという理由でアフガニスタンを破壊し、イラク戦争にあたっては虚偽の開戦理由をふりかざして戦争に乗り出したことを思い出してほしいイスラーム国は突然、涌いて出てきたのではない。イスラーム過激派の洗脳によってできたのでもない。シリア内戦ではアサド政権が制空権を握ったまま意のままに自国民を恐怖のどん底に突き落とし、イラクでは宗派の利害しか眼中にないマリキ政権スンナ派を地獄に突き落としたから台頭したのである。
 
イスラーム国は、原因ではなく、結果なのである。結果であるにもかかわらず、原因を追究せず、原因を断ちもせずに、空爆するのか?なんたる愚行。トルコのシリアとの国境は1000キロにおよび、トルコ領内でシリア難民を抱え込むのは不可能。国境近くまでイスラーム国側の支配地域が広がっている。トルコ国内にいる難民を他国が救援することを拒むのは、過去に、国際NGOなどを受け入れて、クルドゲリラ組織に支援がわたったことへの懸念。シリアに関しては、まず、アサド政権軍の制空権を奪うことが必要。その上で緩衝地帯をシリア領内に設定し、国連軍を配置してシリア難民への救援を実施しないと手遅れになる。トルコは国内に入った150万もの難民のために多額の費用を負担しているが、他国の援助は受けない。
 
しかしどうにもならないのがイラク。そもそもおかしい。イラクは主権国家であるのに、少数宗派を保護する責任を果たさず、クルド自治政府は自分の民兵への武器を国際社会にねだっている。そこにアメリカ主導の空爆。自国を他国に空爆してくださいと要請するのは筋が通らない。あえて言う。ジャーナリストやNGO活動家を斬首するという残虐行為は裁かなければならない。だがそれは法にのっとってすべきこと。一切合財をかなぐり捨てて空爆し、罪もない市民を巻き添えにする不正義は容認できない。繰り返しになるが、それなら7~8月になぜガザのこどもたちを見殺しにした?
 
「オバマの対ISIL戦略:演説と致命的問題」(浅井基文のページ 2014.09.21)から抜粋。
 
(前略)オバマの打ち出した対ISIL戦略の今一つの致命的な問題は、ISIL打倒のためには不可欠なシリア・アサド政権及びイランとの協力の可能性を自ら封じていることです。シリア領内のISIL勢力を効果的に叩く上では、(略)シリアにおいてもっとも戦闘力を備えているシリア・アサド政権と手を組むことが不可欠です。しかも、アサド政権はアメリカと協力する用意があると手を差し伸べているのです。また、シリアでの空爆作戦を合法的に展開する上でも、アサド政権の同意を確保することは絶対条件です。
 
また、シリア及びイラク両政権に対して大きな影響力を持つイランの支持を確保することも、アメリカが対ISIL作戦を効果的に行う上では欠かせないはずです。ところがオバマ政権は、イランを敵視するイスラエル及びサウジアラビアに対する考慮が優先して逡巡しているうちに、結局イランの最高指導者ハメネイ師の「実際、アメリカは、パキスタンで行ったのと同じように、(シリアの)独立政府と強力な軍隊の存在にも拘らず、政府の許可なく、その国の領土に侵入し、各地を爆撃するための口実を探している」という批判(9月15日。同日付イラン日本語放送WS)を招いてしまいました。最高指導者であるハメネイ師のこの発言が出てしまった以上、アメリカがよほど「礼を尽くす」姿勢を示さない限り、今後、イランの支持と協力を取り付けることは難しいでしょう。
 
ロシア(及び中国)に関しては、シリア領内での対ISIL軍事行動について「合法性」を確保するためには、安保理で拒否権を有するロシア(及び中国)の理解と協力を得ることは絶対条件です。しかも、すでに見たとおり、ロシア(及び中国)はシリア・アサド政権の同意を得ないアメリカのシリア領内での空爆には重大な疑問符を付す発言を公然と行っています。信じられないことですが、対ISIL作戦を強化しつつある中で、アメリカは対ロシア経済制裁をさらに強化する措置をとるという始末です。(略)
 
以上に述べた問題は、仮にISILがさほど強敵でないならば、あるいは見過ごして済むことかもしれません。しかしながら、衆目の一致するのは、ISILは擁する武装力(CIAの推定では3.15万にも達する人員及び高度な装備)、実効支配地域、その「狂信」性(もともとはアルカイダの一部だったのに、後者と袂を分かち、後者はISILとの絶縁を宣言した)、そして1万2千人ともいわれる外国人の参加(その中には数千人の米欧豪からの参加者を含む)などにおいて、アルカイダ以上の強敵であるということです。「「イスラム国」の台頭は、9.11以来で最大規模であり、その脅威は9.11がもたらしたリスクよりもさらに大きくなる可能性がある」(略)とされる所以です。特に米欧豪からの参戦者は今後これらの国々でテロを起こす可能性が現実味を以て語られているのです。
 
ちなみに、ISILについては、9月17日付環球時報掲載の中国現代国際関係研究院の田文林署名文章「アメリカのISIL攻撃の呼びかけには少なからぬよこしまさが含まれる」の中の次の指摘にも留意する必要があると思います。
 
「今のところ、我々は「イスラム国」の本当の状況についてほとんど分かっておらず、簡単にこうだと決めつけることは難しい。「イスラム国」は中東におけるガヴァナンスの失敗及びアメリカの政策的失敗・誤りの結果であるが、この組織が台頭して以後、急速にイラク及びシリアで支配地を拡大したということは、何らかの合理性という要素がない限りは説明がつかないことだ。西側メディアはひたすらこの組織の残虐性だけを宣伝しているが、この組織の他の側面についてはほとんど触れていない。
 
断片的な情報によれば、ISILは占領地域において水及び電力を提供し、給料を支払い、交通をコントロールし、パン工場、銀行、学校、裁判所そしてイスラム寺院などを管理しているという。したがって、「イスラム国」が許すべからざるテロ組織なのか、それとも現在の中東政治の展開における必然的産物なのかについては、まだ結論を出すことは難しい。」
 
要するに、ISILは9.11を引き起こしたアルカイダよりはるかに侮ることのできない「難敵」であることは確かだということです。9.11当時の国際的パニックによってアメリカに対する圧倒的な国際的支持が自然発生的に生まれた当時の状況の再現はもはやあり得ません。そうであるとすれば、オバマ政権が生半可な場当たり的対応でやり過ごすことはますますあり得ないことであるという結論は不可避です。この結論に立つ時、以上に述べたオバマ政権の対ISIL戦略の抱える問題はますます致命的になるのです。
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